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君が為に輝ける星コミュの君星 外伝

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極秘裏に制作されていた小説「君星 外伝」

今ここにスピンオフ!!

とは言うもののまだ完成しておりません(汗)
てゆうかこれかなり長くなりそうですw
なのでできたところからゆっくりとUpしていこうと思います。
ということで皆さんお楽しみください。





〜prologue〜

暗い。暗い。暗い。暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い…
視界を覆いつくす一面の黒。否、それは黒ではない。時間が経ち固まった赤い液体だ。凝固した赤い液体は黒ずみ、辺りを染めていた。
転がり横たわるモノが目に入る。そのモノ達の鼓動はとうに切れている。少し前までは時を同じくしていたというのに…残るはただ一人。
それは違う。そこにはもう一人誰かがいた。白い服…病院服というのだろうか、それを着ている。
彼がなんであるかは自然と分かった。
――自分も同じだから。
ここにいる以上、それ以外に考えられない。ここにいるのは皆同じもの。同じことをされ、同じように扱われる。誰一人違うものはいない…そう思っていた。
だが、彼だけは例外であることを知った。彼だけは他の誰とも違っていた。もとより彼は特別だった。
彼は最初にして、唯一の成功例なのだから。
「君で最後だ」
彼がこちらを見つめてくる。哀れみを含んだその眼差しがやけに人間くさいと思った。そんなことを思う自分ももしかすると人間くさいのかもしれない。
…いや、それはないだろう。自分も他と同じで何も変わらない。違うのは自分が最後ということだけ。
ゆっくりと彼の腕が持ち上がっていく。
「ねぇ…」
一枚のガラスを隔てて聞こえてくる彼の声がかすかに震えている。
「君はまだ生きていたい…?」
彼が不思議なことを言ってきた。
(生きて、いたい?)
彼が何を言っているのかよく分からない。よく分からないから首を傾げた。
(そもそも生きるって何?)
「そっか…君ももう駄目なんだね」
一縷の望みを失ったかのように彼の目から希望がかき消えた。
「…今、助けてあげるから」
そう言って、彼の指に力が入った。
(あ…)
パンッという乾いた破裂音が聞こえてきた。
そういえば、これで何度目だったろうか。一度目が鳴ってから暇つぶしにその数を数えていたが、もうどこまで数えたか忘れてしまった。
(ま、いっか)
所詮はどうでもいいことだ。どうせ、もうすぐ自分も同じになる。
支えを失った体がぐらりと傾き、前へ倒れこむ。傾いた体は音を立てて床にぶつかった。
(冷たい…)
床というのはこんなにも冷たいものだったのかと始めて思った。始めて感じた。
(彼は?)
顔を上げれば彼の顔が目に入った。
「ごめん……ごめんね…」
彼は泣いていた。
(何故?)
彼が涙を流す理由なんて何一つないのに。
「でも許しちゃいけないんだ…こんなこと」
分かっているよ。君は悪くない。悪いのは他でもない自分たちだ。失敗だったのが悪いんだ。だから、彼だけが特別なことをされていた。彼は特別だから、自分たちにはできないことをやってのけたのだ。
(だから泣かないで)
だんだん視界がぼやけてきた。
嗚呼、この感覚を自分は知っている。意識が落ちるときと似ているのだ。
なんだ…なら、なおさら泣くことなんてない。だってしばらくすればまた戻ってこれる。
他のみんなだってきっと同じだ。次に戻ってきたら何事もなかったように見慣れた光景が待っているはずだ。
いつもの光景。自分たちがいて、白衣の人たちがいて、
(だから………)
意識が落ちていく。鼓動が消えていく。
そして、全てが……………………………………



君が為に輝ける星 外伝〜The truth of a counterfeit〜

コメント(8)

争いがあった。大きく激しい争いが。人の果てない欲望が生み出した末路がそれだった。
時は第二世紀。人類は宇宙にまでその行動範囲を広げていた。人間の持つ好奇心という行動力が何もなかった宇宙を変えていった。何もない宇宙に人が住める空間を求めた結果、衛星都市であるコロニーが造られ、宇宙で細かな作業を行うため人型を模した機構が造られた。こうして人類は次第に地球から宇宙へと生活の場を拡大していった。
そして、僅かな時の間に人は月や火星にまでその手を延ばしていった。
火星には地球にはない未知の資源が数多く存在し、そのうちの一つがmiteco(マイトエコ)と呼ばれる特殊な鉱石であった。それが後に争いの発端になるとはそのとき誰も思いもしないのだが。
火星に住家を移した人々は火星にある資源を有効活用し、自らが住む土地を豊かにしていった。見る見るうちに成長していく火星に地球側の人間はいい気分ではなかった。それもそうだろう。地球側にとってみれば火星は資源を得るための鉱山と同じだった。それが気がついてみれば火星は地球の援助もいらないほどに成長していた。これには地球側も焦りを感じ始めた。いつか自分たちの手から離れるのではという不安が彼らを襲った。それが歪みを生み出すきっかけとなった。
いつしか人類は大きく二分されることになる。――地球人と火星人。昔のお話の中に出てくるような呼び方で人々は二つに区別されるようになった。
?火星人?とはよく言ったもので地球側から見れば彼らは奴隷に近いものだった。物資を供給する植民地とまで言われ、これには火星の人々も黙ってはいなかった。
「何故こんな目にあわねばならない!」「私たちが何をした!」「こんなの横暴だ!」
火星の人々はそんな地球のやり方に憤りを感じた。こうして地球と火星の隔たりはどんどん大きくなっていった。
 きっかけはちょっとしたことだった。火星政府が地球政府に対して独立を求めてきたのだ。自分たちはもう援助は要らない。火星は火星でやっていけるといってきたのだ。これに地球政府は猛反論。誰のおかげでそこまで成長できたと思っている。まだ時期ではない。分をわきまえろという地球側の言い分にもめげず、何度も交渉した。
 その結果が地球の武力による圧政の始まりだった。火星はこれに対して武力を行使、全面戦争に突入した。
争いは熾烈を極めた。両軍ともにALSと呼ばれる人型兵器を主戦力に戦いを繰り広げた。だが数で勝る地球に火星は少しずつ押され始めた。
火星が極秘裏に開発した新型兵器TFフレームを戦線に導入したのはそんなときだった。
miteco(マイトエコ)と呼ばれる人の精神力に共鳴してエネルギーを発生させる特殊鉱石を核とした機動兵器…それがTask(タスク)-Force(フォース) Frame(フレーム)―TFフレームだった。
TFフレームはその特殊性ゆえに大量生産には向かなかったが、性能はALSを遥かに凌ぐものを持っていた。このTFフレームの登場が戦況を一変させた。
劣勢だった火星軍はTFフレームの投入により戦況を五分にまで持ち直した。これに勝機を焦った地球軍は起死回生を狙い最終作戦を発動させた。
――作戦名mischief(ミスチーフ) ripple(リプル)――Cancerous(キャンサーズ) Strife(ストライフ)と呼ばれる長距離破壊砲を用いた殲滅作戦。その一撃は火星を意図も簡単に火の海に変えられるほどの威力があるという。
協力者の情報からこの作戦を知った火星軍はすぐさまこれを阻止すべく、持てる兵力を全てつぎ込み、進軍を開始した。
地球衛星上に設置された長距離破壊砲が決戦の場だった。付近の宙域では激しい攻防が繰り広げられ、あちこちで大中小規模の爆発が起きていた。
この戦いで火星も切り札を投入。切り札―The(ジ) Fates(フェイツ) Frame(フレーム)と呼ばれる三機のTFフレームは戦いを止めるべく戦場を駆け抜けた。TFフレームを凌駕するポテンシャルで次々と戦場を制圧していく。このまま行けば戦いは終わる。誰もがそう思ったときだった。
終末は誰もが予想し得なかった方向に傾いた。
誰が予想し得ただろうか。長距離破壊砲の一部が地球に落ちていくなど誰が考えようか。それが戦闘による余波なのか、それとも故意になされたものかは知りよしもない。だが、それが地球に落ちればどうなるかくらい容易く想像できた。
地球に落下する破片と発射寸前の長距離破壊砲……地球と火星は同時に存亡の危機に直面した。
長距離破壊砲を止めようと必死に攻めていく火星と、落ちてくる破片を止めようと必死になっている地球。
その姿はどこか同じように見えた。希望を失いたくないと躍起になる姿はやはり同じだった。
同じ人間同士でなぜ戦うのか、そう考える人は多い。だが、それは愚問でしかない。人は争うもの。戦いがあるかあるから人は進歩する。戦いは否定であって否定ではないのだから。
――止まらない。
誰もが絶望したとき、奇跡は起きた。
突如として長距離破壊砲が爆発した。理由は不明だが内部からの爆発によって長距離破壊砲はその姿を崩していった。
一方、落下する破片にも変化があった。見れば落下速度が僅かだが遅くなっていた。落下する破片の前面に光る膜のようなものが張られていた。まるで破片を押し返そうとしているかのようだった。
そして、
「止まれぇぇぇぇぇっ!」
光が全てを覆いつくし、そして……終わりにたどり着いた。

第二世紀133年。世界は元の姿に戻っていった。



第二世紀135年。あの忌まわしき戦争から二年が経った今、世の中にはまだ戦争の名残が残っていたが、それでも少しずつ平穏が戻りつつあった。
だが、それでも世の中が平和になったわけではない。秩序は未だ乱れたまま、あちこちでは海賊行為が頻繁に起きていた。
そんな中、
「暑い…」
額から汗を流しながら少年は言った。
『はいはい。文句を言うなら雇い主に言ってください』
少年の相棒は事も無げにそう言った。
「む。この仕事請けたのバンじゃないか」
『そうでしたか?』
青年―バンは特に気にした様子もなく答える。
「そうだよ。それなのになんで僕だけこんな目に遭うのさ」
『私はあくまでサポート役に過ぎないですし、仕事は君の受け持ちのはずですよ』
「それは、そうだけど…」
間違ってはいない。間違ってはいないがどこか納得がいかない。
『それに私より君のほうがその機体をうまく扱える』
「む…」
それを言われては元も子もない。機体の操縦技術だけはバンよりも上だと自負している。だからこそこんな仕事をしているのだ。
『あ、そこを右ですね。そこを曲がってあとは真っ直ぐ進めば例のポイントが見えるはずです』
「了解」
少年は渋々頷くと言われたとおりに機体を進めていった。
今のご時勢、全うな仕事ほど損をみるものはない。なにせ世上が安定してないためにあちらこちらで平気で不正が行われている。中でも一番厄介なのが宇宙海賊だ。その名のとおり、宇宙を星の海を横行し、軍の捜査網を掻い潜って非道を尽くす悪人である。宇宙海賊が襲うのは防衛戦力のない民間企業の船がほとんどで襲われれば最後逃げ切るしか道はなかった。
そんな時現れたのが傭兵という職種だった。
傭兵とは分かりやすくいえば何でも屋に近いが個人で戦力を保有しているため、その仕事のほとんどが護衛で、護衛対象はというと心配性な要人から気の弱い商人まで様々だった。
これをきっかけに傭兵は表舞台に立つ機会が増え、傭兵という存在を知った人たちは身を守るため、大事に商品を守るため、こぞって傭兵を雇い入れた。
傭兵というのはそれこそ昔から存在したがあまり羽振りのよいものではなかったし、何より危険が伴うため、そう数は多くなかった。だが、傭兵を必要とされている現在、これほどおいしい仕事はなく、これをチャンスとばかりに軍人上がりの職なしや興味本位の民間人などが傭兵になっていったのは言うまでもない。
その一人がここにいる少年というわけなのだが、
「駄目だ。やっぱり暑い…」
傭兵というのも楽な仕事というわけではない。
今、少年がいるのは燃え盛る火の海の中だった。正確にいえば燃え盛る宇宙ステーションの中を自機で進んでいるのだが。
宇宙空間とはいえ火災は発生する。人間が暮らすために酸素は必要不可欠であるし、着火元がないわけがない。地球の火災と違って火が燃え移るということはないが、密閉空間ということ、外が無酸素空間ということもあり、宇宙での火災はかなりの危険を伴う。
そのため、ステーションなどの建物には必要以上の防火対策がなされているのだが、整備を怠っていために防火システムが正常に機能せず今現在に至る。
「休養でここにきたっていうのに…いきなり、それもこんな仕事引き受けるなんて何考えてるんだよ、バンは」
開口すれば相棒の悪口しか出てこない。せっかくの休養も突然の火災でパー。しかも唐突に仕事の依頼、しかも依頼内容がアレでは文句の一つも言いたくなる。
「うわ…コクピット内の温度40度超えてる」
機体内部の冷却装置が効いているとはいえ長時間炎の中にいれば嫌でも機体温度は上昇するし、その余波とばかりにコクピット内部まで暑くなる始末。
それに加えて貨物運搬用の通路を無理やり突き進んでいるため小回りが利かず、何度壁を撃ち抜こうかと思ったことか。
まぁそんなことをすれば火災で脆くなっているステーションがほぼ確実に倒壊することになるのだが。
「踏んだり蹴ったりだよ、全く」
 がっくりと肩を落とす少年。
「これも仕事と割り切るしかないか」
愚痴ったところで依頼が変更するわけでもなし。少年は黙って任務に専念することにした。
「ここがポイントか」
ようやく目的のポイントに到着した。
周りを見渡せば、そこにはなんでもないただの壁があるだけ。通路はまだ先に続いているというのに少年は機体をそこで停止させた。
「バン。ここなら突き破っても大丈夫なんだよね?」
『ええ。図面を見る限りではなんら問題ありません』
「よし…」
呟き、少年は迷うことなく機体を壁に突っ込ませた。
幾重にも重ねられた装甲と何の変哲もない壁が正面から衝突した。爆発的な加速力と厚い装甲から繰り出された突進は糸も簡単に壁を突き破った。
軽い衝撃がコクピットに伝わってくる。
下手に火器が使えない分、体当たりという単純な手段が一番効率的だった。
「へぇ…これはなんともまぁ」
壁の向こう側にあったのはALSが数体入っても余裕なほどに大きな空間だった。
『メインフロアに出たようですね』
さすがは要人や重役が何人も足を運ぶ場所なだけはある。メインフロアは吹き抜け構造になっており、一種の展示フロアとしても使うことができるようである。
「ここから例の探し物までは?」
『そこまで行けば探し物は目と鼻の先です』
「ならさっさと見つけて早く帰ろう」
『いいんですか? 折角の休養なんですよ』
「いい。休めないなら帰る」
『そうですか。君がそういうのであればそうしますが』
「分かったなら、早く案内して」
『そう急かさないでくださいよ。今位置情報をそちらに転送しますから』
「よろしく」
それから数秒と経たないうちに目的の依頼品の位置が送られてきた。
「さすが♪」
 少年は相棒―バンの腕を絶対的に信頼している。少年がバンと一緒に仕事をしているのもそういうところが大きい。前衛(フロント)は少年、後衛(バックス)はバン、これが二人の間で暗黙のうちに交わされた決まりごとだ。
「どれどれ……確かにここからだと近いな」
見ると目的のものはこのメインフロアの最上階―VIPルームにあるようだ。ここからならば吹き抜けを一気に飛んでいけばそれこそ一瞬でたどり着く。
だがそこには問題が一つあった。
「たどり着いたはいいとしてどうやって部屋の中に入ろう…」
 外は灼熱の海だ。生身で出て行くには無理がある。耐火性に優れたスーツでもあれば話は別だが、あいにく少年はジーンズにパーカーというごく普通な格好だった。
「まぁ今悩んでもしょうがないし、とりあえず行くだけ行ってみよ」
少年の言葉とともに黒い巨体は一気に吹き抜けを駆け上っていった。
最上階にたどり着き、最初に見た光景に少年は目を丸くした。
そこには火災による被害が一切なく、まさに元のままの状態であった。どうやら火の手も上がってきていないようだった。
「これならなんとかいけるかも」
現場は異常なし、火の手もすぐにはやってくる気配はない、酸素も問題なし、とここまで条件が揃っていれば後は行動に移すのみ。
機体を床に寄せていく。慎重に床を壊さないようにゆっくりと機体を床へと寄せた。降りられる場所を確保すると機体を今の位置に固定しコクピットハッチを開いた。
「暑っ…火はなくても周りが熱いんじゃしょうがないか」
素早く外に出た少年は真っ直ぐにVIPルームを目指して走り出した。
倒壊の危険は去っていない。早くそして確実に依頼品を回収しなければこちらの命が危うくなる。今このときも火災の魔の手は伸びてきている。
「ふっ!」
走った勢いに任せて部屋の扉を蹴破り、少年は滑るように中へと入った。
幸い、部屋の中は無事でこれといった損傷もなく、少し前まで人がいたことを感じさせた。
早速部屋の中を見渡す。目的の物はバッグ程度の大きさで材質は金属でできているらしいのだが…
「キャリーバッグってことかな…いやでもアレが入ってるとなるとそれじゃまずいか」
少年は一人ぶつくさと独り言を言っていた。
それから数分掛け入ってすぐのリビングを隈なく探してみたものの、目的の物は見つからなかった。
「くそ…ここにないとなると後は虱潰しに部屋を探していくしかないか」
ただでさえ無駄に広い上に部屋数も相当数ある。考えなしに全ての部屋を回るとなると相当な時間がかかってしまう。
「ここは自分の運に掛けるか」
自分が見つけるのが先か、それとも部屋に火が回るのが先か、どちらにせよ分の悪い賭けである。
何か手がかりになるようなものがあればいいのだが…
「待てよ…中身がアレなら必ず自分の目の届くところに置くはず…!」
そう言った次の瞬間、体が動いていた。
行き先は決まっている。必ず目につく場所でリビング以外にあるとするならそれは…
「寝室だ!」
それから程なくして少年は寝室に到着した。
辺りを見渡す。
「あった!」
見つけたそれは確かにバッグ程の大きさで外枠は金属でできた頑丈そうで洒落た箱だった。
すぐさまそれを持って帰ろうと箱上部の取っ手に手を掛けた。
「く…これ結構重いや」
持ってびっくりしたのはその重さだった。明らかに見た目以上の重さを誇っている。
よく見れば箱に使われている金属は一部のALSの装甲板に使われているのと同じ特殊合金でできていた。この特殊合金は薄さの割に頑丈なのが特徴だが欠点が一つ、重いのだ。おかげで重量級のALSや超長距離(ハイロングレンジ)の狙撃型ALSにしか使われていない代物だ。
どうりで重いはずである。そんな特殊合金を使っているとはさすがは成金と言うべきだろう。
「さて…どうしよ」
このままの状態で持っていくのはさすがに時間が掛かり過ぎてしまう。それでは脱出が間に合わない可能性が出てくる。
考えること数秒。
「中身さえ無事ならいいよね?」
居もしない誰かに尋ねてみる。
「よし、決めた」
少年は意を決して箱のロックを外した。

相棒である少年が突入してからおよそ二十分が経過した。
火災発生から一時間、そろそろステーションの耐久も限界間近だろう。離れたところから見ているので分かるが、すでにステーションのあちこちが倒壊し始めている。今はまだ少年が突入したポイントは無事のようだがそれもいつまで持つか分からない状態だ。
だというのに、
「早くするザマス!」
バンの隣でいかにも成金といわんばかりのおばさんがヒステリックに声を上げていた。
「まぁまぁ、少し落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるザマスか!?」
さっきからこの調子である。バンが何を言っても聞く耳を持たない。
「私の相棒は優秀ですのでもうしばらくお待ち頂ください。すぐにでも依頼をこなしてみせますので」
「だったら早くするザマス!」
何回この問答を繰り返せばいいのだろうか。すでに十数回は繰り返している。
「はぁ…」
依頼人に隠れてため息を漏らす。
「早く戻ってきてください」
今ここにはいない相棒に届きもしない願いを口にした。
「何か言ったザマスか?」
「いいえ、特には」
「そうザマスか」
狭い船内を右往左往しているところを見るとよほど落ち着いていられないらしい。
(それもそうでしょうね)
バンは心の中で苦笑した。
なにせ大事にしていたものをあの火の海の中に忘れてきてしまったのだから。
(まぁそれのせいで私たちはこんなに苦労しているんですが…)
それは三十分前のことだった。
二人はたまたま休養にと寄ったこの場所が突然の火災発生という事態に遭遇した。その知らせを受けた二人はとりあえず途方に暮れていた。
そんなときにいきなり全域チャンネルで「助けてザマス!」という悲鳴にも似た声が聞こえてきた。
最初は単なる悪戯か何かかと思って関心を示さなかったが、「お金はいくらでも払うザマス! だから助けて欲しいザマス!」という言葉にはさすがに関心を持ってしまった。
今思えばやはりやめておけばよかったと心から思うが今更どうしようもない。
通信元を辿って着いた先で待ち構えていたのは金に物を言わせた豪華絢爛な客船だった。
「どうなさいましたか」
 客船に向かって回線を開き、バンが交渉に入った。
『どうしたもこうしたも……私の大事な大事な…うう』
全く持って話が見えてこない。それ以前に話にすらなっていない。
「あのぉ〜…ですから何があったんですか」
『うう…』
完全にこちらを無視して悲しみに浸っている成金奥様。
相手がこれでは交渉の余地がない。
「あのですねー」
 バンが交渉を諦めかけたちょうどそんなとき成金奥様の横に控えていた燕尾服を着込んだ初老の男性が音もなく前に出た。
『詳しいことは私からお話いたします』
「貴方は?」
『これは申し送れました。私こちらにおります奥様の執事を勤めておる者です』
この初老の執事が言うにはなんでも逃げる際にとても大事なものをステーションの中に置いてきてしまったらしい。
「そうですか…それは大変ですね」
口先だけ心配しているように見せる。交渉とは相手に合わせることから始めるものだ。
だがそんなバンの考えを余所に少年がどうでもよさそうに口を開いた。
「どうせ我先に逃げようとでもしたんじゃないの」
少年の口から厳しい一言が飛んできた。あながち間違いではないだろうが今言っていいことではないのは確かだ。
「あ…いえ、これはその…」
少年の一言にバンは肝を冷やした。下手をすれば交渉どころではなくなる。
だが、
『いやはや、お恥ずかしながらそのとおりでございます』
と苦笑交じりに執事は答えた。
普通使用人というものは主の失敗を隠すものだがそのことを隠そうとせずに答えるあたりこの執事の人柄が窺い知れる。
「話を戻しますが、もし仮に私達があなた方のお手伝いができると言ったらどうします?」
『それはつまり…』
「はい。私達でよければ力になります」
『それは本当ザマスか!?』
今まで話を聞こうともしなかった成金奥様が飛びつくように反応した。
「ただしですね。こちらもあの火の海に飛び込むわけですからタダでとはいきません。何せ私達、傭兵ですので」
『傭兵……報酬さえ貰えればどんな汚い仕事でも請けるというあの…』
一瞬だが執事の顔が曇った。明らかに傭兵というものに対して嫌悪感を抱いているように見えた。
その僅かな心境の変化を二人は見逃さなかった。
「貴方が傭兵というもの全てにどんな感情を抱いているかは知りません。ですがこれだけは言っておきます。私達をあんな下衆と一緒にされては堪ったものじゃあない」
そこには先ほどまでの穏やかさは微塵もなかった。物腰の柔らかそうな雰囲気が一変して、後に残ったのは感情のない冷たい表情だった。
「バン…」
少年が嗜めるように青年の名前を呼んだ。
「おっと、これは失礼しました」
そして、青年は何事もなかったかのように先ほどまでの柔らかい雰囲気に戻っていった。
それをどう取ったかは知らないが執事は静かに口を閉ざした。
「それで私達を雇っていただけるので?」
『お金はいくらでも払うザマス。だから早く行くザマス!』
「では交渉成立ということで。あ、報酬のほうは後ほどゆっくりと。それで忘れてきたものっていったい何なんですか」
それが分からなくては回収のしようがない。
『ものじゃないザマス! 私の愛しい愛しい猫のエリザベートちゃんザマス!』
「は?」
一瞬、二人は耳を疑った。いや正確には耳を疑いたくなった。
「猫…ですか」
『そうザマス』
もう一度確かめてみるがどうやら間違いではないようだ。
二人は顔を見合わせた。バンはにこやかに笑顔を向けている。
「え…やるの? この依頼…」
「もちろんです」
「やらなきゃダメ…?」
「はい♪」
こういう笑顔のときは逆らったところで無駄なことを少年は知っていた。
「はぁ…分かったよ。行きます。行けばいいんでしょ」
こうして少年のある意味過酷な依頼が始まったのだった。
少年が意を決してロックを外すと中から猫の鳴き声が聞こえてきた。
「にゃ〜♪」
鳴き声とともにケースの奥から依頼品改め彼女が姿を出した。
お金持ちの飼い猫というだけあって、毛並みにそれこそシルクのように滑らかでその姿はどことなく気品を感じさせる。
やはり血統つきの猫なのだろう。ケースの中に長い間閉じ込められ窮屈で縮こまった体を伸ばしているその姿さえ絵になっている。
「君がエリザベート?」
少年は言葉が分かるはずもない猫に名前を尋ねた。そこに深い意味はなく、ただ聞いてみたかっただけ。
「にゃー」
猫は猫でまるで「そうよ」と言っているように鳴き返してきた。
それに満足した少年の顔が柔らかく笑顔になった。
「そっか。なら僕と一緒に行こうか。君のご主人様も心配して待ってるよ」
両手を広げてエリザベートを誘い入れる。
「にゃ?」
それが何か分かっていないのかエリザベートは不思議そうに首を傾げた。
「ほら、おいで」
少年は優しく呼びかける。
「大丈夫だよ。だから、ね?」
 自分は安全だよ、不安はないよと何度も優しく呼びかけた。
「にゃあ」
少年の思いが伝わったのかエリザベートは一歩ずつ少年に歩み寄ってきた。
少年は焦らずゆっくりと近づいてくるのをひたすらに待った。
そして、エリザベートが腕の中に納まる位置まで着たところで優しくエリザベートを抱き上げた。
「よし、いい子だ」
エリザベートは嫌がる素振りもなく、落ち着いた面持ちで少年の腕の中に抱かれていた。
本当によくできた猫だと感心するが今はそれどころではない。
「後は…」
エリザベートを落とさないようにしっかりと抱きかかえ、少年は急いで愛機の下に向かった。

「遅いザマス!」
痺れを切らした成金奥様がバンに食って掛かった。
「何をやってるザマスか!? 早くしないと…早くしないとエリザベートちゃんがぁ…」
もう我慢の限界が近いのが手に取るように分かる。このままでは首を絞められかねない勢いだ。
「突入してからもう四十分…そろそろといったところですか」
「何を言ってるザマス?」
バンの呟きに不思議そうに首を傾げる成金奥様だったが次の瞬間、それは驚きに変わった。

間一髪コクピットに戻ってきた少年はすぐさまハッチを閉め、外の状況を確認した。
「もう八割がた倒壊しちゃったか…この様子だと来た道も潰れてる可能性が高いか」
すでに周りは火の海だ。実際コクピットに飛び込んだのもギリギリだった。
退路は絶たれ、逃げ場もない。
「となると方法は一つか」
片腕で抱いていた大事な依頼品を膝の上に載せ、両手でしっかりとグリップを握った。
「やるとなると一発で決めないと」
そう言うと少年は送られてきたマップデータに目を通した。
「一番壁が少ないところは……あった。ここの一番下か。よし!」
この吹き抜け構造のメインフロアで一番壁が薄かったのは展示フロアのある最下層だった。
そこには展示物資専用の搬入用の通路があり隔壁も他の居住フロアと比べると少ない。
少年は急いで機体をそこに奔らせた。
「…あった」
最下層―展示フロアの入り口とは反対の位置に通路へと繋がる隔壁があった。
すぐに機体を隔壁の近くに寄せる。
「撃ち抜くなら最大出力じゃないとダメっぽいな」
他の場所よりも隔壁の数が少ないといっても相当な数がある。それこそ戦艦の主砲クラスの威力が必要となってくる。
「だったら…?ケルベロス?モードP、エネルギーチャージ開始」
黒い巨人の両腕に装備された銃口に火が灯る。火はやがて炎へと変化し轟々と燃え盛っている。
「チャージ完了」
後は引き金(トリガー)を引くだけ。
少年の指に力が入る。
「いっけぇ!」
少年の叫び声とともに両腕の銃口から勢いよく炎が吐き出された。

それは一瞬の出来事だった。
突如、ステーションから閃光が吐き出された。明らかにその一撃は内部から放たれたものだ。
「な、なんザマス!?」
 突然の事態に混乱する。
「あんな狭い空間でケルベロスを…それもモードPを使うなんてまったく無茶をしますね」
苦笑交じりにバンは安堵の表情を浮かべた。信頼しているとはいえ心配していなかったわけではない。
少年とバンの付き合いもかれこれ3年近くになる。出会いはひょんなことから始まり紆余曲折あって今に至る。
今でこそ信頼し心配し合える相棒だが昔はひどく曖昧な関係だったがそれもいい思い出といえばそれまでなのだが。
「どうしたんザマスか!?」
混乱している成金奥様の声がバンを現実に引き戻した。
「え? あぁ…心配いりません。あれはうちの相棒からの合図みたいなものです」
「合図…ザマスか?」
「はい。あと少しで出てくるはずです」
それから一分も経たずしてバンの言ったとおりになる。
ステーションに無理やり開けられた穴から凄い速度で黒い機体が飛び出した。
飛び出した機体は真っ直ぐにバン達のいる小型艇のほうに向かってきた。
黒い機体から通信が入る。
『やっほー』
モニターに少年の顔が映し出された。その表情には余裕があり無事なことを一層引き立てた。
「心配しましたよ」
『ごめん、ちょっと手間取って』
苦笑しながら頬を掻く少年。
「いえ、信じてましたから。それで目的のものは…?」
『大丈夫。ほら』
そう言うと腕に抱えていたものを前に出した。
「エリザベートちゃん!」
感極まって成金奥様はモニターに食い入るように近づいた。
『任務完了(ミッションコンプリート)ってね』
「お疲れ様です。できれば早く戻ってきて欲しいのですが」
バンの後ろから何か聞こえてくるが今は無視しておく。
『了解。すぐに戻るよ』
それを理解してか少年は苦笑交じりにそう言って通信を切った。
「ということですのでもう少しお待ちいただけますか」
「早くするザマス!」
気の短い人を相手にするといつもより二倍疲れる。
だがそれも無事に終わり、やっと休むことができる。
「と、その前に先送りにした報酬の件につきましてお話が…」
この後、バンがいいだけ相手の足元を見たかは少年とふんだくられた依頼人しか知らない。

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