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自作小説交流館コミュの『白雪姫』

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    第1章 〜『白雪姫』の誕生〜


 産まれたばかりの可愛らしいお姫様に名前をつけたのは、父親である王様でした。

 冬の城下街に降り積もる淡雪の如き、儚さと繊細さを孕んだ幻想的な美貌を成長の先に想い、願いを込めて『白雪の姫』と名付けられました。

 白雪は恵まれた裕福な暮らしの中で、美しい女性へと育っていきました。

 鴉の濡れ羽色の黒髪はさらりと長く伸び、大きな瞳は静かに澄んだ輝きを放ち、削がれたように細く 華奢な肢体は洗練された美を体現し、これ以上は言葉に表せず筆舌に尽くせない美しさを、彼女は身 に纏っておりました。

 その中でもとりわけ人々の目を惹いていたのが、彼女の名前通りに穢れなきまま育った陶器のような白い肌でした。まるで透き通るようなその肌には、彼女のか細い血管が青白く浮かび上がっていました。

 病的な『白』さ。
 それは最早、完成された『美』。

 そういった白雪姫の美しさや、それにまつわる噂を知っている者が大勢いたとしても、実際にその芸術的『美』を拝見したことのある者は、殆どおりませんでした。精々が城の使用人か、窓の外を見つめる姿を通り掛かり際に見かけた者程度でしょう。他の者は、巡り巡って程よく誇張された風の噂話に想像を展開させるしかないのです。

 それ程に白雪姫の姿が一般の目に触れないことには理由がありました。

 彼女は、城の外へでたことがないのでした。
 
 産まれて直ぐに城の一室に軟禁されており、日の光を浴びられない生活を当たり前のように、何年も続けてきたのでした。

 それを異常だと怯える人がいました。その行為を非難の声を挙げる者もいました。しかし王様の絶対的な力と命により、それらの口は塞がれました。彼女に名前を与えた王様の少々歪んだ愛情によって、白雪姫の美白は保たれていたのでした。

 彼女の輝く肌が、自然のありとあらゆるモノに傷つけられ汚されることを恐れた王様が徹底して彼女を薄暗い室内へと閉じ込めたのでした。

 広くも小さな箱の中に閉じ込められた白雪姫。
 掃除の行き届いた部屋の床の上と、可愛らしいベッドの上と、限り無く遠くを見渡せるようにと少量の心遣いで大きく作られた窓からの眺めが、彼女の唯一の世界でした。

 そんな彼女が十二になった頃、掃除にやってきた使用人の一人に初めて自分の身の上について尋ねてみました。

「私はどうして他の子供のように太陽の下を歩くことが許されないの。どうして私のお母様は私をこんな所に閉じ込めるの」と。

 使用人は困惑しながらも答えようとします。

「姫様が他の子供と同じでないのは、貴女が姫という身分のとても特別な子供だからです。そして王妃様が貴女を部屋からお出しにならないのは…」
 
 そこで使用人は言葉を詰まらせました。
 白雪姫を閉じ込めているのは、実際は父親の王様であること。しかしその王様は娘に嫌われてしまうのを恐れ、全てを王妃である白雪姫の母親のせいにしていること。そして、何故白雪姫を外へ出したがらないのかは、自分好みの肌の白さを娘に失って欲しくなかった為であること。

 言える筈がありませんでした。

 肌と同様、心まで清廉潔白を保ってきた白雪姫に明かすには、父親の愛は狂っていました。とても素直な性格に育った彼女に全ての事実を伝えるのは、やはりどうしても躊躇われるのでした。

 白雪姫は父親の、
「悪いのは母親であり自分も意見したが聞き入れて貰えない。可哀想だから何とかしてあげたいけれど、自分の力では無理である。母親が許してくれない。自分は白雪姫を大事に思っている。恨むなら母親を恨みなさい」という、嘘にまみれた言葉を信じてしまっていました。

 使用人は少女の問いを適当な言葉で誤魔化しましたが、それで白雪姫を納得させるには至りませんでした。

 白雪姫は頬を膨らませ、とても可愛らしく拗ねるのです。

「私も外へ出たい。外へ出て友達をたくさん作りたい。そして出来た友達と、昼間の日照りの中を思い切り走り回って遊びたい」

 白雪姫は使用人から視線を逸らし、窓の外へ目を向けました。城の窓からは街を見下ろすことが出来ます。白雪姫の目に映るのは広場で輪になり複数でじゃれ合う、肌を小麦色に焼いた街の幼い子供達でした。粗末な服を泥だらけにし、傷を大量に作った肌を品のない仕草で恥ずかしげもなく日の下に晒しているのです。

 ああ、なんて・・・・。
 なんて羨ましいこと。

 白雪姫は頬を膨らませたまま目を輝かせます。そんな白雪姫を見て、使用人は心を痛めます。何かこのお姫様の為に自分がしてあげられることはないだろうか。
 
 使用人は考え、そしてある事を思いつきました。
 エプロンのポケットに入れたままにしていた紙の束を取り出し、丁寧に皺を伸ばしてから白雪姫に差し出しました。

「これはなあに?」白雪姫は尋ねます。

「陛下のお部屋を掃除した時に見つけた、もう必要のない書類たちです。裏がまだ真っ白だったので、大事なことを書き留める為に使おうと思い頂いてきたのですが、姫様に差し上げます」

 白雪姫はズッシリと重い、シワシワな紙の束を受け取りました。

「ありがとう…でも、何を書けばいいのかしら」

 きっと一度丸めて捨てられたのだろう書類を見て、白雪姫は呟きます。使用人は微笑みながら答えました。

「たとえば文字の練習をしても構わないでしょうし、絵を描いてみるのもとても楽しいと思います…そうです!親しい方にお手紙を書かれては如何ですか?」

 使用人は指を三本立てて、白雪姫の目の前に出しました。

 白雪姫はまず人差し指を見て、

「私は本をたくさん読むから文字の練習は必要ではないわ。それに、折角貰った紙をつまらないお勉強に使ってしまうのは、なんだか勿体ないわ」

 隣に立つ中指を見て、

「絵を描いてみるのは面白そうだけれど、この部屋には何もないもの。窓の外の風景を描いても、きっと虚しいだけだわ。素敵だけれど、私と縁のない景色を絵に写すなんて…」

 最後に薬指を見つめ、

「私には手紙を出す相手がいないもの…」

 白雪姫は哀しそうな顔を俯かせながら使用人の手を両手で包み、三本の指をそっと倒しました。泣きそうな表情になった白雪姫を見て、使用人は焦りました。少女をあやすように、頭の中に浮かんだ提案を次々と口に出してみました。

「陛下と王妃様にお手紙を書くというのは…」

「私、お母様はもちろんだけど、いつも調子のいいことだけを言って結局何もして下さらないお父様も、あまり好きではないの。お手紙でお話しするようなことはないわ」

「でしたら、差し出がましいお話ですが、私たち使用人にお手紙を頂けるというのは…」

「あなた達のことはキライではないけれど、毎日会えるじゃない。文を書くなんて煩わしいことはせずに、普通にお話しがしたいわ」

 使用人は目の前の愛おしい白雪姫をどうにかして喜ばせたくて、頭を必死に働かせます。

「それでは…姫様」

「なあに?」

「あの…物語を、書いてみる、というのは…?」

使用人は恐る恐る、白雪姫の反応を伺いながら言いました。

「それは…それは、とても楽しそうねっ」

白雪姫は目をキラキラと輝かせました。



    第2章 〜描かれた世界〜


 白雪姫が描いた物語は、自分にとっての夢でした。

 彼女は、常に薄暗さを保つ部屋に閉じ込められていたため、真の明るさというモノを知りませんでした。白雪姫にとっての世界は闇に覆われており、光差す場所は強い憧れでしかありません。

 日が傾けば窓を開け、身を乗り出して街の端を眺めることも許されていました。街の外れには、森が見えます。昼間は強く日が照りつけ、恐らくあの森にも木漏れ日が暖かく差すのでしょう。
白雪姫は想像しました。頭の中には自分が思い描く空想、願う妄想、求める幻想が次々と浮かび上がります。

「私も森に入りたい」

 願えばそれは夢の中で叶います。
 白雪姫は硬く閉ざされた部屋の扉をこじ開け、若しくは、放たれた窓から華麗に飛び立ち大空を自由に舞って、自分にとっては未知の、森の中という新たな世界へ足を踏み入れました。

「森の中では動物たちと挨拶を交わすの」

「可愛らしいリスや、軽快に飛び跳ねるウサギ…クマやオオカミも友達になってくれるかしら。私がよく読むお話の中で、彼らは大抵悪者扱いなのだけれど…」
 
 白雪姫は段々と楽しくなってきました。紙の上にペンを滑らせると、自分は思い通りの世界で自由に振る舞えるのです。

 白雪姫は、先程使用人が掃除を済ませて帰った為に埃一つない部屋で、自分の高級な召し物が泥にまみれる甘美な想像をし、思わず笑みをこぼしました。

「寝る所はどうしようかしら…」白雪姫は悩みました。そして以前読んだ本に登場した、素敵な人物たちを思い出しました。

「そうだ、小人さんのお家に泊まろう」

 本の世界に脳を馴染ませた白雪姫の世界の常識では、森には必ず小人が住んでいるのです。白雪姫が想像する森の小人は七人兄弟。とても働き者で、みんな仲良く暮らしています。白雪姫は小人たちの家にお邪魔し、暫くの間をその小さな家で過ごします。楽しい日々。美しく流れる時間。

 しかし物語というのは、良いことばかりで終わりません。途中で自分は、悲劇のヒロインにもならなければなりませんでした。

「それでもきっと、最後はハッピーエンドなのだわ」
 
 悪の手に落ち、倒れた自分を救ってくれるのは誰だろうか。「小人さん?いいえ、小人さんたちは只の恩人さんだわ。どうせならもっと素敵な方と…」

 紙の上は、自分の願望を曝け出す場所なのです。年頃の白雪姫は少しだけ躊躇いながらも、描く物語のクライマックスに繊細な美貌の皇子を登場させました。

「ああ…素敵」

 白雪姫は自分が創りだした物語に思わずうっとりとしてしまいました。

「本当にこんな未来があればいいのに」白雪姫は考えてしまいます。

 試しに想像します。本当にこんな未来が訪れる可能性があるとしたら、それはまず何が起きた場合だろうか。

 答えはすぐに見付かりました。

 目の前にある紙の束は、自分の願望を形として整える場所です。白雪姫は躊躇いません。
紙の上にペンの先を付け、言葉をつづります。

「この娘は…私が思い描く物語の主人公は…少女は…彼女は…白雪姫は…」
願いつつも、それをあり得ないことと考え、何の気なしに白雪姫は、それを書くのでした。

『白雪姫が娘から、やがて女性へとなる頃。哀しいことに優しかった王妃様が突然の病で亡くなってしまいました。』



    第3章 〜『白雪姫』〜


 それは
 何も知らず、知ることが出来ず、教えてもらうこともなく
 恵まれていながらも不幸で、幸せでありながらも孤独で
 汚らわしい愛から成る美しさを持ち、邪気より生まれた無邪気を背負い
 暗い中に彼女は一人白く、潔白と無知を持て余し
 一人で寂しい、淋しいと泣いていた女の子。そんな少女が創った物語でした。

『昔々ある国の王宮に生まれた、可愛らしい小さなお姫様。彼女は『白雪姫』と名付けられます。』
『白雪姫は、優しい両親と優秀な召使に囲まれた不自由ない生活の中ですくすくと成長し、やがて美しい娘になりました。』

『白雪姫が娘から、やがて女性へとなる頃。哀しいことに優しかった王妃様が突然の病で亡くなってしまいました。』

『王様は白雪姫が寂しくないようにと新しい王妃様を迎え入れますが、その王妃様はなんと悪い魔女だったのです。』

『悪い魔女は美しさにとても貪欲でした。高級な化粧品や宝石類を買い漁っては、自分を磨き、飾ることに余念がありませんでした。』

『ある日白雪姫は不幸な偶然で、魔女の部屋を覗いてしまうのです。中では魔女が鏡に向かい問いかけています。』

『鏡よ鏡。この世の真実を映す、魔法の鏡。この私に教えなさい。世界で一番の美しさの持ち主は、一体どこの誰かしら。』

『鏡は答えます。』

『はい。それは勿論貴女様です。』

『魔女は奇妙な声で高笑いし、満足そうな表情を見せます。白雪姫は恐ろしくなって部屋の前から立ち
去りました。』

『次の日も、また次の日も、魔女は同じように鏡に向かって問い掛けるのでした鏡はいつも同じ答えを返します。』

『世界で一番美しいのは貴女様。』

『王妃様に間違いありません。』

『しかし、白雪姫が美しい大人の女性へと成長し、国の男性の殆どが憧れるような美女に成った頃。今まで魔女以外を誉めたことのない鏡が、突然白雪姫の姿を映したのです。』

『この世で一番に相応しい美しさの持ち主は、白雪姫で間違いないでしょう。』

『鏡が割れました。魔女の手に破片が刺さり、鏡を壊した代償のように血が溢れだしました。』

『白雪姫を殺してしまいなさい!』

『怒りで眉間に皺を寄せ、体を震わせ、鼻息を荒くし、声帯を枯らす勢いで家臣たちに命令を発した魔女の姿には、既に美しさは欠片も残っておらず、ただただおぞましい程の醜さが、その身を包んでいました。』

『そうして、白雪姫は森へと連れていかれるのです。』

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