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Baja1000 (バハ1000,SCORE)コミュの2008 BAJA500 参戦Report 06 -ジョニ男の場合-

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<前回まで>
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RM 360-400 / Santo Tomas - Ojos Negro / The Border Line
 
 ――ァ。
 メットの中で、自分の吐息だけが静かに響いていた。
 真っ白な砂に覆われた山の峰に沿って続く、シングルトレイル。
 ラインを外すと崖下に落ちてしまう。
 言うことを聞かなくなった体で必死にバランスを取り、少しすつ前に進む。
 真っ白、というのはプレランのときの記憶だ。
 今となっては紺に染まったその場所は、奇妙な静けさを湛えていた。
 太陽は姿を隠し、頼りは僅かに残った茜雲。
 滑り落ちるように坂を下り、盛大に砂を巻き上げてまた登る。
 エンストすれば、巻き上げた砂が、そのまま降ってきて、目も開けていられない。
 XRのエンジンの音も消え、いよいよ自分の乱れた呼吸音だけ。
「ふぅ!」
 このまま休みたくなる気持ちを抑えて、キックペダルを踏み降ろす。
 まだまだ先は長い。残り六時間と少し。70マイル。序盤であれば2時間半で走れる距離だ。
 前半のハイペースのおかげで、時間的には余裕があった。
 とは言え、完全に日が落ちてからどうなるのか、まったくわからない。
 ナイトランの練習を一、二回やったとはいえ、あくまでもそれは走りなれた林道でのことだった。
 見る間に色を失う世界。
 その輪郭が見えなくなる前に、少しでも前へ。
 プレランの時に大ハマリした斜面を、両足バタバタしながら何とかクリアする。
 気が緩んだのか、登りきったと同時にエンジンが止まってしまった。
 と、偶然にも同じところでバイクが止まっている。
 お互いに会話はない。考えることは一緒だ。
 走りきってやる。
 僕の方が先にスタートした。
 路面は変わらず細かな砂で、一時も気を抜けない。
 ギャップはプレラン時とは比べ物にならない位深く彫れていた。
 四輪め。(注:恨みパワーを動力に変換中。四輪パイロットは皆気前の良い、男前たちばかりだったよ)
 さらに少し進み、またエンジンを止めたところで、遠く響く金切音を聞いた。
 マシンを端に寄せ、様子を伺う。
 ややあって、バギーが一台、道幅を一杯に使って(一部路肩を破壊しながら)走ってきた。
 ものすごい埃だ。
 これはヒドイ。
 ――しばらくは治まりそうにないな。
 まだまだ道はアップダウンを続けていく。こんな視界じゃ走れたもんじゃない。
 スタンドを立ててメットを脱ぐ。
 砂埃が治まるまでに、本格的なナイトランの準備を終わらせてしまおう。
 先刻取り外したLEDライトを再びバイザーの下に取り付けて、スイッチオン。
 また、半分残しておいたパワーバーも食べきってしまった。
 ウマイ。
 2本買っておくんだった。
 用を足してベルトを巻き直し、さぁ出ようか、とバイクに近づいた時、また甲高い四輪の音が聞こえてきた。
「うー」
 ダスト トゥ ダスト。きりが無いぞ。
 躊躇する僕の目の前を、さっき追い抜いたバイクが通り過ぎていった。
 やっぱり、そう、行くしかないのか。
 エンジンをかけると、ダストがヘッドライトに照らされて2m先の視界を奪う。
 先の見えない不安と、突然現れる急斜面。エスケープの無いシングルトラック。
 やがて視界は晴れ、さっきのバイクの姿は何処にも見えなかった。
 一体何処にそんな力が残っていたのか。
 見えるようになったのは嬉しいけど、これはこれで不安になる。
 砂埃が上がっているということは、自分以外の他者の存在を示しているし、何よりも自分がオンコースにいる証拠だからだ。
 ダスト トゥ サイレンス。
 無心で追いかける。

 気付いたときには、すっかり日が落ちてしまっていた。
 ビックリするくらい月明かりが明るかったりして、なんて幻想はあえなく打ち砕かれる。
 日本に比べれば明るいのだろうが、勿論それだけで走れるほどのものではない。
 しっかりと暗い。
 XRに取り付けたシングルライトは十分に明るく、今のペースで走る分には問題ないと思われた。
 けれどそれも、真っ直ぐに走っていればの話だ。
 まだ登りは良い。問題は下りだ。
 下り始めて、ライトが下を向いて初めて路面の状況が分かる。
 あ、と思った瞬間には、フロントタイヤが大きな岩にヒットしていた。
 何も出来ずに転げ落ちる。
 急いでバイクを起して、空キック。
 エンジンをかけて、コース脇にマシンを突っ込む。
 休んでばかりだけど、また休もうと思って地面に左足を突き出したけど、空振り。
「!」
 暗くて見えなかったけど、左側が一段低くなっていた。
 ガシャン――。
 頭を下に向けた最悪の転倒だった。
 引きずって体勢を整えられるような場所でもない。
 ここにきて、これかよ。
 
 ハッキリと分かるくらいの音を立てて、何かが切れた。
 涙が目尻に滲む。
 情けなくて、悔しくて歯を食いしばった。
 泣きそう――。

「ぁぁぁああああああ!!!」

 泣く代わりに一吠え。バイクを起す。
 もう大分冷たくなった空気の中、尋常じゃないくらいの汗が噴出してきた。
 スタンドを立てて、地面にしゃがみ込む。
 暑い。ちょっと変だ。
 メット、キャメルバック、ジャケット、グローブを外して放り投げる。
 心拍数は高いまま、汗も止まらない。
 顎から滴る汗を感じながら、キャメルバックのホースを手繰り寄せて一口。
 味気の無い水は、幸いにも冷たい空気に当てられて冷水になっていた。
 一気に飲んで、呼吸を乱す。
 あぁ――。きついな。これは。
「、、、ちくしょう」
 うわ言の様に呟いても、体にまったく力が入らない。
 メットにつけているLEDライトと、XRのリアで光る自転車用の安全灯が無ければ、まったくの暗闇だ。
 出来ることといえば、水を飲んで、オーバーヒート気味の体を休めることだけ。
 
 どのくらいそうしていただろう。
 呼吸が落ち着いて来たので、立ち上がって時計を見ると、もう22時になろうとしていた。
 なんてこった。
 一時間で、12マイルしか進んでいない。
 このペースだと制限時間ギリギリもいいところだ。何かトラブルがあれば完走も危うい。
 エンデューロライダーの末席として、絶対にリタイアしたくない。
 何を生意気な、と思われるかもしれないけど、現地では最初からその気持ちで走っていた。
 
 ブルっ。
 背筋を走る寒気に身を振るわせた。
 まだ、走れる――。
 
 転げ落ちてはバイクを起し、息を切らして前に進んだ。

 見通しの無い視界は距離感や時間感覚を希薄にし、やがて現実感すらも奪い去ろうとしていた。
 まるでテレビを見るような感覚でライトに浮かび上がるコースを眺め、テレビゲームのようにマシンを操っていく。
 後ろから追い立てる四輪の存在と、心臓に突き刺さるような恐怖感だけが辛うじて僕を現実世界に繋ぎ留めていた。
 きつくて、怖くて、ただガムシャラにゴールを目指す。

 きっと少しずつ近づいているはずだ。
 でも、もう長い間、コースリボンやマーカーを見ていない。
 思った以上に速度が上がらず、時間だけが過ぎていく。
 焦りが湧き上がる。
 僕はちゃんとゴールに向かっているのかな。ダメかもしれない。ここまで来たのに。
 
 突然現れたヒルクライムにアクセルを開け切れず、坂の半ばでエンジンを止めてしまった。
 幸いにも簡単にエンジンは掛かったものの、ここでBAJAにきて最初のスタック。
「、、、あれれ?」
 まさかこんなところで?
 路面はシルト。でもどうやらタイヤが引っかいているのは、砂の下の岩盤みたい。
 マシンを止めると、細かい砂が凄い勢いで降ってきて、思わず苦笑する。
 慌てず騒がず、いつもの山を思い出せ。
 アクセル開けて登らないところは、どんなに開けても掘れるばかりさ。
 少し下がって、少し進んで、数回反動をつけて一気に後輪に荷重。スロットルを空ける。
「ととっ」
 足を大きく外側に突き出してバランスをとり、何とか脱出した。
 ひどいヘロヘロ具合だな。昼間なら気にも止めないセクションだろうに。
 
「くそぅ」
 このままじゃホントに間に合わない。
 少し無理をしてでもペースを上げないと。せめて20マイル/h。
 (大体時速30kmくらいか、、、これでも結構速いね。今思ったけど)
 路面は相変わらず荒れていたけど、アップダウンが少なくなってきた。
 恐怖心と戦いながらペースアップ。
 ホントは少し速いペースで走ったほうが体力的にも楽なんだと思う。
 フラフラと降られていたフロントタイヤが少しだけ落ち着いた気がした。
 開けれるだけアクセルを開けるけど、絶対に転倒はしない。
 今こけたら、きっと泣いてしま――。
 ガシャっ!
 でもこける。下りのギャップが全然見えなくて。泣かない。マシンを起してエンジンをかける。

 XRもボロボロだ。もしも口があるなら、なんと言ってくるか。
 いや、多分Mだろうから、大して堪えてないかも。
 これがXR650なら、きっととうの昔に力尽きてたと思う。
 予算の関係で選んじゃったXR400Rだけれど、今となってはコイツ以外での完走は難しかったかもしれない。
 初めてBAJAに出る人間には絶対的にオススメできるマシンだ。
 、、、僕は、次 絶対セル付きだけど。(もう経験者だし)
 
 ライトに照らされて、反射素材の小さなテープがチラチラと光る。
 なんて頼りないんだ。コレ。
 プレランを1回やったとはいえ、この状況ではあんまり意味無いぞ。
 390マイル。あと、大体60マイル。
  
 長く、ガレた坂を登っている途中、現れた岩を避けきれずにまたエンジンを止めてしまった。
 再スタートをきろうとして、立ちゴケ。
「くそ!」
 思わず声が出た。
 バイクを起して、とりあえずキックのしやすい態勢を作る。
 カシャカシャ――。
 デコンプ引いて、とりあえず10回。
 上死点を出してから一気にけり下ろした。
 掛からない。ダメか。こりゃ、面倒だ。
 再度 空キックを始めた頃に、坂の上から懐中電灯を持ったキャンパーたちが下りて来た。
「大丈夫か?」
 なんとか大丈夫です。エンジンが掛からないだけで。
 、、、声にならないけど。
「水、下さい」
 替わりに口をついたのはそんな言葉だった。
「オーケー。とにかくこの坂を上りきって」
「はい」
「モータが無いのか!」
「、、、はい」
 ガヤガヤと騒がしくなる中――実はこの時点で僕は、二輪の最後尾の1つ前のポジションだった――蹴れども蹴れどもエンジンは掛からない。
 また、嫌な汗が噴出し始めていた。
 ゴーグルが一気に曇り、息苦しい。
 ヘルメットを脱いで、ギャラリーに渡す。
 きついけど、ただ人がいるってコトだけで、まだいくらかマシ。
 ブロロっ・・。
 やっとエンジンが目を覚ました。
 ギャラリーから歓声が上がる。嬉しい!
 バフバフとスロットルを煽って湿っぽいものを吹き飛ばす。
 メットを受け取って、慎重に坂の頂上までたどり着いた。
 開けたその場所では多くのキャンパーが焚火を囲みながら談笑していた。
 大半の――というか間違いなく9割以上!――のレーサーたちが走り抜けた後の余韻を、大量のアルコールと一緒に楽しんでいたのだろう。
 そんな中ふらふら現れたボロボロの日本人。なんてイジリ甲斐のある素材だ。
 あっという間に人だかりが出来た。
 僕はマシンを止めてメットを脱ぎ捨てると、どっかりと腰を降ろした。
「大丈夫か?水だよ」
 さっきのキャンパーが水のボトルを持ってきてくれた。でかい。
「ありがとう」
 言うなり頭からかぶる。かなり寒いのは分かってたけど、とりあえず緊急冷却です。
 そのまま口をつけたけど、もうだめだ。何か違う。
「――何か、甘いもの、ない? ジュースとか、お菓子とかのsomething」
「オレンジジュースならあるよ」
「くださいー」
 もう遠慮も何もあったもんじゃなかった。
 今思えば笑えるんだけど、あの時はもちろん本気。
 大の大人が、現れるなり座り込んで、お菓子をねだって、ジュース飲みながらクッキーをボリボリ。
 ジュース1リットル弱を飲み干して、今度は「キャメルバックにも甘いの入れたいんだ」だって。
 さすがにこれにはキャンパーも大笑い。
「もうコーラしかないよ。アルコールはあるけどね」
「コーラでも良いですー」
 最終的に、キャメルバックの中身は水割りコーラになりました。プシュー。
 乱暴にエネルギーチャージを行うと、人と話せた嬉しさもあいまって少し力が戻ってきた。
「もうきっと大丈夫だよ。心配するな」
「すぐBAJAPITがあるよ」
「ソロだろ?タフだな」
 大人は口々に声をかけてくれるし、子供たちは物珍しそうに少しはにかんだ笑顔を向けてくれる。
「もう行きます!」
「Good luck!」
 グッドラック。
 そういえば、頑張れよって、英語でなんて言うんだろ。無いのかも。
 英語圏では褒める事が=頑張れよ、なのかも。
「お前はタフなヤツだ。きっとゴールできる」
 焚火に照らされながら聞いたその言葉に、今までのどんな「がんばれ!」よりも、ヤル気にさせられてしまった。
 そうだった。僕はBAJA RACERSの一員だ。絶対にエンセナダまで戻るんだ。
 
 そこから10マイル弱を必死の思いで走った。
 見えないギャップに弾かれて何度も危ない目にあったけど、ハンドルにしがみついて耐えた。
 左足に荷重が掛かるたびに、足の裏の靴擦れが激しく痛む。
 あと少し。あと少しだ。
 最後のBAJA PITのサインボードを見て、心底ほっとした。
 いける。きっと、もう大丈夫だ。
 ガスを補給する間、椅子に腰を下ろした僕は、やっと確信めいた気持ちを持つことが出来た。
 ここから先は、きっと大丈夫。

「ダイジョウブ デスカー?」
 静かに目を閉じた僕の耳に飛び込んできたのは、怪しい関西訛りの日本語だった――。

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