PAUL McCARTNEYとの夢のコラボ実現により、チャリティ企画「Let It Be / FERRY AID」を 大成功させたSAW。 それから2年後の89年、SHEFFIELD・HILLSBOROUGHというサッカー競技場での試合中、溢れる観客がスタンドから押し出され、数十人の死者が出るという惨事が発生。 この事態に対し、災害基金を集める為、急遽立ち上がったSAW。 リバプール戦に関わる試合ということもあり、PAUL McCARTNEYを筆頭にリバプール出身アーティストを集結させ、リリースに至ったのが「Ferry 'Cross The Mersey」。
参加アーティストは、65年オリジナルで大ヒットを放った「GERRY & THE PACEMAKERS」リードボーカルのGERRY MARSDEN、UK-SOULグループ「THE CHRISTIANS」と、更に 「FRANKIE GOES TO HOLLYWOOD」リードボーカルのHOLLY JOHNSONと、そしてアーティスト名義としても刻まれたSAWという豪華メンバー。
はっきり言って、UK1位という大ヒットは当然の結果ではあるが、あえてBEATLES曲でなく、 「GERRY & THE PACEMAKERS」によるカバー曲を採用したところに、SAWをはじめ PAUL McCARTNEYの純粋な心意気というものが表れている。
続いて89年のクリスマスソングと言えば、「Do They Know It's Christmas? / BAND AID?」 (84年オリジナル)。 こちらについては以前も紹介しましたが、SAWバージョンではドラムパターンをはじめ、全体アレンジがPWLサウンドに見事に切り替えられたという違いに改めて注目して頂きたい。
「Use It Up And Wear It Out」はODYSSEYによる80年のディスコ大ヒットカバー。 ここではSAWらしい「絶妙なアンバランス」が発揮されており、当時流行していたディレイ効果の利いたシンセベースを特徴としたTECHNOTRONICによるHOUSE-SOUNDにクラシックディスコを絡ませたというアイデアがいい。 はじめは甲高いボーカルに違和感があったが、聴き慣れていくとPOP-DISCOに相応しい、 見事なサウンドフィーチャーを魅せたSAWのメイキャップ技術に注目したい。
SWEET-SOULの名作と言えば、「Hey There Lonely Girl」。(90年カバー) EDDIE HOLEMANのトップテナーボイスは今聴いても吸い込まれるような素晴らしいファルセットが印象的ですが、原曲クオリティともにフィットし完成された、これぞ74年の名作。 こんな名曲をBIG FUNなるアイドルがカバーするとは!!? という意見は多いとは思うが、よく聴いてみると原曲イメージを崩さずに、ポップアイドルのレベルに焦点を合わせたという意味では(恐らくボーカル修正はされたでしょう)クオリティある仕上がりだと言える。 WATERMANのお気に入りである名作を大切にカバーしたいという、キメ細かな配慮というものが感じられる。
「Rock The Boat」の方は、HUES CORPORATIONによる74年のディスコヒットカバーで、こちらはPWLの新たなポップアイドル構想としてコーラスを武器にダンスフロア向けのガールズグループとして送り出されたのが「DELAGE」。 美しいハーモニーとPWLラッパが見事にフィットしているが、ヒットに至らなかったのは恐らく、メインボーカルのインパクトが少なかった為だと考えられる。 しかし、WATERMANのディスコクラシックに対する愛情だけはしっかり伝わってくるものがある。
一方、STOCK、AITKENの方は60年代ポップスカバーをコンセプトとし起用されたアーティストと言えば、PWL専属アイドル、JASON DONOVANですが、「Sealed With A Kiss」 (62年BRIAN HYLAND)や、「Rhythm Of The Rain」(62年THE CASCADES)をはじめ、大ヒットカバーを連発していたように、正にSTOCK、AITKENの探し描いていた世界の実現そのものであった。
これを証明付ける形跡こそが、SAWオリジナル作「I'm Doing Fine」にみられる。 数あるオリジナル作の中でこれほどにも60年代サウンドをストレートにアピールした楽曲はたったこの1曲のみであり、ソングイメージは正にBEATLES流POP-ROCKそのもの。 更に91年にリリースされた「GREATEST HITS」のみ収録となった、SAW三者にとってラストカバーとなる59年ELVIS PRESLEYによるヒット曲「Full Such As I」を取り入れているあたりもまた、 STOCK、AITKENの60’Sサウンドを愛する思いが伝わってくる。