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Piccollo Amoreコミュの第35話 冷たい雨

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中田に会って何を言えば元通りになるのか?
本当に終わるのか?
頭の中にはそんなことばかりが浮かび、その日一日は仕事にならなかった。
彼氏と喧嘩をしても、家族とぎこちなくなっても どんな時でも仕事に私情を持ち込む事はなかった私が、その日は全く何も出来なくなった。
職場の友達もとても心配してくれて、会ったらちゃんと話した方がいいと元気づけてくれた。

夜になり地元の駅に着いた私は一度家に帰った。
もう一度何とかしたいと思う反面、どちらか一方がダメだと言い出したらその時点で終わることを知っていた。
そして壊れた物は二度と同じ形に戻る事はないと言う事も。
中田を説得するつもりだったのに、私は中田に借りていたCDや車の鍵を一つの袋にまとめて家を出た。

「わかった、じゃあ学校の前で。」
かなり暗い中田の声が待ち合わせ場所に指定したのは、よりによって小学校前だった。
同窓会の日、雪の中同じ道を楽しみに小学校へと歩いた。
滝沢と別れた日、はやる気持ちを抑えきれず 早足で歩いた。
小学生のとき、偶然中田と会わないかと期待しながら山ちゃんの家に向かう時にも この道を歩いた。
沢山の思い出が詰まったその道は とても暗く、とても切なかった。

「少し雨が降ってきたから車出すよ。どこか行きたい?」
中田は傘を差し出し私が濡れないように気遣った。
何も考えられず家を出たけど そういえば雨が降っていた。
「ご飯食べたりは、今日はいいや。お店で話すのも何か変だし車でゆっくり話そう。」
私は近くの自動販売機でいつもとは違うコーヒーを買った。
中田も飲み物を買いフタリで中田の車に乗った。
女の子は私しか乗せた事がないと言う助手席に座るのも、今日が最後かもしれないと思うだけで 涙が出そうになった。
中田は車で土手まで行くと車を停めた。
ここにも思い出が多すぎる。
大事なこの場所で話をするのは少しイヤだったけど、私たちらしくていいのかもしれないと思った。

「本当にもうダメなのかな?」
私の問いかけに中田はうなずいた。
「俺もちゃんと考えたよ。昨日帰ってから自分が何言ったのかってさ。」
眠れなかったのは中田も同じらしく、昨日よりもクマが一層ひどい。
「そっか、私さ 本当は説得しようと思ってたんだよね、今日。」
中田は黙ったまま聞いている。
「でもさ、もういいや。困らせたところでもう変わらないでしょ?」
「…ごめん。」
「わかった。じゃあ別れるよ。」
私は自分でもビックリする程アッサリと認めてしまった。
中田の辛そうな顔を見ているのがキツかった。
「成瀬の夢とか幸せとかは本当に願ってるんだよ、だからケンカ別れとかは嫌だし 成瀬が言うなら何度でも話すよ。」
中田は言った。
「いいよ。友達でいた方がいいって思った事 私も有るよ。それにさ元々言われてたじゃん、初恋は実らないって。」
「俺が成瀬を好きになったのは初恋だからってだけじゃないよ。結婚したいと思ったのも成瀬が初めてだったし、今後付き合うような人が出来て 結婚考えた事があるのか聞かれたら隠さず話したいとも思うよ。それは俺の中でのリアルだから。」
「あはは、わざわざ言わなくてもいいんじゃない?」
「本当に成瀬の事好きになったよ。楽しかったし。」
‘じゃあ何で??’
私は何だかよくわからないテンションになっていた。
笠井と話す時と同じ様にすればいい。
地元友達で同級生、これからはそうなるんだから。
「私も中田に会えてよかったよ。楽しかったなぁ…。」
「俺たち似てるのかな?楽しかったよ、だからこんな風になって悪いな。」
「もういいって。どっちが悪いとかじゃないでしょ?これからは友達として遊べばいいじゃん。そのうち戻りたいとか言ってもムリって言うからネ。」
「おぅ、言わねぇよ。」
「おい!言わないのかよぉ。」
私は少し強がって冗談のつもりで言ったのに、ハッキリと否定されて何だか痛かった。
「こんな傷つけといてそんなに勝手な事言わねぇよ。」
と中田は付け加えた。
「…そっか…。」
しばらくは車でかかる曲を聞きながらボーっとタバコを吸っていた。
窓ガラスにあたる雨音がさっきよりも確実に強くなって来た。
雨の雫でガラスに映る自分の顔が泣いている様に見える。
昨日さんざん泣いたせいか、おかしなテンションのせいか 最後だと言う今日は 一滴の涙も出ない。
それどころか男っぽい口調でヘラヘラ笑いながら話していた。
「何かさ、今日の成瀬のが成瀬っぽいな。」
ポツンと中田が言った時、カーステレオからmisiaの『キスして抱きしめて』がかかった。
私は耐えきれる自信がなくてわざと沢山しゃべった。
「あ、これさ借りてたCD。ちゃんと持って来たよ。中見て確認して。」
「おぅ、さんきゅう。俺も持って来たよ。」
中田からも袋を渡され中を見ると封筒が一緒に入っていた。
「あ、それさ…フタリの貯金。全部おろして成瀬の分持って来たよ。」
私たちは結婚資金にしようと新しく口座を作っていた。
中田の名義で作ったその口座には、毎月の給料で少しずつ貯金をしていた。
「…あ〜、よかったのに。」
「よかねぇだろ?もう結構な額あるぜ。」
「マジ?じゃあ豪遊だなぁ。」
「とっとけよ!いつか使えるだろ?」
封筒には10万ちょいの現金が入っていた。
でもそれを他の誰かとの為に使うなんて考えられなかった。
「あ…。」
中田が自分に渡させた袋から写真を見つけた。
誕生日の日の写真をどうしたらいいのかわからなくて、私と一緒に写っていたものだけを家に置いて来た。
中田一人で写っていた物だけを袋に入れておいた。
「それさ、迷ったんだけど中田の誕生日だからさ…。」
「ありがと。」
中田はあまり良く見ないまま写真を袋に戻した。
「これさ…。」
中田は車のキーを見つけ、私に差し出した。
「成瀬 車運転出来ないし、出来ても勝手に使うなんて思ってないからいいよ。一度あげた物だし。」
「は?だって使わないしさ。私が持ってても変じゃない?」
「そっか…。」
「あー!待った!じゃあもらう!!」
中田から鍵を受け取ってカバンにしまった。
「ねぇ?私の写真は?小学校の前のやつ。」
「あ〜!持ってくるの忘れたよ。ピースだろ?」
あの写真だけは返して欲しいと頼んでおいた。
中田が好きだと言った自分の写真をきちんとアルバムに戻したかった。
有るべき場所に戻らなくてはいけない写真だと思った。
「じゃあ今度会った時でいいや。」
「ごめん、うっかりしたよ。」
私たちは次に会う約束なんてないくせに、どちらも否定せずに今度返してもらうことにした。

車で家の前まで送ってもらい、手を振って別れた。
中田は私が納得しないと思っていたみたいで最初は暗い顔をしていたけど、私がわかったと言って泣く事も責める事もせず 話を出来てよかったと笑って帰って行った。
車の運転席から身を乗り出し握手までした。
「お互いに幸せになろうな。」
と笑って帰って行った。
車を降りた私は中田の車が見えなくなるまで見送った。
見えなくなるとスっと作り笑顔をやめた。
そのままいつもの自動販売機でコーヒーを買った。
行く先はいつもの成瀬公園だった。


「成瀬、最後に言いたい事とか 俺にできることある?」
中田は優しい声でまっすぐに私を見て言った。
フタリの付き合いは今日で終わりと決め、家まで送ってもらう為に車を発進させようという時に 中田は彼女になってと言った時と同じ まっすぐな目で言った。
「…そうだなぁ。…最後にもう一度キスしたい。」
私なりの最後の強がり、冗談で言ったつもりだった。
「よし!わかった。俺も愛情込めてするよ。」
ニコっと笑った中田は、ためらう事なく私の肩に腕をまわしキスをした。

とても永く、とても幸せで、でもとても痛かった。
今までの中で一番優しくてあったかいキスだったかもしれない。

成瀬公園でコーヒーを開け、小雨の中タバコに火をつけた。
タバコの煙を吐き出すと同時にポタポタと涙がこぼれた。
我慢していた感情が一度に溢れ出した。
もう中田とは友達以外の何でもない。
もう中田に抱きしめられる事もない。
会いたい。
大好き。
一緒にいよう。
そんな言葉はもう聞く事がない。
一緒に観ようと言った映画も、また行こうと言った旅行にも もう一緒に行く事はない。
「俺たちの子供にはサッカーやらせたいな!」
もう私たちが結婚をしてフタリの子供にサッカーを教えることもない。
沢山の出来事が一度に頭の中で繰り返された。
そこには小学生の私たちだけではなく、一緒に描いた未来の私たちの姿もあった。

深夜の成瀬公園。
11月の雨はとても冷たくて痛かった。
私は無意識のうちに中田の車のキーを握りしめていた。

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