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超短編小説集コミュのDrunk in the Rain

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こうして話し始めようとすると、君はやっぱりその理由を知りたがるかもしれない。何故嘘を吐くだとか、何故人を殺しただとか、君のような人間は人にやたらと動機や理由を求めたがるからね。確かに人には行動に移る何か確固たる理由があるかもしれない。でもそれだけで人が行動するわけじゃない。例えば今、早急に解決しなくてはならない問題があるとする。締め切り前のレポートだとか、クソにまみれたケツの穴を拭くだとかね。でもやっぱり人には気分というものがあるだろう?人が何かをするには当たっては気分が一番大切なんだよ。気が乗らなければ、どんなに締め切りが近づこうがレポートなんて書けないし、どれだけケツの穴が汚れていようが、やっぱりそれを拭く気にはなれないんだよ。それに仮に何か僕がこういった行動をしたという明確な理由があったとしても、やっぱり君には話す気にはなれないな。だって今はそういう気分じゃないから。

とにかく、僕は昨日の夜、三条通りに向かったんだ。空を見ると、どんよりと雲がかかっていて、前の日の夜に見えた月がまるで嘘のようだった。三条通りは17日から19日にかけて三条あかり景色という下らない催しをやっていた。三条通りの壁に映像を映すという何とも意味の分からないことだったよ。
でも本当のことをいうと、昨日僕はそれを目当てに三条へ向かったんだ。家に居て他にすることもなかったしね。

家を出てほどなく経ったころだったかな。これから三条あかり景色が目に入るってところだったよ。いきなり雨が降ってきたんだ。最初は何かと思ったよ。だってさ、さっき確認した天気予報では今日、明日晴れだったんだから。全く笑っちゃうよ。それはまるで僕のすることに文字通り水を差すような行為だった。その雨のお陰で、映像が見れなくなっちまったんだ。でも本当のところを言うと、それもしょうがないかなって思ったんだ。ここだけの話なんだけど、実は僕、雨男なんだ。いつもどこかへ出かけようかなって思って外に出ると、決まって雨が降り出すんだ。そういった星の下に生まれて20余年。家を出て雲を見た瞬間、これは降るなという確信を自然と得た。でもまた家に戻って傘を取りにいくというのも面倒だったから、ついそのままで出かけてしまったんだ。くそったれの天気予報でも「今日は晴れ」と言ってたしね。だから僕はその突如降り出した雨に対して全くの無防備でいなくてはならなかったんだ。結果は言うまでもないだろう?僕はびしょ濡れになった。

最初はそんな風になった自分を見て、気分がよくなったんだ。だって雨でびしょ濡れになるだなんて何十年ぶりのことだったからさ。なんだか懐かしさと目新しさが同時に僕の心を支配するのを感じた。でも三条通を歩いていると、だんだんと気が滅入ってきた。同じ服装をした妙な集団が薄ら笑いを浮かべながら、その通りを闊歩しているのに行き当たったんだ。正直、もう少しで吐くところだったよ。本当に薄気味悪いんだ。何十人という男女が一つの通りを同じ服装で歩いているんだから。

しばらくして、彼らが三条あかり景色のスタッフだなと思い当たった。その瞬間、やっぱりインチキかと思った。芸術とは結果が評されるものであって、その過程が評されるものではない。それなのにその過程に携わるものが、したり顔で芸術を披露する舞台に上がってくる。それはもう傲慢でしかない。インチキだ。そしてそのインチキ集団が舞台を占拠する。これはもう悲劇でしかない。

とにかく、僕はもうどうしようもないくらいに気が滅入ってきた。こんな下らないインチキなショーのために、びしょ濡れになったかと思うと、自分が掛け値なしに哀れに思えてきた。そんな気持ちに負けないように一生懸命頑張ったけど、ダメだった。何だか自分までインチキなショーを盛り上げるよう加担しているみたいに感じられてきた。僕は一刻も早く、インチキなショーから逃げ出したかった。

僕は急いで、近くにあった階段を降りていった。幸いにもそこは僕が何度か行ったことがあるカフェだった。入り口のところで、身体にまとわりついた水を切り、慣れ親しんだカフェの店員にタオルを借りて、僕の身体を慰めた。こういった行為も既にずぶ濡れになった僕の身体には余り足しにはならなかったが、どうにか店に入れるだけの格好はついた。

取り合えず、僕は雨によって冷え切った身体を温めようとバーボンを頼んだ。自分を哀れむ気持ちと戦うためにもアルコールによって景気づけたかったんだ。でも席についてバーボンを飲んでいると、また気が滅入ってきた。すぐ側にあったスピーカーからスティーヴ・ライヒが流れてきたんだ。あの何ともいえない憂鬱な電子的な音楽が僕の耳に絶え間なく流れ入ってきた。お酒を飲んでスティーヴ・ライヒを聞くと、本当に気が滅入るんだ。分かるだろ?もうその頃には僕は自殺を考え始めていた。

僕は立ち上がって店を出ようとした。でもその瞬間、インチキ集団がまだ外でひしめき合っていることを思い出した。またあのインチキ野郎共の鼻持ちなら無い顔を見るかと思うと、吐きたくなってきた。僕は仕方なくまたその席に座った。スティーヴ・ライヒを耳にしながら。

しばらくはうつむいたまま自分の手を眺めてた。何かこう手持ち無沙汰でね。分かるだろ?暇な時ってやたらと自分の手を見ちまうもんなのさ。とにかく、僕は自分の見慣れた手を、表にしたり、裏にしてみたりと、忙しく見ていた。と、そこに一人の女性が僕のところに近づいてきたんだ。何だろう、と思って僕はその女の顔を見た。その途端、また気が滅入ってきた。その女の顔が何ともヤル気がなくてね。そいつの体中からヤル気の無さが伝わってくるんだ。そして、あろうことかその女はこのカフェのスタッフなんだ。それが分かったら余計に気が滅入ってきた。僕は必死になって彼女に唾を吐きかけてやりたいという気持ちを抑えた。正直、そいつの顔面に唾を吐きかけて、往復びんたを20発くらい喰らわせてやるのが妥当なところだけど、僕は思いとどまった。だってさ、そういうのは低脳のやることだろ。僕はそこまで哀れな存在になりたくなかったんだ。それに正直なところ、僕は臆病でもあるんだ。人を殴るのが恐いんだ。多分人に理不尽に殴られても、やっぱり僕はそいつに殴り返すだけの度胸は持てないだろうな。別にまた殴り返されるだとか、ケンカに負けるということが恐いんじゃないんだ。ただ単純に自分が人を傷つけてしまうってことが恐いんだ。僕にとっては殴るより殴られる方が何千倍もマシなことなのさ。
でも、僕もケンカをすれば結構イイ線までいけると思うんだ。見てくれはひょろひょろのもやしだけど、こう見えて僕は運動神経がいい方なんだ。徒競走やマラソンでは簡単に上位に組み込めるし、部活でやってたテニスとサッカーでも県大会までいったしね。多分今もやり続けていたら、一角の選手になっていたんじゃないかな。だから僕もやろうと思えばそこそこいけるはずなんだ。ただ問題は気分なんだ。やっぱり僕は人を殴る気分にはどうしてもなれないんだ。

とにかく、その女は僕に話しかけてきた。君はその女が僕に向かって艶かしい言葉をかけてくるところを想像したのかい?残念ながら、そうはいかなかった。例えそうであったとしても、無気力な女なんかには何の魅力も感じなかっただろうけどね。その女は僕に向かってこう言った。「ラストオーダーなんですが、何か注文はございますか?」ってね。
「ラストオーダー?」僕は間抜け面をしながら聞き返した。
「はい、今日は22時で閉店なので・・・。」
その言葉を聞いた途端、果てしなく気が滅入ってきた。だってこの店に入って、まだ10分と経ってないんだぜ。それなのに、もう店から出てけなんて。これは本当に気が滅入った。まるで世界が僕に対して謀反を起こしているような気分だった。もうその頃の僕にとって世界は敵だったんだ。僕は彼女をつっけんどんに追い払った。そして、スティーヴ・ライヒのヴァイオリン・フェイズを聞きながら、僕はバーボンを一気に喉に流し込んだ。そうして僕は席を立ち、敢然とドアの外に向かって歩き出した。代金を払いもせずに。多分カフェの店員は僕がトイレに行ったと思ったんじゃないかな。誰も僕の行動を制止しようとしなかったしね。でも残念ながら僕はトイレには行かなかった。僕がしたことといえば、そのまま外に出て、家に帰ったってことだけじゃないかな。だってさ、こんな酷い仕打ちを受けて、お金を払えだなんて、まるきりお笑い種じゃないか。だから僕はお金をわざわざ払う気分にはなれなかったんだ。やっぱり何かをするに当たっては気分が大切なんだよ。分かるだろ?


以上が昨日の僕の身に起きた本当の話だ。本当はもっと書くべきことが一杯あるのだと思う。その後インチキ集団に絡まれただとか、くそったれの警察の豚共に絡まれただとかね。でも今はそういうのを書く気分じゃないんだ。分かるだろ?それにもう紙面も残り僅かだしね。書きたくても書けないんだ。

あっ、そうそう。明日は友達のパーマーがドライブに連れてってくれるんだ。何でも美味しい紅茶の店を見つけたらしくてね。僕とパーマーは二人とも紅茶には目がないんだ。だから今はそれを糧にして結構楽しく生きていられる。先生もリハビリにはちょうどいいんじゃないかっていってるしね。

あっ、これは書いとかなくちゃかな。実は僕、今、入院しているんだ。あの後、風邪でぶっ倒れちまってね。そのまま救急車に運ばれて即入院。入院先の病院が精神科だってのが、全く笑っちゃうところなんだけど。昨日起きたことを警察に話したら、いつのまにかこんな所に連れてこられちまってね。全く大した奴らだよ。僕のことを屁とも思っちゃいない。

ここだけの話、君にいっとくぜ。人には自分の本当の気持ちを話さない方がいいぜ。話したら、いつの間にか狂人扱いされちまうからね。警察はどうしようもないくらいくそったれな奴らだったけど、一つだけ役に立ってくれてた。それが今、君に話したことだ。彼らはその事を教えてくれた。

とにかく、僕の話はこれでお終い。またこの続きを書くかもしれないけど、余り期待しないほうがいいぜ。多分、もうそういう気分にはなれないだろうからな。

とにかく、ここまで読んでくれたくそったれな読者には感謝するよ。それじゃあな。

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