「茶道の心を味わう研究会」mixiコミュの◆茶道の心、禅の心　その２

　　　茶道における根源的違和感…ヤフー知恵袋からの質問への回答

　多くの茶人が指摘している茶道の「根源的な違和感」として上げている課題は、①堅苦しく、難しく、敷居が高い／現象的には、流儀の好みの規制・自由度の欠如、師匠の選択・変更の自由度の欠如、②習得への高額負担とその根拠の不明さ、またその反面茶道教授では職業として成立たず、自己負担が大きく茶道の伝搬が難しい、③茶道を実践する場（住居への和室、床の間、襖等の設置）の急減の３点です。
　
　まず①ですが、茶道本来の願い（なぜ茶道が存在するのか）が茶道の場から欠如していることに問題があります。その根本を理解、実践できれば課題がより鮮明に見えてきます。

　その折々の茶席のメインテーマは床の間の掛軸の言葉に顕されています。そのことはどんな茶人も忘れてはいないので、茶席に入ればまず床の間の前でそのメインテーマが何かを敬拝します。ところが、高度の宗匠を含めて殆どの師匠が会得できていません（言葉の真意を理解できていない）。これが一番の違和感です。
　
例えば「海雲山月情」という言葉、席主は「自然が美しい時節になったのでこの掛軸を掛けました」などと説明します。しかしこの言葉は先頭の2字が隠されており、「話尽（話し尽くす）山雲海月情」で、今日のこの席では、「道具のえり好み、形式的な所作など忘れて、意図や作意のない大自然のあるがままの根源のように、茶席の安らぎを主客お話しして安らぎましょう」という意味が本来のものです。席主はきちんとお客様をもてなしますが、心の安らぎが本当の願いであるとするならば、堅苦しい規制よりも安らぎが優先されるのです。

　　高度な茶人と言われる明治、大正の茶人は流儀の好みなどには拘泥していません。流儀の好みはそれに従っていけば、一定のそぐわしい見本を提示しているので、その見本のまとまりや安らぎの表現を我々が学ぶことができ、そのための教材になります。考え方を見習うことが大切で、真似することが答えではありません。しかし、自分が一定水準に到達し、全般の考え方を会得するまでは、踏襲し、師匠も安易に変えないことがベターなのです。

　また、所作を反復踏襲することで、その所作をこうしようと考えなくても手が覚えていて自然に動けるようになります。その結果、所作をすることが脳を働かせずに、ストレスにならないようにできるのです。
　茶道の所作は合理的という人もいますが、それは適切な把握ではなく、不要な部分をすべて省略しているので合理的に見えるだけです。例えば人前でお点前するなど、点茶には余分な所作であり、美味しいお茶なら厨房で点ててもできます。しかし主客の対話によって、茶道の場は安らぎの場になります。社会の所作は合理性、効率性を追求しており、それこそがストレスです。茶道は点茶には無駄な所作をしたり、余分な時間を掛けますが、そこに安らぎが付加されるためです。それこそが茶道の一番の願い、これを根源として考えれば、各種の違和感が解消できます。

　②高額負担のことです。かつて外国政府の要人グループが初来日し、日本の受入側では日本趣味を味わってもらおうとしたので、視察のあと和食料理屋にある茶室での呈茶を提案しました。

　ところが料理屋の呈茶の見積りが１服が３千円、受入側の責任者は「珈琲は1杯500円なのに抹茶は高すぎる」と却下になりました。そこで止む無く早朝のホテルへの出迎えにいく時から大荷物の点茶道具一式を持参し、私が教室の生徒をその料亭に行かせ、呈茶しました。私がやれば抹茶代とお菓子代だけ、人件費も道具使用料も無料です。

　しかし、料亭側では、それだけの要人なら名品道具を揃えた呈茶を企画していました。30万円の茶碗を使い（この程度では名品にななりませんが）、一生で１０回使えば、一回当り３万円を償却しなければなりません。10個名品を使えば必要な償却費は30万円です。

　茶会の場合、茶券は７千円～１万円というところでしょうが、この程度では席主は自己負担が大きく、償却費も出せないでしょう。茶道稽古も同じです。３千円、５千円の安物茶碗では生徒に美意識を伝授することが難しく、先生は大きな自己負担をしているのが現状です。

　支部の役員になったら支部長へ20万円上納、ちょっと高いようですが、そうやって上位の先生はあの手この手で回収しようとしています。費用負担の詳細、かつ真実の開示が求められるでしょう。先生が無謀に取っていると感じる生徒も少なくありませんが、生徒側の理解も必要でしょう。その為には社中の一番弟子が問答無用ではなく適切な情報を理解し、社中の方々に提供、伝達する必要があります。

　③茶道を実践する場の確保ですが、茶道流派では内内での顕彰は、茶道文化賞とか出していますが、十職だけでなく一般の建築設計、建売住宅メーカー、造園屋、茶道具製作者などへの支援こそ必要です。長年続く日本の不況、茶道人口の急減などによって、茶道具製作の場が縮小しています。家元箱書きを重視して高額化することも需要を縮小させている原因の一つです。

　私のところへは、高岡の銅製品製作者、輪島塗の蒔絵製品扱い問屋から助け舟を求める声が来ています。釡の蓋の修理を山形に出したら、扱ってくれたのは日本橋三越で個展をやっているような銅製品の一流作家でした。

　しましまだ、床の間を創ることで、設置増加分の倍くらいで建築費や住宅費を見積り加算することが可能と関係者は言っています。床の間の大切さはまだ日本人に現存しています。建築士が一般人に床の間づくりを勧めることが求められますが、こうした茶道を支える周囲への配慮も茶道流派の家元には求められます。

　今年は白隠禅師が亡くなって250年の節目になります。禅は形式化し、京都、大阪では茶道は上流階級の嗜みになっていましたが、それを一般人に広めたのが白隠です。現存する江戸時代の禅墨蹟掛軸の９割は白隠禅師の弟子達以後の揮毫です。白隠禅師の弟子斯経禅師は我が国最初の茶道の心に集約した茶事訣を著しました。

　茶道をやらない一般人も、床の間を作って禅僧の掛軸を掛けました。一部屋しかない貧しい町人でも、壁床、吊床で掛ける場所を設け、今週の、今月の生き方や思いや心身の安らぎを掛軸の言葉（山雲海月情や今日是好日等々）で願うようになりました。

　米国では禅は宗教ではなく、倫理や心理学だと考え、キリスト教信者も禅を学んでいます。アップル社のジョブズ氏もそうでした。今年５月に日本であった世界で最初の禅学国際学会で「（禅が宗教であるなら）宗教では米国人学者が、世界唯一、茶道や日本文化や住宅に影響を与えたのは禅である」と発表しました。白隠禅は日本人の思いやり意識、財物に拘らない生き方を再度復活させました。茶道は一番の禅の受用体系でした。

　目に見える部分から、こうした根源に戻って我々も対応し、支援する必要があります。「茶道の心教室」「舒雲会茶道教室」なども運営しています、検索戴ければ、根源的な茶道の願いについて書いていますので、参考にして下さい。