腎細胞がんのケース。この大部分はかつてhypernephro m aとかGrawitz tu m orとか呼ばれたもので、第3染色体3p25.3に位置するVHLというがん抑制遺伝子の遺伝子異常が関係している。先天的にこれが異常だとvon Hippel-Lindau症候群として、小脳や網膜のhe m angioblaso m aを伴い、家系的に発症する。しかし大部分の症例は散発例で、VHL遺伝子異常は環境因子により蓄積された結果として生じる。臨床的に4c m 以上を悪性として扱い、それ未満を良性として扱うのは、そのためである。
しかし、この場合も、まったく環境が異なるレシピエントに移植してやれば、VHL遺伝子の変化はそれ以上進行せず、残っていた微小癌はレシピエントのNatural Killer Cellの攻撃対象となり消滅すると考えられる。なぜなら、拒絶反応を抑えるのに用いられるサイクロスポリンなどの免疫抑制剤は、胸腺由来 T 細胞やB2細胞は抑制するが、NK/ T -Cell系は抑制しないからである。
尿管の移行上皮癌(urothelial carcino m a)の場合は、第9染色体9p21にあるp16INK4aというがん抑制遺伝子と、第17染色体17p13.1にある別のがん抑制遺伝子p53の異常とが関係している。P53はアポトーシスの誘導スイッチであり、これが壊れないとp16INK4aの異常だけでは発癌しない。すると、この場合も、癌部分を除いた上部尿管をもつ腎臓を、他のレシピエントに移植してやれば、carcinogenesis stepはそこで停止する可能性がある。もちろんレシピエントのNK/ T 細胞システムは正常に作動しているから、ドナー尿管の微小癌は殺してしまうのであろう。