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〜小説投稿コミュ〜コミュのどうせダメだし (ダム☆スカ・16)

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(登場人物)
池田広重(イケダ・ヒロシゲ) 旧姓・松本。早くに実父を亡くし、母親が再婚して池田に。
大沢一樹(オオサワ・カズキ) シゲの幼なじみ。しっかり者。
大沢美樹(オオサワ・ミキ) 一樹の姉。ギャル。
新條烈(シンジョウ・レツ) シゲの兄・広臣(ヒロオミ)の同級生。やんちゃ者。
新條さくら(シンジョウ・サクラ) 烈の妹。色っぽくて可愛い。
只野世界(タダノ・セカイ) 池田や一樹と同学年。人気俳優、戸田舜希(トダ・シュンキ)に似ている。


『ダム☆スカ』(池田side:4)


「コップ出して」
「ん」

一樹に言われて、俺は台所の戸棚を勝手に開けた。
入学式のあと、うちの母ちゃんと一樹の母ちゃんは、せっかくだからと街へ繰り出した。
俺らは親と一緒に行動するっつうのがどうにもこそばゆかったから、無理やり校門前で別れて一足先に一樹の家に帰った。

「でもさぁ、オミくん達の間でもウワサだったなんて、さくらちゃんて有名人だよなー」

一樹がそう言いながらコップに牛乳を注ぐ。

「俺は一樹がさくらさんとあんなに仲いいってほうに驚いたって」
「言ってなかったっけ?さくらちゃんの父ちゃんがうち来て、親父と週末よく飲んでたんだよ。で、日曜のあさ烈くんが店番手伝わされて、さくらちゃんがうちにおじさん迎えに来んの。だからよく喋っててさ。まぁ姉貴のほうが全然仲いいけど―あ」
「なに?」
「冷凍ピザ食おうと思ってたのに、あと1枚しかなかった」
「ああ、俺なんか作ろっか?」

どのみちピザだけじゃ足んなくね?
そう思って言ったら、一樹の目がパアッと輝いた。

「おまえさ、ほんと凄ぇよなぁ!」
「は?別にふつうだろ。冷蔵庫みして。お、焼きそばあんじゃん」
「ふつうって言うな。それじゃピザあっためてるだけの俺はどうなるんだよ」
「おまえは勉強出来んだからいいだろ。俺だってやってくれるひといねーから出来るようになっちゃっただけだって」
「もう料理人になっちゃえば?」
「焼きそばで?」

バーカ、なれねぇよ。
アホなこと言って笑いながら手ぇ動かしてたら、我ながらけっこーうまく出来て嬉しかった。
コツは粉末ソースじゃなくて、塩こしょうとオイスターソースで味付けすることね。(あったから勝手に使っちゃったけど、いいよな?)

俺はほとんどすべてにおいて一樹よりも劣ってるって事を、ちゃんと知ってる。
だからこうやって何かひとつでも一樹に「凄ぇ」って言ってもらえるもんがあるのは、やっぱり嬉しい。

「これだけ洗っとくから、先にメシ運んどいて」

俺が中華なべに水を張りながら言うと、一樹は

「おー、なんか母ちゃんみてぇ」

と笑った。
…それはあんまり嬉しくなかった。



「おまえは友達を選びすぎてる」
「え、だってつまんねぇやつなんかと一緒にいたって、しょーがなくね?」

焼きそば食い終わったらなぜか一樹の説教が始まり、俺はむっとしてブーたれた。

「だからなんでそう、つまんねぇやつとかって、勝手に決めつけるんだよ」
「…だって、他の誰と遊んでみたって、一樹といる方が楽しいんだもん」
「…ってごまかしてんじゃねぇよ!」
「なっ、ごまかしてねぇよ!まじで兄ちゃん並みに凄いやつなんて、一樹とか米本とかほんのちょっとしかいねぇんだもん」

「はぁ?!なんでそこでオミくんが基準なんだよ」
「だって、追いつくの無理ならせめて近づきたいし」
「…只野のことはめずらしく気に入ったんだろ?なんで?」
「…だって俺、兄ちゃんよりカッコいいやつなんて生まれてはじめて見たんだもん」
「…」

喋れば喋るほど、ハマってってる気はしてたんだ。
もはや返事もしてくれなくなった一樹は、まるでかわいそうなやつを見るような、同情と哀れみでいっぱいの目を俺に向けた。
それ見たら、なんかこっちまで哀しくなってきちゃって「俺ってどんだけイタイやつなんだろう」と、渋々認めるしかなかった。


夢がよみがえる。
俺は飛んでいた。
たとえ地上10センチでも、俺は夢の中で足をついてしまわずに、飛ぶ方を選んでいた。
きっと無意識で、俺は意地でも飛んでいたかったんだ。背伸びしてたいんだよ。
いまの俺なんかキライだ。
もっと高いとこ飛んでるやつ目指して、もっと先のほう行ってるやつだけを見ながら走ってたいのは、そんなにダメな事なの?

もういいじゃん。
劣ってる俺が優れてるやつに憧れて、せめて見つめてるのくらいは許してよ。
もともと追いつけやしないって事、ちゃんと分かってんだからさ。
兄ちゃんや一樹たちに憧れながら、俺は俺なりに焼きそば職人にでもなるよ。


「米本がそんなによかったか??あいつは確かに帰国子女で英語ペラペラだったけど、なんか性格面倒くさくて付き合いづらかったじゃん。大体あいつ怒らしちゃったせいで、おまえ小5んときハブられたんだろ」
「うー…一樹にも迷惑かけちゃったもんな。あれは俺が悪かったよ、ホントごめん」
「べつに謝らせたくてむし返してるわけじゃねぇよ」

米本は小4の秋に来た転校生で、「エンジェル」を「アエンゲー」とか言っちゃうガイジン並みの発音できるやつで、パソコンにも慣れてて、アメリカの友達とチャットしちゃうようなスーパー小学生だった。
俺は一樹が塾行き始めてとにかくさびしかったから、頑張って近づいて、米本んちで遊べるくらいには仲良くなった。
すげーデカくてきれいなマンションで、英語の歌のCDとかいっぱいあってカッコいい家だったよ。

けど母ちゃんの再婚が決まった時はさすがに、ビミョーな事情も全部知ってる一樹の方が話しやすくて、一樹が忙しいの分かってたんだけど、俺はいろいろ聞いてもらってたんだ。
そういうハンパな態度がいけなかったんだろうね。
「池田」呼びに慣れなくて、結果うっかりシカトとかしちゃってた俺を、最初に「生意気だ」って言い出したのは、どうやら米本だったらしくて。(あとで一樹に聞いた)
それを庇ってくれた一樹が今度はハブられちゃって、小5の前期は散々だった。
まぁ、後期にはすぐに治まったんだけど。
あの頃は南小そのものが荒れてて、誰かしら順番にいじめられてる感じだったからね。

それでも米本とつきあうのを止めなかった俺に、一樹は

「おまえ、バカ??」

とあきれ果てた声で言った。
けっきょく6年になったら米本も塾行きだして、俺は一樹つながりの友達にかまってもらったりで、小学校卒業までをなんとか乗り切った。

私立中行った米本とは、卒業式以降は連絡とってない。
俺はケータイも、パソコンの自分用アドレスもまだ持ってないし。
なんか神経質で一緒にいて疲れるとこはあったけど、米本のこと好きか嫌いかっつったら、めちゃくちゃ好きだったよ。
俺よりもうんと頭よくて、機械にも強くて、なんかがっしりしてたし。
元気でやってるといいな。
俺なんかに心配されなくたって、ふつうに元気なんだろうけど。


「おまえのさ、そうやって良くも悪くも目立つやつ以外を、勝手にその他大勢あつかいにして、つまんねぇって決めつけてる態度ね、何ていうか知ってる?」

一樹がヤなとこ突いてきた。

「…知んねーよ」
「傲慢。別の言い方するとクソ生意気」
「うっせ!」

基本さっぱりしててつきあいやすい性格のはずの一樹が、今日はやけにつっかかってくる。
いや、どう考えてもこれは一樹からのありがたい忠告で、アホな俺が図星つかれて逆ギレしてる状態だってのは、本当は自分でもよく分かってんだけど、だからこそ余計に「ありがとう」なんて素直に言えるはずもなく。

「おまえってさ、勉強とかでも人に聞くの苦手だろ。そういうのって全部しょーもない見栄なんだよ。騙されたと思って、いっぺん等身大になってみ?そっから見えるものって案外いい景色よ?」
「そんなん知ってるって」

ウソつけよ。
またくだらない意地はって知ったかぶりしちゃった俺を、不信感ありありの一樹の目が追い詰める。
あーもうむかつく!
一樹が正しくてむかつく、俺の100万倍正しくてむかつく、そんな事にまで腹立ててる、俺の心が狭すぎてむかつく!
どうしよう、せっかく一樹んち遊びに来てんのに、このままじゃケンカ突入だよ。
俺がどんどん険悪になってく(つうか俺が勝手に悪くしてる)空気に泣きたくなってた時だった―


「ちょっと一樹!台所汚さないでよね?!」

ノックとほぼ同時に勢いよく開いたドアの向こうには、一樹の姉ちゃんが鬼のような形相で立っていた。

「わっ、すいません!!」

真犯人の俺は思わず手の甲で顔隠しながら、真っ先に謝った。

「えっ、やだ、シゲちゃん来てたの??」

とたんに3割増高くなった声につられて顔を上げると、一樹の姉ちゃんは襟ぐり開きすぎてて肩からずり落ちたTシャツを、引っぱり上げてるところだった。
マリーのタオルを首にかけ、まだ濡れてる茶髪を耳の後ろに流す姿は、どう見ても風呂あがり。眉毛、薄っ!

「姉貴!いきなり入ってくんなよ。つうかいつ帰ってきたんだよ、しかも風呂入ってるし」

一樹が心底イヤそうな顔で言った。

「今日ばーちゃん歌舞伎観に行ってんでしょ。じーちゃんもどうせ区民センターの将棋だろうし、だからチャンスだと思ってさっき服取りに来たとこ。ねぇ、なんで母さんいないの?」
「入学式だよ。ついでにシゲの母ちゃんと昼メシ食ってくるって」
「なんであんた達、一緒に行かないの?」
「いい年して母親と外でメシなんか行けるかよ。しかも入学式帰りに」
「ぷぷっ、シゲちゃんの前だからってカッコつけちゃって」

なんだ、一樹も俺と一緒なんじゃん。
俺は思わずつられて吹き出しそうになり、あわててこらえた。

「もー用済んだんなら行けよ!つか姉貴がうち帰って来ねーせいで親父が荒れてて、俺や母ちゃん超迷惑なんだけど!!」
「親父が荒れてるから帰って来れないんですけど。てかさぁ、ばーちゃんと里子ババアがタッグ組んで母さん責めるの、まじ止めてほしいんだけど。アレのせいであたしこの家居づらいし」
「だったら姉貴が庇ってやれよ。母ちゃんひとりでかわいそうだろ」
「だからあたしが庇うと、あのクソ親父がキレてよけい大変になるんじゃん」
「…」

なんか修羅場な日常がうかがえて、俺は気配を消して黙ってるしかなかった。

「とにかく台所の油はねだけ何とかしといてよ。アレうっかりばーちゃんと里子ババアが先に見つけちゃったら、また母さんが嫌味言われちゃうでしょ」
「あっ、すいません!俺勝手にコンロ使っちゃって…すぐ拭いときます」

あわてて空気から人間に戻って謝る俺。
まだ小っちゃかった頃は「美樹ちゃん」なんつって、名前で呼びながらふつうに遊んでた気がするのに、いまとなってはタメ口で話すことさえためらわれた。
みるみる濃くなるギャルメイクや髪型、服装、そういうものが原因かと思ってたけど、風呂あがりの薄い顔相手でもつい敬語使っちゃうってことは、もっと違う理由なんだろうな。
つうか、あの、そのルームパンツの生地、妙にお尻のラインに沿ってて生々しすぎないっすか??


「姉貴さぁ、まじめにどこ泊まってんだよ」
「えー、友達んちだってば」
「お、男の家じゃねぇだろうな?!」
「ぶっ!」

コンロ拭いてた俺は、一樹の言葉に洗剤液つけたフキンをあやうく落っことしそうになった。

「関係ないでしょ。ちゃんとしてるから全然へいきだし」

ゴトン!
今度は一樹の手から洗ってたコップがシンクに滑り落ちた。
なにがちゃんとしてるから、どう全然へいきなのか、めちゃくちゃ気になるけど、とても聞ける状況じゃなかった。

「そうだ!ねぇ、あんた達今日さくらに会ったんだって?さっきメール来たんだけど、さくらの男もいたんでしょ。見た?ほんとにトダシュン並みのカッコいい子なの?」

爆弾発言につられて振り返ると、一樹の姉ちゃんは化粧の途中で眉毛と目が半分出来たところだった。
あまりの豹変ぶりに思わずポカーンとしちゃった俺。
なんか顔の肌の色まで濃くなってんですけど!

「へっ?只野は友達なんじゃねぇの?さくらちゃん、俺にはそう言ってたけど」
「あ、そうなん?じゃあ狙ってるだけなのかもね。なんか超いい子だから付き合っちゃおうかなーとか、あたしには言ってたけど。さくらも誤解されやすいっつうか、あの子が中1の時、烈の友達が区民センターの前でダンスの練習してるとこ見てたら、なぜか学校では輪姦されてたとかウワサになっちゃったみたいで、かわいそうだったよ」
「烈が怒り狂って1年の教室に乗り込もうとしたらしいけど、さくらが必死で止めたって。そりゃそうだよねぇ。兄貴にそんな理由で教室乗り込まれた日には、クラスの居場所なくなるって」

姉弟の会話を聞いてる間にも、一樹の姉ちゃんの目は次々と装着されるマスカラ(だっけ?)やつけまつ毛、それに慣れた手つきで描かれたグラデーションによりすでに2倍のデカさになっていた。

「まわすって…ひでぇな。けどすぐ付き合うとか、そっちの方向いっちゃうからゴチャゴチャすんじゃねぇの?姉貴も前にうちの玄関先で男と修羅場やってたろ。俺部屋から聞こえちゃってすっげぇいたたまれなかったんだからな!夏で窓開いてたから、あれたぶん親父たちにも聞こえてたぞ」
「げー、最悪」
「最悪はこっちだっての!」

姉弟の言い争いを一時停止させ、一樹の姉ちゃんは口紅を何種類か重ねてつけたあと、会話を再開させた。

「だって男ってずるいんだもん。なんかヤッたりそういうときだけ女呼ぶくせに、一番楽しそうなことはぜんぶ男同士で盛り上がっちゃってさ。せめて彼女の座くらい手に入れて、ちょっとは輪の中にも入れてほしいってやっぱ思うじゃん。ダンスの練習見に行ってたさくらの気持ちも、あたしはなんとなく分かるよ」
「そ、そういうもんなの?」

俺は思わず敬語も忘れて聞いた。
一樹の姉ちゃんが語る女心に、クラスでキャーキャー騒いでた俺の知ってる女子の姿は、まったく重ならなかった。

「そうだよ。女はこっち見てほしくて必死なんだよ。うざがられたら哀しいからへいきなフリしてたってさ、抱かれるとき恐くない女なんていないんだから」
「…」
「ねーちゃん!頼むからこれ以上しゃべんな!!」

きょう何度目かの爆弾発言にフリーズした俺の真横で、一樹がギャーとテンパッた。
そ、そうだよな。家族のそういうエッチな話を…しかも自分の男友達が横で聞いてるって、ありえねぇ。
俺はいまの一樹の気持ちのほうが、なんとなく分かるよ。

一樹の姉ちゃんはそれを「ハイハイ」とかるくあしらいながら、ダイニングテーブルに広げていた化粧道具を片付けて立ち上がった。

「ばーちゃんと顔合わせんのヤだし、髪やったら消えるね。その靴なくなってたら、あたしが出かけたって事だから。メール入れとくけど、母さんには心配しないでって、カズからも言っといて」

いや、無理でしょ。
これで心配しない親がいたら見てみたいよ。
一樹の姉ちゃんが指した勝手口にあるヒールの高い靴と、着替える前より襟ぐり開いてるTシャツ(しかも背中モロ見え)や、短いデニムのスカートを交互に眺めながら俺は心ん中でつっこんだ。
一樹がイヤそうに

「いいから大人しく家に戻ってろよ」

引き止めるでもなくそうこぼすと

「カズだけのほうがこの家のみんなとうまくやれてるって」

と、一樹の姉ちゃんは罪な笑顔で言い残し、廊下へと消えた。


大人な一樹が好きだった。
クラスでもめ事が起こった時にも、それに呑み込まれてギャーギャーテンパるんじゃなくて、つねに冷静に全体をみながら、それが実はたいした問題じゃない事を知りつつも、あえて自分の意志で参加しているような。

俺は気分に流されやすいタイプだから、一樹のそういうところ本当に凄ぇなって憧れてて。
けど一樹がそこまで大人になれたのには、やっぱそれなりの理由があったんだろうな。
一樹と遊ぶのに慣れちゃったらさ、クラスの他のやつらが

「親が勉強しろってうるさくてウザい」

とか

「ゲームソフト欲しいのに買ってくんなくてむかつく」

とか、ひどい時は

「俺がキライなの知ってて晩メシにピーマン出すとかありえねぇ」

なんて言ってんの聞くと、「こいつらバカか??」って、もうつっこむのも面倒くさくなってくるんだよね。
俺でさえそうなんだから、一樹がそんなやつらのぬるいやりとりに混じって本気で楽しめてるなんて、とても信じられなかった。

でもね、もしかしたら―
ちょっとエラの張った顔をほころばせながら

「ピーマンうまいじゃん、俺ナスのほうがダメ」

なんつって笑ってたあん時の一樹は、本当にあの平和な会話を心から楽しんでいたのかも知れない。
さっき姉ちゃんに置いてかれて泣きそうだった一樹の表情を振り返り、俺はなんとなくそう思った。

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