ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

〜小説投稿コミュ〜コミュの新しいお父さん?!(ダム☆スカ・13)

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
(舞台)北小→南小へ

『ダム☆スカ』(池田side:1)


3つ年上の兄ちゃんがとにかく好きだった。
松本広臣と松本広重。
一文字しか違わない名前みたいに、ただ兄ちゃんみたいになりたかったんだ。

兄は昔から「オミくんはすごいわねー」と周り中の大人からほめられるようなひとだった。
頭がよくて運動もできるし、俺と違って背も高くて目も大きくてカッコいいしバレンタインデーのときなんか「やるよ」と言って女のひとが手作りしたチョコまでくれた。

当時小学4年生だった俺は、クラスの女子からもらったチョコなんて恥ずかしくて家族にも見せられずリュックの奥に隠していたのに、兄ちゃんはチョコもらうのなんかめずらしくもないってかんじで慣れててやっぱりすごいなぁって思った。

「えっ、いいの?」
「それ部活の女子からの義理だから」
「本命とかあるの?」

兄ちゃんはいたずらっぽくピースしながら

「今年は7個。すっげ多かった」

と得意そうに笑った。

すげーな兄ちゃん!!
目の前で英語の教科書広げる兄の姿はマンガやドラマに出てくる中学生みたいで、このひとの生きてる世界もきっとワクワクとドキドキに満ちているに違いないと、幼かった俺は確信していた。
や、いま考えるとそうとうアホなんだけど、いいんだよ俺まだ10才だったんだから!


「えー!こいつも?!」

兄ちゃんがどっか行こうとするたびに、俺は後をくっついて行きたがり、イヤがられていた。
だって4年になっていちばん仲いい一樹が塾に通い始めちゃったもんだから、超ヒマだったし。

「いいじゃないの、たまには連れてってあげたら。あんたお兄ちゃんでしょ」

母ちゃんは、最初はいつも俺の味方についてくれた。最初は。

「またそれ…だってこいつがいるとジャマなんだもん。今日は学校のやつらと渋谷行くんだよ」
「そう。だったらしょうがないわねぇ、シゲ。今日はあきらめて家で舞子と留守番してなさい」
「やだよ!俺も兄ちゃんの学校のともだちと渋谷行く!!」

兄ちゃんのいる外の世界は楽しいなにかに満ち溢れていると決めつけていた俺は、1コ下の舞子とこの変わり映えしない家の中に取り残される屈辱に耐えられなかった。

「ふざけんな、俺のつきあいにでしゃばってくんなよ」
「くんなよ」
「オミ!もー、舞子まで!」

叱ってくれてるはずの母ちゃんも、末っ子のモノマネにはこらえきれず吹きだして、しまいにはムッとしてたはずの兄ちゃんまでウケて超ゴキゲンになって、ついでに俺の頭を1回はたくと軽快な足取りで家を出て行った。

「シゲいつまで泣きそうな顔してんのよ。男のくせに情けな〜」
「うっせ!おまえはシゲって呼ぶなっつってんだろ!」
「だって他に呼び方ないじゃん。オミはそんな意地悪いわないのに…お母さん!」

すぐそうやって言いつけるし!

「シゲ!舞子に八つ当たりしないの」
「だってさ…」

うまく言い訳できない俺は、ふてくされて兄ちゃんと共同で使ってる洋間にこもった。
ゲーム機で遊びたかったけど、勝手にいじると兄ちゃん怒るしな。
あーあ、自分だけの部屋ほしいな。
兄ちゃんが最近そればっか言うから、俺までそう思うようになってきた。
小生意気な舞子は、女の子だからって理由だけで俺たちを差し置いて和室を使っていて(っつっても母ちゃんと共同だけど、母ちゃん昼間仕事でいないし)

「あれってずるくない?」

俺はぜったい賛成してもらうつもりで言ったのに、兄ちゃんは

「バーカ、舞子は女だからしょーがねぇだろ」

と取り合ってくれなかった。


俺が7才の時、父ちゃんはガンで亡くなった。
どんどん痩せていった最期の1ヶ月間は、お見舞いに行くのも恐かった。
平日は舞子と学童保育で過ごした。
舞子がすぐ泣くから、俺は他のみんなと遊べなくてすげぇイヤだった。

母ちゃんと兄ちゃんが夜遅い日は、母ちゃんの方のばあちゃんが来てくれた。

「あんた達くらいの子はこういう方が好きなんでしょう」

といつもコロッケやメンチカツなんかを買ってきてテーブルに並べた。
俺もたぶん舞子も、特にコロッケが好きってわけじゃなかったけど、他に食べたいものなんて思いつかなかったから、せっせと口に運んだ。

「ごちそうさま!」

そして逃げるようにテレビの前に陣取った。
母ちゃんと兄ちゃんが帰ってくると、声を落としてばあちゃんと話し込むのが耳の端に聞こえて胃のあたりがきゅーっとこわばった。

「オミもまだ5年生なんだから、そんなにしょっちゅう病院について行かなくても」
「俺が行きたいんだからいいんだよ」
「あの子達もまだ小さいんだから、保険の手続きだけはちゃんとしときなさいよ」
「お母さん!今その話はやめてよ」
「今のうちにきちんとしておかなくてどうするの」

保険の心配ばかりしていたばあちゃんは、父ちゃんが亡くなってからは母ちゃんの再婚の心配ばかりするようになった。

「いつもは何食べさせてるんだか」

とコロッケじゃなくて、煮物みたいなものをつくってよく持って来てくれるようになった。

「またこんなに散らかして」

と乾いた洗濯物をたたみアイロンをかけ、掃除機をかけ雑巾がけもして帰っていった。
ばあちゃんが抜き打ちで来て、汚いアパートを見られたときの母ちゃんはものすごくピリピリしていて恐かったから、俺たちは狭いアパートの中をきれいに保とうと一生けんめい手伝った。
母ちゃんはこれからも、ずっと頑張って4人で暮らしたいんだろうなと思ったから、俺も頑張った。
「自分だけの部屋がほしい」というのも、母ちゃんの前でだけはぜったいに口に出さなかったし、周りのやつらが山のようにカード集めてても自分だけのゲーム機持ってても、これもってなきゃ友達と遊ぶとき本当にやばいと思うまでは、ばあちゃんにねだるのだってがまんした。



だから小5の春、「会ってほしいひとがいるの」と目の高さを合わせて母ちゃんに言われたときは、本当にびっくりしてショックだった。


よく晴れた日曜日。
大混雑のディズニーランド。

「兄ちゃん、わざわざこんな所で会うのってヘンじゃない?」
「バカ、本気だからに決まってんじゃん」
「本気って?」
「だから、どんなやつと来たって楽しいに決まってるだろ、ディズニーランドなんて。俺たちの印象すこしでも良くしたいんだよ。母ちゃんも、あっちの…おとうさんもさ」
「おとうさん?!」
「再婚したらそうなるだろ」

入場待ちのゲートのざわめきでお互いの耳元へと話すのが面倒になったのか、兄ちゃんはそれきりそっぽを向いてしまった。
中学に入ってバスケを始めてから、兄の身長はますます伸びて俺との差はひらくばかりだった。
そのうえ舞子にまで身長抜かされたときは本当にへこんだ。

母ちゃんは

「お父さんが小柄だったからねぇ。シゲはお父さん似だもんね。そのつり目なんかそっくり」

と自分は二重のぱっちりした目をほころばせ、俺の頬をなでた。
だけどこれからは、他のおじさんが新しい「おとうさん」になるの?
母ちゃんと舞子のほうをみると、めかしこんだふたりは楽しそうに笑っていた。
舞子は、ばあちゃんに買ってもらったお気に入りのブランドもののパーカーを着て来た。
いつも

「すぐ小さくなるんだから、もっと普段から着なさいよ」

と母ちゃんに言われても

「もったいないからヤダ」

としまい込んであきれられていたやつだ。


順番がまわってきた。
母ちゃんが高い入場料を惜しげもなく払って、俺たちは鉄のバーをまわしてゲートをくぐった。
目の前に広がる大きな花壇と、その向こうへと続くにぎやかな夢の街。
本気だからに決まってんじゃん。
楽しくないわけないその光景に、心臓が破裂しそうだった。

「やだ!どうしよう、ない!」

舞子がすっとんきょうな声を上げた。

「キーホルダー、ここに付けてたのに」

水色のリュックを指差し、必死に訴える。
母ちゃんがはりきって結んだポニーテールが頭のてっぺんでピョンピョン揺れた。

「この人込みじゃどうしようもねぇんじゃん?」

兄ちゃんに言われ、半べそになりながら

「やだ、リサちゃんとおそろいで買ったのに、なくしちゃったらやばいよ」

と地べたを探しだした。
あーもう、そんな大事なもんならこんな所に付けてくんなよ。
母ちゃんと兄ちゃんは、顔を見合わせ肩をすくめると俺のほうを向いた。

「シゲ、ごめん。母さんお兄ちゃんと一緒に舞子のキーホルダー探すから、あんたここで待っててくれる?」
「は?!ひとりで??」

それはイヤだ。

「池田さんには母さんが電話しとくから。あんたの特徴言っとくから」
「俺も探すよ。池田さん達だけ待っててもらっときゃいいじゃん」

「池田さん」は、たしか高校生の息子とふたりで来るはずだった。
そんなところに俺ひとりでご対面なんて、ぜったいヤダ。

「せっかくわざわざ来てもらって、最初からそんなの悪いじゃない」
「シゲわがまま言うなよ。舞子だって探せば気がすむって。あいつのキゲン悪いまま会ったら気まずいじゃんか」

俺のキゲンはいいのかよ??
思いっきりムッとして抵抗したつもりだったのに、兄ちゃんに頭をはたかれ俺はあっさり置いて行かれた。


心細さに押しつぶされそうになりながら、花壇の前に立ち尽くす。
次々とゲートから入ってくる人の波をぼんやり眺めていると

「あ、もしかして!」

とおじさんと高校生らしい2人組が駆け寄ってきた。

「えっと、人違いだったらすみません。わたしは池田康治です」

クリーム色のジャケットに、セットされた髪。
初対面の大人とまともに会話する機会なんてめったにないから、俺はカチンコチンになってなんとかうなずいた。

「あぁ、すぐ会えてよかった…。ええと、ジーンズに紺色の長袖に白い半袖の重ね着。きみは…舞、子ちゃんじゃないよね?広重くんでいいのかな?」

おずおずと尋ねてくる人がよさそうなおっさんに、俺のテンションは一気に落ちた。

「…広重です」

後ろでグレーのパーカーを来た、髪の毛にボリュームだしてる高校生が頭を抱えた。

「親父、どう見たって男だろ。まぁ小柄な子だけどさ」
「いやでも!女の子を男の子に間違えるよりは…万が一ってこともあるし。ボーイッシュな子かも知れないだろ?あっ!広重くん、たいへん申し訳ない!失礼を言って本当にごめん!」

大人なのにガキの俺に必死にあやまってくれてる。
いいひとなんだろうな。それはわかる。わかるけど。

「…いえ、いいんです。気にしてません」

俺はものすごく根に持ちながら、心にもないウソをついた。


「池田さん!お待たせしちゃってすみません!!」

息を切らしながら母ちゃんが駆け寄って来た。
その後ろにはよそいきの顔した兄ちゃんと、ミニーのキーホルダーを握りしめた超ゴキゲンの舞子。

「いえ!こっちもいま着いたところで…あっ、きみが舞子ちゃん?」
「親父のやつ、広重くんと舞子ちゃんを間違えたんすよ。ありえないですよね」

池田さんの息子がパーカーのポケットに手を突っ込み、肩をすくめて笑った。

「あっ、そうだ!私ったらここで待ってる子と、キーホルダー落とした子がどっちかちゃんと言うの忘れてたから」
「母ちゃ…母さんケータイかけてるとき、すっげぇあせってたもんね」

兄ちゃんがポイント上げたいモード入ってるときの言葉遣い、「母さん」になった。

「私シゲと間違えられたの?!池田さん超失礼」
「ま、お互いそれだけ緊張してたってことかな?」

池田さんの息子がさわやかにまとめて、俺以外の全員が思いっきり笑った。
しょっぱなのハプニングで一気に打ち解けた俺以外のみんなは、アトラクションの3時間待ちにもメシ食う店の空席がなかなかみつからないのにもめげずに、自分のことを語り、相手の話に耳を傾け互いの体調を気遣いあい、いい場所をゆずりあっておおいにはしゃぎ、楽しんだ。

途中で俺のキゲンが悪いことに気づいた兄ちゃんは「ガキ」と何度も頭をはたいてきた。
日が暮れてパレードを見る頃には、調子のいい舞子が

「私、池田さんになら新しいお父さんになってもらっていいよ」

と、ちゃっかり隣に座り込んでニッコリ笑った。
それを見て母ちゃんは涙ぐみ、兄ちゃんは

「今日はまじ楽しいです」

とやわらかな声で言い、何も言わない俺の足を目立たないように蹴った。
池田さんの息子の准くんは

「俺も舞子ちゃんみたいなかわいい妹ができたら嬉しいよ」

とほほ笑んだ。
今度は池田さんが涙ぐんだ。

パレードが始まり、きらびやかな電飾とミッキーたちのダンスにみんな

「うわー、キレイ!」
「あっ、ドナルド!」

なんていちいち歓声を上げながら、手を叩いた。
楽しくないわけがない空間で、居場所がない俺の、池田さん親子への印象は最悪だった。


コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

〜小説投稿コミュ〜 更新情報

〜小説投稿コミュ〜のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。