ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

〜小説投稿コミュ〜コミュのあなたの責任 (ダム☆スカ・8)

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
(あらすじ)
学園もの。家庭の事情、ジェラシー、憧れ。途中いろいろありますが最後はハッピーエンドです!

(登場人物)
高岡江莉奈(タカオカ・エリナ) セカイの幼なじみ。美少女キッズモデル。
只野世界(タダノ・セカイ) 小6。クラスでハブられてしまった強気な男の子。
津田沼優子(ヅダヌマ・ユウコ) セカイの幼なじみ。医者の娘。
白瀬辰彦 (シラセ・タツヒコ) セカイの幼なじみ。お人よし。


『ダム☆スカ』(江莉奈side:1)


「きみのやりたいようにやりなさい」

1ヶ月ぶりに家に帰ってきたパパは、卑怯なくらい優しい顔をして言った。
ていうか本当に卑怯だと思う。
だってまともにママと向き合う気があったら、この家の惨状をみて優しい顔とかありえないもん。

家の中はひどかった。
リビングやカウンターキッチンの、ありとあらゆるテーブルや棚の上にはいつのかわからない請求書やダイレクトメールが山積み。
ソファにもスツールにも、ありとあらゆるイスの上にはたたんでない洗濯物が山積み。
床には何か月分もの雑誌や新聞が山積み。
台所には洗いものが山積み。
冷蔵庫にも、たぶん賞味期限切れの食品が山積み。
どこの山岳地帯ですか?って中で、私とママは雪崩と格闘しながら日々生活している。
生活?
まぁ、とりあえず食べて寝てはいるんだから、生活…してるんだよね?


「今日ママは?」
「エステだから10時くらいになると思う」

って、それがわかっててこのタイミングで来たんじゃないんですか?と皮肉りたくなるくらいパパが帰ってくる日はいつもママとニアミス。
そしてパパは、洗濯物の固まりを横のイスにどけて向かい合わせに2人分のスペースをつくり、私にも座るように勧めて私の目を見ながら

「きみのやりたいようにやりなさい」

とほほ笑む。
モデルもイヤだったらやめていいんだって。
初めて「自己責任」っていう言葉を知ったとき、虫酸が走るほどイヤだと思ったのはきっとこういう会話のせいだと思う。
「きみ」っていう呼びかけもイヤ。
尊重してるように見せかけといて、じつは冷たいよね。
私の人格、認めてくれてるってことなんですか?
そりゃどうも。
でもね、私、自分でも自分の人格ってよくわかんないんですよね。

外で「さすがモデルさん!可愛いよねぇ」って褒めてもらってる自分と、「モデルの割にたいしたことなくない?」って陰口叩かれてる自分。
優子や辰の前で赤ちゃんみたいに無防備になってる自分と、クラスのやつらの前でぜったいに傷付くもんかって、超硬いバリア張ってる自分。
その中でどれがコアの私かなんて、自分でもさっぱりわかんない。


ママが私をキッズモデルにしたのは、もう自分の管理もできなくなったあのひとがそれでも諦めきれず娘に自己投影した結果なんだって。
大好きだったママの方のおばあちゃんが、そう言って私の頭をなでてくれたのはもう3年も前。
ママのことで苦労し過ぎたのかずっと入退院をくり返してたおばあちゃんは、去年転んで膝を骨折してからは一気に弱ってそのまま冬に亡くなった。
パパの親族がお葬式に来なかったことで、ママは私の肩を痛いくらいに掴んで泣いた。

モデルの仕事のすべてがイヤってわけじゃない。
自分を綺麗にしてもらうのは単純に嬉しいし。
ただ学校でいろいろ言われたり、仕事でも陰でいろいろ言われたり、何よりふつうに遊んだり食べたり出来ないのはやっぱりつらいなぁって思う。

けどね。
じゃあモデルやめたら、つらくなくなるのかっていうと、この家の惨状みる限りそれも違うと思うんだよね。

そう気付けば、仕事してるときの刺激と緊張感だって、いい気分転換になってる気もするし。
いい仕上がりに関われたら、やっぱり嬉しいし。
こんなヘタレな私にだって、細々とはいえ7年間もやってることへのプライドくらいは一応あるよ。

なのにあの男、セカイは簡単に言ってくれちゃうんだよね。
「おまえモデルなんかやめたら?向いてねぇんじゃん」って。
バカか?!
そんな簡単な問題じゃないっつーの!


「もうちょっとこのままやってみる」

私は目の合わせようがないから、うつむいて期日切れの化粧品セールのおしらせハガキを見ながらそう答える。パパは

「わかった」

とほっとした声で言う。


「現状維持」って言葉もべつに好きじゃないけど、「自己責任」って言葉ほどイヤじゃない。
このままでいいとも思わないけど、ここまで問題が山積みになっちゃってるとへたに動かして雪崩がおきちゃうのも恐い。

私は基本バカだけど、バカでいることを望んでもいるのね。
いや、それじゃ本当は自分が頭いいって言ってるみたいだけど、ちがくて、もし私の頭が優子レベルでかしこかったとしても、私はあの子みたいに自分のまわりで起こる問題に対して冷静な分析と対処はできないな、っていうこと。

だって恐くない?

ママは略奪婚で、パパの親族からは超嫌われてて(いくら表向きは「綺麗なかたね」とか言ってたってそれくらいイヤでも伝わるよ)、情緒不安定で片付けられないひとだし、パパはパパで恋してないと生きられないひとみたいで、つねに恋っつうか浮気してるし。

なんかさ、冷静な分析なんて始めちゃったら「私は望まれて生まれてきた子なんだろうか」とか、そっちの方向にいっちゃいそうじゃない?
恐い恐い恐い。

いくらママの遺伝子で私もちょい頭おかしいからって、さすがに存在自体まで否定されたら生きてく自信がないから、自分のことは敢えて考えないようにしてる。
生い立ち不幸な子によくあるリストカットなんて始めちゃったら、モデルの仕事も出来なくなるしね。

セカイは違うんだよね。

ちっちゃい頃は誘われて、優子や辰といっしょに遊びに行ってたからよく知ってるけど只野家は本当にまともでいいおうち。
セカイのママは、心根のよさがそのまま外見にまで表れてるような美人で、私たちにも平等に優しかった。
晩ご飯ごちそうになったときの、セカイのパパのお話も気さくで面白かったし、ソラくんも無邪気にうちらの後くっついてきて超可愛かった。

そんな、出来すぎてて「ドラマかよ」ってつっこみたくなるくらい、あのおうちは幸せ家族。
まぁセカイのパパもリストラされたりでいろいろ大変だったみたいだけど、あんだけ愛情があれば他のことなんかどうだっていいじゃんね。
うちがいま貧乏じゃないから、そんな風に思うのかな?
ううん、ちがくて、きっとうちにいま愛情がないから、そんな風に思うんだよね。

だからあいつは、私みたいに敢えて考えないように―なんてことはしてなくて素でバカなんだと思う。
ってか、ちゃんと考えてテストで18点ってどんだけ?って話なんだけど、たとえそんなスケール違いのバカであっても、セカイのまっすぐさは、ねじれまくった私の目にさえまぶしく映った。

だってあんだけ陰湿にいじめられたら、ふつう心にバリア張るでしょ。
もうそれ以上傷付かないように、自分をだまして心を守ると思うのね。
なのにセカイは、嫌がらせされるたびに、毎回怒って傷付いてる。
同じクラスだからわかるんだ。
あいつ「ギャグかよ」ってくらいモロ顔にでるから。

そう、顔。
私やママが、せめてもの慰めのように一応美人レベルの顔立ちを与えられてるのとは違ってセカイの顔はゆるぎなく綺麗。
モデルの現場でもたまにいるんだよね。
すんごく可愛くて、しかもすんごく性格もよくて、もうキラッキラしてる子。

ずるいよ。
そんな沢山、いっぺんに持っててさ。

そんなキラキラくんに、まったく罪の自覚なく「モデルなんかやめたら?」って言われたら、そりゃいくらビビリでこう見えて友達には気を遣う私だって、イラッとしてキレるのは無理もないでしょ?


そんなわけでセカイにはむかつきっぱなしなんだけど、でもね、本気で嫌いじゃないの。
むしろ、もしも誰かがセカイのことを壊したら、私はそいつを一生許さない。
あの子の純粋さは、不純物だらけの生活を送ってる私にとっては貴重なうつくしさだから。
セカイにだけは、あのままでいてほしい。
きっと優子も辰もそう思ってるから、毎日あの面倒くさい男の世話やいてまで、あいつが自分で守ろうとしないむき出しのあいつの心を守ってるんだと思う。


「じゃ、元気でやりなさい」

弾まない会話にもイヤな顔ひとつせず、パパは穏やかに帰って行った。
笑いじわの刻まれた温和な顔立ち。
いつも身ぎれいにしているジャケットのうしろ姿。
ドアのカギを閉めて振り返ると、目に入るのはぐちゃぐちゃに散らかった部屋のすさんだ光景。

中学に上がったら、優子と辰とはバラバラかぁ。
それを想像すると不安で震えそうになるけど、私が「現状維持」をやめるのはセカイが壊れてからでも遅くないよねって、自分にそう言い聞かせる。
でも本当にセカイが壊れちゃったら、私はきっともう自分の心を守れないから、私が雪崩をおこしてまでこの生活を変えることは、きっと一生ないんだろうな。


コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

〜小説投稿コミュ〜 更新情報

〜小説投稿コミュ〜のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング