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〜小説投稿コミュ〜コミュのひとりで泣いた夜 (ダム☆スカ・4)

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(あらすじ)
学園もの。ハブ、家族との葛藤、友情。途中いろいろありますが最後はハッピーエンドです!

(登場人物)
津田沼優子(ヅダヌマ・ユウコ) セカイの幼なじみ。医者の娘。
只野世界(タダノ・セカイ) 小6。クラスでハブられてしまった強気な男の子。
高岡江莉奈(タカオカ・エリナ) セカイの幼なじみ。美少女キッズモデル。
白瀬辰彦 (シラセ・タツヒコ) セカイの幼なじみ。お人よし。


『ダム☆スカ』(優子side:1)


「あんなボロ雑巾みたいな女、どこがいいんだかなぁ」
「ちょっと、いまは私の患者なんだから口を慎んでくれる?」

父と母の会話から耳をうたがう言葉が出てきて、私は固まった。

夜中の1時すぎ。
両親の寝室の、少し開いたドアの向こうから漏れ聞こえる会話。
私の部屋はたいていキッチリとドアを閉めてあるし、この時間はふだん寝てるからふたりとも無防備になる。


最初は偶然だった。
塾の宿題が終わらなかったのと、トイレに行きたくなったのとで廊下に出たとき、夢中で話しているお父さんとお母さんの会話に気付いて、つい盗み聞きしてしまった。

「妊娠にはまいったよな。いま相田さんにやめられたら、受付まわらんよなぁ」
「やっぱり新婚さん入れたのは失敗だったね…でもしょうがない!急いで求人出さないと」
「相田さんがいる内に慣れてもらわなきゃならんしな。思いきっていつもの倍サイズで頼んでみるか?」
「んー…でも高い割に効果があるのか、いまいち判らなくない?」

クリニックの受付のお姉さんに子どもができて、辞めちゃうっていうことなのかな?
お金のこととか、大人の会話を聞いてる刺激にちょっとドキドキして、私は冬の廊下でからだが冷えてくしゃみが出そうになるまで、じっと耳をそばだてていた。


そしていまも。
私が寝付けなくて、両親が寝室のドアをピッタリ閉めていない条件が重なった日によくやるように私は廊下の少し離れた場所からふたりの会話を盗み聞きしていた。
うちのお父さんは小児科医で、お母さんは内科医(専門は心療内科)。
ふたりでやってるクリニックには、セカイや江莉奈や辰も来ていて、江莉奈のお母さんも不定期で通っている。
今日は江莉奈のお母さんの症状があんまりよくなかったみたいで、このさきアル中に進行しなきゃいいけど…という話になったところで、うちのお父さんは江莉奈のお母さんのことを「ボロ雑巾みたいな女」と言った。

「綺麗なひとじゃない、ちょっと主体性がないのが問題だけど。だって、そもそも高岡先生の方が執着してたんでしょう?」
「あいつの女ずきは病気だよ。美人なんてつくれるってこと、一番知ってるのは高岡先生本人だろうになぁ」

江莉奈のお父さんと、うちのお父さんとお母さんは同じ医大の同期生で、最初はみんな勤務医だった。
大学病院からそんなに離れていない駅に、当時建ったばかりのこのマンションを買ってからしばらくはたまにお互いの家を行き来してたみたい。
いまでもうちには、まだ赤ちゃんだった私と江莉奈を含めて6人で撮った写真が、飾りっぱなしでリビングに置いてある。


「高岡先生の浮気もストレスの原因みたい」
「自分だって同じ事やっといてよく言うよ。俺いまでも思うけど、あの妊娠はおそらく計画的だったね」
「他人からそう見られるのも彼女のストレスになってるの!あんまりポンポン言わないでよ」
「でもさ、高岡と出会った頃は睡眠薬服用しすぎて仕事もロクにできない状態で、いまはアルコールだろ?依存傾向のあるタイプは厄介だよな。依存の対象なんていくらでもあるんだから」

身体の側面にひとすじ流れ落ちてはじめて、わきの下にじっとり汗をかいていたことに気付いた。
手のひらも湿っぽい。
心臓がドクドクと大きく脈打っていた。


「母親は元愛人の略奪婚」


江莉奈への嫌がらせで回されてた紙に印字してあった言葉。
はじめて知ったときは「週刊誌の読み過ぎなんじゃないの?頭わるい」とバカにしていた。


「だいたい、かわいそうなのは子どもだよ」

お父さんの話の中に江莉奈のことが出てきて、ドキッとした。
お母さんが大きくうなづく時の口調で、「あー」と言った。

「だよねぇ…痩せろって言われたり、放っておかれたりで、混乱しちゃうよね。私、いっそ専門機関に行ってもらおうかと思うことあるもん。猛から高岡先生に言ってみたら?」
「娘を児童相談所に預けろって?言えるわけないだろ」
「そこまで言ってないでしょ。猛だって結局つよいことは言えないんじゃない。だったら香莉さんの悪口も私に言わないでよ。私だってイヤな気持ちになるんだから」

「わかったよ」というお父さんの言葉を最後まで聞き届けずに、私はそっと部屋に引き返し、音を立てないようにゆっくりとドアを閉めた。
ドキドキがおさまらず心臓が痛いほどだった。


「私、たける先生とさなえ先生の子どもだったらよかったなー。そしたら優子とも姉妹だしさ」
「え〜、じゃあどっちがお姉ちゃん?」
「そうだなぁ…わかった、双子!双子なら同い年のままでよくない?」
「えぇ〜、双子ぉ?」

他愛ないことではしゃいでいた光景が胸をよぎった。
江莉奈はうちのお父さんとお母さんのことが大好きで「優子のおうちの子になりたい」ってしょっちゅう言っていた。
あんまり言ってくるから面倒くさくなって、私の返事はいま考えると冷たすぎたかも知れない。


江莉奈は昔から、本当に綺麗な女の子だった。
少し垂れぎみのパッチリした瞳に、びっしり生えた上下のまつげ。
ハーフ?って聞きたくなるくらいだけど「ハーフだったらこんなに低い鼻してないよ〜」と本人が笑うように、鼻と口は小さめで、でもそれがまた可愛かった。

そうそう、笑顔がほんとうに可愛くて、ちょっと丸めのほっぺたにできるえくぼに見とれながら私や辰は「モデルの写真でもそんなふうに笑えばいいのに」なんて、よくわかってないくせに余計なアドバイスまでしてみたりした。
身近な友達が、みんなの憧れる世界と関わってるっていうことに、やっぱりどこかで得意になっていたんだと思う。


私はものごころついた頃には「勉強は沢山するもの」っていう風に育ってきたから、服なんてお母さんが買ってきたものを着るだけ、髪型なんてお母さんが行ってるのと同じ美容院でいつもおまかせ(そしておかっぱになる)、しかも近視でメガネかけてて、おまけに背まで低かった。
だから江莉奈みたいな可愛すぎる子に側に来られちゃうと、イヤでも差を見せつけられて少しうとましくもあったけど「友達なんて優子だけ!」と長い腕で抱き付かれまとわりつかれると、なんだかいい気分になって「やっぱり私この子好きだな」なんてゲンキンに喜んでいた。

それにね、5年になってクラスがえで、はじめて江莉奈と別れて気が付いたんだよね。
私にも、友達なんて江莉奈だけだったの。
いや、私は江莉奈ほど人見知りがひどくないから、やすみ時間に喋ったり教室移動で一緒に歩いてくれる子くらいはいるけど、いつも「〜してもらってる」って感じでどうしても気を遣っちゃう。
私と一緒にいてつまんなくないか、なんて事いっさい気にしないでリラックスできる相手っていうのは、やっぱり江莉奈しかいなかった。
あと男子も入れればセカイと辰ね。


ねぇ江莉奈。
あんたうちのお父さんとお母さんのこと、あんなに手放しで「大好き」って言ってくれてるけど、やっぱりあんたはうちの子じゃないんだよ。

児童相談所って、ニュースによく出てくる虐待されてアザだらけとか、ご飯も食べさせてもらえなくて骨と皮みたいになっちゃったとか、そういう子が保護されるところだと思ってたよ。
あんたはそんなつらい目にあってる子だったの?
あんたがそんなつらい目にあってるの、うちのお父さんとお母さんはずっと知ってたのに「結局つよいことは言えないんじゃない」なんてカンタンな言葉で、他人事みたいに済ませちゃってたの?

最近よく聴いてた女性アーティスト・琴葉(コトハ)の歌詞に

「信用できないひとたち」
「尊敬できない大人」

ってあるけど、これじゃうちの両親だって、あの詞のまんまじゃないのねぇ?


ごめんね…。


自分の部屋の中で、こんな風に心で謝ったってしょうがないのに、私は気付いたら
しゃくりあげながら、何度も江莉奈に「ごめんね」と謝っていた。

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