20世紀のテクノロジーの輝かしい歩みが、同時にオカルティックな「月の光」の波長をも内在していることを示す事例は、IT用語やSF的想像力の範疇にのみ見いだされる訳ではない。たとえば宇宙工学。NASA(アメリカ国立航空宇宙局)を生み出す母体となったカリフォルニア工科大学の共同設立者、ジャック・パーソンズは、月のクレーターにその名を残す偉大なロケット工学者であると同時に、アレイスター・クロウリーによって再編された東方テンプル騎士団(Ordo Templi Orientis)のカリフォルニア支部長でもあった。冷戦下の米ソ宇宙開発競争時代、NASAの研究室にはクロウリーのピンナップが誰によってともなく張られていたという逸話がある。サイケデリック革命を指揮したポップ・グル、ティモシー・リアリーは、LSDによる精神拡張から地球外移民とケミカルデザイニングによる知性増大というテーマに接続し、後にLSDをコンピュータに置き換えたサイバー革命を準備した。「言語はウィルスである」というオブセッションに没頭したカルト作家、ウィリアム・S・バロウズは、地球外から人類の脳に感染した言語ウィルスによるコントロールを撹乱するために、原稿を切り刻み、リアリティを再構成するカットアップ技法を編み出し、その文化遺伝子は神経言語プログラミングと呼ばれる心理療法や、DJミックスとサンプリングによる音楽、ヒップホップ/ハウスミュージックに受け継がれた。