□▲○ 中国・磁州窯展 用語解説 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
☆出光コレクションの中国陶磁蒐集
出光コレクションは、出光興産の創業者であり当館初代館長の出光佐三が明治３８（１９０５）年に蒐集を始め、その生涯をかけて蒐集した美術品の総称ですが、その中国陶磁部門は、戦前出光商会（当時）の事業が中国東北地に及んでいた頃、仕事の合間に心和まされた陶磁器を購入して帰ったことがきっかけとなり、蒐集が始まりました。その後、とくに戦後になって学識経験者の指導もあって、独自に中国陶磁史全般を展示できるまでに成長しています。
☆陶器と磁器
今回の磁州窯の作品である陶器（とうき）は、陶土（とうど）に施釉して１２００〜１２５０℃で焼成するもので、陶土と陶石（とうせき）を混ぜて施釉し１３００℃以上で焼成する磁器（じき）と区別されます。一般に磁器が薄手で鋭い器形であるのに対し、陶器は厚手で丸みのある器形になります。当館で一昨年・昨年に催したのが景徳鎮窯（けいとくちんよう）の作品による磁器展であったのに対し、今年は陶器展ですから、館内の雰囲気も大きく変わっています。
☆磁州窯発達の理由
磁州窯のある河北省南部は、燃料になる石炭とやきものの原料である陶土が、重なり合って埋蔵されています。井戸を掘ると原料と燃料が一緒に得られるのです。したがって比較的手軽にやきものが作れたので、唐代末頃からやきものが発達しました。饅頭型（まんとうがた）の石炭窯で大量に焼造されました。
☆民窯と官窯
中国陶磁を発達させた原動力の一つに、宮廷のためにだけ陶磁器を供給する官窯（かんよう）が設けられ、国家の力で高級陶磁器を作らせたことがありますが、磁州窯の作品は、陶器であるだけに器形は厚手で、鋭利な美しさと言うよりは、暖かみのある雰囲気が醸し出されます。そのため、官窯製品に取り上げられることはなく、終始産業としての窯−民窯（みんよう）であり続け、庶民の生活用具として支持され、庶民の需要に応えることを通じて発達しました。
☆磁州窯と磁州窯系
磁州窯の技術と意匠は、大きな人気を得て華北地方に拡がり、西は陝西省(せんせいしょう）から東は山東省（さんとうしょう）まで、数多くの窯で類似の作品が焼かれました。中心地である河北省南部の邯鄲市（かんたんし）にある磁県観台鎮（じけんかんだいちん）や彭城鎮（ほうじょうちん）のいわゆる磁州窯の作品と区別がつかないほどです。そのため、これらの窯をまとめて“磁州窯系の窯”と呼ぶことがあります。伝世品である当館の作品の窯も、“磁州窯系”と表記しています。
☆磁州窯独特の技法（１） −白土がけ
胎土に含まれる鉄分と石炭窯の酸化焔（さんかえん）のため、素地が純白にならない磁州窯では、白い器面を得るため、素地に白土を塗る“白土かけ化粧がけ）”が多用されます。これによって、比較的安価で一見白磁に近いやきものが庶民の間に普及したのです。白土がけは磁州窯発展のキーポイントとなりました。
☆磁州窯独特の技法（２） −“黒花”と“掻き落とし”
酸化鉄の色を覆い隠す白土の上には、反対に酸化鉄の黒色や褐色の顔料で文様が筆で描かれ（黒花、こっか）、その上に透明な釉薬（うわぐすり）をかけて焼かれるようになりました。これによってやきものの器面装飾が飛躍的に自由になり、景徳鎮の青花（せいか）、（染付、そめつけ）にも影響を与えたと言われます。さらに、白土や黒釉（こくゆう）・緑釉（りょくゆう）などを掻き落として文様を表す技法は磁州窯の真骨頂です。おりから宋代絵画の発達を受け、素朴な中にも、水墨画を思わせる優れた絵画的表現の文様が楽しめます。伝世の名品がその精華を見せてくれます。
☆陶枕（とうちん）
“邯鄲の夢”（かんたんのゆめ）の説話の地元であるためかどうかはわかりませんが、磁州窯の作品には陶枕が目を引きます。陶枕は、かつては棺に入れるものと我が国で誤解されていたこともありましたが、本来実用品で、やや硬いものの“頭寒足熱”の摂理にも合致してなかなか寝心地がいいと言われます。吉祥や夢見の良さを求めた文様や器形が楽しめます。ちなみに、本展ポスターや図録表紙に使用した陶枕は、掻き落としの鵲（かささぎ）文ですが、鵲は良い夢を運んでくる鳥であると考えられているそうです。庶民の願いが込められた陶枕は、磁州窯の象徴と言えるでしょう。
３．□▲○ 中国・磁州窯展 出品作品解説 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
＊白地黒掻落牡丹文梅瓶（しろじくろかきおとしぼたんもんめいぴん）
北宋時代 Ｈ：４０．２ｃｍ 永青文庫蔵 重要文化財
宋磁独特のすっきりとした器形に、牡丹の折枝文が浮かぶ、白地黒掻落の傑作と言われる名品です。全体に塗った鉄絵の具を掻き落として表される、菱形にまとめられた牡丹文とその配置には、きわめて優れたバランス感覚が感じられます。広い余白部分も丹念に掻き落として表されたもので、技巧の素晴らしさを物語っています。
＊白地黒掻落龍文梅瓶（しろじくろかきおとしりゅうもんめいぴん）
北宋時代 Ｈ：４０．５ｃｍ 白鶴美術館蔵 重要文化財
永青文庫の白地黒掻落牡丹文梅瓶の静かな牡丹文を、そっくり躍動的な龍に入れ替えたかのような梅瓶です。迫力満点の龍の目・口・脚は立体感があり、丹念な鱗や背びれの表現とともに、画工の高度な技量が示されています。龍の尾は二股に分かれ、後脚は退化したかのように巻いています。当館には１９７６年と８４年の「白鶴美術館名品展」以来３回目の出品をいただきました。
＊緑釉白地黒掻落牡丹文長頸瓶
（りょくゆうしろじくろかきおとしぼたんもんちょうけいへい）
北宋時代 Ｈ：３５．０ｃｍ 大阪市立東洋陶磁美術館蔵 重要文化財
白地黒掻落を施して焼き上げた後、さらに低火度の緑釉を掛けた尊形の長頸瓶です。骨太などっしりとした器形で、口緑部や肩部が十分に拡がり、その結果幅ができた器面の前後に、上下いっぱいに配した掻落の折枝牡丹文も、力強い印象を与えます。富貴の象徴である牡丹文を淡い色調の緑釉が包み込み、宋磁の落ち着いた雰囲気を醸し出しています。
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の向かって左と真中の写真を参考にして下さい
☆出光コレクションの中国陶磁蒐集
出光コレクションは、出光興産の創業者であり当館初代館長の出光佐三が明治３８（１９０５）年に蒐集を始め、その生涯をかけて蒐集した美術品の総称ですが、その中国陶磁部門は、戦前出光商会（当時）の事業が中国東北地に及んでいた頃、仕事の合間に心和まされた陶磁器を購入して帰ったことがきっかけとなり、蒐集が始まりました。その後、とくに戦後になって学識経験者の指導もあって、独自に中国陶磁史全般を展示できるまでに成長しています。
☆陶器と磁器
今回の磁州窯の作品である陶器（とうき）は、陶土（とうど）に施釉して１２００〜１２５０℃で焼成するもので、陶土と陶石（とうせき）を混ぜて施釉し１３００℃以上で焼成する磁器（じき）と区別されます。一般に磁器が薄手で鋭い器形であるのに対し、陶器は厚手で丸みのある器形になります。当館で一昨年・昨年に催したのが景徳鎮窯（けいとくちんよう）の作品による磁器展であったのに対し、今年は陶器展ですから、館内の雰囲気も大きく変わっています。
☆磁州窯発達の理由
磁州窯のある河北省南部は、燃料になる石炭とやきものの原料である陶土が、重なり合って埋蔵されています。井戸を掘ると原料と燃料が一緒に得られるのです。したがって比較的手軽にやきものが作れたので、唐代末頃からやきものが発達しました。饅頭型（まんとうがた）の石炭窯で大量に焼造されました。
☆民窯と官窯
中国陶磁を発達させた原動力の一つに、宮廷のためにだけ陶磁器を供給する官窯（かんよう）が設けられ、国家の力で高級陶磁器を作らせたことがありますが、磁州窯の作品は、陶器であるだけに器形は厚手で、鋭利な美しさと言うよりは、暖かみのある雰囲気が醸し出されます。そのため、官窯製品に取り上げられることはなく、終始産業としての窯−民窯（みんよう）であり続け、庶民の生活用具として支持され、庶民の需要に応えることを通じて発達しました。
☆磁州窯と磁州窯系
磁州窯の技術と意匠は、大きな人気を得て華北地方に拡がり、西は陝西省(せんせいしょう）から東は山東省（さんとうしょう）まで、数多くの窯で類似の作品が焼かれました。中心地である河北省南部の邯鄲市（かんたんし）にある磁県観台鎮（じけんかんだいちん）や彭城鎮（ほうじょうちん）のいわゆる磁州窯の作品と区別がつかないほどです。そのため、これらの窯をまとめて“磁州窯系の窯”と呼ぶことがあります。伝世品である当館の作品の窯も、“磁州窯系”と表記しています。
☆磁州窯独特の技法（１） −白土がけ
胎土に含まれる鉄分と石炭窯の酸化焔（さんかえん）のため、素地が純白にならない磁州窯では、白い器面を得るため、素地に白土を塗る“白土かけ化粧がけ）”が多用されます。これによって、比較的安価で一見白磁に近いやきものが庶民の間に普及したのです。白土がけは磁州窯発展のキーポイントとなりました。
☆磁州窯独特の技法（２） −“黒花”と“掻き落とし”
酸化鉄の色を覆い隠す白土の上には、反対に酸化鉄の黒色や褐色の顔料で文様が筆で描かれ（黒花、こっか）、その上に透明な釉薬（うわぐすり）をかけて焼かれるようになりました。これによってやきものの器面装飾が飛躍的に自由になり、景徳鎮の青花（せいか）、（染付、そめつけ）にも影響を与えたと言われます。さらに、白土や黒釉（こくゆう）・緑釉（りょくゆう）などを掻き落として文様を表す技法は磁州窯の真骨頂です。おりから宋代絵画の発達を受け、素朴な中にも、水墨画を思わせる優れた絵画的表現の文様が楽しめます。伝世の名品がその精華を見せてくれます。
☆陶枕（とうちん）
“邯鄲の夢”（かんたんのゆめ）の説話の地元であるためかどうかはわかりませんが、磁州窯の作品には陶枕が目を引きます。陶枕は、かつては棺に入れるものと我が国で誤解されていたこともありましたが、本来実用品で、やや硬いものの“頭寒足熱”の摂理にも合致してなかなか寝心地がいいと言われます。吉祥や夢見の良さを求めた文様や器形が楽しめます。ちなみに、本展ポスターや図録表紙に使用した陶枕は、掻き落としの鵲（かささぎ）文ですが、鵲は良い夢を運んでくる鳥であると考えられているそうです。庶民の願いが込められた陶枕は、磁州窯の象徴と言えるでしょう。
３．□▲○ 中国・磁州窯展 出品作品解説 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
＊白地黒掻落牡丹文梅瓶（しろじくろかきおとしぼたんもんめいぴん）
北宋時代 Ｈ：４０．２ｃｍ 永青文庫蔵 重要文化財
宋磁独特のすっきりとした器形に、牡丹の折枝文が浮かぶ、白地黒掻落の傑作と言われる名品です。全体に塗った鉄絵の具を掻き落として表される、菱形にまとめられた牡丹文とその配置には、きわめて優れたバランス感覚が感じられます。広い余白部分も丹念に掻き落として表されたもので、技巧の素晴らしさを物語っています。
＊白地黒掻落龍文梅瓶（しろじくろかきおとしりゅうもんめいぴん）
北宋時代 Ｈ：４０．５ｃｍ 白鶴美術館蔵 重要文化財
永青文庫の白地黒掻落牡丹文梅瓶の静かな牡丹文を、そっくり躍動的な龍に入れ替えたかのような梅瓶です。迫力満点の龍の目・口・脚は立体感があり、丹念な鱗や背びれの表現とともに、画工の高度な技量が示されています。龍の尾は二股に分かれ、後脚は退化したかのように巻いています。当館には１９７６年と８４年の「白鶴美術館名品展」以来３回目の出品をいただきました。
＊緑釉白地黒掻落牡丹文長頸瓶
（りょくゆうしろじくろかきおとしぼたんもんちょうけいへい）
北宋時代 Ｈ：３５．０ｃｍ 大阪市立東洋陶磁美術館蔵 重要文化財
白地黒掻落を施して焼き上げた後、さらに低火度の緑釉を掛けた尊形の長頸瓶です。骨太などっしりとした器形で、口緑部や肩部が十分に拡がり、その結果幅ができた器面の前後に、上下いっぱいに配した掻落の折枝牡丹文も、力強い印象を与えます。富貴の象徴である牡丹文を淡い色調の緑釉が包み込み、宋磁の落ち着いた雰囲気を醸し出しています。
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