宝塚が好き！（Gay Only）コミュの蒼穹の昴

宝塚が浅田次郎の作品を舞台化するのは「王妃の館」「壬生義士伝」に続いてこれで三度目。それに今回の脚色・演出は原田諒。と言う事で期待して見てきた。原作は文庫本で４巻ある長編。今回は２回見てきた。1回目は10月９日。この時は、原作の前半２巻目までしか読んでいなかった。全巻読了してから２回目を10月29日に見てきた。

1回目は前半しか読んでいないが、それでも２巻目までだけでも読んでおいて良かったと思った。２回目は読了してから見たが、全部読んでおいて良かったと心から思った。大長編であるだけ、話が濃く読んでいないと理解しにくいところがあるのだ。特に人物の名前がややこしい。中国語読みと日本語読みとが混在しているのだ。例えば主役の梁文秀は原作では「リャンウエンシウ」とルビが振ってある。本で読むのなら、読者が「リャンウエンシウ」と読もうが「りょうぶんしゅう」と読もうが勝手だ。しかし、実際の舞台ではそうはいかない。だから、これから御覧になる方で原作を御存じない方は、hpやプログラムで「人物相関図」をよく読んで頭に入れておく事をお勧めする。

実は僕浅田次郎にあまり興味ないし、それほど優れた作家だとは思っていない。今回も原作でなかったら読まなかった。全巻読了しての僕の評価は、悪いわけでは無いが、それほど良いわけでもない。長編であるが故か、テンポが遅い、中だるみする。それが一番の欠点だ。

日本は中国から様々事を取り入れたが、宦官と科挙は取り入れなかった。ここでは、科挙の制度が詳しく述べられ、宦官の実態が詳しく描かれている。それに僕がなにより興味深く感じたのが、西太后の評価である。西太后と言えば、漢の呂后、則天武后と並ぶ中国史では有名な悪女。ライバル東太后を殺し、夫を殺し、息子を殺した人。彼女にとって政治とは、暗殺と陰謀と人事だった。と言うのが定説で僕もそう思っていた。本当はそうでもなかった、と言うのがこの作品に出てくる西太后である。

この大長編をいかに宝塚歌劇の枠に押し込めるか、これが一番の問題だ。全部見て感じるのが、よくここまで上手くまとめたな、と言う事だ。この長編の枝葉を思い切って切り落とし、二人の主役・梁文秀（彩風咲奈）と春児（朝見絢）の活躍を描くことで舞台化に成功している。

今回専科から６人呼んでいる。

白太太（パイタイタイ）・・・・京　三紗
伊藤博文・・・・・・・・・・・汝鳥　怜
西太后・・・・・・・・・・・・一樹千尋
楊喜禎・・・・・・・・・・・・夏美よう
栄禄・・・・・・・・・・・・・悠真　倫
李鴻章・・・・・・・・・・・・凪七瑠海

最初の場は、村はずれの居酒屋で梁文秀が仲間達と科挙の結果を待っているところ。その居酒屋の亭主に汝鳥怜が出てくるのだ。なんとも贅沢な使い方をしているな、と思ったら本役の伊藤博文が出てくるのは二幕目にちょっとだけ。だから、ここに出したのだろうか。

西太后に大ベテランの男役一樹千尋を持ってきたのは大正解だ。西太后の堂々としたところがよく出ている。しかも、第二幕にソロの歌がある。この人の歌を久しぶりに聞いたがなかなか良いものだ。

音楽と言えば、劇伴でソロ楽器が活躍する。特にソロバイオリン奏者が見事だった。作曲・編曲は玉麻尚一。それに、劇中に京劇が出てくる。ここまでよくやったと感心した。特に、春児役の朝見絢と黒牡丹役の眞ノ宮るいが見せる京劇の立ち回りが見事だった。

また、有村淳の衣装が見事だ。当時の清国の男性は弁髪だが、今回はそれはなし。それ以外の衣装が当時の清国を、また原作に忠実に再現されていたことに感心した。特に、凝った刺繍の衣装は見事といか言いようが無い。それに、松井るみが担当した装置だが清国宮廷の場は大階段を効果的に使っている。一番感心したのは、最後の場の装置である。赤い壁に囲まれた道が一転して船になるところは見事である。それに、昨今流行の映像ではなく書き割りが上手く使われていた。特に、頤和園を現した書き割り、宮廷の庭を現した書き割りは、一種の美術品と言えよう。

演出の冴えが一番よく現れているのが西太后暗殺未遂の場だ。前場の一場から一転して西太后の行列になるところは見事だ。それに、爆弾を投げて暗殺を謀るのだが、それがスローモーションになって実に効果的だ。原田諒の脚本は、この長大な原作をここまで見事に２時間強に納めた事に感心する。原作を抽出して一番大切なところだけで構成したと言った感がする。勿論、原作からの改編は一部あるが、納得できる。

この芝居は梁文秀が清国を去るところで終わる。原作はまだまだ続くが、これを見ていると、この終わり方で正解だと思える。原作でもこれ以降大きな事件は起こっていない。舞台を見ていると、原作のこれ以降の続きが単に結末を着けるだけの付け足しに思えてくる。ただ、一番の不満は、指揮者の御崎惠マエストロに拍手を送らせてくれなかったことだ。勿論、マエストロの棒は見事だった。

そうそう、それ以上の不満は、相変わらずやかましく何の役にも立たない感染予防対策を呼びかけている事。本当に五月蠅い。ただ、幸いな事は、こんな呼びかけを気にしている人はほとんどいないと言う事だ。