宝塚が好き！（Gay Only）コミュの宝塚歌劇「桜嵐記」「Dream Chaser」

実はこのGWに宝塚大劇場で「アウグストゥス」を見る予定だった。しかし、緊急事態宣言とやらで、宝塚歌劇も上演中止に追い込まれた為、観劇出来なかった。やっとこの４月から大劇場にオーケストラが戻ってきたと言うのに見られなかったのは残念だった。

そのかわり、と言うのもなんだが、今回の月組公演は２度観劇する事が出来た。１回目は５月23日11:00公演、２回目は６月19日。15:00公演。客席に入るとオーケストラが音を出している。それを聞くだけで嬉しくなる。開演直前、ピアノから音を貰ってオーボエがAの音を出すとわくわくしてくる。指揮は芝居・ショー共に佐々田愛一郎。５月23日の時はショーの前しかマエストロに拍手を送る事が出来なかったが、６月19日には両方で拍手を送る事ができたのが嬉しかった。気のせいかも知れないが、マエストロに拍手を送る時間がいつもより長いような気がした。

芝居は上田久美子作・演出の「桜嵐記」、これが結構見応えがあった。いわゆる和物だけど、南北朝時代を扱った作品は、珍しいのではないだろうか。老年に達した男・楠正儀（光月るう）が下手花道の七三に現れ客席に向かって話かけるところから始まる。５月23日は雨が続いた後の晴天、今日はやっと晴れましたね、と言う意の言葉から始まる。きっと毎回ここは変えているのだろう。でも、６月19日に見たときには、そういうアドリブはなかった。「南北朝って知ってますか」と語り始め、時代背景を説明してくれる。その説明に即して本舞台ではいろいろな登場人物が出てきて、一種の時代絵巻が繰り広げられ、一気に物語に入っていく事が出来るようになっている。

また、この芝居は老年の楠木正成の三男正儀が、これまた老年になった庵主、かつて弁内侍と呼ばれた女性に昔語りをする、一種の回想形式になっている。

この公演で退団する月組トップの珠城りょうが演じるのは楠正行、楠正成の長男である。南朝が滅びるのは歴史的事実であり、劇中でも南朝に勝ち目の無いことは示されている。だから、何故正行が何故南朝の為に戦うのかが大きなテーマになってくる。娘役トップの実園さくらも今回で退団するが、演じるのは、正行と惹かれあうがむすばれる事はなかった弁内侍。

面白と感じたのは河内弁や京言葉、など関西のアクセントでしゃべる出演者が結構いて、しかも不自然さを感じさせなかった事だ。傑作はいつも河内弁でしゃべっている弟の正儀（月城かなと）に、兄貴はカッコつけてるけどホンマは河内弁ペラペラや、と言われた正行（珠城りょう）が無理、と応えるところ。ただ、正行が何の為に戦うか自覚したとき河内弁になるのが興味深い。

また、通常のシーンから急に回想場面に変わったり、正行の心の中のシーンが急に割り込で来たり、本舞台では四條畷の戦いの場なのに、銀橋ではその何年も前楠木正成と３人の息子の子供の頃のエピソードが繰り広げられている、そんなところが実に大胆で面白かった。ただ、正成が吉野が危うくなったら「あのう」へ行けと息子達に言うが、その「あのう」とはもしかして「穴太」（現在の滋賀県大津市にある地名・坂本の近く）ではないだろうか。

南朝は吉野にある。吉野と言えば桜、歌舞伎・文楽でも吉野の桜を舞台にしているものがある。「義経千本桜」の道行き、それに「妹背山婦女庭訓」。最初の方では桜は見せず、終わりの方になって初めて吉野の桜を見せるところが見事である。この芝居のクライマックスは四條畷の合戦で、迫力満点だった。それで終わるのかと思えば、そうではなく、老年になった正儀、今は庵主と呼ばれる弁内侍との会話となる。最後はなんとも美しい、出陣式になる。その舞台が、歌舞伎・文楽で有名な「妹背山婦女庭訓」の妹山背山の段を模した装置になるのが嬉しい。特に合戦の場では感動的な台詞場面が多く婦女子の紅涙を絞るが、最後の場でも泣かせる。

続く「Dream Chaser」は別にどうと言う事もない普通のショーだ。中詰めにあたるのだろうか、出演者がアフロのかつらで踊るところがちょっと面白かった。いつもなら、黒燕尾、トップ二人のデュエットの後、パレードになるが、今回はその前に、"The Way we were" で珠城りょうと男役のシーンが入る。珠城りょうが黒燕尾の男役とからむところで、光月るう（？）が珠城りょうの汗を拭いてやるところで、何か暖かいものを感じた。パレードでエトワールを務めるのは実園さくら、トップがエトワールなんて珍しいのではないだろうか。

最後にひとつ言いたい。上田久美子先生、あなたは我々観客をどれだけ泣かせたら気がすむのですか。