宝塚が好き！（Gay Only）コミュのFLYING SAPAーフライング　サパー　上田久美子作・演出

久しぶりに梅田芸術劇場に行ってきた。３月に「天保12年のシェイクスピア」を見る予定だったがそれが中止になって以来、予約していた公演のすべてが中止になった。

今回の「フライング・サパ」は本来なら３月30日に初日を迎えるはずだった。元々は梅田芸術劇場での公演は予定されていなかったが、コロナ渦のせいで８月１日から11日まで梅田芸術劇場で上演される事となった。僕は梅田芸術劇場で上演してくれたからこそ見る事が出来た。

玄関で検温、そして手指消毒を支持される。チケットは係員に提示した後、自分で半券をちぎって箱に入れる。客席にはいると、宝塚大劇場と同じく座席は一つおきになっていて、座ってはいけない場所がある。

上田久美子の作品は、「星逢い一夜」から宝塚大劇場で上演されたものはすべて見ている。舞台が始まって思った、上田久美子はエンターテイナーを止めて芸術家になったのか。上田久美子の作品を見に来た人は満足するだろう。しかし、宝塚歌劇を見に来た人は失望するかもしれない。なんせ「歌劇」とはいいながら、歌がほとんど無いのだ。

宝塚歌劇とは何か。それは一種の大衆通俗娯楽演劇である。しかしこの作品は内容は暗く、娯楽性は著しく後退している。あの一大傑作のショー「BADDY」で提議した内容をもっと深化させ発展させ娯楽性を取り除いた内容になっている。

時代は未来、太陽の核融合が後退したため人類の一部は水星ポルンカへと移住した。そこでは、言語・宗教・人種等すべての違いが排除されている。すべての人は、それがあれば地球上と同じように生きていける生命維持装置デバイス「へその緒」を身体に埋め込まれている。その「へその緒」を通じ、思想信条までもが統制下にある。それを行っているのが、「へその緒」の発明者でもあるコード番号01の総統である。

ポルンカは徹底的な管理社会である。「へその緒」を通じ、攻撃的な事を考えるだけで、検知され告発される。特に凶暴な思想を持った者は記憶を消され、政府の兵士とされる。オバク（真風涼帆）もそんな一人。「へその緒」を壊し自殺しようとした女ミナ（星風まどか）を保護しようとするが、彼女は抵抗し、反対にオバクにこの星で総統の支配が及ばないクレーター”SAPA”に連れて行くようにする。二人は失われた記憶を求めてSAPAへと旅立つー

前半は「ブレードランナー」、後半は「ヱヴァンゲリヲン」の影響を思わせる。前半のオバクはまるでブレードランナーのデッカードを彷彿とさせている。後半大詰めの展開は「ヱヴァンゲリヲン」のラストのようだ。そう思わせながら、舞台に展開される徹底的な管理社会は現在の日本を彷彿とさせている。同調圧力が極端に強く、ちょっとでも波風を立てようとすると、弾圧される。その現れが、「自粛警察」「マスク警察」だ。まるで、上田久美子はこうなることを予想してたかのように感じられる。その意味でこれはとてもリアルな話になっている。ここで問題にされているのは、人間の本来持っている攻撃性・闘争心。しかし、これがあったからこそ、人間は今日まで行き乗ってこれたし、発展してきたとも言えるのだ。しかし、ここでははっきりした結論を出していない。それはそうだ、これは答えのない問題なのだから。

宝塚歌劇だからと、現実離れした夢物語、甘いロマンチックな展開を期待すると肩すかしをくらう。ここで展開されている物語はあまりにもリアルで、シリアスな問題が提議されているのだから。歌は少ないながら、全く無いわけではない。ユダヤの子守歌、が出てくるが、プログラムにイディッシュ語歌詞監修と出てくるところで、にやっとさせられる。また、「東京物語」「ソラリス」、それに、「タルコフ」「キュリー夫人」と言う名前にも快くくすぐられた。

また、音楽がよく出来ている。担当したのは三宅純。いわゆる、「前衛音楽」になっているが、展開されているディストピアにふさわしい出来である。他にはベテラン青木朝子の名前があるが、この「前衛音楽」を上手くし「芝居の音楽」にしている。

一番の問題は観客にこれが理解出来るかと言う事だ。「BADDY」の持つメッセージ性・テーマを理解出来ず、的外れな批判をする輩は客席に座っても何がなんやらわからないのではないか。

それにしても、上田久美子は凄いものを書いたものだ。しかし、もっと凄いのは、この企画を承認し舞台にかけた宝塚歌劇の経営陣かもしれない。