原発雑考第４０３号の転載です。
2022・2・5
発行 田中良明
転載自由
連絡先 豊橋市富士見台二丁目12-8 E-Mail tnk24@tees.jp
浜岡原発再稼働のゆくえ
中部電力は浜岡に5基の原発を建設した。1、2号機は福島原発事故以前に廃炉になり、3、4、5号機は福島原発事故直後に当時の菅直人首相の要請によって運転停止した。3、4号機は再稼働申請中である。5号機については上記の運転停止の作業中に約40�鼎粒た紊�流入するという重大事故が起き、それが理由と推測されるが、再稼働申請は行っていない。
3、4号機の再稼働の審査は進んでいない。浜岡原発は南海トラフ巨大地震の震源域にあり、周辺人口も国内では東海第二原発に次いで多い。ひとたび大事故が起きれば、新幹線、東海道線、東名高速、国道1号線などが利用不能になる。審査が慎重になるのは当然であり、審査の前提になる地震動や津波高の基準（最大値）も決まっていない。このような状況下で中電は基準津波高の想定の変更(20.3ﾒｰﾄﾙから22.5ﾒｰﾄﾙへ)を申し出た。規制委員会はこの新想定について審査することになるが、更田委員長はすでに審査には時間がかかると明言している。再稼働の可否の判断はさらに遅れることになる。
経営面では中電はすでに再稼働のため3000億円以上を投入し、さらに数千億円が必要になると見込まれている。また、再稼働には地元合意が必要であるが、静岡県下のほとんどの市町村は再稼働に反対ないし慎重であり、川勝知事も消極的だ。再稼働を実現するには最低でも知事を推進派に替えなければならないが、静岡県民の大半は再稼働反対であり、再稼働が争点になっては知事選に勝てないという厳しい事情もある。
しかもなんとか再稼働に漕ぎつけても、運転できるのは3号機は2027年、4号機は2033年までである。20年の運転期間延長という手もあるが、そのことを前提にした再稼働であれば、地元の反発はさらに高まり、知事同意を頂点とする地元合意はまったくおぼつかなくなる。
中電がそれでも再稼働の旗を降ろさないのは、原発維持に必死の政府と経済界主流からの圧力があることと、降ろすと経営責任問題が発生するからだ。
欧州委員会の原発容認をめぐって
EUの行政を担う欧州委員会が、原発と天然ガスには「再生可能エネルギーベースの未来への移行期においては役割がある」とする決定をした。移行期、すなわち再エネが圧倒的な主力エネルギーになるまでの期間において、原発と天然ガスの一時的な利用を容認することにしたのである。
再エネだけでエネルギー需要を満たすことができない移行期には、補助的なエネルギーが必要なことはいうまでもない。現実的にその候補になりうるのは天然ガスと原発しかないことも明らかである。そして欧州委員会は､天然ガスだけでなく、フランスやポーランドなど原発の活用を主張する国ぐに（数ではEU内で多数派である）の要求を容れて、原発も移行期の補助的エネルギーとして認めたのである。
再エネだけではエネルギー需要を賄うことができない移行期が存在することを無視してやみくもに再エネ利用だけを主張する議論、逆に、欧州委員会の決定は原発を恒常的に利用してもよい持続可能でグリーンなエネルギーだと認めたものだという解釈、これらはいずれも一面的過ぎる。欧州委員会の決定はあくまでも移行期に限って原発の活用を容認したものである。
しかし期間限定とはいえ原発の活用を容認したことは誤りである。
原発には過酷事故発生の可能性を否定しえず、高レベル放射性廃棄物の確実な処理方法も確立していないという致命的な問題がある。
さらに本誌でくりかえし指摘しているように、原発は火力発電とは電源としての相性がよいが、再エネ発電とはこの相性がわるい。したがって再エネ発電が圧倒的になった時（ほとんどの国がカーボンニュートラル達成の目標年としている2050年がその目安になる）には原発は稼働できなくなるし、そこにいたる移行期においても原発の稼働はしだいに制約されていくことになる。これから新規に原発を建設しても、投下資金を回収し終える前に稼働終了になること、つまり座礁資産になることはほぼ確実である（一般的に40年稼働が原発の収支計算の前提になっている）。
欧州委員会の決定の狙いは原発新設に資金を集めることにあるとも報道されているが、座礁資産になることがほぼ確実な案件に資金が集まるとは考えがたい。この決定が実際に意味するのは既存の原発が当面は稼働を続けられるということだけである。
もちろん原発稼働継続はまずいことであり、省エネ徹底を前提に再エネと天然ガスで必要なエネルギーを賄い、原発は可及的速やかに利用停止するのが本筋である（本誌398、399号で日本についてそのことを考察している）。
ところでEU内で原発新設を指向している国の一つがポーランドである。 ポーランドではかつては石炭火力が総発電量の８割を占め、いまでもまだ7割以上を占めている。同時にポーランドはCOP26で石炭火力廃止・新規建設停止の宣言に署名した（日本は署名を拒否）。EU加盟国として2050年カーボンニュートラルも受け入れている。温室効果ガスを排出しない電源の急速な拡張を迫られているのである。
さらに、再エネが圧倒的な主力エネルギーになるまでの移行期において頼らざるをえない天然ガスはロシアから供給されているが、ロシアは天然ガスの供給と販売価格を政治的武器に使うことがある。ロシアの天然ガスへの依存を軽減することが、ドイツなどと違ってロシアの天然ガス供給の政治利用
にたいする有力な対抗手段を持たないポーランドにとってはきわめて重要な課題になっている。
このような必要と課題に応えるエネルギーとして原発が期待されているのである。しかしポーランドの原発保有については疑問が多い。
まず、上記の期待に応じることができるだけの発電量を確保するには、相当数の原発を短期間に建設しなければならない。運転に習熟することも必要である。そのあたりでしくじると、ポーランドにとっては少なくない資金を投入したにもかかわらず、2050年近くになっても低稼働率の少数の原発が存在するだけで、エネルギー供給に果たす役割もごく小さいということになりかねない。しかも上述したように原発を活用できる期間は短く、すぐに脱原発を迫られることになる。
そういうリスクを冒すよりも、原発に投入する資金と人的資源を再エネと省エネ（旧社会主義諸国では省エネの余地は極めて大きい）に投入するほうが賢明であると思われる。ポーランドは遅れて来た原発保有国になるよりも、先進的な再エネ・省エネ国を目指すべきではないか。それによってエネルギー自立を果たすことが、ロシアや他の国からのエネルギー供給に絡めた圧力から解放されるもっとも確かな道である。
もちろんそこにたどり着くまでには、石炭火力の廃止による天然ガス火力の増設などによって一時的にロシアへの依存が高まることも考えられる。それはEUのサポートを得て凌いでいくほかないだろう。
移行期に頼るべき天然ガスが癖のあるロシア産だという特殊事情がポーランドにはある。だからといって原発が長期的にはもちろん短期的にもポーランドの脱炭素、エネルギー自立の有効な手段になるとは考えられない。
雑 記 帳
コロナ流行再発。今度のオミクロン株は、毒性は低いが感染力は強いらしい。この先また別の特徴を持つ変異株も現れよう。コロナ収束までの道は遠そうだ。他方でインフルエンザはこの冬も流行していない。コロナ感染対策がインフルエンザ感染予防には効いているようだ。
昨年11月末にガス床暖房機を試運転しようとしたら、起動しなかった。床暖房機本体に異常はなく、リモコンの故障が原因だった。ところが半導体不足によるガス器具製造の混乱の余波で代わりのリモコンがなかなか入荷せず、届いたのは１月10日だった。本体は問題ないのに40日以上も使えなかった。
最近は機器の操作をリモコンに頼ることが多い。連れ合いの使っている自動車のエンジンはリモコンでしか起動できないらしい。リモコンは便利だが、故障するのはたいてい突然で、それで機器が使用不能になる。リモコンに頼らざるをえないのはじつは相当に危ういことなのだ。便利だがその裏に危うさが潜んでいるのは現代社会の特質であり、リモコンはその象徴といえる。
万場緑地のネコ 第２８話 チャクロという名の小柄な雌ネコがいた（推定6歳）。臆病な性格で、現れて半年ほど経ったころに別のネコに追われて万場から姿を消し、2ヶ月ほどしてガリガリに痩せて戻って来たことがあった。そのチャクロが年末から体調を崩し、もう野外での生活は限界だろうということで、保護活動のメンバーに引き取られた。
1月末にその人から送られて来た動画ではすっかり飼いネコの顔つきになっていた。緊張が連続する野外での生活から解放されたためだろう。
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