鼻高々の落とし穴

「悪魔（デイモス）の花嫁」というマンガを、大昔に読んだときのこと。
その中の、とあるエピソード。年末を舞台としている物語の冒頭にて、
コンサート会場から出てきた主人公が、こんなことを呟いていたのである。

「やはり、ベートーベンの交響曲第９番《荘厳ミサ》は素晴らしいわ．．」

．．私は、これを読んだ瞬間、２秒フラットで、以下の推理を完結させた。

推理ここから --------------------------------------------------
原作者は、ベートーベンに「荘厳ミサ」という曲があることを知っていた。
それが、晩年の、第９交響曲とほぼ同時期の作品であるということも知っていた。
さらにおそらく、第９交響曲第４楽章の中間部で、
まさに「ミサ」的な、宗教的な雰囲気になることも知っていた。
（以下、原作者の心の声）
「もしかすると、この２つの曲名は、同じ曲を指しているのではないかしら？
そうよ、そもそも、「合唱付き」なんてタイトル、変よ！
「英雄」とか「運命」とか「田園」とかに比べて、妙に説明的だわ！？
わかった、本当のタイトルは、「荘厳ミサ」なんだ！
でも、「荘厳ミサ」なんて言葉は、日常的じゃないし、難しい。
読めない人だっているかもしれない。ハードルが高い。
だから、慣習的に、わかりやすくかみくだいて、
「合唱付き」という、やさしい、ジュヴナイルな呼び方をしてるんだ。
わかった、わかった！ そういうことなんだ！
では、ひとつ、私は！ この私は！
この曲の「本当のタイトル」を、書いてやろうじゃないの！
ベートーベン作曲、交響曲第９番《荘厳ミサ》！
こんな呼び方をされているのなんか、見たことも聞いたこともない。
誰も知らないんだわ！
私が、マンガの中で、さりげに、
「ベートーベンの交響曲第９番《荘厳ミサ》」、と、こともなげに書いたら、
みんな驚くわ！ 目をみはるわ！ 一目置かれるわ！
うっ、かっこいっ！」
推理ここまで --------------------------------------------------

．．まず間違いのないところだと思うのである。[;^J^]

（漫画家も、アシスタントも、編集者も、編集長も、
気がつかずにスルーしてしまったのは、
仕方のないところだろう．．[;_ _][;^J^]）

別に私は、この原作者を（そしてスルーしてしまった関係者たちを）
嗤うつもりはないのだ。
たまたま今回は、私の知っている世界での「間違い」だったから気がついたが、
これは、私だって、やらかしかねない失敗なのだ。
．．というか、きっと、既にやらかしている。何度もやらかしている。
そして私の知らないところで、嘲笑われているのだ．．[;_ _][/_;]

・知っていることを書くこと。
・知らないことは、調べてから書くこと。
・調べる時間もとれないときは、推測であると断って書くこと。

これだけ守れば、いいことなのだ。


廃墟通信、更新しました。

http://www.kurata-wataru.com/ruin/ruinc12a.html

（今週号の目次は、

　2021年02月01日：今日の空耳
　2021年02月02日：確定申告のネタがない [;^J^]
　2021年02月03日：３月以降のできれば観たい展覧会
　2021年02月04日：マーラーの恐ろしい言葉
　2021年02月05日：幻想美術選「シバの女王の船出」クロード・ロラン
　2021年02月06日：人間ドックの予約をする
　2021年02月07日：怪物原稿に難渋する

　です。）