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2020年10月31日21:35

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Dream Money〜Hide & The Sense〜

No.0730

特別企画 『Dream Money〜Hide & The Sense〜』
Written by : MARL

  That child who doesn't awake from a dream
 When I keep running away, I feel like harming too much.
 They seem to be a weak girl.

 Don't think you can escape from here.
 Because a little carelessness causes death.

〜対訳〜

 夢から覚めないあの子
 逃げ続けると余計に痛めつけてやりたくなる
 まるでか弱い女の子のようだ

 ここから逃げられると思うなよ
 少しの油断が死を招くのだから

Presented by : MARL

     ◇

 皆が寝静まる真夜中に灯る怪しげな光。これは遠い昔の話でも無く、ここだけの秘密のお話。
 光はやがて徐々に大きくなり、辺り一帯を薄気味悪く照らし出す。ここは何処なのかって? そりゃあここを御覧の諸兄にはこれから紹介する御伽噺にも満たない陳腐な、ある男の子の顛末を見届けて欲しいからな。
 今宵は何もかも忘れて、この世界の夜に身を委ねてみてはいかがかな?

 決して明ける事の無い永遠の真夜中には、それはそれは極上の化け物達が獲物を狙うかのように待ち構えているのだよ。ここはマルダーク・スクウェア(Marl dark Square)、悪夢に苦しむ亡者共の牢獄とも言える巨大都市。ここに迷い込んだ者は……

     ◇

 今夜もあの変な夢を見ている。ボクは一体誰の手に引かれてここへ迷い込んだのだろうか。怪しげな光はボクを誘い、気付くと知らない大広間の中央で、周りに居る得体の知れない影に囲まれながら、壇上に居る顔も見えない何者かの演説を聞いている。何を言っているのかは分からないけど、演説が進むにつれて周りの影達がボクと同じ年頃の人間に姿を変えた。この時、壇上に居る何者かは年老いた男性の姿になり、
「いいか、ここから逃げ出そうとは思うなよ。分かっておるな、お前達は――」
 まるでお化けのようにスッと姿を消した老人は、そのまま戻っては来なかった。ボクは連日この悪夢に魘されている。目を覚まそうとしても、どうしても現実世界へ帰る事が出来ない。この夜もどういう形でボクを苦しめて来るのか不安で仕方がない。そんなボクの隣で話を聞いていた同じ年ぐらいの男の子が、
「カール(Carl)、何をそんなに怯えてんだよ。“あんな老いぼれ”の言う事なんか気にすんなよ」
「う、うん。でもさ、いいの? そんな言い方をすると君に何かあるんじゃ?」
「そんな事考えていたら、いちいちここで暮らす事なんか出来ないって!」
 ボク達のここでの生命線となるのは、各々に与えられているこの変な通信機のようなものだ。そこに記されている英数字のコードが何かを示しているのか。先程、ボクと話していた子の通信機の数字が目まぐるしく変化していたのを見逃さなかった。

 この日は、年に一度訪れる死者を異界へと送り出す儀式が行われる。
 ボクを含めたこの都市の住人達は皆、あの大広間へと再び招集され、そして、この1年で素行の悪かった者を選出し、異界へと消し去るのだ。それが例えたった一言の悪口でも。
 再び姿を現した老人(この都市の長なのか?)は、何か呪文のようなものを唱えると、その場の全員の通信機が老人の身体へと吸い込まれていく。暫くして老人は不定形生物のように分離したかと思うと、何人かの住人の身体を乗っ取るようにして消えていく。犠牲になった者達は断末魔も上げずにそのまま塵となって跡形も無く消えていった。その瞬間が息もつかせぬほどの一瞬だったので、ボクはたった一言の失言にも気を付けながら怖々日々を過ごしていた。あの子も犠牲になり、二度とボクの前に帰って来る事は無かった。
 儀式が終わり、ボクの通信機の数字がやけに減っている事に気付く。
(何でこんなに? 今まで大丈夫だったのに?)
 いつもならば一日の終わりにチョコレートを齧りながらホッとしている時間なのに。何だか気味が悪くなって食べた物を嘔吐しそうになるのを堪えながら、ボクは眠りに就いた。

 やはり夢は覚めず、今夜も皆あの大広間に召集されて不気味な老人の警告を不穏な空気の中、静かに聞いている。もう誰もコソコソと私語を挟む事も無い。次が1年後といっても、ボクはあの通信機の数字がもう0にギリギリなのが気にかかる。あの儀式の後から周りの目がやけに冷たく感じてしまう。ボクがあの時、あの子の失言を止めなかったから? いいや、ボクは何も関係無いんだ。通信機の役割はあの数字以外何も機能を果たさない。一定の少ない数字になってからは、ボクはより大人しく日々を繰り返していく。
 そして、1年後の儀式の日がまた迫り、ボクはこの夜が来なければいいのに、と思ってしまう。しかし、無慈悲にもその夜はすぐにやって来た。あの日から1年、ボクは何も余計な事はしない代わりに、周りの同年代の子達から敬遠されている。男の子のくせに女々しいだとか余計な事ばかり言っているけど、ボクは誰にも迷惑などかけてはいない。どうせ悪夢の中の出来事なんだから、大人しくしている方が賢明に決まっている。
「カール、お前さぁ花柄のセーターとかマジかよ!」
「女の子になりたかたっらそう言えばいいのに、ププッ」
「おっ! そのチョコレートもーらい!」
「あっ! それは!」
 ボクが持っていたチョコレートを取り上げて、更にボクを押し倒していく奴等。それでもボクは何も反論は出来なかった。ボクが我慢さえすれば全部が丸く収まるのだから。(泣)
 今年もあの不気味な儀式の前に、長である老人の警告から始まる。
「いいか、ここから逃げ出そうとは思うなよ。分かっておるな、お前達は――」
 誰もが息を呑む瞬間。ここで下手に私語を挟めば、異界へ送り出されて消されてしまう。ボクを苛めていた奴等はどういうわけか異界へ消される事は無かった。その代わり、ボクの通信機の数字がまた減っていた。

 覚めない悪夢は続く。何度目かの夜を迎え、ボクの通信機に何やら警告音のような奇怪な音が鳴り響いている。通信機の数字は1を切っていた。0.000……のその少ない数字は、まるでここでのボクの寿命を表しているかのように映る。その後に浮き出た英字には、“お前の命はここまでだ。死にたく無ければこの夢から脱出する事だ。”とある。
 鳴り止まない通信機を捨てようとしても、どうやってもボクの身体から離れない。ボクは都市の端まで逃げようとするも、またあの苛めっ子達がボクの邪魔をしてくる。
「お前のせいで、俺達のリーダーが犠牲になったのをまだ分からないのか?」
「どうせお前があの“老いぼれ”の悪口をあいつに言わせたんだろ?」
「つうかさ、“あのジジイ”もいい加減にして欲しいよな」
 こいつ等が勝手にあの老人の悪口を言っているだけなのに、何でそれが全部ボクのせいになるの? こんなのおかしいよ! あいつ等が消されるのは分かるけど、ボクの通信機の数字は何で減り続けるのさ!
「おい! 逃げんなよ!」

 ボクは都市の端まで逃げたけど、通信機の警告音は一向に鳴り止まない。早くこの悪夢から抜け出したい! 一刻も早く!
「助けて! もう限界だよ! 誰か早く!」
 都市の中心ではボクが居なくなった事で、何も変わる事無く住人達はあの恐怖の儀式まで静かに過ごしている。通信機の数字がついに0になり、通信機もろともボクは爆散され――

     ◆

 長い悪夢だった。ようやくボクはあの恐怖の儀式から逃れる事が出来た。きっと今頃、ボクに暴言を吐いた奴等は異界へ送り出されて消されている頃かな。
 気付くとボクはたった一人で、何処かの廃墟のような場所の大きな庭に佇んでいた。目の前には壊れた子供用のブランコだけが寂しげにあった。弱めの雨が降りしきり、ボクは風邪を引く前に雨宿りが出来るところを探す事に。
(変だな。夢から覚めたのに、ここは一体?)
 まさかまだ悪夢は続いているの? 先程まで持っていた通信機を持っていないところを見ると、これは悪夢では無く……いや! 今のこの格好はまだあの悪夢の時の衣装になっている! 花柄のセーターも着ているし、ここは“まだあのマルダーク・スクウェア”だ! あの時の爆破で、都市全体が滅んだだけだ!
 儀式は無くなった。けど、ボクはこの悪夢から覚める術を完全に見失った。もしかして、あの通信機の数字が0になる前にここから脱出しないといけなかったのか? すると、ボクのすぐ背後に感じる悪寒。振り向きたくは無かったけど、後ろを怖々振り向く。

 カール、お前を異界へ送り塵にしてくれよう

「うわあああああぁぁぁぁぁ!!!!!」
 あの老人の掠れた声がボクに囁きかける。都市は滅んだのに何で? もう儀式は無くなった筈なのに?
 再び逃げ出すが、ボクの身体は金縛りに遭ったかのように動けない。身体を引き摺られ、ブランコに強制的に座らされたボクは眠るように意識を失った。

     ◇

 マルダーク・スクウェアに集いし者達よ。今宵は大いに楽しもうではないか。現実世界の事など忘れてここへ身を委ねるのだ。
 お前達にはこの通信機を与えよう。ここに記されている数字を減らす事の無いようにな。何も恐れる事など無いのだよ。辛い現実に戻る事の無い良識的な行いなのだから。
 数字を維持すればするほど、ここへ溶け込みいずれはこの都市を統べる長にしてくれようぞ。お前達を悪く言う奴等やいつも女々しく怯えている弱者には死など安過ぎる。異界へ送り込み塵にして、永遠の苦しみを与えればいいのさ。通信機の起爆装置が作動して、この都市が滅びようが関係無い。現実世界では金が尽きた輩には死が待っているだろう? この数字も夢の中の財産のようなものと考えていい。
 この悪夢を見た者はもう夢から覚める事など無い。例えその身体が現実世界で死を迎えてもだ。通信機の数字はいわば夢の中でのお前達の命そのものだから。もう煩わしい事など全て忘却の彼方へ葬り去るがいい! さぁ、お前も我等と共にこちら側へと誘ってくれようぞ! あーははははは!!!!!……

     ◆

  I don't have that, what kind of place is the different world?

 It's that, the place it isn't possible to decide to stray off and return once where.
 No one is shut in a dark place eternally, and even if he cries, comes to the help.
 A body finishes going bad a little, and it'll be trash in the last moment, and different space is wandered.

  It's to the world of that nightmare like that boy by whom your daughter was made trash formerly, too.
 A spicy real thing is forgot, and, it's an assumption to this place Well, to this--.

 I'm helped, and, mother! My mother, well, oh!

〜対訳〜

 ねぇねぇ、異界ってどんなところ?

 それはね、一度迷い込むと決して帰る事が出来ないところなんだよ
 暗いところに永遠に閉じ込められ、泣き叫んでも誰も助けに来ない
 そして、身体が少しずつ腐り切って、最期には塵となって異空間を彷徨うのだよ

 ち、近寄らないで! 私はあそこに行きたくない!

 お嬢ちゃんもかつて塵にされたあの男の子のようにあの悪夢の世界へ
 辛い現実の事なんて忘れて、こっちへおいで さぁ、こっちへ――

 わあああああん!!!!! お母さん! お母さぁん!!!

『Dream Money〜Hide & The Sense〜』完

 MARLです。
 毎年恒例のこのハロウィン企画、第9弾となります。
 夢の中で使えるお金の概念はどういった末路を辿るのか、そういったテイストに仕上げました。と言うのも、ここ1年以内の夢で交通事故関連の罰金が10万を超えそうな勢いで増え続けている為、夢の中の私が軽く破産しそうになった事を思い出し、急遽ハロウィンっぽい描写を申し訳程度に織り込んだ話となっています。
 主人公のカール(Illustration Vol.103)という男の子は、過去に描いたどの男の子よりも可愛く仕上がったと思います。ただ、過去最大級の女々しい男の子になりましたが。
 実は今回の話は一度全部テキストを書き終えた後に、完全消去してからこの話に変えました。私の中で納得のいく展開に持っていけなかった事と、何よりもこのドリームマネーの仕組みを別視点で書きたかった、ってのはあります。昨年よりもドギツイかは分かりませんが、話のクオリティは過去8作よりもそんなに高くはないです。

 今年は南瓜のテリーヌを食べながらの執筆となりましたが、冒頭とラストの語り口の正体についてですが、マルダーク・スクウェアを統べるあの長では無く、“この作品世界を支配”している私だったりそうでなかったり、ってそのままか。
 昨年同様、HYDE全般を聴きながら一気に書き上げましたが、だいぶ先にカールのイラストを完成させていたので、ある程度の想像は固まっていたので、執筆にはそんなに時間はかかりませんでした。
 来年はこの企画自体が10周年ですので、何か変わった事でも取り入れようかな。

†2020/10/31 MARL†
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