18950801 NO3799 極東問題に関するロシア国諸新聞の論説
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008_0020_0010 駐韓日本公使館記録 8巻 二. 本省往来信 (1) [極東問題に関するロシア国諸新聞の論説]
文書題目 (1) [極東問題に関するロシア国諸新聞の論説]
文書番号 送第七二号
発信日 明治二十八年八月一日 ( 1895年 08月 01日 )
発信者 外務大臣臨時代理 文部大臣 侯爵 西園寺公望
受信者 在京城 特命全権公使 伯爵 井上馨
(1) [極東問題に関するロシア国諸新聞の論説]
送第七二号
絶東問題（＊a Far-Eastern question 極東問題）に関するロシア国諸新聞の論説について在ロシア公使より別紙の通り抄訳報告がありましたのでその写しを閲覧に供します。
明治二十八年八月一日
外務大臣臨時代理 文部大臣 侯爵 西園寺公望印
在京城 特命全権公使 伯爵 井上馨 殿
[別紙]
文書題目 絶東問題に関するロシア国諸新聞の論説
絶東問題に関するロシア国諸新聞の論説
送第三十五号
日清講和の後、遼東半島の分割に関してロシア・フランス・ドイツ三国が提出した共同抗議（＊日本では「三国干渉」と呼ばれる）に対する日本の譲歩は、東洋の平和をまさしく再興させる効果を来たし、したがって最初はやかましいほど異口同音に日本に反対していた当国（＊ロシア国）の諸新聞もその後はこれまでの筆鋒を収めしばらくは鎮静の姿に見えておりましたが、近頃日本の対韓政略などに関しあれこれと論評を為すものが現れ、中でも「ノヴォエ・ウレミヤ新聞」は去る五月十二日の紙上で朝鮮の現状を次のように論じた。
「支那海上には欧州一般に関する利益がありこれを保護する必要あったので、ロシア国は他の二大国と提携して共同的運動を進めていたのだが、この海面にはただ欧州だけの共同利益に止まらず、この共同利益とは全く異なるロシア国固有の利益が存在するのである。
したがって、この利益をいたずらに欧州の裁判に付したり、あるいはその監督に任せるようなことは、ロシア国に取って甚だしい不得策であり、かえってロシア国の威力を減縮して将来の禍根を残すことになるだけである。
先年ロシア国が欧州によって屈従させられた『ボスポラス（＊トルコのヨーロッパ部分とアジア部分を隔てる海峡。両岸はトルコ最大の都市イスタンブール）』問題での失敗の前例があるが、これは全くクリミア戦争の失敗がもたらした結果であって、ロシア国もまたこれをどうすることもできない。
ただ朝鮮においてロシア国か首座を占める権利は決して放棄すべきでないだけでなく、益々これを強固にしなければならない。いわんや今日は支那海上における欧州一般の利益は、既に三国の共同抗議（＊「三国干渉」）に対する日本の決答によって損傷を免かれ、最早同盟諸国は退いてそれぞれその固有の利益に関し計画を為す時なのである。
元来三国各自の利益もまた共同運動の方法によってこれを保護できるが、ロシア国は決して他国の応援に依頼して固有の利益を保護しようとしてはいけない。自ら進んで独力経営を為す覚悟がなくてはならない。
今や日本は一時の好機に乗じ朝鮮を全く経済的に服従させ、国王をその手中に虜（とりこ）にし、鉄道および採鉱の営業を独占しており、そんな状態で朝鮮を独立国と公布しても果して何の実があるであろうか。
ロシア国か今日まで朝鮮を等閑視してきたことは一大失策であり、朝鮮国はロシアの対アジア政略上およびアジア領土の将来発達上、すこぶる枢要の地位を占めるものである。
もしロシア国の公正なる構想として、シベリア鉄道を黄海の岸に貫連させることを予期するならば、この鉄道の極点をまさに、清兵が屯守するはずの旅順口と、日本の鎮台行政官及び商人が踏みにじる朝鮮との間に存在させないわけにはいかない。これがロシア国のためすこぶる悲しむべき一事である。
日本は新たに占領した境土内において平和的発達をはかることがもとより可能だといっても、ロシア国が凍り閉ざされるシベリアから南方の暖海へ突進しようとする門戸を封鎖するようなことになれば到底これを不問に付すことはできない。
もし事情が前述のような場合に至っては、ロシア国がたちまち日本の外交と衝突することは到底免れないのであって、朝鮮の現状はこのような関係を醸成しそうな傾向がある。したがって今日朝鮮におけるロシア国の外交を容易にし、かつ日本に前述の事情を説明するため、朝鮮海にロシア国の軍艦を集合し、韓半島におけるロシア国の実力を表示する事が大いに必要である。
今や日本は三国の抗議に譲歩し、事局は既に平穏に帰しているのだから、ロシア国は最早その艦隊を日本海と支那海に配置する必要はない。したがってすべてこれを朝鮮海に集合すべきだ。
東洋は単に眼前の事実にのみ信用をおく地であり、前述のような処置は通常一般に外交文書によって進める交渉に勝ることは勿論である」
などと論じている。
次にグラジタニン新聞は、六月一日の紙上において朝鮮に関するモスコーフフシキー、ウエドモスチ新聞の論説を次のように評している。
この新聞は、「今回台湾において共和国の設立を公布したので、その機に乗じ朝鮮をロシア国の保護国とせよとの持説を再述している。すなわち『もし朝鮮がただ名分上に止まらず実際独立の実に表し得ても、ロシア国は将来においてなんら危懼する事なく、ロシア国と朝鮮との間には常に親睦の関係を保持する事ができるだろう。しかしながらもし一旦朝鮮を他国、特に日本に属従させようとすることになれば、これは全く問題を異にし、ロシア国は決してこれを許すことはできないのであって、将来絶東（＊極東）の事情が果してこのようなことに至るものだとすると、ロシア国は朝鮮をして一日も速やかにその保護国とすることが最も緊要である』と論じ、また『日本人が台湾の返逆者を圧服するのは大陸において清兵と交戦したことより困難となるだろう。なぜかというと、台湾の住民は勇敢であって黄色人種中の海賊より成立し、また共同一致の精神に涵養されているので、これを服従させることは決して容易な事業ではない。日本もこのためにその国力と時日を徒費する事になるだろう。
したがって今日はロシア国のためには朝鮮の問題を決するのに最も適合する好時機である、云々』
こう論じているが、惜しいかな、この新聞は従前の論説と同様で、朝鮮をロシア国の保護に属させる問題に関し公平な同盟諸国の意見を参考に供しないのである。現にフランス・ドイツ両国は本件に関しまだなんらの意見も吐露していない。いわんや英国のような徹頭徹尾ロシア国の反対に立つ国があるのである』
とこの新聞の説を批評している。
またグラジダニン新聞は絶東（＊極東）におけるロシア・フランス・ドイツ三国の共同運動に関し五月三十一日の紙上において、
「近頃フランス国の新聞中フヒガロ、ゴロア、ソレイエ、オトリテなどはしきりにフランス国の対アジア政略を論じ、いずれも同国外務大臣とロシア国に向って論駁を加え、アラット氏は全く他国のためたぶらかされ、自国固有の利益を忘却し、フランス国がロシア国のために尽した功績を利用する道をしらない。ロシア国はフランス国の義俠的行為に思いを致さず、ドイツ国と共にあくまで私利を営むのに急々としている。
またロシア国はフランス国が参同することを潔しとしない＜のキールに引招せり＞（＊九字不明）。ここにおいて実際上三国同盟を作り出したといっても、フランス国だけが笑うべく、かつ悲むべき地位に立っている。云々」
と論じ、ただロシア国を罪するだけでなく自国フランス政府の処置を非難したと列挙し、ノウオエ・ウレミヤ新聞などはこれを一時の政略的現象に過ぎないと憶断しているけれども、このような中心的な新聞、とくにフヒガロのような最も有名な新聞が前述の論説を掲載したのは多少輿論に配慮したのであろう。
そもそもフランス国はロシア国が最も信頼する友邦であってなおかつこのような状況である。いわんやその他の国々においてはおや、である。
ロシア国がもともと他国の応援にたよるのは大きい誤りであって、ロシア国は早晩絶東（＊極東）において孤立する時機が到来するだろう。
確かにロシア国は今日絶東（＊極東）において一時の勝利を博しているかのように思われるが、これは決して満足すできる時ではない。進んでこれまで通り孤立独歩の政策を継続し、益々その根據を強固にすることが目下の急務である、云々」と結論している。
またロシア外務省の機関紙であるジュルナルデ・サンペテルブール新聞は、絶東（＊極東）問題に関し容易に評論を掲げないでいるが、去る本月五日の紙上に次のような、台湾に関する記事を掲げ、その意向からみて日本に同感を表するもののようだ。
即ち「絶東（＊極東）からの来電によって、日本人か台湾島を占領している事情の詳細を知ることができた。五月二十八日日本の艦隊は同島の北方鷄龍港に到着したときは多勢の台湾人が同港に集合してその上陸を妨げようとして一時抵抗を試みたが、ただ人数の多いだけではどうしようもなく、日本軍によって砲撃され斃死するものも出、しばらくして潰走した。」
この電報によればこの一戦において殺された者三百余人、日本軍は一兵卒をも失わなかったという。
この一撃によって台湾共和政府は自ら転覆するだろうと思われるが、この騷乱に乗じ暴兵と無頼の徒は奪掠行為を乱行して内地の至るところが騒乱の有様を呈し、一方日本軍は鷄龍を占領した後直ちに内地に向って進軍した。
以上御参考までに抄訳して差し出します。 敬具
明治二十八年六月十二日
在露 特命全権公使 西徳二��
外務大臣代理 侯爵 西園寺公望 殿
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