mixiユーザー(id:988396)
2019年12月27日19:15
175 view
諏訪満男は私だ
「男はつらいよ お帰り寅さん」を封切で鑑賞。以下ネタバレを含みますからご注意ください。
冒頭、満男（吉岡秀隆）が走っている。昔ではない、現在の満男が。
それが若かりし頃、及川泉（後藤久美子）を追いかけてのシーンにカットバック。うなされる満男。娘（桜田ひより）は心配そうに「パパ、どうしたの？」。彼は夢を見ていたのだ。
そこで、タイトルロールが始まる。桑田佳祐が主題歌を歌う。
本作の予告編 https:/
桑田佳祐のテーマソングには賛否両論。確かにカブキすぎ、却って茶化しているようにも見える。ちょうど50年前の第1作、もちろん渥美清版に本作のタイトルを被せれば良かった。自分はそう思った。
というのも、山田洋次監督自身が寅次郎役にハナ肇ではなく渥美清を据えたのは、陰影の問題。渥美にはそれがありハナにはない。なれば桑田佳祐を持ってくるのは違うのではないか、と。
しかし・・・この件は後で。
満男は女房子供もいるのにサラリーマンを止し、小説家になった。娘はすくすく育って ー これがまた良い子なんだ ー 高校生だが、妻は6年前に病で亡くなっている。今日は柴又の実家で、その七回忌。
御前様が時間を間違え、遅れてやってくる。笠智衆から代替わりし、今は笹野高史である。
岡山から亡き妻の父（小林稔侍）、隣家の朱美（タコ社長の娘・美保純）も列席。工場は既になく、今はアパートが建っている。
車屋（とら屋）はもはや団子屋ではなく、元店員の三平ちゃん（北山雅康）が蝶ネクタイを結んで仕切っている。今は安い喫茶店だ。
時は経ったのである。
本作は、時の流れが1つのテーマだ。車屋の上がり框には手すりがつき、博（前田吟）は座椅子に座る。あぐらをかく、あるいは正座するのも年寄りには困難だ。
泉の父（橋爪功）はかつて、妻（夏木マリ）と泉を捨て、若い女と九州に逃げたけれども、病と加齢とで、今は三浦半島の介護施設で寝たきりである。そして泉は複雑な家庭に居場所がなくヨーロッパに渡り、現在UNHCR（国連難民高等弁務官事務所。先般亡くなった緒方貞子氏で有名）勤務。仏国の弁務官と会合で来日、そこではシリア難民のことが語られる。
満男がいやいやながら受けたサイン会、その八重洲ブックセンターで偶然再会するわけだ。
介護に ー 泉を通じて垣間見る「世界」 ー そして満男をほのかに慕う担当編集者（池脇千鶴）など、「今」がテーマの2つ目。
これらに再び生死不明となった寅次郎が、フラッシュバックする形。
若かりし博の、さくら（倍賞千恵子）への求婚や、例のメロン事件も。
第15作「寅次郎相合い傘」（1975）より。https:/
三浦の介護施設から泉とその母を車で送る満男。橋爪功が死んだらどうするかをきっかけに、後部座席で呑んだくれた夏木マリと後藤久美子は口論となる。互いに事情を抱えているから、直ちに結論は出せない。2人を宥める満男もまた、泉への想いや今後の生活で不安だらけだ。
本作は過去への単なるノスタルジアではない。今を生きる人が誰でも抱えている「リアル」を表し余りない。
寅さんも、そして昭和も二度と帰っては来ない。それでも寅次郎は言う。
「辛くなったら、いつでも俺の名前を呼べ」
ここで上記2つのテーマが重なる。過去と現在が交差する。
冒頭の桑田版に戻る。タイトルロールに桑田佳祐（今）を持って来、エンドロールで渥美寅次郎のオリジナル（過去）を使った山田監督の意図は、「苦しくても辛くても、前に進め」。寅さんを通じた、そんなエールではないか。
成田で泉と再び別れた満男は、意を決して新作を書こうとする。涙を流しながら。伯父さんを思いながら。
そんな諏訪満男は、過去を抱きながらも今を生きる、すなわち私たちなのだ。
男はつらいよ第1作（1969）オープニング https:/
※ちなみにラストシーンは、あの映画みたいです。詳しくは劇場でご覧ください。
ニューシネマ・パラダイス ー ラストシーン https:/
冒頭、満男（吉岡秀隆）が走っている。昔ではない、現在の満男が。
それが若かりし頃、及川泉（後藤久美子）を追いかけてのシーンにカットバック。うなされる満男。娘（桜田ひより）は心配そうに「パパ、どうしたの？」。彼は夢を見ていたのだ。
そこで、タイトルロールが始まる。桑田佳祐が主題歌を歌う。
本作の予告編 https:/桑田佳祐のテーマソングには賛否両論。確かにカブキすぎ、却って茶化しているようにも見える。ちょうど50年前の第1作、もちろん渥美清版に本作のタイトルを被せれば良かった。自分はそう思った。
というのも、山田洋次監督自身が寅次郎役にハナ肇ではなく渥美清を据えたのは、陰影の問題。渥美にはそれがありハナにはない。なれば桑田佳祐を持ってくるのは違うのではないか、と。
しかし・・・この件は後で。
満男は女房子供もいるのにサラリーマンを止し、小説家になった。娘はすくすく育って ー これがまた良い子なんだ ー 高校生だが、妻は6年前に病で亡くなっている。今日は柴又の実家で、その七回忌。
御前様が時間を間違え、遅れてやってくる。笠智衆から代替わりし、今は笹野高史である。
岡山から亡き妻の父（小林稔侍）、隣家の朱美（タコ社長の娘・美保純）も列席。工場は既になく、今はアパートが建っている。
車屋（とら屋）はもはや団子屋ではなく、元店員の三平ちゃん（北山雅康）が蝶ネクタイを結んで仕切っている。今は安い喫茶店だ。
時は経ったのである。
本作は、時の流れが1つのテーマだ。車屋の上がり框には手すりがつき、博（前田吟）は座椅子に座る。あぐらをかく、あるいは正座するのも年寄りには困難だ。
泉の父（橋爪功）はかつて、妻（夏木マリ）と泉を捨て、若い女と九州に逃げたけれども、病と加齢とで、今は三浦半島の介護施設で寝たきりである。そして泉は複雑な家庭に居場所がなくヨーロッパに渡り、現在UNHCR（国連難民高等弁務官事務所。先般亡くなった緒方貞子氏で有名）勤務。仏国の弁務官と会合で来日、そこではシリア難民のことが語られる。
満男がいやいやながら受けたサイン会、その八重洲ブックセンターで偶然再会するわけだ。
介護に ー 泉を通じて垣間見る「世界」 ー そして満男をほのかに慕う担当編集者（池脇千鶴）など、「今」がテーマの2つ目。
これらに再び生死不明となった寅次郎が、フラッシュバックする形。
若かりし博の、さくら（倍賞千恵子）への求婚や、例のメロン事件も。
第15作「寅次郎相合い傘」（1975）より。https:/三浦の介護施設から泉とその母を車で送る満男。橋爪功が死んだらどうするかをきっかけに、後部座席で呑んだくれた夏木マリと後藤久美子は口論となる。互いに事情を抱えているから、直ちに結論は出せない。2人を宥める満男もまた、泉への想いや今後の生活で不安だらけだ。
本作は過去への単なるノスタルジアではない。今を生きる人が誰でも抱えている「リアル」を表し余りない。
寅さんも、そして昭和も二度と帰っては来ない。それでも寅次郎は言う。
「辛くなったら、いつでも俺の名前を呼べ」
ここで上記2つのテーマが重なる。過去と現在が交差する。
冒頭の桑田版に戻る。タイトルロールに桑田佳祐（今）を持って来、エンドロールで渥美寅次郎のオリジナル（過去）を使った山田監督の意図は、「苦しくても辛くても、前に進め」。寅さんを通じた、そんなエールではないか。
成田で泉と再び別れた満男は、意を決して新作を書こうとする。涙を流しながら。伯父さんを思いながら。
そんな諏訪満男は、過去を抱きながらも今を生きる、すなわち私たちなのだ。
男はつらいよ第1作（1969）オープニング https:/※ちなみにラストシーンは、あの映画みたいです。詳しくは劇場でご覧ください。
ニューシネマ・パラダイス ー ラストシーン https:/
4
0
ログインしてコメントを確認・投稿する