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2017年03月23日06:25

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◆ やっぱりマイナス金利は「毒薬」だった  日銀は「敗戦の教訓」から学んでいない

◆ やっぱりマイナス金利は「毒薬」だった  日銀は「敗戦の教訓」から学んでいない

【東洋経済オンライン】 03/23
中原 圭介:経営コンサルタント、経済アナリスト




 日銀によりマイナス金利が導入されて、1年余り経ちました。

昨年2月1日の記事「マイナス金利は『劇薬』というより『毒薬』だ」(http://toyokeizai.net/articles/-/103000)では、銀行の収益悪化を招くことをはじめ、数々の副作用が起こるという予測を述べたうえで、経済の本質や流れをまったく理解できていない愚策であるという見解を述べさせていただきました。



 実はその記事を書いた直後に、テレビ朝日の朝の情報番組のディレクターから、マイナス金利の特集をするので基礎的な知識を教えてほしいという依頼を受けました。

そこで私はマイナス金利の弊害について、初心者でも理解できるように論理的かつ丁寧に、2時間くらいかけて記事の内容をかみ砕いて説明させていただきました。



 ところが驚いたことに、実際の番組ではリフレ派の大学教授が解説役をしていて、「マイナス金利は正しい政策です」「銀行の収益は逆に増えます」といった、まったく理解不能なことを主張していたのです。

コメンテーターの2人から「そんなわけがない」と突っ込まれても、論理的な理由をまったく示さずに、「とにかく、そうなのです」と押し切っていたところに、リフレ派の学者に共通する合理的思考力の欠如を見せつけられた気がいたしました。





● 利ザヤが稼げない銀行の決算はやはり悪化


 あれから1年が経過し、実際に銀行の決算はどうなっているのかというと、先日発表された大手3メガバンクの2016年4〜12月期の決算はいずれも減益となっています。

地方銀行の決算も7割以上が減益に陥っています。

多くの銀行が説明しているように、減益の主因となっているのは、日銀のマイナス金利政策によって利ザヤが稼げずに、収益が落ち込んでいるためです。



 そこでメガバンクや地方銀行は、収益の落ち込みを回避しようと外国債券(主に米国債)への投資を積み増しましたが、そのような行為も裏目に出てしまっています。

トランプ大統領が行う経済政策への思惑から米国の長期金利が急上昇し、含み損を抱える状況に陥ってしまっているのです。



 例えば、3メガバンクの2016年9月末の外国債券の含み益は7000億円近くあったのですが、12月末には3000億円超の含み損に転じてしまっています。

含み損の外国債券を売却しなければ、利益が減るということはないのですが、トランプ政権による大型減税やインフラ投資の行方次第では含み損が膨らみ、損切りも迫られるかもしれません。



 メガバンクも地方銀行もこういった将来の大幅な減益要因を抱えているうえに、リスクのある貸家への融資に傾斜しているという問題点も有しています。

所有する土地に貸家を建てて相続税の評価額を下げるという節税法はよく知られていますが、2015年1月に相続税の増税がなされたことに加え、日銀のマイナス金利政策で借金を容易にできるようになったため、貸家ローンの増加に拍車がかかっているのです。



 2015年の新設住宅着工戸数は90万9299戸と前年比で1.9%増になったのに続き、2016年は96万7237戸と前年比で6.4%増と大幅な伸びが見られました。

これは、持ち家となる一戸建て住宅は3.1%しか増えていなかったのですが、貸家となるアパートなどの集合住宅が10.5%と大幅に伸びていたためです。

少なくとも2016年までは、銀行が普通の住宅ローンに比べ貸出金利が高いアパート・マンション向けの融資を積極化していたのです。





● 貸家への融資が不良債権予備軍に


 これから人口が数十年にわたり減少し続ける日本では、節税目的の貸家建設が需要と供給のバランスを大きく崩す要因になることは間違いありません。

全国ではすでに820万戸の空き家があり、その半数以上は貸家となっています。

ただでさえ今後も空き家の増加ペースは加速していくというのに、マイナス金利を生かした貸家の供給が進むことになれば、さらに空き家が増えて家賃が大幅に下がることは避けられないでしょう。



 そういうことになれば、融資の返済原資である家賃収入が落ち込み、節税効果よりも融資の返済負担が重くなるような本末転倒なケースが続出することになるでしょう。

銀行にとってみれば、将来の需給を無視して貸し込むことによって、将来に発生する不良債権の予備軍を増やしているといえるかもしれません。



 ところが、日銀の黒田東彦総裁は当初、マイナス金利の代表的な効果として貸家建設の増加を取り上げていました。

「副作用」を「効果」と取り違えていたのです。

さすがに今年に入って、日銀もようやく副作用のリスクを認め始めたようであり、日銀幹部の中でも「貸家の急増は、将来の経済にマイナスに働く」という認識が共有されるようになっています。

今のところ、民間需要で最も活発なのは住宅投資ですが、それが貸家の増加によって支えられているという現実は、長期的に見れば決して喜ばしいものではないわけです。



 銀行と同じように、16年4〜12月期の生保決算も総じて減益となっています。

低金利で利息収入の目減りが響きました。

円建てで負債を抱える生保においては、日本の国債への投資が運用の基本です。

ところが、マイナス金利政策の導入によって、その運用の柱である国債にはもう頼れなくなっているのです。

多くの生保はこれまでの商品や運用の考え方の見直しを迫られています。



 こうした生保の経営姿勢の変化は、家計への負担増および運用先の減少につながります。

実際に多くの生保では、個人の退職金の運用先として人気がある一時払い終身保険などの保険料を引き上げたり、販売を取りやめたりする動きが本格化してきています。

高校や大学での教育資金を確保するために入る学資保険までもが、販売を縮小する動きが広がってきているのです。



 そこへ持ってきて、企業の負担も重くなってきています。

マイナス金利によって年金や退職金の企業負担が重くなり、企業収益を圧迫しているからです。

企業は将来の年金や退職金の支払いに備えて、必要な金額を退職給付債務として計上し用意しておかねばなりません。

ところが、全般的に金利が下がることで、将来の支払いとして用意すべき金額が増えてしまっているというわけです。



 2016年3月期の決算以降、退職給付債務が増えたことで特別損失を計上する企業が続出しています。

2016年3月末の時点で、上場企業の退職給付債務が91兆円と過去最大に膨らんだことでも、今後の業績の重荷になるのが避けられない情勢にありそうです。

その後、量から金利への新しい金融緩和の枠組み変更や、トランプ政権誕生による米国金利の上昇で、状況はやや和らいだかに見えますが、年金制度が瓦解しかねないリスクを抱えていることは確かでしょう。



 そこで懸念されるのは、マイナス金利政策によって、年金制度に深刻な打撃が与えられるということです。

長期金利がゼロ水準まで下がることによって、これまでのような安全な運用が困難に直面しているからです。

企業向けでも利回りの高い保険商品が値上げや販売停止になるばかりか、安定志向の企業年金の運用は立ち行かなくなる可能性も想定されるのです。



 ただでさえ国民には年金不安があるというのに、運用の不振により年金不安はいっそう高まり、それは日本人の貯蓄性向をますます高める契機になるでしょう。

日本の年金制度を信用していない現役世代の大半は、老後の生活がますます心配になったといって、これまで以上に貯蓄に励むようになるのではないでしょうか。





● 軌道修正できなかった太平洋戦争の「二の舞い」に


 長期的な視点を欠く行き当たりばったりのマイナス金利政策に、銀行も生保も企業も国民も翻弄された1年となりました。

現代の経済システムは、気が遠くなるほどの長い年月をかけて、金利が必ずプラスになるという前提で構築されてきています。

そういった常識を踏み外した政策が、最初から毒薬になることはわかりきっていたというわけです。



 4年近く続いている量的緩和にしても、1年を経過したマイナス金利にしても、うまく機能していると考えている日銀関係者は、今となってはほとんどいないでしょう。

とりわけマイナス金利で認められた効果は、円高と株安をある程度は食い止められたということだけであり、経済全体としては副作用があまりに大きすぎたと言わざるをえないのです。



 ここ数年の日銀を見ていてつくづく思うのは、太平洋戦争の教訓をまったく生かしていないということです。

日銀幹部の誰もが政策の方向性が間違っているとわかっているにもかかわらず、大幅な軌道修正をできなくなってしまっているからです。

これでは、敗戦の「二の舞い」になるのではないでしょうか。

経済全体を危険な方向へと導いてしまうのではないかと、非常に心配しているところです。




      ◇◇◇
中原 圭介(なかはら けいすけ)
経営コンサルタント、経済アナリスト

経営・金融のコンサルティング会社「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリストとして活動。
「総合科学研究機構」の特任研究員も兼ねる。
企業・金融機関への助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済教育の普及に努めている。
経済や経営だけでなく、歴史や哲学、自然科学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析しており、その予測の正確さには定評がある。「もっとも予測が当たる経済アナリスト」として評価が高く、ファンも多い。
主な著書に『2025年の世界予測』『シェール革命後の世界勢力図』『経済予測脳で人生が変わる!』(いずれもダイヤモンド社)、『これから日本で起こること』『これから世界で起こること』『アメリカの世 界戦略に乗って、日本経済は大復活する!』(いずれも東洋経済新報社)、『トップリーダーが学んでいる「5年後の世界経済」入門』(日本実業出版社)、『未来予測の超プロが教える 本質を見極める勉強法』(サンマーク出版)など著者多数。
連載記事一覧  http://toyokeizai.net/category/nakahara-future
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