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草乃葉親子に別れを告げ、おばさんから座標を教えてもらい、過去へ戻れるという施設『導きの園』へと向かった。
サトウさんからもらった小型飛行機、初のお披露目だ。
スティックのりのようなカプセルのスイッチを押して投げたら、白煙と共に、一人乗りの飛行機がその場に現れたので、思わず後ずさった。
中学生の俺に、こんなの操縦できるのかとも思ったが、ゲーセン通いの思春期世代ならもしろ何の問題もない、操作レバーを持ち、ペダルを踏むだけの簡単な操作だった。
コンソールのスイッチも最低限のものしかついていないので、どれがどのスイッチか迷う心配もない。
離陸はほんの一瞬、神器ほどのスピードはムリだが、最大速度で飛ばせば、ハワイ旅行が往復5時間もかからんくらいで済みそうだ。
DDD団ってすげえもん作るんだな…ノアの技術はホームホルダーが独り占めしたって話だが、あの独立団体もノアの技術をかじってるのだろう…コーガクリスタルの改修といい、一体何者なのか深く考えたら頭が痛くなりそうだ。
導きの園は、アフリカの南西より高度約50kmほどに位置する、成層圏界面付近にその入り口があった。
空ってのは、上に登るほど気温が低くなると思われがちだが、そいつは対流圏を抜けるまでの話だ。
成層圏にはオゾン層があるからな。
太陽の紫外線を吸収するオゾン層がある成層圏じゃ、むしろ気温が急激に上がるんだ。
対流圏を抜けるまで外の気温はマイナス70度を記録していたが、導きの園の入り口に到達してからは、マイナス3度にまで落ち着いていた。
モカは単身でここに来たのか。
神器は、コンバットスーツと同じく身を護るプロテクション効果があるので、極寒の空の中でも耐えられたのだろう。
俺のコンバットスーツはそもそも飛行能力がないので飛行機じゃないと行けないが。
導きの園が地上でなく、空にあったわけだが、俺は別の事実に驚いていた。
何もない空のキャンバスを埋める呆れるほど巨大な施設のほんの入り口を見て、思考が一瞬停止した。
現実の話じゃないのだが、この世界に来る前…データックファイターでプレイしたゲーム「スティルアライブ」にあった導きの園の外観とまったく同じだったからだ。
あれはただのゲームだったはずだろ、なんで未来のこんな場所にまったく同じ施設があるんだよ…。
一国分の広さは余裕でありそうな巨大な円盤のような入り口に吸い込まれると、飛行機のハッチを開け、天空の地に足を下ろした。
寒い…上着を持ってきちゃいたが、それでも寒すぎる。
中は無人で、全てコンピューターで管理されてるようだ。
最上階直通の巨大エレベーターがあった。
監視カメラのようなもので見られているような気がする…俺がここに来たことは先方もお気づきのはずだ。
最上階が地上何メートルか分からない、下手すりゃ宇宙空間一歩手前まで行くかもしれないな。
ポケットからお守りを出した。
霊が存在しているのは、空気中だけだ。
中間圏を抜けたところまで行ってしまえば、霊能力は使えない。
コンバットスーツがあるから大丈夫だが、力の一つが使えなくなるというのは若干抵抗があるな。
ここまで来た以上、四の五の言ってもはじまらない、過去に戻って創世王を倒さないといけないんだ。
エレベーターに入り、上昇ボタンを押した。
――――――――
【20XY年? ルークバンデット】
太陽系の第3惑星では「時間」と名づけられた1次元の構造体がまとわりつく重力の束縛から逃れ、天に聳(そび)え立つ中立施設「導きの園」の地に一人の来訪者が現れたのを、ルークは確認した。
何者かがここにやってくる。
電子音が伝える報告に、微かに訝ってみせた。
どの時間軸から?
最初に浮かんだ疑問はそれだった。
モニターを睨んでいた管制官からの報告に耳を傾け鼓膜から脳に情報を流し込む。
過去・未来・今を持たないこの地と違い、時間の概念を持った連中は、様々な時間軸からこの地を訪れる。
導きの園の存在は、全ての時代に共通しているわけではない。
成層圏を抜け、この地へやってくるのは、限られた時間軸のごく僅かな人間だけだ。
最後にここを訪れたのは、ノアが誇る3種が神の器の纏い手。
フリーシーを操る真紅の狩人、時間から逃れた我々と違い、時間軸を支配するホームホルダー曰く、駆逐されるべき卑しき獣……柊真紅と名乗った少女が最後だったのを覚えている。
「XX年からの来訪者…照合中…出ました。御堂玉助14歳。頃賀市の人間です」
「頃賀市だと?」
ルークの左のこめかみが僅かに動いた。
思考を巡らせ、脳内にインプットされたXX年に至るまでの兆候を順に辿る。
「……あの時代の頃賀市の人間は既に息絶えていたはずだ」
始まりの時代…
ブラックサンがガメデスを導き、頃賀市に現れてから以降の時代は、いずれの並行世界もサンの支配下…ホームホルダーが真っ先に制圧した頃賀市の住民は一人たりとも生きてはいないはずだった。
しかし、ホームホルダー結成、頃賀市にノアの高等民を移住してから19年の時を経たXX年から、今、頃賀市の人間がやって来たのだという。
ルークは来訪者に興味を持った。
そもそも神器も持たない一個人の科学力で、どうやってここまでたどり着いたのか。
過去から未来におけて、傍観するのみで、一切の介入は許されない中立施設の同胞、マイクミーシャに静かに命令を下した。
「通しなさい」
両扉のキーが解除されると同時に、通路が動き、来訪者をこの場へ導く。
現れたのは、汚れた衣服を纏った、一人の少年だった。
この少年が…御堂玉助か。
「すげえな、こうもすんなり通してくれるとは思わなかったんで驚きだ…日本語わかりますか?」
御堂は体制を低く構え、正面からルークを見つめていた。
その瞳からは一部の隙もうかがえない。
見覚えのある瞳だった…あれは、そう、最後にここを訪れた少女、柊真紅と同じものだ。
地獄の時代…XX年の死線を潜り抜けただけにしては補足が足りない。
御堂の固く握られた手に宿るものを室内のセンサーが感知した。
「…フォースか、驚いたな。御堂玉助さん…でよろしいかな?」
御堂は軽く顎を動かし、肯定の意を唱えた。
「単刀直入に言います。俺を過去に戻してください」
フォースの輝きが微かに増したのを感じた。
この少年も同じか。
真紅の狩人と同じ言葉、同じ信念を持った人間が再びこの地の扉を叩いた。
ルークは彼の言葉の返答は言わず、代わりに鋭い声を投げた。
「この地へ来る時は、決して大きな家のドアは叩いてきてはいけない…意味がわかるかね?」
御堂は一瞬呆けたような顔を見せたが、その間も目線はルークから切らなかった。
…実戦訓練を重ねている、中立施設の長、ルークバンデットは直感でそう感じ取った。
「…タイムパラドックス。子供が過去に行って自分の親を殺すように、時間の流れに矛盾を与えることは許されない…大きな家は4次元時空、ドアは一次元の構造体ってところか?けど、生憎だけど、既にタイムワープ済みなんだよ、俺は過去に…元の時代に戻りたいんだ」
ルークの両目が大きく開かれた。
息絶えたはずの時代から頃賀市の人間がやってきた疑問がその一言で繋がった。
既に異なる時代から来ていたのか…
単体でのタイムウォークはこの導きの園における最重要のブラックボックス。
ノアの高技術を搾取したホームホルダーですら不可能のはずなのに、この少年は一体どうやって異なった時代からXX年にまでやってきたのか。
ルークは質問を唱えた。
「御堂さん…君はどうやってXX年の時代にやってきたのだい?」
「DDD団部長のサトウって人に誘われたんだ。頼む、俺を元の時代に戻してくれ、そのためにここまで来たんだ!」
サトウタカシ…導きの園に属し、独立行動を許された特殊団体DDD団。
我が盟友『ビンセットシュガー』の血縁を持った者が、フォースを宿した頃賀市の人間を地獄の未来へと誘ったのか。
「御堂さん…あなたの元いた時代は、現在、ホームホルダーの艦隊が押し寄せ惨劇が繰り広げられている状態なのをご存知ですか?」
「…ああ、知ってるさ」
「それでも元の時代に戻りたいと?」
「……創世王を倒すのさ!」
ルークの双眸が再び開かれ、目の前の少年の気迫を読み取った。
その表情が、XX年の時間軸における一つの希望…聖母・柊なゆたの顔と重なった。
絶望の時代の中、空を駆け、最後の最後まで抗い…そして果てて行った哀れな女。
そして、最後にここを訪れた紅狗フリーシーの纏い手、柊真紅と同じ言葉を彼も口にしている。
真紅は、この地より御堂の時代へと旅立って行った。
創世王ブラックサン。
ホームホルダーの大いなる財産、時間城に君臨し、地上を支配する絶対的な王者。
いかなる時代においても、彼の存在から、共存の輪を繋げることは許されない。
統治された地球で、寿命を数字で管理された、希望のない計算された世界。
作り物の世界の中では、いつの時代も人はそれを『世界征服』と呼んでいた。
いかなる干渉も許されない中立施設、導きの園は一切の手出しは出来ないが、特例として柊真紅をブラックサン降臨の時代に送り届けた。
今、再び禁忌を犯せというのか。
マイクミーシャに視線を移す。
ブラックサンの存在を望むものか否か…中立の立場を除いたマイクの瞳は、真紅の時と同じ『否』だった。
…創造された時間軸を塗り替える希望になるやもしれない。
行かせてやろう、静かに目で語りかけていた。
ルークは、微かに溜めていた息を吐き出すと、御堂に宣言した。
「…我々は、一切の干渉は出来ない。そうでなくとも、創世王の力は絶対的です。中立施設であるがゆえにこの地は手を下されないまでに過ぎない。ですが…元々あなたのいた時代です。我々はあくまであなたを元いた時代に送り帰すだけ…それでよろしいかね?」
「ああ」
ルークは部下に告げ、単体で時間を飛べるユニットまで御堂を案内させた。
御堂が去り際に振り返り、頭を下げてきた。
「礼など不要です。あなたを本来いる時代に戻すだけに過ぎない」
御堂は踵を返し、オペレーターの案内の下、ドアを抜けるところだったが、ふとルークが呼び止めた。
「なんです?」
「…今から言う言葉は私の独り言に過ぎない…大量虐殺による人口管理、やり方は残酷だが…爆発的に数が膨れ上がった地球をそれで維持できているのも事実だ。私は一概にサンのやり方を否定することは出来ないと思っている。柊なゆたが唱える、共存の道など…理想ではあるが、所詮は綺麗ごとに過ぎん。君はそれでも、サンを倒すというのかね?」
返答に窮すと思っていた。
だが、ルークの予想に反し、御堂は軽く笑ってあっさりとルークの言葉を肯定し…そして否定した。
「何言ってんだよ。綺麗事だからいいんだろ?汚い現実より、綺麗ごとを現実にしちまった方がよっぽど良いに決まってんじゃねえか…それにな」
推理小説で探偵役が犯人を名指しするように。
御堂は人差し指を導きの園の長に突き立て、一言で締めくくった。
「人の命は地球の未来だろ」
第六章その8へ
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第六章その6(前回)へ
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