私の名前は川口民雄。子どものころから、周囲から浮いていた。学校の成績は低空飛行で、お情けで卒業させてもらった。小学校低学年のころからごく普通に生きられないと堪忍した。なんでみんなと同じことができないのだろうか。学校時代の運動会、学芸会、展示会、修学旅行で、周囲のクラスメートと同じ行動をとるのに、非常に神経を使った。仕事をいくつか渡り歩き、発達障害を支援するNPOで働いている。大人になって、検査を受け、結果で、読み書きはかなり厳しいことがわかった。発達障害当事者は別に努力して、普通に見せようとしても、無理である。例え給与は低くとも、暮らしていければ、文句はない。この仕事は自分に向いているようだ。発達障害トラブルシューティングが仕事になった。
佐々木勤務のファミレス、一室で、森井淳子と佐々木稔が打ち合わせ中。
佐々木
「森井さん、川さんと並木さん、来るかな」
森井
「来るって、行ってから大丈夫でしよ」
佐々木
「あの二人のことだから、直前によほどのことがないと、断らないと思うけどね。当日になるまで心配なんだ」
森井
「教え子から声をかけられて、嬉しくない元講師はいませんよ」
佐々木
「サクラ学院が閉校したときは二人とも逃げまくっていたけどね」
森井
「川口先生はけっこう相談に来ますよ。毎年、一回ぐらい来るかな。並木先生はごぶさただけど。会いたいわ」
佐々木
「俺も会いたいよ。正月になると、気持ちを新たに、仕事やろうと思うんだ。そのとき、苦しかった大検受検のころが浮かんできて、さあ。今、サクラ時代の友だちが何人か、このファミレスを贔屓したもらっているんだから」
森井
「私も、あのころの友だちが何でも、本音が言えるから、大切にしているの。川口先生と並木先生は親身になって話、聞いてくれたでしょ。普通の学校ではありえませんからね」
佐々木
「そうだよね。AIとか、なんとか言って、学校はオンラインになっているけどさあ。最後は人間だよ。お客さん相手の仕事だから、人を大切にしたいんだ」
森井
「それが、一番大切なんです」
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