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2023年08月05日22:52

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【小説感想】最果てのパラディン　Ⅰ～Ⅳ

柳野かなたの小説『最果てのパラディン』Ⅰ～Ⅳを読んでみたので、その感想。この感想はネタばれありです。

かつて滅びた死者の街。そこには１人の生きた子供が存在した。人生の落伍者となり、何もできずに死を迎えた記憶を持ち、無力感に苛まれる少年ウィル。そんな彼を育てるのは、３人のアンデッド。豪快な骸骨の剣士、ブラッド。淑やかな神官ミイラ、マリー。偏屈な魔法使いの幽霊、ガス。
彼ら三人に教えを受け、愛を注がれ、少年は育てられる。解き明かされてゆく、死者の街に秘められた、不死者たちの抱える謎。善なる神々の愛と慈悲。悪なる神々の偏執と狂気。その全てを知る時、少年は聖騎士への道を歩みだす。
(公式ホームページより抜粋)

2021年に放送されたアニメ版を視聴したが、アニメが想定以上に良かったので刊行されてる原作小説を全巻購入してみた。元々、小説家になろうに掲載されていたもので、なろうの異世界転生モノだが、異世界転生系の小説を読むのは今回が初めてだったりする。

物語はある男性のモノローグから始まる。その男性は引きこもりで惰性で生きていたが、人生を終えてしまった。その際に灯を見た。
目覚めると赤子の姿になっており、自分が異世界に転生したことに気付くが、赤子を育てていたのは屈強なスケルトンの「ブラッド」、聖女のミイラ「マリー」、幽霊の老人「ガス」。
赤子は「ウィリアム」（通称：ウィル）と名付けられ、三人の死者の手で育てられて成長していく。

ウィルは赤子から少年へ成長を遂げ、ブラッドから剣術と狩りを、マリーから神に祈り加護を得る力〈祝祷術〉を、ガスからは魔法を発動する呪文〈ことば〉を教わり、自分がいる場所や子の異世界に存在する魔法を知っていく。
ウィルが育った地は死者の街と呼ばれる廃墟で、この異世界では様々な神が存在し、15歳で成人を迎えると守護神を定めて守護を求める習わしが存在している。

ウィルが15歳になり、ブラッドと本気で剣の稽古を付けられた後、ブラッド、マリー、ガスから三人の過去を教えられた。
彼らは生前悪魔（デーモン）の上位存在〈上王〉と戦い、辛くも封印に成功するが、時間稼ぎにしか過ぎなかった。そこに現れたのが不死神「スタグネイト」。善の側に属しながらも道を違えた不死神はブラッド達に契約を持ち掛ける。
三人はスタグネイトと契約して不死者（アンデッド）へその身を変え、〈上王〉を200年間封印し続けてきた。
悪魔が〈上王〉の生贄として死者の街に連れてきたのが、赤子のウィルであった。

ウィルがブラッド達の過去を知った直後、スタグネイトが出現。スタグネイトはブラッド達の魂を入手して完全なしもべにするためにずっと待ちわびていたが、ウィルにも興味を持ち始めて、ウィルに不死者にならないかと誘い、冬至の日まで待つと言って姿を消した。

ウィルはブラッド達に自分が転生者であると告白。前世で両親に対して何もしてやれなく死別し、今の生では育ての親を守れない自分はクズと自嘲するが、マリーの平手打ちが炸裂した。マリーの言葉でウィルは奮起してスタグネイトと戦うことを決意。

スタグネイトと対峙し、尚も眷属にならないかと誘うスタグネイトを一蹴してウィルはスタグネイトの操るアンデッドを相手に剣を構えた。
スタグネイトは人間の心を揺さぶり言葉巧みに契約を持ち掛ける悪神の類ではあるが、悪神と化した心情も書かれ、世界には悲劇が多すぎる。それ故にあらゆる魂を不死にして永遠の静寂を築こうとしている。
そんな不死神の企みを打ち砕こうと立ち向かっているのが死者に育てられた生者の少年というのも皮肉が効いている。

だが、ウィルはスタグネイトの操る蛇の牙に噛まれ倒れ込んでしまった。朦朧とする意識の中、ウィルは気付くと星空の下である神に出会った。
それは前世で死んだ直後に出会っていた灯火の女神「グレイスフィール」である。
ウィルは前世で死んでいないだけの人生を送ったからこそ、この世界で生きたいと願い、グレイスフィールはウィルの願いを聞き届け、彼の守護神になることを宣言。

ウィルはグレイスフィールの加護を得て息を吹き返し、グレイスフィールの祝祷術、死者の魂に安らぎを与える力によってアンデッドを消滅させていく。
ウィルはブラッドから与えられた剣≪食らい尽くすもの≫をスタグネイトに突き立てて、戦いに勝った。
ウィルに倒されたスタグネイトは現世に神が出現するための≪木霊≫、いうなれば分身であるため、本体は健在でもある。

ウィルはブラッド達と勝利を祝うも、契約を結んでいたスタグネイトが倒されたことで別れの時が近付いていた。
親との別れに留まって欲しいと願うウィルだったが、ブラッドとマリーはウィルを諭して抱きしめる。
その晩、ウィルはブラッド、マリー、ガスと初めて酒を飲みかわし、死者は輪廻へ還っていった。

翌日、ウィルはマリーとブラッドの墓を作ったが、ガスは現世に留まっていた。
ガスはグレイスフィールの許しを経てスタグネイトが復活するまでの間、十年間現世に留まることが可能となっていた。
ウィルは装備を揃えて旅支度を行い、両親に因んで自分の姓をマリーブラッドと名乗り、それにガスのGをミドルネームに加え、孫を見送るガスを背にウィルは外の世界へと歩き出した。

Ⅰの巻末には番外編「夢の積み木」も収録。生前のブラッド、マリー、ガスが主役で悪魔≪バフォメット≫と戦う話だが、ブラッドは子供が生まれたらウィリアムと名付けたいと、ウィルの由来も明かされている。

魔法が存在する異世界に転生した主人公の話だが、異世界転生系の話というのを忘れるくらいハイファンタジーとしても良質な物語で、前世で良い人生を送っていなかったからこそ、現世では恥じぬよう生きようとする少年の姿に心打たれるものがある。

筋骨隆々（骨だけだが）で豪胆なブラッド、厳しくも優しいマリー、偏屈で守銭奴なガスと死者の種類、性格もバラバラだがウィルを実の家族として接する姿は血が繋がっていないが、本当の家族であると思わせてくれる。
幽霊譚は生者と死者の別離こその美しさにあると個人的には思っているが、本作でもウィルと育ての親の別れには涙なしには読めなかった。

続くⅡ 獣の森の射手では死者の街を離れたウィルが外の世界を知り、新たな出会いも書かれている。

生まれて初めて故郷を離れて旅を続けるウィルは狩人の少年「メネルドール」（る通称：メネル）と出会う。メネルはハーフエルフの美少年で、ウィルがいる現在地はこの世界での人類最南端の地、≪南辺境大陸≫の≪獣の森≫であるとメネルから知らされた。
メネルと別れた後、ウィルはグレイスフィールから啓示を与えられた。死体や血のビジョンを見たウィルは近隣の集落に向かうが、メネルこそ襲撃者の主犯であった。

ことばの力でメネルを拘束するウィルだが、メネルが引き連れていたのは集落の隣村の住人であった。
隣村は悪魔の攻撃で壊滅。生き残った村人も食うに困った状態のため、やむを得ず略奪行為に走ったのであった。
加害者となってしまった隣村の住人の処遇を巡って紛糾する中、ウィルは金で解決を提案。あがないの銀=賠償金を村人に支払い、ウィルは悪魔退治に乗り出して用心棒としてメネルも雇うことになった。

隣村に赴いたウィルは悪魔とその配下である魔獣≪マンティコア≫を討伐。メネルの知り合いの少年と遭遇するが、彼は既にこの世の人間ではなく、悪魔の攻撃で上半身しか残らずアンデッドと化していた。アンデッドに成り果ててもなお、メネルが来ると信じていた痛ましい有様だったが、ウィルが祝祷術で少年の魂を輪廻へと送った。

メネルが世話になった「マープルおばあさん」も幽霊となっていたが、ウィルはマープルからメネルを頼むと言われ、未練が消えたマープルは現世を去った。
メネルはハーフエルフとは言えども人間よりも長命で、大切な人から先に逝ってしまうのを体験したメネルはその気持ちを打ち明けるが、ウィルはメネルの為に祈った。

メネルの過去も語られ、エルフの森≪エリンの大森林≫で生まれたが母を早くして亡くし、エルフと人の混血という出自ゆえにエルフの世界にもなじめず、故郷を飛び出すが人の世界も楽園でないと思い知らされた結果、冒険者としての道を歩んでいた。
冒険者の生活も安堵できず仲間に毒殺されそうになり、行きついた先がこの村で、マープルに拾われていた。

ウィルはメネルからこの世界の歴史も教わり、ブラッド達が生きていた頃は人間、エルフ、ドワーフが共存する平和な時代であったが、悪魔の襲来でその秩序は崩壊。
北の大陸≪草原の大陸≫も群雄割拠の時代に突入していたが、南西部に属するファータイル王国が≪南辺境大陸≫の再開拓を掲げ、再び人類が再進出する土地となり、≪白帆の都≫が入植の中心地となっていた。

ウィルとメネルは≪獣の森≫を歩いていると悲鳴を聞きつけ、巨大な狼に襲われている行商人「アントニオ」（通称：トニオ）と小人族「ロビィナ」（通称：ビィ）を見つけ、ウィルは狼を追い払った。
ウィルとメネルはトニオ、ビィの護衛として行商の旅に同行し、行く先々の村でビィが歌い踊り、その側でトニオが商売を始めたが、ウィルもことばの力を使い、無償でで怪我人を治療した。
ビィが宴でかつての英雄の武勇詩を歌ったが、それは≪上王殺し≫の三英傑であり、ブラッド、マリー、ガスのことであった。
ウィルの育ての親である三人が数百年経過してもその武勇が語り継がれていることにはグッときた。

行商人という性分からか情報にも明るいトニオからファータイル王国の王弟である「エセルバルド」が≪南辺境大陸≫の開拓責任者に就いていると聞かされた。

ウィル達は≪白帆の都≫に辿り着き、ウィルは神殿に向かった。神々が存在する世界では神殿で各個人が崇める神に対して祈っていた。
神殿の責任者であるバグリー神殿長は仏頂面でウィルもぞんざいに扱った。

そんな最中に街に飛竜が襲来し、ウィルはメネルと協力して飛竜に立ち向かい、短槍≪おぼろ月≫を突き刺した。致命傷を負っても悪あがきで火を噴こうとする飛竜に対してウィルは飛竜の首を絞めてその骨をへし折った。
飛竜退治の功でウィルはエセルバルドとの対面を果たす。ウィルは魔獣退治を申し出た。
それに対してもバグリーよく思わず、文句をウィルに言うような俗物的な態度を隠さないが、バグリーは神々からの加護は無償ではなく、加護を授ける神の意向に沿わなければならないという考えの持ち主で、小物のように見えて芯の強さを持った人間でもある。

ウィルはエセルバルドから聖騎士の称号を与えられ、ここに≪最果てのパラディン≫が誕生。タイトル回収のある熱い展開でもある。

冒険者達のたまり場で魔獣退治の冒険者を集うが冷やかされてしまう。
そこに髭面の冒険者「レイストフ」がウィルに賛同。
ウィルの怪物退治には目的があり、怪物退治→地域の安全に繋がる。ひいては商人の出入りが増えて経済も発達すると考えたものであった。
ウィルはレイストフ達を引き連れて魔獣退治に向かうが、山羊、獅子、蛇の三つの頭を持つキマイラが待ち構えていた。
キマイラとの戦いでメネルが負傷し、ウィルは怒りにまかせて斬りかかるがキマイラを取り逃してしまった。

メネルの負傷に責任を感じたウィルは一人で魔獣退治をしようとするが、メネルが阻止するために立ちはだかった。
メネルがウィルを拳で殴り掛かるが、ウィルはメネルの関節を外して行動不能にする。
それでもメネルはウィルを止めようとして友達は見捨てないというメネルの言葉にウィルは憑き物が落ちたようにいつもの調子を取り戻す。

ウィルは抜け駆けしようとしたのをレイストフにも詫び、キマイラとの再戦に挑む。
ウィルがキマイラを、レイストフがキマイラを従えていた悪魔≪ベラルゴー≫を討ち取り、ウィルは≪最果てのパラディン≫としての初仕事、魔獣退治をやり遂げた。

Ⅱはウィルが初めて生者と出会い、世界の歴史や現在の状況を知り、パラディンとしての道を歩み始め、メネルは大切な友人として絆を深めている。
悪魔の襲撃でいとも簡単に人々は命を落とすハードな展開だが、救えない命をウィルは見送り、聖騎士の素質も見せている。
ウィルが初めて訪れた都市では飛竜退治で早くも名前が知れ渡るが、親と同じく飛竜退治をしているのは血は繋がっていないが、親子としての繋がりを感じる。

Ⅲ 鉄錆の山の王は上下巻で構成。

ウィルが聖騎士になって2年が経過。悪魔や魔物退治を続けて、≪獣の森≫に秩序が戻り始めたが、精霊的存在の「森の王」から鉄錆の山脈で災いが近い内に起きると警告を受ける。
≪鉄錆山脈≫。かつて200年前に≪くろがね山脈≫と呼ばれた山々はドワーフの王国≪くろがねの都≫でもあったが、滅亡してしまった。

ウィルは若いドワーフ「ルゥ」と出会い、彼を従士として戦術を教えることになった。ルゥは高貴な出自で王国が滅亡してなければ王子になっていた存在で仲間のドワーフが過保護気味に接していたが、ルゥは戦士になって戦いたいと願い、ウィルもそれに応えて鍛え上げてると、ドワーフ故元々筋力を持つルゥは上達していく。

アンデッドが森に出現した情報を聞きつけたウィルはルゥと共に向かうが、そこに現れたのはスタグネイト。
と言ってもウィルに倒された木霊の姿ではなく、カラスの使い魔を依り代にして出現したスタグネイトはウィルに謝罪と思わぬ行動に出た。
スタグネイト曰く、木霊は神の力を人の形に押し込めたが為に感情的になってしまうきらいがあった。
スタグネイトはウィルに啓示を授けた。それは地の底で蠢くドラゴン。
≪鉄錆山脈≫で眠る邪竜「ヴァラキアカ」。
森の王が言う災いとはこの竜のことであった。
ヴァラキアカは神々が戦っていた時代より存在し、戦いを求める竜が最後に出現したのは≪上王≫の軍勢に加わった時で、≪くろがねの国≫を滅亡させた張本人でもある。
スタグネイトはウィルに邪竜と戦うなと警告した。戦えばウィルは命を落とすだろうと意外にもウィルを案じている素振りを見せるが、それもスタグネイトが英雄を好のみ、その魂に執着しているからであり、俗物と見なす竜に殺されて欲しくないと願っているからだ。

強大な力を持つヴァラキアカをどう対処するか悩み、前世の過去がフラッシュバックしてしまうウィルだったが、ルゥやドワーフ達は故郷を滅ぼしたヴァラキアカを討たんと血気盛んで、彼らの意思を目にしてウィルは何をするべきか思い出し、ウィルはヴァラキアカ討伐を決意する。

出立を控えた晩、ウィルの夢枕にグレイスフィールが出現。
グレイスフィールの見立てでもヴァラキアカに勝つ見込みは低く、彼女もウィルの死は望んでなかった。だが、ウィルはグレイスフィールとの誓いを守るために戦う意思に変わりはなかった。

ウィルとドワーフ達は≪鉄錆山脈≫へ向かう途中、一行はウィルの生まれ故郷である死者の街に立ち寄り、ウィルはブラッド、マリーの墓参りを済ませてガスと再会を果たして、上巻が終わり。

下巻ではウィルがガスにヴァラキアカの情報を求めるが、ガスは生前ヴァラキアカと遭遇していなかった。ウィルの一時帰省は無駄に終わった訳でなく、ガスがウィルに隠し部屋を案内。そこには≪上王≫に挑んだ戦士の装備が保管されていて、ウィルは装備を新調する。ウィルはルゥにも短剣を託し、ルゥの最初のオドオドした雰囲気は消えて戦士の顔つきになり、成長していた。
ルゥはドワーフの同胞に故郷を取り戻せると示したいと思っていた。そんなルゥが変わったのはウィルに出会えたからであり、ウィルが他者の心に炎を灯している証拠でもある。

翌朝、ウィルは死者の街を離れて邪竜討伐の旅を進めた。≪鉄錆山脈≫への道を船で向かう途中、大水蛇（サーペント）やアンデッドと化したエルフの兵士と戦い、ウィルは力技で大水蛇の顎を裂き、アンデッドのために祈り彷徨っていたエルフの魂は浄化された。
更に足を進める一行はエルフの女性「ディネリンド」（通称：ディーネ）と出会う。負傷したディーネを癒しの魔法で回復させてエルフの国≪花の国≫へ送り届けた。
ウイルの前に再びスタグネイトの遣いであるカラスが出現し、ウィルに警告した。
ヴァラキアカを倒すために力を蓄えるべきと提案するスタグネイトに対し、ウィルは前世で惨めな思いをしたからこそ、現世ではやり直していい。そんな新たな人生を与えてくれたグレイスフィールのために戦う決意は変わらなかった。

ウィル達は≪くろがね山脈≫に到着し、ルゥが入り口の扉を開けた。扉の向こうからは邪竜の存在を皆が感知し、圧倒的な力に気圧されるも引き返すことなく邪竜を討たんと前へ進んだ。
彼らの前にはドワーフの戦士が現れるが、生者ではなく200年前の戦いで命を落として骸骨のアンデッドに成り果てたドワーフだった。ドワーフのアンデッドは不死となっても邪竜に一矢報いようとしていた。ルゥはアンデッドに国を取り戻すと宣言し、アンデッドに歩み寄って休むよう労いの言葉をかける。
その言葉を聞いたアンデッドは灰に還っていった。

≪くろがね山脈≫に巣食う悪魔とも戦い倒していくが、ウィル達を待ち受けていたのは玉座に座る≪将軍級≫悪魔の「スカラバエウス」。
ルゥはスカラバエウスを自らの手で仕留めると申し出て、ルゥはハルバードを振るってスカラバエウスに挑む。スカラバエウスのこん棒がルゥの身体に打ち付けられるも、ルゥの強い意志が勝ってスカラバエウスを討ち取った。

広間に辿り着く一行の前にヴァラキアカが出現。ヴァラキアカの隻眼がウィル達を捉えるも、ウィルはその眼力に屈することなく、ウィルは己の名前を名乗るべきだと告げて、互いに自己紹介した。
ヴァラキアカはウィルに対して意外な提案をした。ウィルの傘下に下りたいと。
ただの竜ではなく知性も持ち合わせて人間に理解力があるように思わせるが、ヴァラキアカに対してウィルが逆に平和に生きるか、突き付ける。
戦いこそ行動原理のヴァラキアカにはその選択肢は受け入れず、ウィルを真の勇者と認めた上でウィルに襲い掛かった。
戦乱、財宝、贄を望むヴァラキアカはそれが自らを竜である証拠と肯定する邪竜らしさと矜持を見せつけている。

神代より生きるヴァラキアカにウィルは≪存在消滅≫の魔法を繰り出すが、ヴァラキアカは自らの身体を風に変化させて攻撃を回避。
圧倒的な力の差が生じて、ウィルはヴァラキアカから下僕になるか、死を選ぶか突き付けられる。ヴァラキアカの要求を一蹴したウィルは最果ての聖騎士として邪竜を討つ意思に変わりはなかった。

ヴァラキアカから熱の吐息が放たれるも、灯火はそれを防いだ。
その灯火こそグレイスフィールが現世に遣わした遣いであった。
救援はグレイスフィールだけでなく、あのスタグネイトも使い魔を遣わして加勢。
スタグネイトは竜風情に獲物であるウィルを捕られては困るというのが理由であったが、スタグネイトは女神であったことが判明。

女神二柱がウィル達に加勢し、スタグネイトの力で死せるドワーフが復活。ルゥの祖父でドワーフの王であった「アウルヴァングル王」がヴァラキアカの片目を奪った剣をウィルに託し、ドワーフの魂がウィルの中へ流れ込みウィルを強化していく。
ウィルは女神、ドワーフの魂にかけてヴァラキアカに挑み、≪加速≫の魔法でヴァラキアカの喉元に突撃して、剣で喉を貫く。
ヴァラキアカは倒されるが、ウィルもその反動で意識を失ってしまった。
目覚めたウィルの身体に異変が生じ、邪竜の息吹を前に魂と身体が鍛えられた結果、身体が強化されていた。

邪竜討伐に成功した一行は≪花の国≫で歓迎を受け、死者の街でガスに報告。
≪白帆の都≫に凱旋すると宴が開かれ、ビィは聖騎士の竜退治を語り、上下巻に及ぶ鉄錆の山脈での戦いは完結。

鉄錆の山脈編は邪竜との戦いがテーマであるが、竜退治と古典的な英雄譚を異世界転移系小説で再現し、前に進み続ける聖騎士の物語を盛り立てるエピソードでもある。
グレイスフィールの加勢だけでなく仇敵であるスタグネイトと一時共闘する展開も熱く、スタグネイトは英雄に執着する女神でもあるので、シュメール神話に登場するイシュタルに通ずるところもある。

四巻に該当するⅣ　灯火の港の群像はこれまでのスタイルと異なり、短編集形式で計5話の短編を収録。

1話「聖騎士と思い出話」は竜退治を終えて一年が経過し、ウィルはその間に起きた日々の出来事をメネルと語り合う形で、以降の短編が語られていく。

2話「聖騎士と求婚の話」はレイストフとバグリー養女「アンナ」と恋物語で、戦いに明け暮れたレイストフは剣の道を諦め平穏に生きるか悩み、アンナに求婚してアンナも受け入れるが、難関はバグリー。バグリーはレイストフを冒険者如きと罵るが、内心ではアンナの幸せを願っていて、一芝居打つ具合にレイストフが敢えてアンナを連れ去る形で両者が結婚。式ではビィが楽器を奏で、皆が二人を祝福した。

3話「聖騎士と詩人の話」はウィルとビィが魔法学校ともいえる≪賢者の学院≫に行く話で、ビィの目的は図書室に保管されている記録であった。
ビィは吟遊詩人になる前に一緒に旅した魔法使いの女性がいた。その女性はとある街を妖魔の襲撃から守って命を落とした。彼女が生きた証を残すために彼女の物語を歌で語り継ごうとするために、図書室の記録が必要であった。
ビィの過去も明らかになるエピソードで、ビィの吟遊詩人としての矜持も垣間見れる。

4話「聖騎士と無敵の巨人」はウィルが巨人退治に挑む。≪白帆の都≫の経済が発展しつつある反面、銅貨不足に悩まされていた。
≪くろがねの国≫に残っているヴァラキアカの財宝から銅貨を運び出そうとするが、その道が巨人の縄張りであった。
ウィルは巨人に敗北してしまうが、ウィルは巨人の過去を知る。不変ゆえに孤独のまま生き永らえてる巨人は偏屈な性格であったが、遠い昔にある村を守る約束をしていた。
その村から酒を貰っていたが、既に村は滅びて久しかった。
≪鉄錆山脈≫近くの土地を開拓している女男爵「カーメラ」が造る酒を巨人に渡し、巨人は再び人と交流することになり、巨人の土地から湧く湧き水で仕込んだ酒はその土地の名産となり、カーメラの村も≪鉄錆山脈≫と≪白帆の都≫を繋ぐ宿場町として繁栄した。

5話「聖騎士と手紙の話」は話を語り終えたウィルがこれまでの冒険を手紙に綴っていく。それは両親であるブラッドとマリーに宛てた手紙。
ウィルにとってはどれもが胸を張って伝えたい思い出であった。

灯火の港の群像は短編形式なので、これまでに登場したレイストフやビィにもフォーカスが当てられた内容で、ウィルを取り巻く人々に訪れる変化や過去が語られている。

死者に育てられた子供の話と言えば、ニール・ゲイマンの小説『墓場の少年ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活』があり、主人公の少年が育ての親である死者と別れを告げて、外の世界へ旅立つ結末であった。
最果てのパラディンは異世界版『墓場の少年』的な内容だが、『墓場の少年』との違いは外の世界に出たその先を書いている点である。

異世界転生の話ではあるが、チートスキルで無双する訳ではなく苦難に立ち向かう聖騎士の物語は王道的なファンタジーとしても読み進めることができるので、満足度が高い。

赤子が死者に育てられ、神の加護を受けて聖騎士となり、困難に立ち向かい悪魔や竜を退治していく物語は古来の英雄譚にも近く、主人公の持つ善意が周囲の人々を変えていく人間賛歌的な展開でもある。

小説家になろうには鉄錆山脈以降の話として第四章、第五章の途中までが掲載されているが、作者はメンタル不調で掲載が止まっている。
願わくば連載が再開されてウィルの物語の続きを読みたいものである。

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