毎年誕生日（その前後）を富士登山で過ごすことをはじめて１６年になります。母が死んだ令和２年と、コロナ禍で富士山全域が立ち入り禁止になった令和３年を除き、毎年富士登山をしてきました。
今年が１４回目の富士登山。俗に「二度登る馬鹿」と言われる富士山ですから、私の馬鹿も相当なものだと思います。
平成２９・３０年は富士宮口（静岡県富士宮市）から。昨年は須走口（静岡県小山町）から登りましたので、今年は久々に御殿場口（ごてんばぐち）から登ります。静岡県側から登ることが多いのは、山梨県の河口湖口や吉田口は開山が早く、７月１日から入山料千円を取られて、五合目まで自家用車で行くこともできません。静岡県側は、開山が１０日なので９日までは金を取られませんし、五合目まで自家用車で上がれます。
６日の夕刻、御殿場口新五合の駐車場で車中泊。
避暑に上がってきたという沼津ナンバーの老夫婦にコーヒーをごちそうになりながら夕食後、となりに停車した世田ヶ谷ナンバージムニーの単独行者としばし雑談。そのうちにとっぷり日が暮れて北斗七星がきれいに見えました。
「五合目」というのは、富士山では二つの意味があります。ひとつは「山の中腹」の意。もうひとつは「バスの終点」の意。御殿場口新五合目は後者。ゆえに新五合目から登り始めてまもなく「二合目」や「二合五勺」なんていう標識があるので、初めての人は驚いてしまいます。御殿場口新五合目駐車場は、実質的には一合目と思ってください。ゆえに登る人が一番少ない登山道で、「コンニチハ攻撃」からも解放されて静かな山登りが楽しめます。
午前四時起床。五時出発。十分明るいのでヘッドランプは不要。十時、六合目に新しくできた半蔵坊小屋着。眠くなったので３０分昼寝。大動脈乖離をやってから、ペースはかなり遅くなりました。
七合目「わらじ館」は宿の受付をしない売店小屋に。「砂走館（すなばしりかん）」は宿泊者も受け入れています。昼を過ぎて風が出てきました。「赤岩八合館」から上には山小屋はなく、八合目からトラバースルートを通り、富士宮口登山道に移動。富士宮口登山道を登って、富士山最高地点劍ヶ峰登頂は午後３時。七時間くらいで登れるかと思っていたら十時間もかかってしまいました。
下山は素直に御殿場口登山道へ。なんだか膝に力が入らず、八合目に降りるまでに二時間もかかりました。この頃から風が強くなり、雨も降ってきて顔にバチバチあたって痛みを感じるほどに。
七合目で１８時。まだまだ明るい時刻のはずが、ずいぶん暗いです。風はますます強くなります。御殿場口下山道は「大砂走り」といい、柔らかい砂地を駆け下れるので、午後九時には新五合目駐車場に停めた自動車に戻れると踏んでいたのですが、風がますます強くなり、飛んでくる砂つぶてと雨粒で、眼鏡をかけている私には視界がかなり怪しくなってきました。
もう行動をやめた方がいいと判断して砂走館に入ります。
「こんばんわ。食事は持っていますので素泊まりで結構ですから、泊めていただけませんか」
若い夫婦とおぼしき男女の小屋番が出てきました。
「登るんですか」
「いいえ、下山の途中です。風があんまり強いものですから、今夜はここに泊めてもらえませんか。食べるものはありますから今夜の食事はいりません」
「あの、実はですね、天候はこれからますます悪くなります。泊まるのはもちろん結構なのですが、明日は間違いなく暴風雨になります。ご体調はいかがですか」
「それはつまり、動ける天候の内に少しでも標高を下げた方がいいということですか」
「はい。ここはだいたい３０００ｍですが、ここからの下山は大砂走りで、御殿場口新五合まではたぶん２〜３時間で駆け下りられます。標高を下げるほどに風雨は弱くなると思います」
「そうですか。いや、体の疲れはもちろんありますが、動けないほどに疲労困憊しているというわけでもありません」
「それなら、暗くなっても今下山することをおすすめします」
「わかりました。では降りることにします。ヘッドランプの乾電池が心許（こころもと）ないのですが、売っていますか。単三１本でいいのですが」
「ええどうぞ。５００円です」
エボルタでしたが、いくらなんでも高すぎます。まぁでもこれが山小屋商売というものです。素直に払いました。どう頑張ったって山の中で乾電池を作り出す方法はないのですから。
「どうもありがとう。助かりました」
「どうぞお気をつけて」
泊まろうと思っていた砂走館を出て、登山道と下山道（大砂走り）との分岐までは数分。下山道に入ります。
御殿場口下山道は「大砂走り」とはいうももの、走れたのはたぶん１０歩くらいでしょうか。すぐに走れなくなりました。（続く）
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