7月2日、土曜日。
日が昇る前に目覚めた。夢見が悪く、熟睡が得られない。服薬の調子を注意深く見よう。
朝、外出。シネ・ヌーヴォへ。【『アネット』公開記念 レオス・カラックス作品特集上映】で、『ポーラX』を鑑賞。今回の特集上映は有難いが、一度スクリーンで観てみたい『ポンヌフの恋人』がラインナップに入っていない事が残念だ。今回、上映作品5作の内、4作品を鑑賞した事になる。『ホーリー・モーターズ』のみスルーしたのは、比較的最近の封切時＆ＤＶＤ化時に、計2回観ているため。
●『ポーラX』
【ノルマンディはセーヌ河の畔に在る、森に囲まれた城館。高名な外交官（故人）を父に持つ美青年ピエール（ギョーム・ドパルデュー）は＜アラジン＞というペンネームで若者にカルト的人気を博している仮面小説家だ。彼は、広大な城館で美しい母（カトリーヌ・ドヌーヴ）と何不自由無く暮らしている。美しい婚約者（デルフィーヌ・シェイヨー）との婚礼を間近に控え、正に順風満帆の人生を送っているピエール。しかし、ある日、彼は自分の異母姉だと名乗る黒髪の女イザベル（カテリーナ・ゴルベワ）と出会う。やがてピエールは、これまでの人生と、約束されていた未来を捨て、イザベルと共に禁断の逃避行をする事になるが……】というスジ。
原作はハーマン・メルヴィルが1852年に発表した小説『ピエール』。監督＆共同脚本にレオス・カラックス。撮影は名手エリック・ゴーティエ。
1999年製作・公開作品。日本でも同年に公開された。封切当時、渋谷に在ったシネマライズで観ている。チラシ2種、パンフレットも所有している。
とても感情移入出来ない人物ばかりが登場する上、例によって、カラックスらしさに満ちた観念的台詞の洪水であり、抽象的描写の連鎖であるので、観方に依っては非常に難渋な作品と映ろう。かなり際どい（であろう）ラブシーンも、画面が暗くて殆どなんのこっちゃ解らない程だ。その為、普通にドラマ展開を追おうとしても追いきれない。頭で観ようとすると置いてけぼりを喰ってしまうのでご注意を。
ギョーム・ドパルデューが美しい。彼が演じるピエールの、破滅に向かってひた走る狂気が凄まじい。その刹那的な生き方が、みっともなくも儚い。ピエールがバイクで転倒する事故シーンや、片足を引き摺って歩く姿に、ギョーム・ドパルデューの実像が重なって胸が苦しくなる（1995年にバイク事故を起こし、2003年に右足切断。尚、2008年に肺炎で死去…… 早過ぎる死が実に惜しまれる……）
後半の重要な舞台となる造船工場の描写が圧巻だ。巨大な機械に、多数の吠え喚く犬たち…… その中で先鋭的なロック・バンドがけたたましい演奏を轟かせている。音楽は、かの有名なスコット・ウォーカーが担当している。この他の場面でも、音楽は本作の重要な要素の一つだ。
ピエールとイザベルの道行は過酷だ。何一つ思い通りに行かない。自信満々で書き上げた新作の原稿は、叔母であるベテラン編集者に「妄想が生み出した下らない代物」と酷評され、ＴＶ番組で正体を明かしても、世間からは「偽物！！」として糾弾される始末。どんどんとうらぶれていくピエールは、それでもイザベルとの愛を貫こうとするが、その先に待っているのは絶望だ。真っ赤な血の河で溺れ行く抱き合ったピエールとイザベルを捉えたイメージ・ショットが素晴らしい効果を上げている。血、血、血！！ 血縁に縛られている二人を暗喩した見事な描写だ。このシーンだけでも一見の価値がある。
カラックスの演出も最後の最後まで徹底して破滅を見据えており、容赦が無い。血に抗うピエールの姿が痛々しくも胸に迫る。秀作だ。
鑑賞後、シアターセブンで『私のはなし 部落のはなし』を観たかったのだけれど、夕方に来客が有るので断念。なんとか上映が終わる前に押さえておきたい作品だ。他、『教育と愛国』と、第七藝術劇場で上映中の『ドンバス』も出来れば押さえたい。
梅田に出てTOHOシネマズ梅田、梅田ブルク７で新作映画チラシを収集。天神橋筋六丁目にある中華食堂で冷麺を食べて帰宅。
以上である。
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