■「ウルトラマン」イデ隊員役の二瓶正也さん誤嚥性肺炎で死去、80歳
(日刊スポーツ - 2021年08月24日 19:21)
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二瓶さんのご逝去に、TwitterのTLでは追悼のコメントが並んでいる。
主に特撮ファンからのもので、だいたい私と同世代の人たちばかりだ。もちろんそれは、二瓶さんがイデ(井出)隊員役でレギュラー出演していた『ウルトラマン』を、子供の頃にリアルタイムで視聴していた世代である。
科学特捜隊の五人の中で、子供に一番人気があったのは間違いなくイデ隊員だった。記事によっては「科特隊のムードメーカー」なんて書かれているが、彼ははっきりと「コメディリリーフ」としての役割を担わされていた。
第2話『侵略者を撃て』に、バルタン星人(に乗っ取られたアラシ隊員)と会話しようとイデが悪戦苦闘する有名なシーンがある。どこで覚えたのか(笑)「宇宙語」で必死になって対話を試みようとするイデが、「君の宇宙語はわかりにくい」とアラシに日本語で突っ込まれてしまうのだ。当時、テレビの前で声を上げて笑った子供は多かったことだろう。
『ウルトラマン』をコミカライズした楳図かずおも、イデ隊員のファンだったらしく、テレビよりも出番が格段に増えている。怪獣や宇宙人の出現に跳んだり撥ねたり驚いたり、これでよく科特隊に入隊できたものだと呆れたくなるほどの慌てぶりだ(実は天才発明家だからなんだけど、それで怪獣退治に出動までさせるのは科特隊も相当なブラック企業である)。
でもこういうキャラがいてくれないと、ドラマに起伏が生じず、退屈な展開になってしまう。
二瓶さんがいたから、『ウルトラマン』は期待以上の拍手喝采を浴びることができた。そう言っても過言ではないだろう。
元々が東宝の大部屋俳優出身であったから、映画出演は多いが、その殆どが脇役、チョイ役である。タイトルロールに名前が出ない、出演してても台詞がない、などは当たり前だった。
コアなファンは、「こんなところにも出ている二瓶さん」と、ヒッチコックの出演シーンを探すように、二瓶さんが何のどこに出てた、と呟くのだが、そう言われてもサッパリ思い出せないものも多い。『モスラ(1961年)』?『妖星ゴラス』? 二瓶さん、出てたっけ? てなもんだ。
岡本喜八監督の常連だったとも言われるが、喜八映画はそりゃあもうキャストをふんだんに使うのが常だから、東宝所属俳優は総ざらえである。黒部進さんも桜井浩子さんもよく出演されていたから、二瓶さんが特に目を掛けられていたというわけではない。コメディーリリーフとして、喜八監督が重用されていたのは砂塚秀夫さんで、『殺人狂時代』『ああ爆弾』では主役級の活躍を見せる。二瓶さんはそのどちらにも出演しているが、やはりチョイ役だ。
『殺人狂時代』では、仕立屋と殺し屋パピイ(『遊星少年パピイ』のバロ)の二役を演じているが、これが同一人物の変装なのか、別役なのか、よく分からないのである。単にスケジュールの空いている時に呼ばれて演じただけなのかも知れない。東宝での二瓶さんの役回りは、そんな感じだった。
映画が斜陽になり、二瓶さんも活動の主体をテレビに移していったが、『ウルトラマン』の縁で、円谷プロ関係の番組に出る機会はあったが、それ以外には代表作と言えるほどの作品には出会えなかった。副業が本業となって、俳優としての出演も減った。最後のレギュラー出演は『ウルトラマンマックス』のダテ博士役。イデが出世したような役で、往年のファンは喜んだが、その後はたまにイベントに顔を出す程度で、公共の場に露出することは殆どなくなった。
寂しく感じていたファンも少なくないと思う。
もしも二瓶さんが、イデ隊員を演じていなかったらどうだろう。
これは仮定の話ではなく、実際にイデ隊員役は、当初、石川進が演じる予定だった。撮影も一部済んでおり、石川さんがイデを演じているスチールも残されている。ところがどういう事情か、石川さんが突然の降板、二瓶さんにお鉢が回ってきた。
代役が代表作になるという話はよく聞くが、ここまで劇的な例はそうはない。しかも、シリーズものの特徴として、登場人物一人一人にスポットを当てたエピソードも、『ウルトラマン』では製作されている。当然、「イデ隊員主演回」も存在しているのだ。
それは、第37話『小さな英雄』である。
普段は陽気なイデ隊員が、珍しく塞いでいる。心配したハヤタが理由を聞くが、イデは吐き捨てるように「科学特捜隊なんて要らないんじゃないか。僕がどんなに新兵器を開発しても、最後はウルトラマンが怪獣を倒してしまうんだ」と。ウルトラマン本人であるハヤタは言葉を失ってしまう。
怪獣酋長ジェロニモンの超能力により、かつて倒された怪獣たちが復活すると、友好珍獣ピグモンから知らされて出動する科特隊。しかしすっかりやる気をなくしたイデは「ウルトラマン、来てくれ!」と叫ぶばかりで戦おうとはしない。イデに襲いかかる彗星怪獣ドラコ。間一髪のところで、囮になったピグモンが、身代わりになって命を落とす。
イデを叱咤するハヤタ。「ピグモンでさえ、人類の平和のために、命を投げ出して戦ってくれたんだぞ! 科特隊の一員として、恥ずかしくないのか!」。
ようやく目が覚めたイデ。ドラコに、そしてジェロニモンに向かって、その銃口を向ける……。
いつものギャグが殆どない、そして二瓶さんの長いフィルモグラフィーの中でも、殆ど唯一と言っていい主演回。この回があったから、私たちはずっとイデのファンでいられたし、二瓶さんをしっかりと心に刻んでいる。
そういう役に巡り会えたことが、二瓶さんにとっては何よりも幸せなことであったろう。そう思いたい。
合掌。
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