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2021年07月17日21:40

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123-14-2 終 詩・短編を書いてみた(第1963回)

「満月を滴る涙」
【あらすじ】
ミカエルさんと城下町を歩いていた日。
道端で占いをしていた
ある魔術師から呼び止められ
こんな話を聞いた。

魔界が今の形になる前。
魔王城から離れた場所に
満月の意味の名を持つ「ミリアロット」と呼ばれた街があった。

その街は
豊かな資源や土地に恵まれ
当時はとても素敵な街として有名だった。
またその街には
王族の女王が治めており
女王には愛した鍛冶屋の婚約者もいて
民からも愛されていた。

しかし
街はある日を境に衰退していく。

これは噂だが。
王族が巨大な怪物を召喚し
満月の綺麗な日に
突如として街が消えたという。

何故そのようになったかは分からない。
記録にも残されてはおらず
現在は廃虚として
その街の姿を残すのみである。

その街の詳しい話は
ミカエルさんも知らないという。

その話を聞いた日の夜。
夜空には
話に聞いたような
綺麗な月が掛かっていた……。

―――――――

満月が綺麗な夜。
僕はなかなか寝付けないでいた。

『夜風に当たろうかな…』

僕は身体起こし
窓を開けて風に触れる。
ふと顔を上げると
綺麗な満月が夜空に張り付いていた。

綺麗な月に心を奪われてしまう。

その時だった。

『(この街の呪いを解いて…)』

突然聞こえてきた何者かの声。

僕は周りを見回す。

しかし
僕以外にいるわけもなく。
僕はその声が誰か分からないまま
急に襲われた睡魔によって
眠ってしまった…。

その眠りの中
僕は夢を見た。

憎悪に満ちた女性が
不気味な笑みを浮かべながら
魔方陣の真ん中で何かを唱えている。

そんな夢を…。


それから少しして。
僕は『兄ちゃん。兄ちゃん…』という
中年男性の声を聞いて目を覚ました。

『ん…?』
『兄ちゃん…。ここで寝るなんて危ないぞ。盗賊に襲われたらどうするんだ。気をつけな』
『あ、ありがとうございます…』
『いいよいいよ。じゃあな』

男性は去っていった…。

僕は周辺を見回す。
多分ここは
どこかの街の路地のようだ。

ただ…。
僕はこの街を知らない…。

もちろん
住んでいる魔界の街の全てを知っている訳ではないのだけど。
明らかに違うんだ。
建物や先程の男性の服装も
何もかもか古く。
まるで自分が時代を間違えているかのようで…。


とりあえず
僕は移動してみることにした。
何か手がかりがあるかもしれないから。
しかし
動いてみたのは良いものの。
迷路のような路地のせいで
自分がどこにいるか分からなくなってしまった。

どうにかなるだろうと
楽観視していた自分自身に呆れる。

(どうしよう…)

僕は『とにかく大通りには出た方がいいだろう』と判断して
また移動してみるが。
状況はさらに悪くなるばかりで…。

(野宿かなぁ…)

そう覚悟した時だった。

『離しなさいよ!』

どこかで女性の声が聞こえた

(たぶん近い…!)

僕はその声のする方へ向かう。

現場に到着して
建物の角からゆっくり覗くと
そこでは小学高学年ぐらいの女の子が
盗賊らしき二人組に襲われていた。

『あなた達!。離しなさいよ!』

その女の子の声を聞いて僕は
勝てる確率は少ないと思ったが。
『助けなきゃ!』と勇気を振り絞り
今いる場所から飛び出した。

すると
その女の子は――。

『離せと言っているだろうが!』

そう言って
一人の盗賊の足を思いっきり踏みつけ
ソイツが怯んだ隙に身体を上手く動かし
相手の背後をとって
体術で一人をボコボコに。
そして
もう一人はその女の子の動きにビビって逃げてしまった。

驚きのあまり呆然と立ち尽くす僕。

すると
彼女が僕に気づく。

『アナタも敵?』

彼女は戦う姿勢をとる。

僕は慌てて
自分が敵ではないことを訴えた。
すると
彼女は何かを確認するように
僕を足元から見て
『そういうこと…』と呟き
警戒を解いてくれた。

(良かった…)

しかし
僕が安堵したのも束の間。
近づいてきた彼女に
僕は魔術で眠らされてしまった…。


また夢を見た。
それは
人が何から逃げ惑うような夢。

僕は恐怖の感情を抱きながら目を覚ました。

『こ、ここは…?』

周りを確認すると
僕はベットに寝かされていて
ここはどこかの家の寝室のよう。

(ダメだ。意識がまとまらない。とにかく逃げよう…)

その時
誰かが部屋に入ってきた。
その人は
僕を眠らせたあの女の子だった。

僕はすぐに防衛体勢をとる。

『あぁ…。そうよね。私が眠らせたから警戒するわよね…』

彼女はゆっくりと僕に近づき
持ってきた食べ物を
小さなテーブルに置く。
そして
大人の雰囲気を漂わせながら話し始めた。

『手荒な真似してゴメンね。あの時は急いでいたし、まさか成功しているとは思わなかったからさ――』

(成功…?)

『あ、これ食べて。精力が付くから』

彼女はそう言って
器に入ったお粥のような食べ物を僕に渡した。

『これは…?』
『パティよ。栄養を取るのにはこれが一番なの』

僕は毒が入っていないかと警戒したが。
空腹に耐えられず1口食べてしまった。

『美味しい…』

僕はパティを
あっという間に平らげた。
それを見て彼女は――

『美味しかった?』
『はい…』
『それなら良かった』

彼女は満足げに食器を持って
部屋から出ていった。

(何だろうか…。彼女に警戒することが間違っているような…)

そう思っていると。
食器を片付けた彼女が戻ってきた。

『体調はどう?。落ち着いた?』
『はい…』
『良かった。あ、そうそう。私の名前は「サリー」。この街で魔術の研究をしている普通の魔術師よ。宜しくね』
『あ、はい…』

僕はサリーと握手をした。

『さて、軽く自己紹介も終わったところで…。単刀直入に聞くのだけど――』

彼女の表情が変わる。

『アナタ、この時代の人じゃないでしょ?』
『(…!?)。言っている意味が…分からないんですけど…』
『そのままの意味よ』

何かを知っているかのような彼女に私は――。

『どういうことか…。説明してくれますか?』

彼女は静かに話し始めた。

それは数ヵ月前のこと。
彼女がこの街の王様から
街を守る防御魔術の点検の仕事をしていると
突如
お城を中心にして
街全体に巨大な魔方陣が展開され
街の外との行き来が出来なくなってしまった。

さらに
理由は不明だが…。
魔方陣が展開された日から3日が過ぎると
3日前に時間が戻ってしまうという。
まるで
時間という牢獄に囚われているかのような
摩訶不思議な現象が起きているというのだ。

そして
彼女は僕にこう言った。

『君をこの時代に呼んだのは、私なの…』

僕は一瞬
彼女の言っている言葉が理解できなかった。

(僕を召喚した?。僕を呼んだ?。何の取り柄もない僕を?)

混乱する僕に彼女は
『理解できないわよね…』と言って
僕を地下工房に設置した魔方陣を見せてくれた。

細かいことは分からないが
丁寧に緻密に作られた事は分かる。

サリーが言うには
この魔方陣は召喚術式で。
"代償"さえ払えば
質量の大きな物を除けば
時間の障害も越えて
何かを召喚できるという。

それを聞いて僕は
代償に何を払ったのかを聞くと
彼女は真っ直ぐな目を僕に向けて『時間です』と言った。

彼女は
時間を戻されて子供の姿になるのと引き換えに、僕を召喚したのだという…。

しかし
僕は申し訳ないと思った。

何故なら
今の僕にはこの問題を解決できる力は
持ち合わせていないと思うからだ。

僕はその考えをマリーに伝える。
すると彼女は『それは想定済みです』と言った

どういうことかと言うと。
この魔方陣は最適者を呼ぶ為のツールで
対象者の選択は出来ないらしい。
なので
どんな人が来ても良いように
準備をしていたという。

『――ということで特訓をしましょう』『と、特訓?』
『魔術の特訓です。アナタを自分の身を守れるくらいには鍛えてあげます』
『で、でも…――』

僕は過去に「魔力がない」と
言われたことを話した。
するとマリーは――。

『だから何ですか?。少なくとも、アナタがここに喚ばれたということには、何かしらの意味があるはずです。私はそれに賭けることにしたんです』
『マリーさん…』

彼女の想いは本物だろう。

この世界が何なのかはまだ分からないが
今はとにかくやってみるしかない。

『分かりました。出来る限り頑張ります』
『ありがとう!!』

こうして
ここでの生活が始まった。

僕は毎日
魔術の特訓しながら
住民やマリーの仕事仲間から情報を集めた。
そして
3日後に時間が戻る経験を何度もした。

また
そのような時間を過ごしながら
住民達に聞き取りを行い
分かった事がある。

それは「時間が戻っている」と認識しているのは
僕とサリーだけということ。
僕達以外の人は
言葉に出来ない違和感は感じているようだが
時間が戻っているとは知らずに生活していた。
そして
その聞き取りの中で
皆が総じて言っていたのは
「お城が赤く光った」という目撃情報。

どうして赤く光っていたのかは分からなかったが。
この状況を作った何かしらの原因ではあると思う。
それに
マリーが言うには
仕事でお城を調査した際に
入ってはいけない地下室があったらしい。

その情報が確かなら間違いないだろう。

僕はマリーに『お城に入りたい』と言った。
しかし
それは難しいという。

彼女が言うには
いくら王様から仕事を与えられていても
お城に入るにはその度に許可が必要で
何か理由がなくては厳しいらしい。

(どうしたら…)

その時。
部屋の窓から赤い光が射し込み
部屋が赤く染まる。
サリーさんと共に外を見ると
お城が赤く輝いていて
街の人の動きも止まっていた。

明らかに
今までとは違う時間の流れが起きている。

するとマリーが――

『ねぇ、あれは何かしら…?』

彼女の指差した先を見ると…。
そこには
明らかに普通の存在でない城の兵士らしき人が
綺麗な列になり
止まっている住民をすり抜けながら
こちら側に向かって歩いている。

直感で危険を感じた僕は
『すぐに、ここから逃げよう』と言い
僕達は簡単に荷物をまとめて
裏口から脱出した。
それから少しして。
あの兵士らは
僕達がいた家へ入り込み襲撃を始めた。

僕達は少し離れた場所から
それを見て安堵のため息を吐いた。

(逃げて良かった…)
しかしもう戻れない。
このような攻撃を仕掛けてきたと言うことは
敵も僕達の事を見つけているということだろう。

(さて…)

僕とマリーは赤く染まるお城を見て
そこへ向かう覚悟を決めるのだった………



僕達は
街のあちこちにいる兵士らしき存在に
見つからないようにしながら
お城へ到着した。

お城の警備は
時間が止まっているせいか。
完全に手薄で
正面の門から簡単に侵入できた。

お城の中は
外の状況と全く同じで
時が止まっていた。

(防衛が機能していないうちに…)

僕達は怪しいと踏んでいた地下へ…。
そして
複数ある地下室の部屋の中から
マリーが目的の部屋のドアを開けた。

その部屋の中には
緻密に編み込まれた沢山の魔方陣が床に…。

マリーさんによると。
これらの魔方陣は
お城の防衛装置の役割を担っているモノだという。

僕はパソコンのプログラムシステムのようだと思った。

ただ
完璧に思えるこの魔方陣も
彼女から見れば
どこか違和感を感じるらしい。

その違和感が何なのか。
僕も一緒になって探していると
突然
部屋のドアが開いた。

振り返ると
そこには王女様が立っていた。
マリーさんが慌てて話しかける。

『王女様!?。こ、こちらで何を…?』
『あなた達こそ、ここで何をしているのです!?』
『わ、私達は…』

マリーさんが僕を見る。
『助けて…』という目で…。

僕は王女様に言う。

『前に頼まれた仕事に不備がないかの確認をしに来たのですよ』
『確認…』

疑いの目で見てくる王女。
少し間が空いて――。

『分かりました。確認したら、すぐに立ち去るのですよ?』
『ありがとうございます。ちなみに――』

立ち去ろうとする女王に僕は聞いた。

『王女様こそ、こちらまで何をしに?』

その質問に女王は足を止めた。

『私は……。ここに、用事があって――』
『どのような用事ですか?』
『……』

不穏な空気が漂う。

それを感じてなのか。
マリーさんが話の間に入る。

『じょ、女王様も色々とあるんですよ。そうですよね、女王様?』
『えぇ…。そうね…』
『ならば、ここは私達に任せて下さい!。完璧な仕事をさせて頂きますので!』
『そう…。お願いね…』

女王は部屋から出ていった。

『ちょっと!。何で引き留めるような事をしたのよ』
『つい…』
『「つい」でピンチを招かないでください!』
『す、すみません…』

僕達は再び違和感を探し始める。
すると
マリーさんが一ヶ所だけ
怪しい箇所を見つけた。
それは「ね」を「れ」に変えたぐらいの小さな違い。

しかし
その違いが大きな意味を持つとマリーは言う。

早速
マリーさんは修正を試みた。
しかし
本来なら簡単に変えられるはずの魔術式が
何度試みても消す事が出来ない。

『まるで怨念が込められているかのようだ…』とマリーさんは言う。

(変えられないほどの怨念…)

僕は女王の事が頭に浮かんだ。

『すみません、マリーさん。女王の部屋って、どこか分かりますか?』
『えっ?。多分、あそこだとは思いますが…。まさか、侵入するつもりですか…!?』

僕は頷く。

『そんな所を見つかったら、拘束だけでは済みませんよ…!』
『分かっています。でも、おかしくなかったですか?』
『と、言うと?』
『何故、女王は動けていたのでしょう?』
『…!。………分かりました』

マリーは動揺しながら
女王の部屋の目ぼしい場所を教えてくれた。

僕はその場所へ向かう。
しかし
その部屋までが複雑で
道に迷ってしまった。

(どうしよう…)

そう思いながら
ふと視線を薄暗い廊下に向ける。

(……?)

感覚だが。
廊下に目に見えない暗い何かが漏れて
その何かが充満しているような…。
あの複数ある部屋のどれかからだと思う。

僕は沢山ある部屋のドアを
片っ端から慎重に開けていく。

しかし
その部屋のほとんどは
埃が被っているか
物置のような状態の部屋で。
何かあるようには見えなかった。

(気のせいだったのかな…)

僕は心のモヤモヤを感じながら
廊下の一番端にある部屋を開けた。
すると
そこは書斎のような部屋で。
本棚には沢山の本が入っており
埃もほとんどなく
何故か綺麗に整頓されていた。

その状況に違和感を感じてしまう…。

僕はゆっくりと部屋に入り
部屋の調査を始める。
すると
部屋の隅に置かれた机の裏に
設置された理由の分からないスイッチを発見した。

僕はその明らかにおかしいスイッチを押してみた。
すると
行き止まりのはずの方角にある本棚が動き
隠し部屋が現れた。

その部屋からは
廊下を見たときに感じた
暗い何かを強く感じた。

僕は警戒しながら
その不穏な部屋へ進む。

部屋にあったのは
大量の呪い魔術の研究に関しての本と
一人が座れる小さい机と
その机に置かれた一冊の日記帳。

僕はその日記帳を開いた。

そこには
女王が婚約者に対しての愛と
その婚約者を認めなかった父であり
王への憎悪が綴られていた。

そして
最後のページには
「後は最上階で、父へ復讐を。この町の時間を止めて、あの鐘の音と共に永遠の時間の儀式を…」と書かれていた。

『これは…。まさか――』
『そこで何をしてるの?』

その声に僕は即座に振り向く。

そこには女王がいた。
とてつもなく冷たい視線を僕に向けながら。

『何故、この部屋にいるの?』
『そ、それは…』

女王が開かれた日記に気づく。

『その日記…。見たのね…?』
『あ、いや…』
『そう…。見たのね…』

女王の表情が変わっていく。
その表情は人間の毒々しく。
そして
禍々しく変化して。
まるで人ならざる者のようだった。

僕はその女王の雰囲気に
後ずさりをしてしまう。

(どうにかして、この場から逃げないと…)

しかし
女王は僕を襲うことはなく
部屋を出ていってしまった。

(助かった…のか?)

僕は緊張をほどくように息を1つ吐いて
すぐさまマリーの元へと向かった。

(やはり犯人は女王だったと伝えなければ…!)


僕は息を少し切らしながら
マリーのいる地下室を開けると。
まだ作業をしていた彼女に
僕はさっき起きたことを話した。
すると
マリーさんは驚きながらも
『やっぱり…』と呟いた。

何故そう呟いたのかと言うと…。
実は
魔方陣には描く人によって筆跡のような特徴が出る。

マリーが部屋の床に刻まれた魔方陣を細かく調べてみると。
別の仕事の時に見た女王の描いた魔方陣の特徴と
この魔方陣の特徴が合致したという。

その話を聞いて僕は――

『マリーさん。すぐに女王を追いかけましょう!』
『追いかけるって…どこに?』
『この城の最上階です。女王はそこで、全てを終わらせる気です』
『わ、分かったわ…』

マリーさんは魔方陣に少し触れた後
僕と共に城の最上階へ向かった。

いくつもの長い階段を登り。
屋根がドーム状で
街を見渡せる大きな最上階の部屋へ辿り着き
人よりも何倍も大きい扉を開けた。

その部屋には
巨大な鐘が吊るされていて。
その下の床に巨大な魔方陣と
女王はその中心に立っていた。

女王が僕達に気づく。

『あら、やっぱりアナタ達だったのね。でも、残念。すでに準備は終わって、後は私の血を垂らすだけよ』

マリーが女王に訴えた。

『女王、もう止めましょう。これ以上は――』
『アナタに何が分かるというの?。愛する人を奪われた気持ちが、アナタに分かるわけがないわ!』
『でも、こんな事をして何も変わらないですよ!。今なら――』
『うるさい!!。私はこれで全てを元に戻すの!。戻すんだから!!』

女王は自分の指を切り
その血を魔方陣に垂らした。
すると
魔方陣は赤く輝き出し
この部屋をその赤い光が包む。

(間に合わなかった…)

しかし
光は少しずつ小さくなっていき
魔方陣は輝きを失った。

『ど、どういうこと…!?』

戸惑う女王。
それを見てマリーさんか『上手くいった…』と呟いた。

どういうことかというと…。
マリーは
あの地下室の魔方陣を描いたのが女王だと気づいた後
僕と部屋を出るときに
魔方陣に少し描き足したという。

それにより
魔方陣の意味が変わることになり
上手く起動が出来なくなった。

小さく喜ぶ僕。
女王がそれに気づいた。

『そうか。お前たちの仕業か…』

女王の表情が変わっていく。
そして
怒りに追いつめられた女王は
懐から謎のカプセルを取り出して
それを飲み込んだ。
すると
女王は苦しみながら
二足歩行の巨大な猛獣の姿に変わってしまった。

その姿はまるで
悲しみと憎しみを貼りつけて作った
大きな泥人形のようだった。

(止めないと…)

しかし
女王は自我を失っているかのように暴れだし
僕達に突進をしながら
攻撃してきた。

僕達はそれを間一髪で避けて
その得体の知れない怪物に火球を放つ。
しかし
それは怪物の身体に吸収されてしまって全く効かない。

『今は逃げましょう!』

僕はマリーさんの意見に頷き
この部屋を出た。
しかし
すぐに怪物が追いかけてきて
奴は城の壁や柱を破壊しなから僕達に襲いかかる。

それを間一髪で回避して
僕達は何とか城の外へ逃げることが出来た。
しかし
状況は明らかに良くはない。
怪物も城の外に出てきた。
奴が城下町で暴れだしたら莫大な被害が起きてしまう。

(何か手だては…)

その時
城の最上部から鐘の音が響いた。
その音色はどこか透き通っていて美しく
思わず耳を傾けてしまう。

怪物もその音に反応した。

怪物は鐘の鳴る方角を見続け
鐘を追いかけるように
お城に壁をよじ登り始めた。

僕は「(助かった…)」と思うのと同時に
その怪物を見てこうも思った。

(憎悪に取りつかれた人の成れの果てと言うのは、何とも無惨なのだろうか…)と…。

怪物は鐘にたどり着き
大事な物であるかのように愛で始めた。

それを見てマリーさんが言う。

『あれは、かつて女王が愛した人が作った「魔除けの鐘」です』
『魔除けの鐘?』
『はい。あれは――』


国王が魔獣の襲来から街を守る為に
鍛冶屋に作らせた鐘。
けしてお飾りではなく。
あの鐘には
強力な魔除けの魔術が刻まれている。

きっとこれを作った女王の愛した鍛冶屋は
この街の未来を信じて作ったのだと思う。

もし
その街を想う気持ちを
「愛」に例えられるのなら
女王はその愛の意味と大きさを
理解できなかったかもしれない。

ほら
あの鐘に触れている女王の身体が…。
憎しみで肥大した女王の身体が…。
鐘に刻まれた魔除けの魔術によって
少しずつ崩れていく…。

その巨大な破片が下に落ちて
お城を破壊していった…。

きっと
時間が再び動き出した時
国民は大混乱をするだろう。
次の瞬間には王族は死に
お城が崩壊しているのだから…。

『マリーさん…。これで、良かったのでしょうか…?』

そう僕が聞くと
マリーさんはどこか悲しそうな表情で――。

『これで良かったのだと思います』と言った。

僕は心に突っかかりを感じながら
緊張の糸をほどく。

それから少しして
僕の身体が透け始めた。
役目を終えたということなのだろう。


これから
この街がどうなるのだろうか…。
ただ1つ言えることは
かつてのような日常を送ることは出来ないということ。

少しでも発展しててほしいと願うばかりだ。


僕は負の感情で胸が苦しくなりながら
マリーさんに感謝を伝えられて
この街から去った…。

目を覚ますと
僕は自分の部屋で朝を迎えていた。

(夢…?)

朧気な記憶が
あれが夢か現実だったのかを迷わせる。

でも
僕はその答えを見つけないことにした。

(だって、そっちの方が希望が持てるから)

僕は部屋に入る朝日を目を細めながら見るのだった……

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