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2021年06月13日12:32

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121 詩・短編を書いてみた(第1959回)

115「初夏のコインランドリー」
【あらすじ】
高校を卒業して数十年ぶりの同窓会。
私はその幹事として動いていた。
しかし
同窓会が終わりかけの時
同級生が私のズボンに
ジュースをかけてしまい濡れてしまう。
会場のスタッフさんに着替える衣装があるか尋ねたが
今は盛り上げ用のバニーガールしかないと言われ
結局
私はその衣装を着て時間を過ごし
今はコインランドリーで
乾燥が終わるのを待っている……。

――――――――

私はため息を1つ吐く。

あれだけ賑やかだった同窓会の音は無く。
大型洗濯機のドラムを回すモーター音と
水をかき回す音だけが
この部屋に響いている。

(何しているんだろ…)

私は昔からこうだった。

いつも皆の盛り上げ役で。
騒ぐ時は自然と私が皆の中心にされる。
正直嫌いではない。

でも
その印象があるせいか…。
男子とは友達以上の関係になったことはなく。
好きな人に勇気を出して
告白しても
『楽しい人』という理由で断られてきた。

同窓会ではもしかしたら…とは思ったが
結局はこのありさま。

私はまた溜め息を1つ吐く。

するとその時
コインランドリーに誰かが入ってきた。

私は視線をそのドアに向ける。
そこにいたのは
どこかで見たことのある男性が一人。

『あ、やっぱりここにいたんですね』

彼は私を見ながらそう言った。
私は自分の身体に少し力を入れる。

もしもの時の為だ。

『どこかでお会いしましたっけ…?』
『えっ…?。ミノリさん、僕の事を覚えてないの?。ほら。同じクラスの「サカモト」。同窓会にいたのだけど…』

(サカモト…?)

私は記憶を巡らせる。

(あっ。思い出した!。彼は昔、私に告白してきた人だ)

『もしかして、卒業式の時に告白してくれたサカモト君?』
『そんな思い出し方されるとは…。恥ずかしいな…』
『ご、ごめん…。でも、久しぶりだね。サカモト君が転校した以来だよね?』
『そうだね…』

『で、サカモト君がどうして、ここに?』
『いや、皆に聞いたら、ここにいるって言うからさ。心配で…』
『心配だなんて大袈裟だよ。ただ濡れただけなんだから』
『そうかもしれないけど。その格好だよ?。変な男に付きまとわれるかもしれないじゃないか…』
『変って…。ただのバニーガール…』

私は自分の姿を見る。
肌着は着ているから直接
肌を出したりはいないが
胸部や下半身などを
強調するように作られているバニーガールは
明らかに刺激か強い…。

同窓会でのアドレナリンが残っていて
気がつかなかったけど
これは確かに…。

私は身体を少し丸めて足を閉じ
身体の前側を隠すように
自分の手を内太ももへ置いた。

『どうしたの?』
『べ、別に…。そ、それより寒いんだけど…』
『あ、ごめん…』

彼は慌ててドアを閉める。

『……』
『そんな所にいないで、こっちに座ったら?』

私は少し横に移動して
彼の為のスペースをあけた。
彼は『ありがとう…』と言って
私の隣に座った。

お互いに緊張しているのか
話すことなく
ただ時間だけが過ぎていく…。

心がムズ痒くなるような
もどかしい気持ちが私の口を開かせた。

『ねぇ、サカモト君は彼女とかいるの?』
『今はいない、かな』
『今は?。別れちゃったの?』
『うん。一週間前ぐらいに別れちゃった。何か、好きな人で出来たんだって』
『そう、なんだ…。意外だね。サカモト君、カッコ良いから、そんなの無縁だと思ってた』
『……ミノリさんはどうなの?。彼氏とかいるんじゃないの?』
『私の事はいいよ…。恥ずかしいし…』
『僕は話したのに』
『それはサカモト君が勝手に話しただけでしょ〜?』
『何だよ、それぇ…。知りたかったなぁ…』

子供のように拗ねた彼を見て
私は少し笑みがこぼれた。
こんな顔もするんだと思って。

『いないわよ。ずっとね』
『そうなの?』
『そうよ。だからもう諦めてるの。私みたいな女っけのない人を、彼女にする物好きはいないだろうし』
『そんなことないよ』
『じゃあさ、サカモト君が私の彼氏になってくれる?』

その質問に彼は動揺した。
私がそのようなことを言い出すとは
思わなかったのだろう。

彼は『か、考えさせて…』と言って返事を返してくれなかった。

沈黙が時間を食べる。

私は緊張した心をほぐすように深呼吸をして
あの事を聞いてみた。

『そういえば、サカモト君が告白してきた時もこんな感じだったよね』
『覚えていたんだね……』
『覚えているわよ。サカモト君が告白してくれた時、私はその答えを保留にしてたもの』
『えっ、そうだったの!?。僕は断られたんだと思ってた…』
『えっ!?』
『じゃあ、今、返事をしたら答えを返してくれるの?』
『…好きな人がいるんだ』
『……そう』

考えさせてと言われた時点で気づいていた。
でも「もしかしたら」と思ったんだ。

『その人は素敵な人なの?』
『うん…』
『私よりも?』

彼は黙ってしまう。

『あ、ゴメン。意地悪な質問したね』
『だ、大丈夫…』

また少し間があって
彼は『ゴメン』と呟いた。

その言葉が
何故か私の心に塞いでいた栓を外してしまった。

『私ね…。一度で良いから、高校生のような恋をしてみたかったの。手を握ってドキドキしたり、スマホのやり取りで不安になったり…。電話をして時間を忘れたり…。こんなこと思うなんてバカだよね。もう大人に、子供みたいな事を言ってさ…』

私は心に詰まった泥を
全て掻き出すように彼に言った。

寂しかったのかもしれない。
彼になら甘えられると思ったのかもしれない。

そのような想いが
私の今までの詰まっていた想いを
吐き出させたのだろうか。

彼は私の気持ちを
黙ったまま聞いてくれた。

全てを吐き出して
心に何もなくなった時
乾燥が終了したのを知らせる音楽が鳴った。

私は立ち上がり
乾燥機から洗濯物を取り出す。

それを取り出しながら彼に聞いた。

『好きな人がいるって言ってたけど。本当は嘘でしょ?』
『えっ。な、何で…?』
『そう思っただけよ。でも、その反応を見る限り、嘘だったのね』
『……』
『そんな嘘をついて断りたかったわけ?』
『ち、違う…!。』
『じゃあ、なんでよ?』
『……昔、付き合っていた女性に二股かけられて…』
『一回だけ?』
『何度も…』
『ダメ人間に捕まったのね』
『だから怖くて…』
『じゃあさ。ライン交換しよ』
『えっ?』
『ほら、スマホ出して』
『う、うん』

彼は私とラインのIDを交換した。

『何かあったら連絡して』
『ありがとう…。でも、僕なんかにどうして…』
『追いかけて来てくれたお礼』

そう言って
私はコインランドリーを後にした。

それから私は毎日
彼から連絡を確かめた。
でも連絡が鳴ることはなく
気がつけば半年が過ぎていた。

こちらから連絡しようと思ったが
面倒な事になりそうだから止めた。

彼が今
何をしているのかは分からないが
充実しているなら良かったと思う。

そう思った
初夏の終わりだった………



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