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2021年04月18日12:32

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114 詩・短編を書いてみた(第1950回)

111「赤と青が交わるとき」
生まれながらにして人には差が生まれている。

その差は「人間」としてのではなく
「可能性」という差だ。

そのような事を
誰も知らない地下の溝蓋の穴から
空を眺めながら私は思っていた。

―――――

水色に染まった綺麗な空に
憧れを抱いていたからかもしれない。

『ほら、何をしてんだ。見つかる前に行くぞ!』

男友達のダンが
地上の畑から盗んだ食べ物を手にしながら
私にそう言う。

私は『あ、うん…!』と返事をして
彼の後を追いかけた。

迷路のような下水道を右へ左へ進み。
数十人の老若男女の仲間の待っている
今は使われていないドーム型の貯水槽へ到着した。
『みんな〜。お待たせ〜』

私の声に仲間達が
私達の無事の確認と
盗んできた食べ物を受け取るために集まってきた。

私達は均等に
食べ物が行き渡るように
食べ物を配り
配り終えた後
私達も床に腰かけて食べ物を口に入れた。

食べ物は美味しいものではないけれど。
それを勢いよく口に入れていく子供や
ゆっくりと味わうように
口に運ぶ年輩の人などを見ていると
自分の心の中に生まれる罪悪感が少し和らいだ。

でも
いつまでこんな日常を続ければいいのだろう…。
きっと地上に住む人間は
こんな苦労をすることなく
食べ物や生きる希望に満ちる世界で生きている。
我々のような人間がいるとも知らずに…。

本当に羨ましい限りだ…。

食事を終えた私は
気分転換に一人で散歩に出掛けた。

まぁ
出掛けると言っても下水道などの地下だけど。

地下の道を気の向くままに歩いていると
初めて見る場所に出た。
そこは
広さは特に変わらないものの。
さっきの空を眺めた溝蓋よりも
違う溝蓋がある場所。

私はその蓋を少し持ち上げて
外の世界を見た。
外は多くの人が歩いていて…。
沢山の色があって…。
沢山のモノがあって…。

不意に『行ってみたいなぁ…』と
口にしてしまった。

『それ本気か?』

振り向くと
そこにはダンが立っていた。

『ダン…。どうして…』
『ごめん。気になって付いてきた。そんな事より、地上に出たいのは本気なのか?』

剣幕の顔に染まるダン。
私は首を横に振った。

『ううん…。つい、外が綺麗だったから言ってしまっただけ』

私は笑顔を浮かべた。
でも
ダンはその笑顔を見て
口を閉じてしまった。

沈黙が二人の間に漂う。

すると
ダンがこう言った。

『地上に出てみるか?』

私は驚いてしまう。
『何を言って――』
『ずっと思ってた。多分、君は地上に出たいんだろうって…』
『……』
『俺も着いていくから、地上に出てみないか?』

ダンの言葉に
本当に涙が出そうだった。
でも…。

『無断で地上に出ることは禁止されてるし、私なんかが地上に出たら気持ち悪がられるよ』
『そんなことはない!。もしそうなっても俺が必ず守るから!』
『……服もボロボロだし』
『君に似合う服は拾ってきた』
『……』

ダンはいつも一生懸命だ。
きっと私が何を言っても折れてくれないのだろう。
だから私は…。

『……ちゃんと守ってくれるなら』
『もちろん!』

私達は地上に出れる予定を立てて
その日を待つのだった…。

数日後。
私はダンから貰った
綺麗な服を着て。

誰にも見つからないように
街の離れた場所から地上へと出た。

地上の美しさに私は心を奪われた。
まるで絵の中にいるようで…。
もしくは夢の中にいるようで…。

それは言葉に出来ない景色だった。

ダンも同じ感情を抱いたようで
お互いが目を合わせたら
つい笑ってしまった。

『じゃあ行こうか』
『うん!』

私達は街の中へ入っていった…。

それから
私達は太陽が落ちるまで楽しんだ。

その帰り道
私はしっかりとした服装に身を包む男性に話しかけられた。
ダンは『何ですか?』と言って私の前に立つ。

あ、私は怪しい者ではなく――』

その男性は小さい紙をダンと私に渡してきた。

そこには
彼の名前と会社の名前が書かれていて
彼は私をスカウトしたいと言ってきたのだ。

私は最初
自分がスカウトされる理由が分からなかった。
でも
その男性は『アナタは必ず成功出来る』と言って
自信に満ちた目で私を見てくる。

こんな私が…?

そう思ったとき
ダンが『急ぎますので』と言って
私の手を引っ張り
その場から立ち去った。

逃げるように早足で移動し
地上へ出た場所から再び地下に潜り
私達の小さな冒険は幕を閉じた。

一枚の名刺をポケットに入れたまま…。


それから数日後。
私とダンは私達のリーダーに呼ばれた。

どうやら無断で外に出たことがバレたらしい。

私達はこの仲間から出ていくようにと命じられた。

許可もなく外に出る事は
この場所がバレて
住む場所を失う可能性があったのだから。

ダンは『自分が連れ出したから、罰を受けるのは自分だけでい』と主張した。
私だけでも残れるようにと…。
しかし
それは受け入れられる事はなく。
私達は仲間に別れを告げ
地下道から出ていく事になった…。


私達はあの時と同じ服を着て
地上へ出ると。

外は雨が降っていた。

ダンは『ごめん』と呟き。
私は『私のせいだ』と言って
その雨が私達の心を冷やしていくのだった。


途方もなく歩いた私達は
雨宿り場所を見つけた。

その場所でこれからの事を考えた。

ただ…。
頼れる人はおらず
僅なお金しか持っていない私達に出来ることはなく。
雨粒が地面にぶつかるのを見ているしかなかった。

ダンは『寝ようか?』と言って腰を上げる。
私も寝ようと思い腰を上げた。

その時
ポケットに何か入っている事に気づいた。
取り出すと
それはあの時
男性から貰った名刺だった。

その時に思ったのだ。

『電話を掛けてみよう…』と。

私は寝ようとしているダンに
その想いを伝えた。

ダンは『危険だ…』と言ってきたが
私は『今のままではダメだ』と彼を説得した。

翌朝。
私達は拾ったお金を使い
公衆電話から名刺に書いてある電話番号に掛けた。

プルルル……。

『はい。こちら「ミルマプロダクション」です』
『あ、すみません。私――』

私は事情を説明し
あのスカウトマンを呼んでもらった。
保留音が流れた後

あのスカウトマンが出た。

『こんにちは。電話をかけてくれたということは、返事はOKということでいいのですね?』
『はい…』
『それは良かった!。じゃあ、そちらに行きますから今どこにいますか?』

私は彼に今の居場所を伝え
ダンと一緒に会った…。

そこからは何もかもが早かった
実はあのスカウトマンは大手事務所の人だったらしく。
そのせいもあってか
私はモデルデビューし
ダンは私のマネージャーとして私を支える事が決まり
すぐに仕事が始まった。

仕事場では
私は今まで着たこともないような衣装に包まれ。
顔には拾った雑誌でしか見たことがないような化粧を行う。
準備が終わり目を開けると
そこには私ではない私がいた。

思わず自分の指先で頬を触り
自分だと確認する。

これが私…。


気持ちがまとまらないまま
ランウェイを歩く。

私を見て沸き立つ観客に
驚きしか感じなかった…。

仕事が終わり
夢心地のまま身支度を整えていると
ダンが私の元へ走り寄ってきた。

驚くことに
別のデザイナーから新しい依頼があったようだ。

ダンからも言われたが
私は凄い人気だと。

それから私は
テレビや雑誌など。
様々なお仕事をした。

人間関係とか苦労することもあったけど。
ダンのおかげで乗り越えられたし
様々な男性が私に声を掛けてきたり
沢山のお金を手にしたり。

今までとはまるで違う
人生を送れるようになった。
それはとても嬉しくて幸せだったけど。
同時に寂しさを感じていた。

この寂しさは何なのだろう?

そのモヤモヤの答えを考えていた時だった…。

テレビを見ていると
これから季節外れの梅雨前線が現れ
数日間
大雨を降らせるという天気予報が流れた。

私は胸騒ぎを感じた。
理由は分からない。

数日後。
その予報通り
街へ数百年に一度と言われる雨が降ってきた。
その膨大な雨量は街を川のように変え
その水は排水路へと流れていく。

排水路へ…。

私はスマホで行政のHPを見て
どこの地下の貯水槽が使用されているかを調べた。
すると
貯水槽は半分が使用済みになっていた。

もし、このまま雨が増え続けたら…。


私はダンに電話を掛けて
『皆が心配』と相談した。

『ダン。私、地下に行きたい』
『ダメだ。君は今、パパラッチに追われている。君の身元がバレるかもしれない。もし、バレたら――』
『元より私はアンダーグラウンドの人間よ』
『…君を見捨てた人達だぞ?』
『それでも、私を育ててくれた人達だもの』
『……分かった。準備は出来ているから、地上に出てきたあのマンホールに来て』
『分かった』

私はあのマンホールに向かい
ダンと一緒に再び地下へと降りた。
そして
慣れた道を通り
仲間のいる貯水槽へ到着した。

『ただいま…』

その声に気づき
仲間達が私達の方を見る。
そして
誰よりも早く
リーダーが私達に話しかけてきた。

『何をしに帰ってきた?』

敵意を含んだ目で私たちを見てくる。
でも
私は怯むわけにはいかない。

『単刀直入に言うわ。今すぐ、ここから離れてほしいの』
『…何故だ?』
『今、地上は猛烈な雨が降っているの。ここにも水が入ってくるかもしれない』
『何を言うか。この場所はもう何十年も――』

ガチャン!

何かが外されたような音がした。
天井を見ると
今まで閉じていた隔壁が動き始めていた。

ゴォ…。

水の音がする。

『みんな早く!!』
私は声を荒げた。

その声に
リーダーを除いた皆は
ダンの指示を受けて動き出し
地上へ移動の始めた。

私はリーダーを説得しようとしたが
『地上に出るのは嫌だ』と言って
全く聞く耳を持ってはくれなかった。

私は『バカ!』と言い放ち
その場を離れた。

それから私は
ダン達と合流して地上へ脱出。
そして
天気が回復するまで
皆を私達の家で預かることにした…。

数日後
天気はすっかり良くなり
被害の爪痕は残っているものの
少し時間が経てば
街は元に戻っていくだろう。

しかし世間では
豪雨とは別に
ある話題が世の中を盛り上げていた。

それは――

私が地下に住んでいたというニュース。

どうやら
あの豪雨でも
私を追いかけていたパパラッチがいたようで
皆を地上へ脱出させる所を撮られていたらしい。

そして
記事には
私が地下に住んでいる時に
盗みを行っていた事も載っていて

私は各メディアが私の事を追いかけ回すようになった。

でも私は逃げず
そして
バッシングに怯むことなく
全ての質問に答えた。

しかし
生きる為とはいえ
盗みを働いていた事実は
世間がそれを許すことはなく
私は責任を取るように
静かに引退したのである。


それから数年後。
私は何をしているかというと…。
貧困層を支援する団体を立ち上げ
活動を行っている。

立ち上げた理由は
一言で言うと「誰かの為に生きたかった」から。

だから
今が一番楽しい。
立ち上げた時は苦労多かったけど
今は賛同者も増えてきてくれている。

今までやってきた事にも
意味があったんだと思えるの。

ちなみに
ダンは今も私のマネージャーをしてくれている。
仕事が大変で
愚痴を聞かされるけど
今の方が楽しいみたい。

さて
今日も頑張りますか!


そう言って私は空を見上げる。
あの時と違う気持ちで………


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