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2020年01月05日23:26

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宝塚月組公演「I AM FROM AUSTRIA」を見てきました

【感想】別嬪って…。

見て参りました、久しぶりの海外ミュージカルです。もともとはオーストリアで上演されて大好評だったという作品の宝塚輸入版となります。

 そんな訳で、面白い舞台なのではないかな!と期待して行ったのですが…

それなのに…というかやっぱり…というか、……多分歌が上手い人がそろっていれば、このシーンはもっと盛り上がるのだろうなあと思ってしまうことが多く、そういう意味では残念でございました。特に前半、「Nix is Fix」はとても明るく楽しくカッコいい曲なのですが、迫力というか、歌唱力が足りず、乗れませんでした。その他の曲も、宝塚がオーケストラだからいけないのかな?とも思うのですけど、なんか重い!どの曲も全体的にもったりしていて軽さがない!明るく楽しいコメディーで、曲も素敵なものが多いのですが…音を外すということはないにせよ、魅力的な歌唱にはなっていないのです。二幕は(私が慣れたのかもしれませんが)そこまで酷くなく、タイトルにもなっている「I AM FROM AUSTRIA」がとてもきれいな曲なのもあって、見通した感想としては割と楽しめたな!と思えました(よかった!)。

さて、ストーリーは至極単純です。ウィーンの老舗ホテル「エードラー」にハリウッドの美人女優エマがエージェントのリチャードと共にやってきます。ホテル従業員の不用意なSNS投稿によりエマが滞在していることがバレてしまい、ホテルの経営者夫婦の一人息子、ジョージは事態の収拾をしようとエマに謝罪のケーキを差し入れし、二人は親しくなります。エマはリチャードにプライベートまで管理されており、彼の言う通りにハリウッドのトップ女優として「エマ」を演じることに疑問を感じています。一方ジョージは、ホテルの看板を守り五つ星を取ろうと必死になっている両親から、あてにならない息子と思われていることに若干の焦燥を抱えています。ジョージは彼なりにホテルの改革を考え、スポーツジム部門のリニューアルと、そのオープニングイベントにアルゼンチンのフットボール選手パブロを呼ぶことを計画していました。

リチャードから、パブロとの結婚を迫られているエマはそれに反発しジョージと夜のウィーンの街に出かけます。エマは実はオーストリア出身で、本名はアデーレと言います。それを知ったジョージは、「君も知らないウィーンを見せよう」と、ホームレスたちのたまり場へ彼女を案内します。彼は、両親に内緒でホテルの食事の残りをホームレスに分配しており、毎日夜遊びに出ていると思われていたのは誤解だったのです。この国が好きだから、この国の人たちを家族のように愛しているから支援したいと語るジョージにエマは感動します。その後、エマ捜索の手を逃れるために二人はヘリコプターでアルプスの山へ出かけ、エマの両親(父親はもう死んでいますが)の別荘で一夜を過ごします。幸せな朝を迎えたエマのところへ、パパラッチを連れたリチャードがやって来てムードはぶち壊しになり、リチャードはジョージからのリークで自分はこの場所に来たのだと言い放ち、傷ついたエマはジョージを平手打ちして去ります。

リチャードは、もともとエマとパブロの結婚を芸能ニュースとして売ることを考えており、ホテルに戻ったエマにパブロとの結婚を強要します。ジョージの心を見失って落胆しているエマに、リチャードはジョージのリークは嘘だったこと、自分はエマを手放すつもりはないと宣言します。
リチャードの目を盗んでホテルで再会したエマは、ジョージへの気持ちを再確認しオペラ座舞踏会へ出かけていきます。パブロから「自分の心に正直に」と励まされたエマはオペラ座で「I AM FROM AUSTRIA」を歌い、ジョージとの結婚を発表します。驚愕するリチャードは詐欺や横領の罪で警察に連行されます。「俺がいなければ映画に出られないぞ」と捨て台詞を吐くリチャードに、「もうそんな気はないわ」と、ジョージとの生活を選んだエマは答えます。オペラ座には、ジョージが探し出したエマの母親も来ており、母娘も和解して物語は終わります。
…っていう話なのですが。好き嫌いで言えば、私は全くこういうオチは好きではないし、説得力も感じません。何が嫌って、こういう「自分に与えられた境遇が幸せだと感じるのが正しい」的価値観が嫌いなのです。高校の同窓会で再会したら、地元同士だと話も合うし落ち着くね〜って結婚まとまった、みたいな話、全っ然、魅力を感じない!ああそうですか、でもこれってジョージが有名ホテルの御曹司なので、つまり割と玉の輿ですよね?

最初は「ローマの休日」的話かな?と思っていたのですが(お姫様がつかの間別の場所に来て恋をするが、ラストは判れる)、「ノッティングヒルの恋人」的話だったのですよ。でも、「ノッティングヒルの恋人」だと、女優(ジュリア・ロバーツ!)はもうキャリアも十分、その彼女が中年でお金もないけど面白味のある男(ヒュー・グラント)を選んで、別に仕事は辞めてませんよ?これの方が説得力あります。

エマだと、ハリウッドで有名になれたのはリチャードのプロデュースがあったからみたいだし(演技力とか、歌唱力とかを称賛されるシーン皆無)、まだ成功して間もない(多分)のに「ジョージと生きるわ〜」って言って辞めてしまうというのは、どうなのでしょうか。そのうち後悔しそう、と思います。それに「私とママ、とても複雑な関係なの」と言っていたのに、再会してすぐ和解ってどうなのよ!?しかもエマ母ってキオスクみたいなスタンドで新聞売ってる女性だったのに、「アルプスの別荘に毎年家族とスキーに来ていたの」っていうエマのセリフ、お金持ちなのか貧乏なのか分からないよ!

エマ(アデーレ)が出身を詐称しよう思うほど、一度は嫌って逃げ出した故郷に戻り、自分のルーツとして受け入れ大切に思うようになるというのは、すごく大きなテーマだと思うのです。でも、上記のような、母娘の来歴や確執の詳細が描かれていないこともあって、「アルプスの山を見たらすっきりしたわ〜」みたいな、え?そうなの?早いね?という、しいて言えば、ずっとオーストラリアに居ます!というジョージを好きになったので、故郷も好きになれましたという風に見えてしまうのですよね。それだとヒロインの魅力が半減してしまうように思います。故郷と恋人は分けて考えよう!とだれか言ってあげてほしい。それ、別物ですから。

エマ役の人の演技が硬くて、動きがオーバーな印象なのと、セリフが聞きにくいのも、感情移入を阻んでいるかと思います。「ジョージ」を「ジョホジ」って言っているように聞こえることが何度かあって、誰の事?って思ったり、その流れで「I AM FROM AUSTRIA」を歌うと、歌える人ではあるのですが、(なぜ英語なんだ?)って思ってしまう。だって、「I AM FROM AUSTRIA〜〜!」って、自分が否定していた故郷を受け入れるシーンで、なぜ外国語で歌うの?いっそ、全部日本語か、ドイツ語で歌った方がここは絶対よかったと思うのですよ(多分原曲はドイツ語なのでは?)。日本の観客に言葉が通じなくても、文脈で意味は分かると思うのよ。

対する主人公のジョージですが、…こちらもちょっと問題で…やっぱり、歌唱力が、今回は足りないと思います。宝塚の俳優さんの中では特に下手な方ではありません、念のため。でも、今回みたいな海外ミュージカルだとしっかり歌える人向けの楽曲なので、ご本人が委縮しているのか、全然、歌でうっとりできない!歌唱力が足りなかったら演技力で補えばいいと割り切って、もっと自信を持って歌ってくれていいと思うのですよー。オペラ座のシーンで、エマと一緒に「I AM FROM AUSTRIA」を歌う時も、(え?オペラ座って招待されていなくても入れるの?)とか、(お坊ちゃんだから実は毎年来てるのかな?)とかもありつつ、とにかく(なんで歌うの、一般人が?)(←ここ太字で)って思ってしまう。すごく上手ければミュージカルのお約束で何も気にならないのですが!その「ミュージカルだから!」という押し出しというか、「俺、ジョージという架空のカッコいい人だし!」っていう説得力が足りないのですよー。

なぜなのかしら。とても爽やかで優しそうで、役柄には合っている役者さんなのですが。見ながら(この人はどうすれば良かったのだろうか?)と色々考えてしまいました。何となく、「海外のカッコいい男の人」に見えないな、とまず思ったのですよね…欧米の男性の、日本人から見ると(おおっ!)と思う大きな仕草とか表情が、あまりないんです。カッコいい人なんですけど、日本のカッコいい人、みたいに見える。いっそ、『ウチは京都出身どすえ』というタイトルにして舞台を日本にすればよかったのだろうか…主人公は着流しで出てくる老舗割烹旅館の若旦那、ヒロインは京都出身なのを隠してハリウッドで活躍している設定にすればいいのか?と思うくらいです。

 そんなこんなで、色々疑問もありつつ、この舞台での救いは役が多いところです!通常の宝塚の舞台より、脇役の重要なキャラクターがずっと多くて、見せ場があるので楽しいです。主人公の両親、特に父親が面白くてカッコよくて、衣装の着こなしも非常に美しく、見ていて楽しかったです(母親も上手です。歌もセリフも聞きやすく、演技も上手い)。ホテル従業員にも印象的な役が複数いて、パブロ役も最後なかなかの活躍を見せます。役へのなりきり感という意味でなら主人公父が一番よかったので、父を主役にしてこの話を書き直したら面白いかも?と思います。

 対して、主要キャラの一人であるはずのリチャードが、ちょっと存在感薄いかなと思いました。最後、結局公権力で排除されてしまいあっけない退場だったりはするのですが、…この役者さんが、私にはどうしても「きれいな女の人に見える」問題がありまして…いや、実際に美しい女性ですからそのままですけど…男性に見えなくて、ちょっと困りました。

エマのことを「あんな別嬪」という彼の台詞にも、(現代劇なのに…)とがっくりしたのですが、このお芝居の中ではもう一カ所「別嬪」という言葉が出てきているので(こちらは年齢不詳ホームレスの台詞だから、わざとなのかも…いや、そんなことはないか…)言葉のセンスもどうにかしてほしいし、エマに「ジョージのリークのせいだよ」と言ったと思ったら、次のシーンですぐ「嘘だよ」と言ってしまうのも、え?どうしてここでそれを?って思いました。リチャードにとっては、ここで嘘だと言うことに利益がないと思うのです(お話の展開としては、もう終わりに近いのですぐにエマとジョージを和解させる必要がありますけども)。オーストリア版でもこの展開なのかな?と疑問を持つと同時に、リチャード役は脚本上もちょっと動き(動機、心情)が極端というか、戯画化しすぎに見えるなあと思いました。

 ともあれ、曲が魅力的だし、なかなか楽しかったです!!皆様も機会がありましたら是非ご覧ください。

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