神前内科クリニック
8月17日 14:49 ·
『見えないから怖いのです！』
福島原発の事故直後、筑波の某研究所に勤務する私の友人は、所内の線量計が振り切れたのを見て、「これで日本はおしまいだ」と思ったそうです。それでも彼は自分の研究室のスタッフを緊急招集し、「親戚・友人・知人、どんなコネを使ってもいいから、大至急、家族を関西方面に避難させるように」と指示しました。同じく、事故直後、仙台で勤務していた友人は、家族を日本海側の鉄道を使って、関西の実家に避難させました。
放射性物質は放射線を出し、別の物質に変わりますが、放射線は目には見えません。放射線は多種あり、X線のように、鉛でブロック出来るものもありますが、中性子線のように、鉛を貫通するものもあります。放射性物質が放射線を出す能力（＝放射能）が、半分になるまでの期間、すなわち半減期は、さまざまで、例えば、セシウム137は30年、ヨウ素131は8日、ウラン233は16万年です。放射線による人体への障害には、急性障害と晩発障害があります。急性障害は、被爆後遅くとも2〜3ヶ月以内に現れるもので、骨髄障害（血が造れなくなる）や皮膚障害などがあります。晩発障害は長期間経過後に現れるもので、白血病などの悪性腫瘍、生殖器障害などがあります。
福島原発の事故後、人体や生態系に対する、放射性物質と放射線による重大な悪影響が懸念され、多くの人が不安を抱いているのにもかかわらず、国は汚染状況や健康被害、事故処理状況を明らかにしていません。それどころか、危険地域への帰還や安全性に疑問符がつく食品の摂取を奨励しています。また原発再稼働も企図しています。何ということでしょうか。
千葉県柏市や東京ディズニーランドはホットスポット（放射線量が高い区域）と言われていますが、住民に避難勧告はなされず、観光客にも訪問規制はかけられていません。また、あくまで噂ですが、汚染された魚が裏ルートで流通し、回転寿司店で使われているとか、汚染された作物をきれいな作物と混ぜて、産地偽装をして出荷している農協があるとか、とんでもない話を耳にします。
福井地裁の大飯原発3、4号機運転差止請求事件判決要旨には次のように書かれています。
「福島原発事故においては、15万人もの住民が避難生活を余儀なくされ、この避難の過程で少なくとも入院患者等60名がその命を失っている。家族の離散という状況や劣悪な避難生活の中でこの人数を遥かに超える人が命を縮めたことは想像に難くない。さらに、原子力委員会委員長が福島第一原発から250キロメートル圏内に居住する住民に避難を勧告する可能性を検討したのであって、チェルノブイリ事故の場合の住民の避難区域も同様の規模に及んでいる」
「年間何ミリシーベルト以上の放射線がどの程度の健康被害を及ぼすかについてはさまざまな見解があり、どの見解に立つかによってあるべき避難区域の広さも変わってくることになるが、既に20年以上にわたりこの問題に直面し続けてきたウクライナ共和国、ベラルーシ共和国は、今なお広範囲にわたって避難区域を定めている。両共和国の政府とも住民の早期の帰還を図ろうと考え、住民においても帰還の強い願いを持つことにおいて我が国となんら変わりはないはずである。それにもかかわらず、両共和国が上記の対応をとらざるを得ないという事実は、放射性物質のもたらす健康被害について楽観的な見方をした上で避難区域は最小限のもので足りるとする見解の正当性に重大な疑問を投げかけるものである。上記250キロメートルという数字は緊急時に想定された数字にしかすぎないが、だからといってこの数字が直ちに過大であると判断することはできないというべきである」
「人の生命、身体、精神及び生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、その総体が人格権であるということができる。人格権は憲法上の権利であり(13条、25条)、また人の生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない」
映画『みえない雲』（原題；DIE WOLKE、2006年ドイツ、原発事故後の住民のパニックを高校生の男女・エルマーとハンナを主人公にして描いています。必見です）の原作者のグードルン・パウゼヴァングは、AERAの取材に応じ、以下のように述べています。
「福島では避難者の帰還を進めているが、本当に大丈夫なのか。日本の人はおとなしい。子どもと自分の命を大事にし、そのために闘わなければならない」
「現実の世の中はハッピーエンドばかりではない。子どもだからといって当たり障りのない話ばかりするのは、子どもを真剣にとらえていない証拠」
「長い間『原発事故は起こらない』と言われ、私たちはだまされてきた。過酷事故は1万年に一度しか起こらないと言われていたのに、もっと頻繁に起きている。これからも起こるだろう」
「たとえ事故が起こらなくても、いずれ金や別の要因により原発は廃れる」「現状から学び、子孫のためになることをしようと言いたい」
（AERA 2016年3月21日号より抜粋）
いま、国（政府）がなすべきことは、以下だと考えます。
�（‥膰�および周辺地域のどこが安全で、どこが危険なのかをはっきりさせること。
�△修靴憧躙叡楼茲砲老茲靴峠嗣韻魑�還させないこと。
�Ｈ鑁�した住民の健康管理をきっちりすること。
�い修靴瞳鮃�に異常をきたした人たちのケアをきちんとすること。
�ト錣个�による健康被害の状況を正しく情報開示すること。
�κ‥膰�および周辺地域の生産する食料のうち、何が安全で、何が危険なものなのかをはっきりさせること。
�Г修靴得歇茲靴討呂い韻覆い發里鮹里蕕困帽駝韻�口にすることがないようにすること。
�─嵜�べて応援」などという間違ったキャンペーンは即時やめること。
��原発は廃炉にもっていき、決して再稼働させないこと。
��原子力に替わる自然エネルギーの利用を促進すること。
��避難を余儀なくされた方々、失業された方々、病気になられた方々の生活を保障すること。
��国、東京電力、原子力規制委員会などの責任の所在を明確にし、責任者には刑事・民事・行政上の責任をきっちりと取らせること。
東京オリンピックなどしている場合ではありません。
国には今からでも、早急に真っ当な対策を講じて欲しいものです。
人が毎日安心して楽しく暮らせる平和な社会が担保されない国は国とは言えません。
（註1）この記事は2015年10月5日の記事に加筆したものです。
（註2）添付画像は映画『みえない雲』のDVDのジャケット
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