涙石の情景
雨上がりの空と水溜りの空の
二面鏡に挟まれて
初めて此の世に立ち尽くすことを覚えた
少年
その目から前触れもなく零れる
涙
その目は何も捉えていない
それは無表情だ
憂いも何もなく
涙の零れる理由も原因も持たず
ただとめどなく流れる
少年の涙はそれは大粒
瞼をゆっくりと下ろしうっすらと上げた時
何処を見ると定めたわけでもないのに
黒目が正面を向いている
そんな感じの
そんな感じの
焦点のまま
その焦点のまま目を見開いて
何も捉えないまま零した
少年が立つ水溜りに覆われたアスファルトから
12mほど離れた花壇からそれを見る
青年
その目から前触れもなく零れる
涙
彼と少年の間には澄んだ空気しかないけれど
その空間には場所が場所ならきっと
直立した人間が37人くらい入ったことだろう
青年は少年の何も捉えていない涙に
捉えられた
憂いも何もなく
涙の零れる理由も原因も持たず
ただとめどなく流れる少年の涙
青年はそれを目に入れた
だから青年の目からも同じ涙が零れた
青年の涙もまた頬を伝う
スコップと如雨露を持ったまま
雨上がりの空と水溜りの空の
二面鏡に挟まれて
初めて此の世で立ち尽くすことを覚えた
青年
涙を止める37人は
そこにはいない
彼らを繋げるまでに必要だった37人は
風に乗って消え去った
涙を止める必要も
そこにはない
そこには原因も理由もそれどころか何もない
全て風に乗って消え去った
そして何処からかやってきた爽風だけが
まるで涙を拭くように吹き荒れて
そしてその目からは前触れもなく零れる
これは人の流した涙石の中に
微かに映る情景だよ
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