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2019年04月03日23:07

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うちには、天使がいます。 4.精神科へ

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<前回までのお話>
2018年(執筆している時点で去年)4月24日火曜日、
やまねこのパートナー・ゆかさんは自宅で急に動けなくなり、救急車でZ医大病院に搬送されます。
やまねこも職場から病院に到着し、救急外来でゆかさんと対面しました。
なお、病院関係者のかたがたほかの名前は、すべて仮名です。



ゆかさんは救急外来の入口に近いベッドに、
目は開いていて意識もあるようでしたが、とてもうつろな表情で横になっていました。
簡単なカーテンで仕切られた一画でした。
「話しかけても?」看護師さんに許可をもらいました。

「ゆかさん」
呼びかけるとかすかに顔をこちらに向けてくれました。
「ゆかさん、大丈夫?」
大丈夫でないことはわかっていますが、とりあえず人はそう言ってしまうものです。
「ゆかさん」
「ねこさん」(ゆかさんはやまねこのことをそう呼びます)
「大丈夫?お話できる?」
ゆかさんはゆっくりうなずきました。
「動けなくなっちゃったの?」
「ねこさん見送ったあと、すこし仮眠してたの…
そしたらメイさん(ねこ)がダイニングで吐いてるのが聞こえて、
お掃除しなくちゃと思って、
で、立ち上がろうとしたら身体にぜんぜん力はいらなくなっちゃって、そのまま立てなくなって」
「麻痺したようなかんじ?」
「うぅんわかんない。とにかく動けなくなっちゃった」
「…救急車呼んだんだ。よく呼んだね。よくやった。
玄関のドアも自分で開けたの?すごいね」
「うん、よく覚えてないけど、這っていったと思う」
「救急隊の人も、あの階段担架かついで降りたんだ」
変なことで感心してしまいました。
やまねことゆかさんの部屋はマンションの3階。かなり急な階段です。
「あのね」
「なに?」
「手が勝手に動くの」
最初どういうことかわかりませんでした。
「動いてないけど」
「今はそうだけど、勝手に動くのよ」

カーテンが開きました。
救急の先生でした。

「奥様、全身倦怠ということで先ほど搬送されまして」
「倦怠」とは若干ニュアンスは違うような気もしましたが、確かにそうなのかもしれません。
「奥様先週こちらの婦人科で検査されまして、卵巣がんの疑いありとのことで」
「はい」
「それからかなりショックを受けたり、落ち込んでいるようなご様子はありましたか?」
「はい…たしかにそれはあったと思います」
気丈にふるまってはいましたが、
ひとりになるとついつい気になってしまって、卵巣がんについて検索せずにいられない、
そんなゆかさんの姿が目に浮かびました。
「血液検査の結果は異常は見られませんでしたので、
精神的なものなのかもしれません。
いちど精神科のほうで診てもらいますか?」
「はい…」
それで良くなるのであれば、それでいいです。なんでもしてほしいです。

救急の先生が出ていき、しばらくふたりになったとき、
ゆかさんの右腕、ひじから先がぱたり、ぱたり、と、
数回曲がったり伸びたりするのを見ました。
「勝手に動いちゃうの?」
「うん」

若い先生が入ってきて、。
「婦人科の坂本です」とあいさつしました。
「今日は主治医の葛西が手術で不在ですので、
私が対応させていただきます。
精神科の予約を取りましたので、とりあえず診てもらってください。
そのあともういちど婦人科のほうへ」
「よろしくお願いいたします」

車椅子が用意されました。
ゆかさんはあいかわらずうつろな様子でしたが、車椅子に乗り換えて、
やまねこが押していくことになりました。


精神科は2階にありました。
外来の時間帯なので、かなり混雑しています。
やまねこはいちおう介護ヘルパーの資格を持っていますが、
取ったのはかなり昔で、しかも仕事に就いたことはなくいわばペーパーで、
車椅子を押す要領もだいぶ忘れてしまっています。
それと、じぶんの体はそうそういないくらい丈夫なので、
総合病院に来たことなどほとんどありません。要するに慣れていません。
たくさんの人がてんでな方向に動いているので、
つっかえたりぶつかりそうになったりしながら、なんとかたどり着きました。

受付すると問診票を渡されました。
「こちらの部屋で記入してください」
100問くらいの質問がびっしり書き込まれていて、
5段階(「よくある」から「全くない」まで)の選択肢に〇をつける形式です。

ゆかさんはしばらく問診票を見て、
途方にくれたような顔をして「わからないよ」と言いました。
「わからないよ、こんなの」
「考えずに、読んで最初にぱっと思ったとこに〇つければいいんだよ」
「だって、わかんないもの、ぱっと思わないもの」
と言いながら、泣きそうになってしまいました。困ったな。
「だから考えちゃだめだって。直感でさ」
「わかんないよ、こんなにたくさんあるし…」
言いながらいくつかの質問に〇をつけていきました。
でも順番は飛び飛びで、何カ所かは同じ質問にふたつ〇がついたりしています。
うーん困った。

やがて診察室に通されました。
精神科の先生は、穏やかに笑みを浮かべて迎えてくれました。
これまでの経緯を説明していきます。
先生は「うんうん」とうなずいて、いくつか質問しました。
ゆかさんは答えられることもありましたが、
泣きそうな顔で「わかりません…」と首をひねってしまうことも多く、
そういうときはやまねこが代わりに答えたりもしました。
そしてこちらからもいくつか質問を。
「腕が勝手に動いてしまったりとかも、あることなのでしょうか」
「おこり得ます」

「とりあえず、安定剤と睡眠導入剤を出しておきますね。
なにかありましたら、私火曜日には外来にいますし、
ほかの曜日でもほかの先生がいますので、遠慮なく相談してください」


問診票もまともに書けていないし、質問にもうまく答えられていないし、
精神科というのは脳を切り開いて中を見るわけでもないので、
今日の段階ではこれが限界なのかもしれません。


「次は婦人科だよ。婦人科行こう」
やまねこもだんだんぼーっとして、考えることができなくなってきました。
今起こっていることに、完全には頭がついていきません。

受付を済ませ、待合室でもゆかさんのうつろな様子は変わりませんでした。
「ほんとに精神的なものなのかな…大丈夫って思ってたのに…
あんなにたくさん質問あったって、全然わからないよ…」
「たくさんいろんなことあったから、
ゆかさんじぶんで思ってる以上に疲れてたのかもしれないよ」
「…ごめんね、メイさんが吐いたのそのままにしてきちゃった」
「大丈夫帰ってからきれいにするよ。ねこは吐くものだし」

順番が来て、ゆかさんは診察室に入り、やまねこは外で待ちます。
なんといってもここは婦人科なのです。もちろんやまねこは初めてです。
あとから聞いた話だと、内診があったそうです。
しばらくしてやまねこも中に呼ばれました。

どこか微妙な雰囲気が漂ってるような気がしましたが、
坂本先生は「今日は帰っても大丈夫でしょう」と言いました。
「血液検査、たしかに血栓の数値高いですが、まだ若いですしね、
あした10時からエコー検査の予約入ってますよね。
そこであらためて診てもらうことにしましょう。
葛西先生もいろいろ交渉して、手術の日程早めてくれたりしてるので。
食事もあまり摂っていないということなので、
いちおう点滴しておきましょう」


その間に、やまねこはいちどうちに帰って、車を持ってくることにしました。
点滴が終わっても婦人科の外来で休んでいて大丈夫、とのことだったので、
とりあえずゆかさんに「行ってくるね」とあいさつして。

思考が麻痺したような、ぼんやりした頭をかかえてうちに戻りました。
いつも帰るとメイさんが玄関までたたたた、と歩いて迎えにきてくれるます。
はたしてダイニングの、ごはんの水のお皿のそばに吐いてありました。
「また吐いたね」メイさんは涼しい顔をしています。
少し乾いてしまってましたが、とりあえず掃除します。
これはこれで、よくあることです。
そしてメイさんはいつも、定位置のやまねこの部屋のキャットタワーに上り、
手招きして「なでて」と要求します。
なでてあげると、目を細めて気持ちよさそうにしています。
それが日課です。


ひと休みして、少し頭もすっきりさせて、
再び今度は車で病院へ向かいます。
病室でゆかさんと再会したのは、もう夕方でした。

ゆかさんは外来の病室のベッドに座っていましたが、
会った瞬間、ほっとしました。
顔に少し表情が戻って、うつろだった目にも力があって、
少し笑ってさえくれたからです。

落ち着いた、ということなのかな?
点滴してもらって体力的にも精神的にも↑になったのかもしれないな、と思いました。
とにかく戻ってきたみたい。よかった☆

ゆかさんはさっきよりもずっとしっかりした口調で、
「もう歩いても大丈夫と思うよ」と言いましたが、
とりあえず車まで車椅子まで行くことにしました。
看護師さんたちにあいさつして、婦人科の外来をあとにしました。

「あしたの検査、ひとりで来られそう?
無理しないほうがいいね。車でいっしょに来るよ」
待合室から職場に「あしたもお休みをください」と電話しました。

外は小雨が降りだしていましたが、
ゆかさんは自分で車椅子を降りて助手席に乗り込みました。
「内診のときね、生理始まってたからすごくいやで、
泣いて抵抗しちゃったの」
なんとなく微妙な雰囲気だった理由がわかった気がしました。

マンションの駐車場は、運よく階段の真下にあります。
3階の部屋まで大丈夫かな?と思いましたが、
ゆかさんは自分の足で歩いて上ります。
帰ってきました。


「おうちだよ、ゆかさん」
よかった、一時はどうなることかと思ったけど。
「晩ごはん軽く済ませて、今日は早めに休みましょう」
ゆかさんもだいぶふだんの様子に戻っていました。
まだ少しふらつくようではありましたが、うちの中はひとりで歩けます。
「そうだね。お風呂もやめといたほうがいいね。拭くだけにしとくね」

とんでもなく長く感じられた一日でした。
10時過ぎ、どっと脱力したかんじで先にふとんに入って待っていると、
「やっぱり気持ち悪いから、シャワー浴びるね」ゆかさんの声がしました。
続いて洗面所から「この服はもう捨てるの。ぽいぽいぽいの、ぽーい」
まるで歌うように言っているのが聞こえてきました。

ゆかさんがとなりのふとんに横になったのを確認して、眠りに落ちました。





うたうやまねこ、4月13日に下北沢でLIVEがあります。
4.13(Sat.)下北沢ラグーナ → http://s-laguna.jp/
Open12:00/Start12:30/Charge \2,000+1D(adv.)\2,500(door)(予定)
下北沢の明るくすてきなライブハウス、2度めの出演です。

そして4月28日はワンマンLIVE。
「うたうやまねこワンマンLIVE2019〜脈動〜」
4.28(Sun.)at御茶ノ水KAKADO → http://www.kakado.jp/
OPEN12:00/START12:30/CHARGE\2,000+1D

お会いできますように。
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