mixiユーザー(id:1418555)

2019年01月22日00:03

178 view

じんわり泣ける映画

「幸せなひとりぼっち」(16年、スウェーデン)。
なんと、スウェーデンでは10人にひとりが小説を買い、5人にひとりが映画館に足を運んだという大ヒット作品。
これはあかんわ、なんしか泣けるぞ。
ただし、終盤に差し掛かるまではどっちか言うとコメディ的要素が強い。
藤山寛美の松竹新喜劇みたいな流れやね。

鉄道勤務43年のオーヴェは59歳にして突然のリストラ宣告を受ける。
寒いとこでは人は早く老け込むって言うけど、主人公が日本人の感覚やと70前にしか見えへんのはそれでなんかな。
妻ソ−ニャに先立たれ、生きがいとしていた仕事まで失ってしまったオーヴェは自宅で首吊り自殺を図る。
ところが、向かいの家に引っ越してきたイラン人女性パネヴァネとその家族に巻き込まれて失敗。
気難しく偏屈なオーヴェの生活はその日から少しづつ変化していく。
ただし、死んでソーニャのところへ行く希望を失ったわけではないオーヴェは排ガス自殺を企てるがまたも失敗、次に鉄道自殺をしかけたときには逆に人命救助までしてしまう。
死ぬのがへたくそなオーヴェはまわりとの交流によって、少しづつ立ち直っていき、生きることが上手になっていく。

オーヴェの人生を振り返ると、幸せなんだか不幸せなんだかよくわからんけど、もしかすると最後に帳尻を合わすことさえできれば、そんなことはどうでもええのかも知れない。
勤続43年はすごいけど、裏を返せばただそれだけのことで、その間になにか特別なことを成し遂げたわけでもないってのは引導の渡され方でわかる。
住んでるとこは郊外の整備された住宅地みたいやけど借家で、一戸建てではあっても最低限のもの。
教師をやっていた妻とは仲睦ましく暮らしたが、子供はいない。
客観的に見て、成功した人生とは言いにくいものの、しあわせだったのかどうかと考えれば、これもひとつの正解なのかなと思える。
普通の人の普通の人生を普通でもええやないか、自分で満足できてたらと言えるようになるには、一種の諦観と開き直りが必要やけどね。

主人公は父親の代から車はサーブ一筋で、ボルボ乗りを敵視してるとこも象徴的。
スウェーデンにはかつてふたつの自動車メーカーがあった。
ひとつは今も存続するサーブ航空機製作所の子会社として作られたサーブで、もうひとつがボルボ。
飛行機の技術と発想を取り入れて常に個性的なFF車を作り続けてきて、内装も含めて北欧家具のような洗練を見せていたサーブとは対照的に、ボルボのほうは20世紀の終わりまでFRにこだわり、安全性を最優先に、質実剛健とシンプルさを売りにしていた。
日本で言うと、イタリアンデザインを逸早く取り入れて都会的な垢抜けたセンスを部分的に持たせていたダイハツと、浜松の町工場、中小企業らしい田舎臭さが漂っていたスズキみたいな感じで、どちらもミドルクラスのセダンを中心に少ないラインアップで少量生産に励んでいたライバル。
1920年代から続くボルボと戦後のサーブでは歴史が違ううえ、90年代以降の歩みもかなり異なる。
サーブは90年代に入って、トラックメーカーのスカニア傘下に入ったのち、GMに買収されたものの、数社をたらいまわしにされた挙句に倒産。
いまはブランドすら残っていない。
ボルボのほうも90年代にフォードと提携したのち、2000年代に入ってから中国の吉利自動車に買収されてしまう。
つまり、スウェーデンに2社あった自動車メーカーの一方は消滅し、もう一方も中国系になってしまったっちゅうこっちゃね。

オーヴェが乗ってるのは、そのなくなったほうでもいまでは珍しい9000。
80年代の後半にヨーロッパの4社で共通のシャーシを使って作られたのが、サーブ9000、フィアットクロマ、ランチアテーマ、ルノー25。
9000が売られてたのは84年から98年、劇中で9ー5に乗り換えようかって会話があるってことは、97年より前から乗っているはず。
この映画の舞台はリアルタイムであるみたいやから、新車で買ったとしたら20年近く乗り続けてるわけやね。
父親から受け継いだ車が92で、その後オーヴェ自身の車として出てくるのは93、96、99、最後が9000。
なぜだか最大のヒット作の900がないけど、とにかくずっと歴代のサーブに乗ってきたことに違いはない。
でも、この映画の時点ですでにサーブと言うメーカーはなくなっていて、しかもそのサーブの主力モデルの9−5でなく旧式でマイナー、しかも純粋なサーブ車とは言えない9000に乗り続けてるってのがいかにもそれっぽい。
97年以降のタイミングで乗り換えるとするなら、9−3か9−5のどちらかしかないが、そのどちらもGM傘下に入ってからの車で、生粋のサーブファンとしては、独立したメーカーだった時代の9000から乗り換える気持ちになれなかった。
それがオーヴェという男であり、人間だったと。
3 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する