原発雑考第３６６号の転載です。
2019・ 1・5
発行 田中良明
転載自由
連絡先 豊橋市富士見台二丁目12-8 E-Mail tnk24@tees.jp
最後のエネルギー革命？
先進諸国を中心に始まったエネルギー大転換（社会で用いられるエネルギーの主力が化石燃料から再生可能エネルギー（再エネ）に転換すること）は、旧石器時代における火の利用開始と、産業革命期の化石燃料利用の本格化に次ぐ人類史上３度目のエネルギー革命である。
風力、太陽光、太陽熱など再エネの多くは事実上無尽蔵であり、利用において環境負荷が小さく、これらの結果として持続可能であり、利用技術が進歩すれば極めて低コストでの利用が可能であり、実際にそうなりつつある。再エネは社会で用いられるエネルギーとしてきわめて優れており、考えられるかぎりでこれに取って代わるエネルギーは見当たらない。エネルギー大転換は人類が経験する最後のエネルギー革命になるかもしれない。
再エネは電気に変換されることによってのみ広範かつ有効に利用できる。電気の利用は化石燃料の時代に始まり、大発展した。動力や照明に用いられるだけではなく、電子工業という社会全体に甚大な影響を及ぼすことになる新しい領域を拓きもした。現在まだ運輸部門や家庭部門では化石燃料が広く用いられているが、これらの部門でも温暖化対策の必要から電気と（電気を使って生成された）水素の利用が広がっていくだろう。電気自動車、燃料電池車はすでに出現しており、航空機と船舶の燃料や都市ガスもいずれ水素を主成分にするものに取って代わられるだろう。社会で利用されるエネルギーの電力化の完成がエネルギー大転換のもう一つの側面である。
原子力は、核分裂反応で発生する膨大なエネルギーを利用すれば低コストの電力供給が可能なはずという思い込みで始まったが、たちまちそれは幻想であることが判明した。温暖化防止に有効という推進理由も捻り出されたが、それは「温暖化の元凶である火力発電のバックアップなしには原発は存立しえない」という単純な事実を無視したものだった。エネルギー大転換という壮大なドラマで原発は非力な敵役にすぎなかったのである。
COP24 成果と課題
2018年の地球平均気温は1981年の統計開始以降で４番目に高かったらしい。１番は2016年、２番は2017年、３番は2015年で、直近の４年が上位を独占している。温暖化の原因である温室効果ガス（GHG）の濃度も上昇し続けており、2017年は観測史上最高を更新した。産業革命前と較べるとCO₂は46％、CH₄は157％増加している。猛暑、豪雨、巨大台風など温暖化が大きな要因と考えられる異常気象も身近で頻発するようになった。地球温暖化がいよいよ現実のものになってきた感がある。
このような状況のもとで昨年12月にポーランドのカトヴィツェで国連気候変動会議COP24が開催され、2020年以降の世界の脱温暖化の取り組みを定めたパリ協定の実施ルールが全会一致で採択された。
パリ協定では、気温上昇を産業革命前に較べて2度未満、できれば1.5度未満に抑えることを目標にして、すべての国が温暖化対策に取り組むことになっている。ただしこれまでに排出されたGHGの大部分は先進国によるものであり、現状の国民一人あたりのGHG排出量も先進国が多い。直近の統計では2015年の１人あたりのCO₂排出量は世界平均が4.48�鼎如▲▲瓮螢�は15.8�邸�日本は9.02�邸�EUは6.23�鼎任△襦�先進国がGHG排出削減に決定的な責任を負わねばならないことは明白である。もちろん途上国も相応の義務を負うが、ほとんどの途上国は温暖化対策を進める資金が圧倒的に不足している。
先進国が歴史的責任の見返りとして途上国に資金援助すれば、先進国と途上国の立場と事情にうまく折り合いをつけることができる。この点について COP24では「先進国も途上国も共通の厳しいルールにもとづいてGHG排出削減に取り組むとともに、先進国はどの程度の資金援助を途上国に行うかを２年に一度国連に報告する」という両者の立場と事情を踏まえた合意ができた。先進国は資金援助することを、途上国は温暖化防止に真剣に取り組むことを、それぞれ約束したのである。ただし実際にどれだけの支援額になるかは決まっていない。その意味ではいちおうの枠組みができただけである。
いちおうの枠組みができただけというのは、今回の決定全体についてもいえる。COP24のもう一つの大きな課題であった各国のGHG削減目標の引き上げの義務化が見送られたからである。
パリ協定では各国は削減目標を自主的に決めることになっている。この仕組みにしたことですべての国の協定への参加が実現した。その意味では巧い仕組みである。ただしこの仕組みでは各国の削減目標を積み上げただけでは脱温暖化に必要な削減量に達しないことになる危険性がある。実際、国連環境計画が昨年11月に公表した報告書によると、各国が決めた2030年までの削減目標がすべて達成されても、30年時点の世界全体の排出量は気温上昇を2度に抑える水準よりもCO₂換算で130億〜150億トン多く、気温上昇を1.5度未満に抑える水準からは290億〜320億トンも多いという。
そこで、協定で定められている5年ごとの削減目標更新の際にはどの国も削減目標を引き上げることを義務化すべきだという意見が脱温暖化に熱心な諸国から出された。しかしこの意見は取り上げられなかった。各国が協定を遵守しても目標が達成されない結果になる大きな危険性が放置されたままになったのである。
今回の合意で2020年以降の世界の温暖化対策はいちおうスタートできることになったが、先行きは不安だらけといわざるをえない。
この不安を払拭するにはそれぞれの国で脱温暖化の機運を高めていくほかない。その先頭に立つべきは各国政府であるが、その観点から日本政府の姿勢と取り組みを点検すると、これが悲惨の極みなのである
まずGHG排出削減目標が問題だ。2030年の削減目標は2013年比で26％（国際比較が容易な1990年比では23.5％）で、先進国最低レベルである。ちなみにEUは1990年比40％削減である。2050年目標は80％で、これは現状では世界標準的な削減率である（ただしパリ協定の目標を達成するには先進国は100％削減が必要とされている）。しかしこの目標達成のための準備（工程表の作成等）はなされていないし、そもそも2030年までの削減が26％で、その後の20年間でその倍以上の削減を実現するのは至難の業である。
実際に採られている政策も脱温暖化に逆行している。電源のなかで発電量1kWhあたりのCO₂発生量がもっとも多く、世界的に撤退が進む石炭火力が日本では大幅に増強されようとしている。脱温暖化社会の主要電源である再エネ発電の普及を実質的に抑制することに繋がるいくつかの方策も行われている（詳細は前号の「FITの生殺し」参照）。
いま必要なのは、2030年目標を大幅に引き上げたうえで2050年目標達成の工程表を作成することである。温暖化はGHGの累積発生量に関係するので、目標年の間際に駆け込みでGHG排出量を減らすのではなく、早い時期から排出量を着実に減らしていくことが重要である。この観点からも30年目標の大幅引き上げは絶対的に必要である。
実際の政策面では脱温暖化に逆行する諸施策を即刻停止し、省エネと再エネ利用を強力に推進する政策に転換する必要がある。
雑 記 帳
私は携帯電話を持っているが、最寄りの駅や病院まで車の出迎えを連れ合いに頼む以外はほとんど使わない。
12月6日の4時頃、日課の公園猫の見守りをしていて、その3日前に気懸かりな姿の消し方をしたまま所在不明になっていた猫を発見した。心配している仲間に伝えようと電話を掛けたら、「圏外」とか「混み合っていますので後から掛け直して下さい」という表示が出て、繋がらなかった。
てっきり壊れたと思った。家に帰って、受信は可能か確かめるために連れ合いの携帯から掛けてもらったら、私の携帯に表示されたのと同じ表示が出て、繋がらなかった。それで繋がらないのは通信障害のせいらしいことが分かった。テレビをつけたら、案の定、私たちが使っているソフトバンクの携帯電話やデータ通信に全国的な障害が発生していた。めったに使わないのに、たまたま使おうとしたら運悪く通信障害にぶつかったのである。
この事故があった日の夜のテレビニュースで、公衆電話に人だかりしている場景をバックにして若い女性が「公衆電話を使うのは生まれてはじめてです」と語っていた。こういう人がふつうにいる時代になっているのだ。他方で、繋がらなかったので電話機が壊れたと即断したのは、すぐに壊れる機器物品に囲まれた生活を送った世代の時代錯誤的早とちりだった。
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