晩夏のレッスンワン

録画しておいたナイトドラマ「dele」の第七話を観た。驚愕した。
えん罪の無差別殺人犯死刑囚の無罪の証拠をもとに犯罪のあった街を調べれば調べるほど次々と容疑者が浮上するというとんでもない話であった。
あんなシナリオの物語はいままで無かったであろう。やはりこのドラマはあらゆる意味で秀逸だと思いつつ、ある小説を思い出した。

若い頃一時夢中で読んだ安部公房先生のなかの問題作「燃えつきた地図」である。
主人公の探偵が依頼者から少ない手がかりを元に行方不明者の捜索に取り掛かるのであるが、調べれば調べるほどこちらは手がかりがひとつずつ失われ、終いには探偵が「自己」を失うという恐ろしい寓話であった。あれをドラマにしても面白いと思うが、そんなの観るひといないか(-_-)。



「dele」は来週が最終回。最後まで楽しみです。

昨日ＮＨＫの「チコちゃんに叱られる」を毎度同様笑いながら観ていたところ、番組中ふいにチコちゃんがこう言ったのにビビッときた。

「人間は生き物の中でいちばん愚かだから言語があるのよね」

真理だと思った。そして人類とは人間とはなにかとバカな僕は一瞬思いつつ、先日久しぶりに耳にしたあの常套句を思い出した。そのセリフを言った人はこちらである。



覚えておいでであろうか一か月ほど前に大分だかで行方不明になった二歳児の男の子をボランティアでもって寸時に救出した７８歳のおじさんである。凄いと思った。
この事件でこのお方一躍有名になり英雄にもなった。インタビューも多岐にわたりその中で彼はこの常套句を吐いたものだった。

「人間の命は地球よりも重い」。

まあそれだけのことを言える活躍働きをしたおじさんではあるものの僕は時折世に出るこの常套句にはちょっと待ってよと言いたくなるのである。
理由は以下のとおりである。

まず第一。これは人間至上主義のエゴではないか。地球より重たいのは人間の命だけなのか。アリはどうだやがて屠殺されて食卓に上がる牛豚鶏はどうだ猿やイルカやクジラはどうだと言いたくなるのである。この世に生を受けたという定義であれば人間と同等ではないのか。
第二。殺人暴行強盗恐喝詐欺侮辱などの犯罪営為を平然とやってのける連中の命も重いのか。戦争で相手を殺めたりホロコーストやジェノサイドを断行する上級将校の命はどうだ。

僕はこの地球より重いの言葉を聞くたびに反射的にこう思ってしまうのだ。これは僕の人間性や度量や常識良識見識が劣っているからなのであろうか。
また同時に思い出すむかしの話がある。僕が中学二年生の時の理科の担任の先生の言葉に衝撃を受けたことがあった。
その先生は僕ら中坊にある日突然訊いてきた。

「皆さん人間の貨幣価値は幾らだと思うか？」

教室中絶句した。そして先生はこう言った。
生きている人間の価値はひとそれぞれなので推し量れないが、死んだ人間の価値はだいたい１万５千円から２万円くらいと言われています、と。そう言われて教室中が凍りついたものだった。
曰く死体の有機物としての換算価格であった。遺体から回収できるリンやらカルシウムやらカリウムやらの成分に値段をつけるとそうなるよということであった。
そして理科の先生はまあ知識として頭の隅に置いてみてくださいと言ったのだった。
あれを僕は死ぬまで忘れないであろう。科学の進んだ現在では死体の価値ももう少し上がっていることと思う。それでも数万円から十数万円程度ではないかと推察する。

そうして地球より重いだ。上記の話を聞いてしまったうえでは僕には人間の命というか価値が地球以上とは残念ながら僕には断言できないのだ。
だが断言した７８歳の救出おじさんを間違っていると言い切るつもりはない。それがおじさんの人間観でろうからしておいそれと否定すべきではないと思うからだ。
なれどおじさん７８歳。終戦を５歳で迎えている。これがもし戦地に赴きアッツ島や硫黄島や戦艦大和やインパール作戦などの大量戦死者を出した戦場からの帰還兵であればまたちょっと違った人間観や死生観だったのではなかろうかとも想像してしまう。

なので重い軽いの話をするのを僕なら避ける。但し命は大切だよとはいいたい。かつてある朝ドラでヒロインの祖母はこう言った。

「人間生きちょるだけでまるもうけ！」

このことであろう。なんか朝からエラそうなこと言ってすみません(-_-)。
一曲。久々のアラン・パーソンズなど。



今日は家族で横浜に出張って二十世紀梨を贈ってくれた鳥取の友人Ｎくんへの返礼の品を買いに行きます。いつもはどのお菓子を買うか家内に任せきりにしていたものの今回どこにしようか思いつかないわあとかあちゃん言うとりました。今日の買い物はちょっと時間かかるかもなあ(>_<)。覚悟です。