私は猫や犬が好きだ。外を歩いていると、かわいい犬などに出会うことが多く、思わず声をかけてしまう。 「ペットを飼えばいいじゃないの!」と人は言うけれど、簡単には飼えない。ペットが死ぬ前にもし、私が死んだらどうしようとか、病気になって手術代とかお金がたくさん要るときは困るし
。。。と思う。なにしろ年金生活者には自分の健康維持をするだけでたいへんだからだ。自分以外の誰かに少ない年金を費やすことはできないと心の中で思っている。
自分でペットを飼うよりは、そのへんの犬や猫はぜ〜んぶ自分のペットだと思えばよい!と決めている。別に一緒に暮らす必要はない。会ったときだけ、自分のペットだと思えばよいと、自分に言い聞かせている。ものは思いようだ。
それで、きょうは近くに住んでいたみーちゃんという猫の話をしたい。
彼女は、気高くて、独立心が旺盛だ。飼い主のBさんによると、みーちゃんはもともと家にいたけど、他の5匹の猫と折り合いがわるく、いつもけんかしていたので、畑のハウスに住まわせているということだ。わかる。。。みーちゃんは甘えん坊で、主張が強く、何でも自分の思うとおりにいかないと腹を立てるタイプだ。Bさんはほとんど、毎日ハウスに来て農作業をするまえにみーちゃんに食事を与え、ついでにだっこしてみーちゃんの甘える気持ちを満足させてあげているようだった。
しかし、半年くらい前からBさんは来なくなった。Bさんのかわりに息子とその嫁さんが来て、農作業をするようになった。Bさんは80才をすぎていたので、たぶん来れなくなったのだろう。息子夫婦ももう50代だ。私は息子夫婦とは、面識がないので、あいさつをするくらいでBさんのこともみーちゃんのことも聞けなかった。
ある雨の翌日、ハウスの側を通りかかったら、かすかに「ミャー」と聞こえた。私は立ち止まった。そして、小さな声で、「みーちゃん」と言ってみた。彼女はどこからかすばやく現れて私に大声で話し始めた。
「こっちへ、来てみて!私はもう数日前から何も食べていないのよ!なにか頂戴!」
そういえば、前日、我が家の玄関前に猫が吐いたあとがあった。吐いたものはたぶん前の畑の大根葉か、草か、吐くときは相当苦しかっただろうと、想像できるような10センチくらいの長い植物の半消化物だった。私は、バケツに水を汲んできて流したが、その時はどこの野良猫が吐いたのか?とちょっと腹立たしく思った。そうだ、あれは、みーちゃんだったのだ。彼女はBさんが来なくなり、食べ物をもらえず、息子夫婦も食料を忘れたりしていたのだろう。。。と察した。みーちゃんは私に会いにきたのだった。
私にみーちゃんが大声で「来い」と言うのであとをついて行くと、みーちゃんは空の食器を指し、
「ほら、何もないでしょ。何か入れてよ。もうお腹がすいて死にそう。。。」と私に必死の様相で言った。不思議なことに猫や犬が私に話しかけると何を言っているのか私は理解できる。
みーちゃんの言っていることはすぐにわかったので、「わかった!わかった!お腹が空いたのね。待っていて!今、持ってきてあげるからね。ここで待っていてね!」そう言うと、私は50メートルくらい離れた自宅へ向かってダッシュした。このようなときのために私は猫のえさを買ってきて冷蔵庫に保管している。
すぐに冷蔵庫から出して、みーちゃんに持っていくと、容器に入れる間も待てないくらいみーちゃんはがつがつと食べた。水の入っている洗面器も空になっていたので、私は水を入れて持って行った。それ以来、私はハウスの横を歩くときは猫の食料をすこしビニールに入れて持ってあるくようにしている。
しかし、こののちの数週間、みーちゃんは食べ物をもらっているらしく、私が横を歩いていっても出てこなくなった。私がジョギングに行くときはかならずそのハウスの横の道を通るので、みーちゃんはきっと私の存在を足音から察し、「あの、食料くれるおばさん」と、認知していると思う。
ある日、ジョッギングからの帰り道、みーちゃんはハウスの前にすわって私を見ていた。私は目で話かけた。
「きょうはちゃんともらったのね!」
「もらったよ。あんたがくれるえさほどおいしくはないけどね。。。」とみーちゃんは目で答えた。
私がみーちゃんにあげる食料は、「プチ贅沢!国産カツオ、グルメ仕立て!」と書いてある。たぶん、Bさんちが持ってくる大袋入りの「シェフのお勧め、お得なドライフード」とは違うのだろう。
「よかったね、食べたなんて安心したよ」と私。
「また、何かのときは頼むね!」みーちゃんはじーと私を見つめながら、言った。
ずーと前の話だけど、みーちゃんがまだハウスに住み始めて間もない頃、うちの玄関前に来て話始めたことがある。
「私をあんたの家で飼ってくれない?」と彼女は言い始めた。
「無理よ」と私は言った。
「なぜ?」とみーちゃん。
「だって、あなたは野良猫の自由を味わったから。だからもう家の中で縛られる生活はできないでしょ。家猫はやたら出たり入ったりできないのよ」
「冷たいね」
「食べ物に困ったら食料はあげるからその時はいらっしゃい」と私は声に出して言った。
「わかったよ」
みーちゃんは私との約束をしっかり覚えていたのだろう。
今年も 長くて冷たい冬が過ぎて、春が来てそして夏になった。少し遅かったけど、さくら、さざんか、つばき、かいどう、ぼけ、山吹、すいせん、フリージャ、クロッカスなどの花がいっせいに咲きそして散った。しかし、みーちゃんの姿は見えなかった。冬の間は、ハウスの中に入れてもらっていたと思っていたが、夏になってもあの、白とグレーぽい茶色の姿はどこにも見えない。
「みーちゃん!」と呼んでみたが、姿はない。
私はあきらめた。人も猫も犬もいつかは死ぬんだ、と心の中で思っている。ちょっぴり寂しい。
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