No.0255
特別編 『Feels Of Heaven』
Review ： 07/18, 07/25, 08/01 Diary
(Vol.4 Something Ever After)
これ以上考えても仕方がない。
“Fells Of Heaven”への行き先は正直全然分からない。分からないが、
私には何となく心当たりがあった。
結に直接場所を聞くと、すぐさま答えを導き出してくれた。
だが、結は捕えられていた頃の記憶が蘇ったのか、
頑なに私の服の裾を控えめに引っ張っている。
そんな結を見ていると、何だか意固地になっている私がアホらしくなり、
私「分かった、何とか別の方法を考えるからお前も俺から絶対に離れるなよ」
離れられたらこっちが困る。ずっと影が無いのも嫌だし。
それに何より先程まで拘束までされていた事実が何だかイラつくから。
結曰く、「あの会場自体がだだっ広いから、裏口から侵入して何とかする」との事。
その裏口へ通じるルートからすると、郊外にある幽霊屋敷から入る地下通路からのルート、
仮に会場へ入ってしまえば、何とか誤魔化せる……らしいが。
結「ただね、私が捕まっていた時に本当は私が所属するバンドのLIVEの本番がもうすぐそこまで迫っているんだ。
それでね、私の仲間は皆あの地下通路に幽閉されたか殺されたか、未だに分からない……。
私だけが囚われの身となって、
仲間皆を守ったんだけど……」
結はそれ以上言葉に詰まり、目に涙を浮かべた。
私は見ていられなくなり、そんな結を出来る限りの不器用さで慰めた。
もうここからは前述の通り、結に言われなくても分かってはいる。
仲間の代わりに、私がバンド仲間となって結と共にLIVEでぶっ放して目的を達成する事だけだ。
即席のバンドなので、当然バンド名など必要無い。
普通に“MARL”名義で出場しても何ら問題は無い。
早速、その幽霊屋敷へとタクシーで向かうも、
タクシーの運転手は嫌がらせなのか天然なのかは知らんが、
やたらと私と結を、仲の良いカップルみてぇなアホな勘違いをしやがるが無視。
タクシーは幽霊屋敷の門前まで行ってくれたが、既に時刻は午前0時を過ぎようとしている。
これから寝るのも面倒なので、私は早速屋敷の古びた扉を開けた。
廃墟とは思えないほど、あっさりと扉は開いた。扉の錆びが無い分、
やはり誰か関係者の出入りがよくあるのだろうか。
結は怖がりなのか、私の服の裾を掴んだまま離そうとしない。
「私と逸れたら困るでしょ？」と、そんな事を言っているけど、本当は怖がりな癖に。
その証拠に身体全体が震えているじゃねぇか。
屋敷の中には歴代のLIVE覇者の絵画が飾られているが、
見方によっては白骨化したものまで様々だ。
ボロボロのシャンデリアから蝙蝠が飛び、その反動で大量の埃と蜘蛛が落ちてきたが、
私は結にそれらがかからないように何とか身代わりになっておいた。
結は目を瞑って私の服の裾を思い切り引っ張って離さない。
まるで迷宮のような屋敷の中を結と一緒に歩き続ける。
ふと、大きな鏡の前に出たが、
その鏡には私と結が映らずに代わりに一瞬地下で幽閉されたであろう、
亡者共の泣き声が聞こえてくる。
その中には結とかつてバンドを組んでいた連中らしき声も混じっている。
結は鏡を直視出来ずにずっと俯いて暫く泣き続けていたが、視線を鏡の方へと向けると、
私「結、見るな！！」
私は咄嗟に結の視界を手で遮った。
鏡の中の亡者共が、血肉に餓えていたのか結の若々しい身体に腐った手を伸ばして
鏡越しから襲い掛かろうとした。
私が身代わりになった時には、右腕の母指（親指）の爪の部分が一部剥ぎ取られかけた。
少し出血はしたが大した怪我でも無かったので、
怖がる結を離れないようにしてから鏡の間の向こうの大階段へ。
階段を上っていくと、重い扉があった。
扉に手をかけて思い切り開く。何とか扉は開いたが、
向こう側の世界は先程までの寂しさとは一転、
華やかなLIVE会場を思わせる雰囲気の楽屋だった。
幸いな事に楽屋には人の気配は無く、結は楽屋の扉をそっと開けて廊下の様子を探る。
どうやら“Fells Of Heaven”への侵入は成功のようだ。
安堵したのも束の間、偶然通りかかった一人の大会関係者が結を見るなり、
「結さんですよね！？ 探しましたよ、やっと楽屋に戻ってきてくれたのですね。
もう時間は無いですよ」
結「す、すいません！！ 準備に遅れちゃいました。え、えっと……他のメンバーなんですけど」
「そこに居られる方ですよね！？ あなた達の出番は1時間後になっているから」
何だか急な話になってきやがったな。
結に詳しく聞いてみると、何でも“捕われた直前”の時間に巻き戻っているらしい。
あの屋敷が一種のタイムマシン的な役割を果たしていたのか。
LIVEの5分ほど前に、結はあいつ等に見つかって理不尽に仲間を殺されて捕われたのか。
もし、あの時にあいつ等に会わなければ……。
今更そんな事を考えても仕方ないので、
最悪あいつ等に出くわしても私が結を守ったらそれでいいか。
……という事は、あいつのギターも私の飛行機のチケットもどうなっているんだよ。
荷物を確認してもやはり飛行機のチケットは見当たらない。
本当に時間が巻き戻っているのか。
LIVE開始まで残り30分を切った。そもそも一体、本番は何をすればいいんだ？
結に本番の曲から何から何まで聞いてみる。的確に教えてくれるのはいいが、
私がリードギターの代わりと言っても、
もう随分とまともに弾いていないのもあるし、ベースとドラムは代替が利くと言っても、
今からじゃ何もかもが間に合わん。
そこで私は結に好きなアーティストをダメもとで聞いてみた。
勿論、好みは私と100%合致する。披露する曲はどうやらオリジナルでは無く、
既存の有名アーティストのカヴァーだと分かり、その曲なら大丈夫とだけ伝えて、
私と結は時間も準備も全然しないまま、物語らしい物語も進まないままLIVEに挑む事となる。
「それでは大変長らくお待たせ致しました。
次のアーティストは、ボーカルが何と10代の女の子！！
この子のリズムギターと、もう一つのメインとなるリードギターとの演奏は
きっと病みつきになる筈！！ ……」
はぁ？ 結のギターが優勝賞品になっている時点で何だか話が食い違うような。
既に時系列が乱れているこの歪んだ夢は、一体何処へ辿り着くのか。
「早速、ご登場です！！ ＊＊＊＊（MARL）で、『HEAVEN’S DRIVE』(English ver.)！！」
�帰���
【本編後記】
時系列が乱れた夢の中で繰り広げられるLIVE！！
結が両手の負傷の為にギターを捨て、ボーカルに徹する姿に客達の反応は！？
そして、急遽リードギターを任された私に待っている結末とは。
実はこのLIVE直前のシーン、これが最終回に持っていきたかった描写であるが、
私と結のこのLIVEの結果次第で、後半戦での展開が大きく変わる事を、
LIVE中の私と結は知る筈も無い。
to be continued……
（特別編 『Fells Of Heaven』Vol.5へ続く。）
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