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2018年06月28日02:57

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森村誠一著『破婚の条件』〜嫌悪感が煮詰まるとロクなことない

有名な作家だが、初めて読んだ。この方の作品を原作にした映像作品はいくつか見てると思うが、印象にない・・・。

「棟居刑事シリーズ 13 」とあるが、もちろん読むのは初め。過去に妻子を事件で失くした・・・と作中にあり、シリーズ化したTVドラマの『刑事7人』の主役(演:東山紀之)の設定に似てるなとは思った。調べると、この刑事役を佐藤浩市氏、中村雅俊氏、東山紀之氏が演じて、それぞれシリーズになっていた。はは、『刑事7人』は東山氏が主演・・・だけどなぁ。

ある日、突然、夫に嫌悪感を感じる妻に共感を覚えながら読んでいた。私にも覚えがある。本当は「ある日、突然」ではなくて、「気にならない」、「さして重要でもないから口にしない」ことが、なにか小さなことをきっかけに「気になる」、「我慢できない」に変わるのだと思う。気になってしまうとそこばかりが目につく。そのきっかけが昌枝にとって里見の口を開けて食べ物を噛む動作だったのだろう。食べ方なんて人間そうそう変わるものではないから、里見はずっとそういう食べ方をしてきのに昌枝が気づかなかったのか、彼女の許容範囲だったのかだ。相手のことで嫌いな部分はいっぱいあるが、意識して我慢をしなくても耐えられるものはいっぱいある。それを我慢して受け入れるようになり、仕舞いには我慢できなくなる。自分も相手も気づかないが変化しているし、自分が気に入らないことは、大なり小なりあるものだ。それが知らず知らず積み重なっていくのだが、気にならないか許容範囲のうちは、夫婦でも友だちでも関係はうまく続いていくのだと思う。

私は同じアパートに8年暮らした。アパートを3人でシェアしていた。ひとり抜けたところに私が入った形だったが、4年目が終わるころ、シェアメイトが交代して、また4年暮らした。シェアハウスとしてはとても安定していた。特に先輩シェアメイトとは通算8年暮らしたことになるが、終盤はちょっと辛かった。3人目がいてくれたおかげで、なんとか我慢できた。この小説の昌枝のような感じだった。相手に気にくわないところがいっぱい出てくるのに、相手は全然気が付かない。向こうはいつも通りだったし、私も以前は気にならなかった部分だからだ。でも3人目が交際相手を期間限定で同居させたことがきっかけとなり、ふたりが大ゲンカした。私は3人目の方が正しいと思ったが、口出しはしなかった。アパートを出て新しい住まいに移るとき、先輩シェアメイトは私を誘ったが断った。私の拒否の理由が分からず向こうは悩んだらしいが、わたしは限界だった。今は、連絡もとっていない。

昌枝と私との違いは、婚姻関係か法的束縛のないシェアメイトかだ。シェアメイトの場合、意図的に時間をずらせば、顔を合わせずに暮らすこともできる。食事を一緒にとる必要もない。ただ、気にくわないが嫌悪に変わり、気にならなかった部分まで過敏に反応してしまう様子がよく描かれていて、自分の過去を見るようだった。

最初の章に女性の殺人事件が書かれている。中盤でこの事件のことが出てきたときには、もう忘れかけていた。あ、ここにつながるんだって思い出した。結局、昌枝の夫への嫌悪と殺意を抱く過程、夫がいなくなったら夫への嫌悪感も消失してしまう昌枝の気持ちに気をとられ、殺人事件(10年前のものと里見のと)は私の頭の中で主旋律でなくなってしまった。それだけ私が昌枝に共鳴していた。保険会社の中西と恋人になって幸せになると、よかったねとは思ったものの、ちょっと事が上手く行き過ぎる、やっぱり小説だと少し引いてみていた。それに中西自身が、普通保険金受取人から保険金の支払いを請求するもので、保険会社が受取人にコンタクトをとることはない、と言っているのに、なぜ彼は昌枝に接触したのかが腑に落ちなかった。おまけに昌枝がまた夫のように、中西も嫌いになるのではないかと危惧もした。金の貸し借りが出きて、ちょっとおかしくなる。私は金銭の貸し借りは嫌いだけど、金の相談をしてもらって喜ぶ昌枝の気持ちも分かるのでそのまま読み進んだ。ちょっと半同棲に至るのが早い、と思いながら・・・

結局、殺人事件のほうは、昌枝と保険会社の与り知らぬところであった。昌枝が気にしすぎていらぬ心配をしてしまっていたものだ。でも自分が昌枝の立場だったら、どうだったろう。

私と昌枝の決定的な違いは、相手を殺そうと思うか、思わないかだろう。私は相手を殺すより、自分が消えるだろう。相手が消える想像をするかもしれないが、殺そうとは思わない。計画までして実行に移すまでだったから、中西の言葉や報道に過敏になったのかもしれない。それに中西を殺してしまうが、人を殺して平気な顔をして日常を過ごすなんて私にはできない。怖くて怯えてしまうだろう。

結局、殺人事件や棟居刑事の推理は、おかずみたいなものだったのだと思う。題名も「破婚・・・」なのだから、夫婦がうまく行かない心理を描きたかったのかな。目の前にいるとうっとうしく思い、別居すれば週に一度でも会うことが重荷だったのに、永遠に消えてしまえば霧が晴れるように、心もすっきりする。一方、この話での夫の方は、別居したことで妻への愛が復活したようにも見える。人間の心が寄り添うっていうのはなかなか難しいものだなぁ。

破婚の条件 (角川文庫)
http://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=8674592&id=2991001

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