いやもう、こんなに可愛い与三郎があって良いものか〜〜。な舞台でした。
「死んだはずだよお富さん〜♪」でお馴染みの「切られの与三」
七ちゃんピンで立ってます。串田さんの演出・美術、素晴らしい。
与三郎 中村七之助
お富 中村梅枝
脇を固めるのは笹野高史、亀蔵、扇雀のいつものメンバー。
先ずはいいとこのボンボンが勘当されて木更津へ、わびずまいで気落ちしてるとこへヤクザの妾と出会い恋に落ちます。
これがね、いい仲になるとか深い仲になるとかそんなどろどろした感じじゃなくて、実に初々しく、与三郎が恋に落ちてしまう演出でした。ドキドキしました。
もちろん見つかってメッタ切りに。顔も体も死なない程度に傷だらけにされるわけです。お富も海に飛び込んで死んだと聞かされ絶望する与三郎。
三年後に江戸に戻るもこの姿では家にも帰れず、傷だらけの顔を見せればだれもが怖がって金を出すので蝙蝠安(笹野高史)と組んで強請りたかりを生業とします。
その強請りに行った玄冶店に居たのがちゃっかり分限者に囲われているお富、ここでかの有名な台詞が。
「ご新造さんへ、おかみさんへ、お富さんへ。いやさお富久しぶりだなあ。」
「しがねぇ恋の情けが仇(あだ)命の綱の切れたのをどう取り留めてか 木更津から
めぐる月日も三年(みとせ)越し江戸の親にやぁ勘当うけ拠所(よんどころ)なく鎌倉の
谷七郷(やつしちごう)は喰い詰めても
面(つら)に受けたる看板の
疵(きず)が勿怪(もっけ)の幸いに
切られ与三と異名を取り
押借(おしが)り強請(ゆす)りも習おうより
慣れた時代(じでえ)の源氏店(げんじだな)
その白化(しらば)けか黒塀(くろべえ)に
格子造りの囲いもの
死んだと思ったお富たぁ
お釈迦さまでも気がつくめぇ
よくまぁお主(のし)ゃぁ 達者でいたなぁ」
この長台詞、聞かせてくれました。
梅枝さんがまた、悪女じゃないけど、取り敢えず流されやすいフラフラした性の悪い女がうまくって、だめだよ与三郎そんな女に入れ込んじゃ〜〜と止めたくなる。
囲っていても指一本触れていない、そういう仲ではない(実はお富の兄)と言われ『そんなわけが、ホントに?まさか』とすぐによろめいてしまう与三郎。やっぱりお富にほれている。
その兄に真人間になれといわれてまとまった金をもらうもすぐ使い果たして結局お富を他の男の妾に出して、自分は従兄弟とごまかして一緒に住む。
蝙蝠安の仲間のつんすけにばらされて包丁で刺し殺し、島送りに。
トランペット!串田演出のトランペット!
天日坊の時と一緒の演出、でも今回はなんと笹野さんら役者が吹いてました。
もちろんすごく上手くはないけど面白かった!
島で久次という男と知り合い一緒に島抜けしようとするが与三郎が飛び込んだあと久次は役人に告げ口して自分の罪の軽減をねがう。
江戸に戻って放浪する与三郎、追手がかかる。
そこへ久次が現れると、なんとお富と夫婦になっている。夫婦の店でお富が与三郎は死んだと思い、級死んだとさんと夫婦になったと明かされ、久次にお富のことを頼んで帰ろうとするが久次に引き止められる。
久次はお富をそそのかして与三郎を殺させようとする。板挟みに悩みつつそこはお富流されやすいので与三郎を殺しに行く。
ここまで自分の人生を狂わせた女が自分を殺そうとするのか!なんの真似だ!
そこへ久次が現れてお富の持つ包丁を、自分の腹に刺す。
実は与三郎は久次の主筋のご落胤かなんかで、そんでもって久次は何年のなんとか(歌舞伎でよくある亥年で亥の刻生まれの肝を食べれば業病が治るみたいなやつ)で、自分の血だか肝だかで傷はきれいに治ると伝えて死んでいく。
さて原作ではそれで傷がきれいに治った与三郎とお富がめでたしめでたしで終わって、それでいーのか!と言いたくなるのだが、今回は違う。
これまであったこと、いろんな辛い思いもし、人も傷つけ、親も泣かせ、それでもお富を恋しく思った今までの全てを無かったことにできるか!
傷も含めて俺なんだ。
(ここらへんは天日坊の「俺は誰だ!」と似てますね。)
追われて逃げ、ラストシーンで舞台中央にポツンと座ったままあの名台詞をもう一度繰り返します。
「しがねえ恋の情けが仇、〜〜〜〜
よくまあおんしゃ、達者でいたなぁ」
この時ちょっと上を向いて、少し笑っているような。
もとは「よくも自分だけのうのうと生きていやがったなぁ」と言う皮肉な感情の台詞なのに、この最後の「タッシャデいたなぁ」はそれでも生きていてくれて嬉しいような切ない恋心を感じて泣けました。
いや泣いた。
いや七ちゃん、タチでもいける。これなら仁左さまの女殺し油の地獄もやれる。
とにかく素晴らしい舞台でした。三度目のアンコールではスタンディングオベーション!
七ちゃんは『えっ?どうして?あれ?そんな』とキョトンとしてました。
後日行った友人によればその日カメラが入ってたそうです。シネマ歌舞伎かWOWOWか。
七之助代表作になりそうな舞台でした。
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