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2017年12月31日16:59

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薬の調製に関する話

記事では薬の調製について触れられていないので少し補足させて頂くと、
1. 様々な容量の容器を作ると取り違えの危険が高まる
2. 1容器あたりの容量を小さくすると作り間違いの危険が高まる

という問題があって、ことはあまり簡単でもないのです。


例えばゲムシタビンの場合1g/瓶(1000mg/瓶)と200mg/瓶の2種類があります。
治療の際は体重や過去の有害事象の程度に応じて個別に調製するわけですが、
例えばある人には1620mgを投与することになったとしましょう。
現行の薬では1g瓶を2本開けて作るか、
1g瓶1本と200mg瓶4本の合計5本を開けて作る形になります。
1g瓶では10mg単位の細かい調節が難しいという部分は無視するとして、
前者の方法だと380mgを廃棄することになります。
後者の方法だと180mgを廃棄する形になります。

ここで、500mg/瓶を作れば、1g瓶1本と500g瓶1本と200mg瓶1本との3本で調製できますので、
廃棄は80mgで済みます。

しかし種類が3種類に増えると、手順が複雑化するので、
1g瓶と500mg瓶とを取り違えたり、200mg瓶と500mg瓶とを取り違えたりというミスの危険が高まります。

もちろんそんなミスはあってはいけないわけですが、あってはいけないことと実際に起こりうる危険の大きさとは別物ですから、
危険を減らすためには手順は単純であればあるほどよいという話になります。



では、極端ですが、手順を単純化し、かつ廃棄を極力減らすために、既存の1g瓶も200mg瓶も廃止し、
10mg瓶で統一したらどうでしょうか。

この場合、薬の取り違えのリスクは減りますし、廃棄も理論値0mgで済みますが、
1620mgを調製するためには162本もの薬を開けねばならなくなります。
実際の調製作業では瓶1本使うといっても薬液をきれいに全て瓶から吸い出せる訳ではないので、
本数が増えるほど実際の使用量は不正確になります。
また操作が増える分操作過程でのエラーの危険(たとえば汚染など)の危険も高まることになります。

ちなみにゲムシタビンの場合は、実際に使われるのはだいたい600mgから1600mgくらいのことが多いと思いますので、
500mg瓶と200mg瓶と、ないし500mg瓶と100mg瓶との2種類にするという方法は考えられるかもしれません。
ただ、1000mgから1500mgくらいでの使用がおそらく最も多いだろうことを考慮すると、
現行の1g瓶と200mg瓶との2本立てと比べて利点が大きいかというと、必ずしもそうとは言えないかもしれません。
この辺りは、実際の使われ方を集計してどの形が最適か薬ごとに検討してみないと分からないと思います。

(まあ、ゲムシタビンは免疫チェックポイント阻害薬などに比べればずっと安いので、
優先すべき対象ではないと思いますが)



あと、1瓶を複数の患者に使う場合は管理が問題になるかと思います。
基本的に残薬を次の患者のために長時間取っておくことは安全管理上ないかと思いますが、調製後から使用までに時間制限のある薬もあり、複数人に投与するとなるとその辺が混乱するおそれもありましょう。

また記事にある汚染の問題もそうなのですが、ほかにも調製過程で何かエラーが起こった場合、被害が拡大する危険があります。
たとえば粉末の注射薬で、溶剤の量を間違えて調製されていた場合(10mLの水で溶いて2mLを使用すべきところ、5mLの水で溶いて2mL使用してしまうなど)、
1剤1人の使用に限るならば間違いの被害を受けるのは1人ですが、2人に使用するならば2人とも間違った分量を投与されてしまう危険があります。
また、複数人同時に調製する場合だと患者取り違えの危険も高まることになりましょう(患者Aさんに500mg、患者Bさんに350mg投与すべきところ、逆にしてしまうなど)
従って1人ずつ個別に調製する必要があるかと思いますが、この場合どうしても薬から手をはなす時間ができてしまうので、
細かいことを忘れてしまう危険があります。
(たとえば使用する溶剤の種類や量が複数選択可能な薬で、どの溶剤をどれだけ使ったかなど)
こういうことはきちんとメモしておけば防げますが、無菌調製時でしょうから操作者とは別にメモをとる者が必要にもなるでしょうし、
メモをとるという手順を加えるとそれはそれでヒューマンエラーの危険があります。



という訳で、なるべく薬の無駄は省きたいところですが、容量を小さくする、容量を多段階化する、複数人で1瓶を分ける、そのいずれの方法にも危険は伴います。
また薬の特性(安定性など)にも左右されるでしょうから、個別に方法を考える必要があるかと思います。

現状、特に”廃棄額”の高い16種類に絞って考えるというのは実に合理的な判断だと思いますが、実際にリスクを抑えつつ廃棄を減らすのは、容易ではないように思います。

私の勤務先も恐らく全国でもかなり廃棄の多い部類でしょうし、廃棄の削減は医療経済的にも病院的にも好ましいところ。
残念ながら私にはこれといってよい案がないので、妙案があったら是非伺いたいものです。



抗がん剤廃棄 年間738億円相当
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=2&from=diary&id=4926465
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