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2016年10月12日03:08

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なんやしらんけど書いた

夜中に鳴った電話を取ると、相手は強盗だった
強盗は俺のタマシーにピストルを突きつけてこう言った

『創作におけるカクテルの描写をやってみせてくれ』

タマシーが『いいからやってやれよ』っていうので
そのとおりにした
以下、設定
・青果が手に入らない世界
・カクテルは『オールド・ファッションド』
・飲み手:渋いおっさん
・作り手:おねーちゃん(巨乳)

巨乳描写は入りきらんかった
ていうか要らんと判断した

以下書いたやつ
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 がこん、と無粋な音を立てて重い木製のドアが開き、秋の夜の冷えた空気が店内へ流れ込んだ。
 ドアベルは鳴らない。客の来店を告げるには掛金の音と空気の流れで十分だからだ。
「よう、ご無沙汰」
 夜風とともに滑り込んできたのは、ジャケットにチノパン姿の男性。長身だが同時にひどく細身で、まさにすきま風を擬人化したような姿だった。
 現在、午前三時四十五分。四時の閉店までにもう客は来ないと踏んでいた店主は、バーテンダーらしくもない表情で不快感をあらわにする。
「看板、消えてたでしょう?お店、もう終わりよ」
 悪態すらも艶めいて聞こえるのは望まざる天与の才か。ちょうど店内の片付けを終えたところだったのだろう。捲くり上げたシャツの袖からは透けるような白い腕が、蝶ネクタイを外してボタンをはだけた襟元からは細い鎖骨の先端が覗いている。
「四時までだろ、一杯飲んだら帰る」
「今日は早く閉めたの」
「そんなつれねぇこと言うなよ」
 男は不躾にもスツールに腰を下ろし、バーマットの上に積まれた洗いたてのガラス灰皿を取って煙草をつける。
 店主は欧米式に視線を上げて肩をすくめた。保温庫からおしぼりを取り出し、男に向かって投げつける。
 それを顔面すれすれで受け止めた男が顔を吹き上げた時には、彼女の腕と胸元は衣服に隠れていた。
「ち。さっきのまんまで良かったのによ」
「もう決まってるんでしょ、何にするの?」
 無愛想にオーダーを要求する彼女に苦笑して、男はカウンターに置かれたバーボンのボトルを煙草で指さした。
「そうだな、オールド・ファッションドだ」
「……何件目?」
 答えを待たずにボウモアへ手を伸ばしていた店主の手が止まる。普段は水出しのヨードのようなシングルモルトをストレートで飲る彼が、どういう風の吹き回しだというのか。
 怪訝そうなその表情を楽しむように、男は紫煙を吐き出した。
「おっさんが甘い酒飲んじゃいけねぇってのかよ。オールド・ファッションドだ」
――閉店間際、閉め直前のカクテルは、正直面倒だ。
 バーで働いた経験がある者なら誰しも一瞬頭をよぎる感情である。
 しかし店主の好奇心はそれに打ち勝った。この男が、一体どんな顔でこのカクテルを飲むというのか。
「畏まりました」
 わざと嫌味たっぷりに言って、彼女はグラスを取り出した。角砂糖をふたつグラスの底に転がして、ビターズを振りかける。このグラスなら、氷は三つ。ナイフで角を落として放り込むと、そこにフォア・ローゼスを注ぐ。
 ハンド・メジャーである。メジャーカップの計量に頼ることなく適量をグラスに注ぐ、バーテンダーの特殊技能。角砂糖を崩さぬよう丁寧に混ぜてからマラスキーノ・チェリーを飾り、小ぶりなマドラーを差し入れて完成だ。
「オールド・ファッションド」
 彼女の細い指が閃めいて角砂糖にビターズを落とし、ウィスキーを注ぐその目が細められ、控えめな自信に満ちた笑みを浮かべて目の前のコースターへカクテルを置くまでのすべてを、男は満足げに眺めていた。
 混ぜずにそのまま一口。マドラーで底の角砂糖を少し突き崩し、ふた混ぜしてもう一口。
 満足気な吐息とともに、男の口から言葉が漏れた。
「あぁ、旨い。旨いが……オレンジが、足りなくねぇか?」
「……本気で言ってるの?」
 店主は苦笑めいたため息を漏らし、ついに煙草を取り出して火をつけた。
――生の青果が店頭から消えて、どれくらい経つのだろうか。
 ここで使ったマラスキーノのように、加工品は相変わらずスーパーどころかコンビニでも手に入る。しかし、生は駄目だ。子供が描く果物の絵は輪切りにされて角ばったドライフルーツ。過去に何か原因となった事件を聞いたはずだが――いつのことだろう、思い出せない。
「フレッシュ・オレンジ……懐かしいなぁ。そう思わねえか?」
「思わないわね。もう忘れたわ」
 店主は煙草をもみ消して手を洗い、カウンターの下から大きなガラス瓶を取り出した。
 その中身を方形の小皿に移し、男の前に供する。
「これは?」
「オレンジの皮の砂糖漬け。カクテルに入れる?」
「……もう、砂糖崩しちまったよ」
 男はグラスをあおって、カウンターへ身を乗り出す。
「手に入るぜ、生の、『果物』」
 熱を帯びた男の目を店主は冷めた目で見つめながら、僅かに震える手で二本目の煙草をつけた。
「俺は、お前の酒が飲みたい。本物の果物を使って、お前が作った酒が飲みたいんだ……何が要る? 何を持って来れば、お前は俺のための酒を作ってくれる?」
 本物の素材を扱うこと。バーテンダーとして、抑えられない欲求。
――売りたいのではない。造ってみたい。本当の、カクテルを。
「オレンジがあれば、完璧なオールドファッションドを。そこにレモンがあれば、完璧なサイドカーを。ライムがあれば、最高のギムレットを……作ってあげるわ、貴方の為に」
「オレンジ、レモン、ライム……ね。頼むぜ、約束だ」
 男は鋭い目をさらに鋭く細めて、口の端で笑った。

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三十分で終わらせると言っておきながらわーおもうこんな時間です
寝ます
0 4

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