「原発雑考」第３４１号の転載です。
2016・12・5
発行 田中良明
転載自由
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日本の原発輸出
日本の政府と原子力業界は原発・原子力技術の輸出に躍起になっている。11月にそのことに関連する二つの動きがあった。
まず、ベトナムで原発建設が中止になった。福島原発事故によって各国で原発建設の意欲が低下する中で、ベトナムは日本からの原発輸出が決まっていた唯一の国だった。それだけにこの決定は日本の政府と原子力業界にとって大打撃である。建設費が当初の2.7倍に高騰したこと、親日派の首相が退陣したことなどが理由とされているが、国民の中に安全性についての不安が根強かったことも背景にある。ベトナムは現実的な選択をした。
つぎに、日本とインドの原子力協定が締結された。
インドではアメリカとフランスが原発建設計画を進めているが、両国の原発には日本企業が市場独占する機材が使われるため、その機材の輸入を可能にする日印原子力協定がなければ、建設は事実上不可能だった。それでインド政府が日本政府に協定締結を求めていたのである。
ところで、インドは核不拡散条約（NPT）に参加せずに核兵器を保有しており、逆に日本政府はNPT遵守が核廃絶への唯一の道という頑なな政策をとり続け、核兵器禁止条約や核先制不使用宣言に反対してきた。NPT無視のインドに原子力技術を提供する今回の協定締結は、日本政府のNPT遵守政策とまったく相容れないものである。核拡散防止よりも原発ビジネスを優先させたといわざるをえない。協定締結の見返りに将来の原発建設で日本に便宜が図られるという裏約束が交わされているのではないか。
インドは電力不足が深刻で、広大な非電化地域もあり、それらの克服のために原発が必要なのだと言われている。しかしインドでは電力の30％もが送電で失われており、これを改善するほうが電力の安定供給にはるかに有効である。また非電化地域の電化には送電網建設が不要の再生可能エネルギー利用発電がもっとも有効である。日本はこれらの分野でこそ協力すべきだ。
原発がポスト火力発電の主役になれない理由
本誌331号で、温暖化防止対策が進んで火力発電が退場を余儀なくされることになれば、火力発電とセットでしか存在しえない原発も退場を余儀なくされると書いた。その主張に変更はないが、理由の説明で二つの点に関してやや不十分な部分があったので、ここで補足しておく。
まず、需給調整の問題である。電気は常に需要と供給を一致させておかねばならない。これを需給調整というが、原発は安全上の理由から出力を変動させることができず、さらに運転停止と起動に長時間を要するので、自身ではまったく需給調整ができない。しかし、原発を主要電源とする電源構成であっても、蓄電や需要制御のさまざまな手法などを用いれば、他の電源の助けを借りずに需給調整を行うことは可能ではないかという意見がある。
歴史的には需給調整はもっぱら供給サイドが担ってきた（サプライ レスポンス）。従来のサプライ レスポンスの主要な手法は火力発電やダム式水力発電の出力調整であり、揚水発電の利用も行われてきた。今後は、低需要時間帯の余剰電力を用いて水素を製造し、高需要時間帯にその水素で燃料電池発電を行うことや、大容量蓄電池の実用化なども期待されている。
一方、近年になって情報通信システムの飛躍的な発展によって需要サイドも需給調整の一端を担うこと（デマンド レスポンス）が可能になってきた。 デマンド レスポンスには、時間帯別料金やピーク時料金を設定して割安な低需要時間帯に需要をシフトさせるなどの料金制度を活用する手法、需要家との事前の契約にもとづいて需給逼迫時に電力供給を制限・遮断する手法、需給逼迫時に節電した場合にはそれを発電と同等とみなして買い取る（ネガワット取引）手法などがある。需要家の無償の自発的行動としての節電も重要なデマンド レスポンスである。
需給調整が容易だった火力発電が退場した後は、どのような電源構成になるとしてもサプライ レスポンスとデマンド レスポンスのさまざまな手法を活用して需給調整を行うことが必要になる。
火力発電退場後の主要電源候補は原発と再エネ発電であるが、両者を比較すると、サプライ レスポンスについては、再エネ発電のほうに大きな成果が見込める。太陽光発電や風力発電は１基あたり発電量が小さい上に停止と起動が容易で、出力の下方調整が可能だし、バイオマス発電は発電方法が火力発電と同じなので、上・下方双方向への出力調整が可能だからである。
デマンド レスポンスについても、地域分散型電源である再エネ発電のほうが、需要家の電力需給についての意識が高まり、節電やネガワット取り引きが活発になるので、原発よりも大きな成果が見込める。
以上で明らかなように、再エネ発電のほうが原発よりも需給調整が容易であるが、原発も需給調整がまったく不可能なわけではない。
二つ目の問題は、バックアップ電源なしには絶対的な電力不足に陥ることになるような大事故等の発生頻度についてである。
331号では福島原発事故による国内全原発の停止を例に挙げたが、原発を主要電源にした場合は、もっと頻繁に起きる事故や不祥事でも電力供給の絶対的不足が起きうることを付け加えておきたい（再エネ発電には全体の供給力に影響するような電源喪失事故等は考えられない。原理的にそうだし、現実に東日本大震災の際においてもそうだった）。
原発の電源喪失のパターンとしては以下の三つが考えられる。
�顱〇�故等による１つの原子炉の運転停止（最大で100~130万kWの電源
喪失）。事例は多数ある。
�髻〇�故等による１つの原発サイト全体の運転停止、あるいはある電力会
社の全原発の運転停止（数百万kWの電源喪失）。近年の事例としては、
事故隠し発覚による東電の全原発の停止（2003年）、新潟県中越沖地震
による柏崎刈羽原発の全機停止（2007年〜）。
�鵝仝業�過酷事故等の影響による国内の全原発の運転停止。事例としては
いうまでもなく福島原発事故後の日本。
�颪砲弔い討蓮�原発事故は復旧するまでに数ヶ月から数年要することがざらにあり、その間に別の原発が事故等で停止することもある。そうなれば合計で数百万kWの電源喪失に至り、�鬚剖瓩ぞ�況になる。
�鬚砲弔い討蓮△海譴世韻竜�模で長期の電源喪失が発生すれば、それをカバーしうるだけのバックアップ電源が準備されていなければ、社会全体が絶対的な電力不足に陥ることは明白である。事例に挙げたとおり、そのような事故等が日本では今世紀になってすでに二回発生している。
更に深刻な事態である�鵑魏辰┐譴弌∈�世紀に入って三回である。これは誰が考えてもとんでもない高頻度である。
以上をまとめれば、原発を主要電源とする電源構成では、需給調整は困難ではあるが不可能ではない。しかし数百万kW以上でかつ長期におよぶ電源喪失をもたらす事故等が無視し得ない頻度で発生しうるということである。
火力発電が存在しない状況下で、これだけの電源喪失に対応しうるバックアップ電源を準備し続けておくことはとうてい不可能である。
雑 記 帳
大接戦だったアメリカ大統領選挙。州別の得票を見ると、いろいろなことが見えてくる。
首都ワシントンDCではヒラリーの得票が91％で、トランプはわずか4％。ワシントンに蝟集する政治のプロたちをトランプが口を極めて罵ったことへの返答である。それにしてもすごい数字だ。
ヒラリーは民主党の地盤のカリフォルニアとニューヨークで合計963万票を獲得し、トランプを403万票上回った（得票差25％）。共和党の地盤のテキサスでトランプはヒラリーを81万票上回っただけである（得票差9％）。 他方、得票差が1.3％以下だった５州のうち、ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニア、フロリダの４州（選挙人数合計75）でトランプが勝利し、ヒラリーが勝利したのはニューハンプシャー（選挙人数4）だけだった。
ヒラリーは大票田で圧勝するか健闘し、総得票数では上回ったが、接戦になった州を軒並み落として、獲得選挙人数で負けたのである。
ところで得票差1.3％というのは、有権者のごく一部が態度を変えれば逆転した票差である。ということは、選挙戦終盤のFBIのメール問題再捜査発表が最終的に勝敗の帰趨を決めたといえよう。あの件の真相は不明だが、トランプにとってラッキーだったことは間違いない。
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