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2016年02月07日23:33

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夢の小料理屋のはなし 90

「昼ご飯、どうしようか?」
「そうだねぇ、たまにはさ、その辺の知らない中華屋とか行ってみない?」
「中華屋さん?良いわねぇ。私案外ああ言う定食屋さんって好きなのよね。レバニラ定食とか食べたくなったりするのよね、急に。」
「でもね、僕は中華屋だったら、ちょっと食べたいもんがあるんだよね、へへ。」
「あら、あなたが何を想像してるのかは分からないけれど、それを注文するまで予想してみる事にするわ。」

そうしてそれから一時間後、僕の前に現れたのは餃子定食。
ビールを飲みたい気持ちはグッと抑えて、餃子に意識を集中。
バリっと焼いた皮の中から、ジューシーな具が出てくる。
口の中いっぱいに肉の旨みが広がる。
「あら、今日は餃子とにらめっこなのね、フフフ。」
レバニラを美味そうに食べながら、女将さんが笑う。

ふと、テレビの画面に目をやる。
ワイドショーは今週一週間、ずっと清原の話題だったけど、今日も清原の話題だ。
「残念よねえ、清原さん。西武時代に随分所沢で見てたわ。」
「あれ?女将さん西武ファン?」
「昔はね。」
意外な過去である。
とは言え、清原ねぇ…。

1987年10月30日。
日本シリーズ第5戦の日の朝。

「今日は巨人勝つでしょうよ。」
「いや、手負いの東尾がね、ここはピシャリと仕事してくると思うね。」
ニワカ野球評論家のクラスメート達が、今日の試合の行方を予想している。
この日本シリーズでは、桑田と清原のKK対決が話題になっていた。
第1戦でその因縁の対決は既に実現はしていたが、清原が安打を奪ったものの、巨人が勝った。

「私は、今日も清原が打つと思うな。」
転校してきて半年ですっかりクラスに馴染んだ石田幸子が言った。
「だって、清原カッコ良いもん。きっと、清原がホームラン打ってここで西武が王手掛けると思うな。キャー、清原!」
へぇ、石田さんってああ言う男が好きなのかー。
僕は中畑みたいな男の方が好きだけどなぁ。
カッコ良いじゃん、中畑。
真珠米で絶好調だぜ?
それに、後楽園球場は今日で公式戦最後だ。
来年はドーム球場になるんだもんな。
今日は、巨人が勝つに決まってるさ。

3−1
西武が勝った。
西武が、一回の表に3点入れた。
桑田は、一回で降板した。
中畑は、打たなかった。
けれど、清原も打たなかった。
東尾が勝ち投手で、工藤が抑えで出てきた。

「でもねぇ、次の試合も西武勝つよ。だって清原が居るもの。」
教師のテレビでヒーローインタビューを受ける工藤を見ながら、石田さんは言った。
この清原と言う今日打てなかった男は、この転校生の心を鷲掴みにしてるんだな。

打て、中畑!
明後日は打て!

その年の日本シリーズは、結局最後工藤が勝ち投手になって西武が優勝した。
「キャー、清原。泣いてもカッコ良い!」
石田さんを喜ばせるだけ喜ばせて、その年の野球が終わった。

…あれから29年。
石田さん、今頃どこで何を思ってるもんなのかねぇ。
あの頃の清原みたいなカッコ良い男と一緒になれたのかねぇ。

「ねぇ、餃子一つ頂戴。」
気がつくと、女将さんが僕の餃子をねだっている。
「やっぱり、ちょっと餃子も食べたくなったのよね。あ、レバニラも食べて。シェアしよ?」
ほらきた、お馴染みの光景だ。
「ところで、さ。」
「え?」
「女将さんって西武の誰のファンだったの?」
「え?そりゃあ勿論、鈴木健さんよ。」
「鈴木健?!」
「そう、健さんカッコ良かったなー。」

お、女将さん、ああ言うタイプが好きなのかー。
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