mixiユーザー(id:5347088)

2015年11月07日15:36

68 view

夢の小料理屋のはなし 77

昼ごはんに季節外れのそうめんを食べた後、小料理屋の二階にある休憩所の窓際で煙草の煙をくゆらす。
煙が冬に限りなく近い秋の空に向かって昇って、そして、消えていく。
女将さんが、正座して洗濯物を片付けたりしている。
建物のせいもあると思うんだけど、昭和っぽい光景だ。
和室の六畳間。
多分、この木造のお店の中でここが一番昭和っぽい。
自宅のマンションには無い、別の落ち着きがここにはあるように思う。
さて、この窓から見る神楽坂の景色も、すっかり冬の一歩手前と言った感じだ。
今晩も熱燗で一杯かねぇ。
でもその後は、たまにはこんなところで寝てみたい気もする。
天井からぶら下がる電球の明かりを眺めながらね。
ふと女将さんに目をやる。
今日も背中が綺麗である。
煙草の火を消し、後ろから女将さんを抱きしめてみる。
首筋から良い香りが漂う。
「まだ明るいからダメよ。」
「いや、そういう気持ちになったんじゃない。」
「じゃあ、どう言う気持ち?」
「この季節に蝉が居たら、何を思うのかなって不意に思ったのさ。」
「じゃあ、私は木の枝か何かなのね?」
「木の枝にしちゃ、少々よく喋るけどね。」
女将さんから離れ、僕はお茶を二つ入れてみる。
「今晩ここに寝てみたい気がするんだよ。」
「あら、どう言う風の吹き回しかしら?フフフ。」
「たまには飲んですぐゴロンしてみたいなーって。」
「でもあなた、しょっちゅう小上がりで飲んだ後にゴロンしてるわよ。」
「うん、そう言われると何も否定出来ない。」
「でも、良いわ。今日はゴロンしよっか。」
「え?女将さんもここに寝るの?」
「嫌なの?」
「いや、女将さんは嫌がるかなってちょっと思った。」
「私この部屋好きなんだもん。勤めてた頃よくここで寝泊まりしてたわ。」
「へえ、じゃあ小料理屋から職場に行ったりしてたんだ。」
「ちょっと素敵でしょ、フフフ。職場が近かったから、いろいろ便利だったのよ。」

そんな話をしていると、窓際に一匹の猫が現れた。茶トラで、赤い首輪をした…あれ?ミー子?僕が学生の頃に飼ってたミー子そっくりだ。

「その子、最近ここによく遊びに来るのよね、昼間。」
ちょっと試しに名前を呼んでみる。
「ミーちゃん。」
「ニャー。」
間違い無い、ミー子だ。
今じゃ生きてる筈の無い、ミー子だ。
お前、やっぱり蘇って俺に会いに来てくれたんだな。
「ね、あなた最近よく来るもんね、テレシコワ。」
「ニャー。」
…テレシコワ?
何故ロシア名。
しかし、テレシコワと言う呼び名に反応するミー子。
もしかして、もしかしたら!
「なーなー、エリザベス。」
「ニャー。」
「あのね、アンジェリカ。」
「ニャー。」
「聞いてるのか?ドミニク。」
「ニャー。」

この猫は、どんな名前の呼びかけにも反応する。
ミー子、ボケちゃったんだろうか。
まあでも、猫が居るとちょっと楽しい。

そんなグダグダした、土曜日の午後の話である。
5 3

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する