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2015年09月23日22:59

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大杉栄と私の縁


 日本のアナキストといえば、まず大杉栄が思い浮かぶだろうし、次いで大逆事件の幸徳秋水があげられる。他にも何人もいるが、代表的なのはこの二人であり、一人といえば大杉だろう。
 高校生の頃にアナキズム運動に参加した時(1967年の羽田闘争の頃で高校1年だった)、私もまた幸徳や大杉の著書を読んだが、さらにアナキズムの思想・運動史を検討していくうちに、幸徳や大杉よりも、むしろ大杉以降のアナキズムに関心を持つようになった。大杉以降のアナキズムといえば、大杉虐殺の報復を目的とした中浜哲らのギロチン社、八太舟三を理論的指導者とした純正アナキズム、そしてボルシェヴィキばりのアナキストの党を組織しようとした無政府共産党、全国にコンミュン細胞を形成し、武装蜂起しようとしたとされた農村青年社だった。特に、関心を持ったのは無政府共産党と農村青年社だったが、それは1968年闘争の只中でアナキズムに至った者として、運動としてのアナキズムに強い関心があったからだった。それに比べると幸徳や大杉のアナキズムは、まだ啓蒙段階や哲学段階にあり、当時の私は、生き方としてのアナキズムより、運動としてのアナキズムを志向していた。現実には、黒色高校生連盟や、全国組織としてのアナキスト高校生連合を形成し、また、日本アナキスト連盟の一員となり機関紙『自由連合』も購読したが、その啓蒙主義的な現状には批判的であり、関西の活動的なアナキストが総結集した戦後アナキスト最大の組織であるアナキスト革命連合(ARF)に参加した。そのあたりのことは、1970年に反安保闘争で東京へ行き、そのまま東京に残った秋頃に、手製のガリ版の100頁ほどの小冊子『無政府主義』(黒党社)で総括した。ちなみにこの小冊子は、ネットの古書店で3万9千円という高値で売られていたが、先日の研究会で、これを購入したという若者と会い、驚くと共に、その熱意に感心した。
 現役のアナキストだった頃、幸徳や大杉には、さほどの関心はなく、ベルグソンの生の哲学の影響を受け、自我の拡充をいう大杉は、もし虐殺されずに生きていたなら、その後はファシストになったかもしれないと思ったりもしていた。
 しかし、よく考えれば、意外にも私は大杉と縁があることが分かったのだった。私が生まれた家は、私が生まれた頃は没落していたが、地元の旧家一族で、父親は、分家筋の八男だった。私からすれば大伯父にあたる本家の跡継ぎが学生時代に政治意識に目覚め左翼運動に参加していたらしく、伯父によれば、大正時代の米騒動の頃、大阪に来ていた大杉栄と天王寺公園で会っていたらしい。大伯父は、治安維持法か何かにひっかかり、廃嫡され、曽祖母が彼の相続分の金銭を与え、大伯父は東京へ行き、大阪には二度と戻ることはなかった。東京で何をしていたのか知らないが、伯父の話では後年は、平凡社の重役になっていたとのことだった。一族の菩提寺にある大伯父が継いでいた墓は、その後、分家筋の筆頭になる家に生まれ、少し前まで某国立大の総長だった従兄弟が継承して守っている。
 話を戻せば、私が一介の高校生であるにも関わらず、アナキストとして大阪の公安要注意の監視対象になったのは、関東大震災の時に虐殺された大杉の報復として結成された中浜哲のギロチン社に関係した人物によってだった。その人物は、天王寺界隈で活躍したアナキストの逸見直造の弟で、逸見吉三というギロチン社の最年少の生き残りであり、1968年頃に、黒の会主催で、大阪駅のある梅田近くにある嵯峨源氏の源融ゆかりの太融寺の会議室で、彼が大杉栄を語る集いが催され、高校生の私はそれに顔を出したのだった。そこにいたのは老人ばかりで、若者は私一人という有様だった。その日は小雨がパラつき、そして逸見吉三は、間違えて私の傘をさして帰ったのだった。傘には私の名前や学校名が糸で塗って表示してあり、逸見を監視していた公安は、それで若いアナキストがいることを関知し、やっと18歳になったばかりの私は、早くも大逆事件予備軍のような存在にされてしまったのだった。
 つまり、大杉にはさしたる関心もなかった私は、意外なところで大杉や大杉をめぐる界隈に機縁を持っていたのだった。
 ちなみに大逆事件絡みでいえば、1969年の上記のARFによる70年万博粉砕のための大阪芸大夜襲闘争に突撃隊とした参加し、逮捕された私が、少年鑑別所から出、その件を知っていた新潟の富裕士族の旧家の出だった母方の祖父に報告に行った時、祖父は怒ることはなく、幸徳や大杉の名をあげ、それに連なる人間が孫にいるのは愉快だと言い、孫の私に言った注意は、ひとこと、大逆事件には気をつけるようにということだった。祖父は、蔵前(東工大の前身)を出たインテリだったが、幸徳や大杉の名を知っているのは驚きだった。
 近年、大杉栄の研究者と話をすることがあり、改めて大杉を再読してみようかと考えている。
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