「週末ここで酒飲んで過ごすのが、楽しいんすよー。」
田中さんが、一刻者のグラスをカランコロン言わせながら、今日もカウンターの右端で飲んでいる。
「今日ね、社内パンポン大会って言うイベントで出社だったんですよ、パンポン大会。」
「パンポン大会?」
「まあね、卓球みたいなスポーツですよ。」
「何故パンポンなの?」
「単純に書き間違えた人がいただけなんですけど。」
グビっとロックを飲み干す田中さん。
「それを何故、この土曜日にわざわざやるんですか?って話ですよ。」
「まあでも、1日頑張ったんだもん、今日の焼酎は美味しい筈よ。」
「そうなんですけどねー。でもま、ホントに旨いから、これでいいか。」
田中さんは本当に美味そうに酒を飲むお客さんの一人だ。
彼とはここで随分仲良くなったが、実は昼間彼が何をしているのかを知らない。
今日職場のパンポン大会に出た、と言う事以外は。
でも、それで良いのだ。
暖簾をくぐったら、浮世の肩書きなんぞ関係無く、酒を楽しめばそれで良い。
「女将さーん、お刺身ちょうだい。ニシンとアルファー鯖。」
「それ、〆鯖よ、田中ちゃん。」
「ま、知ってて言ったんですけどね。」
「でも、ニシンのお刺身なんか珍しいっすね。どんな感じなんだろ?」
「美味しいわよ、味がじゅわーっと染みてきて。」
程なくして、田中さんの前に刺し盛りと日本酒が現れる。
「あれ、僕日本酒なんか頼んで無いですよ?」
「あちらのお客さんからの差し入れよ。」
そう言って女将さんが僕を見るので、僕は田中さんに手を振ってみる。
「普通こう言うのは、女の子にしかしないんだよ。」
「ですよねえ、僕も初めてですよ。おっさんから酒貰うの。なかなか不気味ですね。」
「あ、じゃああげない!返せ!」
「いや、嘘、嘘、いただきます!」
「コールドミフク、美味しいわよ。今年の美富久は当たり年ね。」
何故か女将さんもお猪口を舐めている。
「あー!女将さん!」
肩をすくめながらこっちを見て笑う女将さん。
「フフフ、あちらのお客さんから頂いたのよ。」
ログインしてコメントを確認・投稿する